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「純愛と妄執に揺れる心」第一章-17

 お兄さんが僕の声を取り戻してくれた。声が出ないことに比べればこんなヤケドくらい平気だよ。それにお兄さんが来てくれてからの方が痛くなくなった。身体も痛いと感じるけど、気持ちも痛いと感じるって、精神科の田口先生が仰っていたけど…僕が根性焼きをされている時、お兄さんは気持ちがとっても痛かったんじゃない?僕はお兄さんの顔を見ていたからそれは分かった。それにお兄さんが見守ってくれたから2回目はそんなに痛くなかったんだよ…」
 お兄さんは、泣いているような笑っているような顔で純一を見る。
「…そうか…水はそろそろいいだろう。保健室に行こう。顔も洗って。泥が付いている」
 お兄さんの手が額を優しく洗ってくれた。髪に水がかからないように。
「でも、根性焼きって保健室の先生は分かるんじゃない?煙草の痕なんて先生にばれたら大変だと思うんだけど」
「傷を見せたら分かるだろうけど、傷は見せない。僕に任せておいて。ヤケドだと保健室の先生にもバレないように、氷みたいなものを貰える方法を知っているから」
 シャツもそんなに濡れてはいない。このお天気ならすぐに乾く程度だった。
 どんな方法なんだろうと思うと、お腹のヤケドは絶え間なくジンジンしていたけど少しだけワクワクする。
 お兄さんが手を繋いでくる。その手は水を触っていたので冷たくてとってもいい気持ちだった。
「純一、何でもいいから話した方がいい。また声が出なくなったら怖いから…」
 直哉兄さんが真剣な顔で純一の顔を覗き込んだ。お兄さんは僕の声のことを心配しているみたいだった。大丈夫なのに…お母さんの時はイキナリ無残なお母さんの姿を見てしまってああなったけど、今回は心の準備が出来ていたのだから。
「ん、えとね、平島があのメモをスグにくれたのは何でかなっと思った。くれなかったら僕のヤケドは無駄になるから困るなぁととっても心配してたんだけど」
「保健室に入る直前まではその顔でいいけど、保健室の扉が見えたら思いっきり気分の悪そうな顔をするんだよ?出来る?」
「うん、気分が悪い顔って、お熱があるような顔?」
「そうそう。平島にメモをくれって言った時の純一の顔、とっても迫力があったからだと思う。純一ってあんな冷たい笑いも出来るのかとビックリした」
 冷たい笑い?ただ必死だっただけなんだけど…?良く分からないや?
「そんな顔してた?僕はメモを渡して貰おうと必死だっただけなんだけど…」
「ああ、純一はいつも天使みたいな顔で笑うだろう?それなのに、さっきの笑いは『白雪姫』の継母のように怖かった…とっても冷酷で無慈悲に見えた。逆らったら何をするか分からないような迫力のある笑いだったよ…」
「そう?でも、お腹のヤケドが痛かったからかも…」
 言葉に出してしまうと、また痛みがひどくなるような気がする。お兄さんの手をぎゅっと握った。
「早く大きくなりたいな…誰からも殴られたり暴力を受けたりしない…そして誰からも食事を取られる心配がない強い大人になりたい」
 お兄さんが呟くように祈るように言った。お兄さんも僕と同じことを考えているんだと思うと少し嬉しい。
「僕のヤケドの痕…『ひまわり園』でたくさんの子供が同じ痕を付けているよね?みんな学校でされたの?」
 素朴な疑問だった。だって、根性焼きは、人の居ない場所でしか出来ない。「ひまわり園」のお風呂場で見た根性焼きの痕のある子供は背中やお腹にたくさんの痕が有った。「ひまわり園」では、傷やヤケドの痕のことは口にしない不思議な決まりみたいなものがあったので純一は全く知らなかった。
ヤケドの痕が有る子供よりも「お金持ち」の子供の方が嫌われるのが「ひまわり園」だ。だから純一がヤケドの痕を作っても皆からはイジメられないだろう。
「この学校は僕らが居た小学校と比べると不良と呼ばれる児童がとっても多い。純一の居た学校でも煙草なんて吸っている上級生は居なかっただろう?煙草は『根性焼き』くらいしか僕らの害にはならないけど、シンナーは気を付けたほうがいい」
 お兄さんは僕の質問に直接答えず、いつもは穏やかな目の光を深刻なものに変えて純一を覗き込む。
「シンナーって?」
「僕も良く知らないのだけれど、コーラとか大人が飲む栄養剤の小さなビンが学校にも落ちているだろう?そのビンから接着剤のような臭いを嗅いだことはない?」
 お兄さんが暗い目をする。マンホールの下を覗き込むような。
 そういえば、一回だけ有ったような気がした。純一は他人のコーラを盗んで飲むような真似は絶対にしない。というよりお母さんが「それは泥棒です」と言っていたので、する気にもなれなかった。どんなにお腹が空いていても。
 ただ、非常階段の下をたまたま通りかかった時に、コーラのビンから接着剤の臭いがしていて不思議に思ったことは有る。その時は色々なビンが数個並んでいたっけ。
「あ、その臭いは嗅いだことがあるよ…」
「それが多分シンナーだよ。あれを吸い込むととってもいい気持ちになるんだって…でも、とても危険だ。何をしても幸せな感じがするらしい。笑いながら人を殴っている所を見たことがある」
「怖いね…。幸せな気分に接着剤がさせてくれるのか分からないけど…でも殴られたら痛いよね?前にお兄さんがお腹を蹴られた時みたいに…。あの時もシンナー?」
 お兄さんが蹴られた時のことを思い出し、少し震えた。
「いや、あの時の平島たちはシンナーはやっていなかった。シンナーをやっている児童は何も笑えることがないのに大爆笑したりヘラヘラ笑ったりしているし、目が変な感じになっているから。
 もし、そういう人が居たら純一はさりげなく離れて、見えなくなったら大急ぎで走るんだよ、いいね?」
お兄さんは、学校の中の「怖い人」を教えてくれているのだ。
「うん、分かった。気をつけるよ。怖いんだね、シンナーって」
「シンナーは吸いすぎると歯が溶けたり、脳に障害が出たりする。この町で不良っぽい中学生とか高校生をさりげなく観察してごらん?歯がね、たくさん吸血鬼ドラキュラのように尖っている人は間違いなくシンナーの後遺症だから」
 お兄さんのお話しはお腹のジンジンを忘れるくらいビックリした。
「で、『ひまわり園』で煙草のヤケドがある子供達は、たいていが親から受けている」
「え?お母さんやお父さんから?どうして?僕のお母さんはとっても可愛がってくれたよ?」
 息が止まるほど驚いた。どうしてお母さんやお父さんが子供にこんなヤケドをさせるのだろう。
「普通はね、パパやママは子供を可愛がる。けれどもお家が貧乏だったり、ママがとても精神的にも疲れていたりして子供に八つ当たりをしてしまうんだって。僕も『ひまわり園』に来てヤケドの痕にビックリして大谷副園長先生に聞いたんだ。『ギャクタイ』とか『ネグレスト』とかって言うらしいよ。煙草の火を押し付けたり殴ったりする親がこの辺りではとっても多いのだって…」
 純一にはピンと来なかった。だって、お母さんはお仕事で疲れていた時も遊んでくれたし、多分精神的に疲れていたお母さんの最期の時だって、僕には優しく微笑んでくれていたもの。でも、「ひまわり園」でケガやヤケドの痕を皆がはやし立てないのは、皆同じような体験をしてきたからなのだろうな。
「保健室だ。お熱があるような顔をして。それと保健室の中では僕たちは知らない人だよ?」
 お兄さんも廊下を歩く時のいつもの温和な顔ではなく、どこかが痛いような顔をしている。純一もお兄さんと同じ顔になるように頑張った。「知らない人」って言われて少し悲しかったが、お兄さんに考えがあるのだろう。しらんぷりをしろってことだろう。
「失礼します」
 お兄さんが保健室の扉を開けた。いつものハキハキした声ではなく元気のない声だった。
 保健室に来るのは初めてだ。どんな先生なんだろう?
「ケガ?それとも気分が悪いの?」
 ぶっきらぼうな女の先生の声がした。この人も白髪交じりの髪をゴムで束ねた髪型だった。
「頭が痛くて…それに体がゾクゾクします」
 お兄さん…お芝居だよね?何だか本当に頭が痛いみたいだ。
「で、そっちの僕は?」
「僕も頭が痛いし、頭の中がポワんとしています」
 お母さんが生きていた頃にお熱を出した時のことを思い出して、その時の感じを言った。
「そう…。じゃあ、二人とも仕切りの向こうに行って横になってこれで体温を測って」
 この学校の先生にありがちなどうでも良さそうな声と共に奇妙なものを手渡された。細いガラスの棒の底に銀色の不思議なモノが溜まっている。これが体温計なのかなっと思った。純一はプラスチックで出来たデジタル式の体温計しか知らない。

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テーマ : 自作BL連載小説
ジャンル : 小説・文学

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こうやま みか

Author:こうやま みか
素人の完全な趣味で「ボーイズラブ」小説を書き始めました。
全然上手くないのですが、コメント頂ければとっても嬉しいです。
またヤフーブログが本館扱いで、こちらでは当面(ってイツ?)旧作を掘り起こして掲載していきたいと思います。
著作権は放棄しておりませんので、無断転載などは禁止させて頂きます。何卒ご了承くださいませ。

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