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「純愛と妄執に揺れる心」第一章-18

 どこの学校でも保健室は同じなんだなぁと思った。入ったところに先生の机と、怪我を診るための児童用の椅子がある。その後ろは白いカーテンみたいな仕切りでベッドが二つ。純一の通っていた学校よりはみんな古びていたけど。それに先生の机の上には大人の人が読む字がいっぱいの小さなご本が開いたままだった。端が少しめくれていて「かまいたち」と書いてあった。保健室の先生というよりは、純一が少し通った図書館の先生のようだった。その先生もいつもご本を読んでいたから。
 落としたら直ぐに壊れそうなガラスの棒をしっかり持って、直哉兄さんの後に続く。
 お腹はジンジンしていたけど、「お熱が出た」って顔をして。直哉兄さんもいつもよりは力のない歩き方だった。
 二つあるベッドは両方とも空いていた。お兄さんは僕に黙ってという合図をすると、ベッドに腰を掛けて自分のシャツを捲り上げていた。そしてシャツの布を丸めて手で持つと右手で銀色の変なモノが入っている場所を中心に擦り始める。しばらく続けてからガラスの温度計を見ると、お兄さんはちょっと不満そうな顔をした。注意深くガラス棒を振る。
 お兄さんのヘンテコな行動をビックリして眺めながら純一もその棒をよく見ると、35℃から40℃までの目盛りがガラスの中に書いてある。純一が知らない体温計らしい。
 直哉兄さんが満足そうな笑みを浮かべて、「自分のと純一の体温計を交換して」という合図を送ってくれた。わけも分からず取替えっこする。
 直哉兄さんの体温計は37℃8分まで銀色の線が上がっていた。純一のは35℃だったのに。純一の分もお兄さんは黙ってシャツで擦っている。擦るとお熱が上がるのかな?
 お兄さんは作業を終えると、保健室の先生に体温計を見せに行った。僕も行ったほうがいいのかな?でも知らない人のフリをしなくちゃいけないんだから、ココで待っておこう。
「7℃5分か…平熱――いつもの熱のことね――は何度?」
 とても機械的な感じの保健室の先生なんだなっと思う。
「5℃5分です。だからお薬下さい」
 直哉兄さんの力のない声が聞こえる。さっきまでの話し方と全然違う。
「悪いけど、お薬は上げてはいけない決まりになっているの。その代わりこれを上げるからしばらくベッドで休んでいて」
 冷蔵庫を開ける音がした。
「はい、分かりました」
 お兄さんがこっちに戻って来た時には満面の笑顔だった。手には「ヒエピタ」何とかを持っている。
「そっちの僕はどう?」
 先生が椅子から立ち上がる音がしたのでお兄さんは慌ててベッドに潜り込んだ。でも、そんなに慌てる必要はなかったみたい。僕が時々通っている精神科の看護師さんみたいにテキパキと歩かない先生らしい。
 お兄さんから渡された体温計をチラリと見ると、額も触らなかった。――お母さんはお熱かも…と僕が言うとプラスチックで出来たデジタル体温計を救急箱から出してきて、ピピって鳴るまで待ってから、体温を見て額にお母さんの冷たい手で触ってくれた。お熱が下がりますようにって。お熱が出た時が夜ならスープかおじやを作ってくれたし、朝ならハウスキーパーさんの青井さんに大急ぎで連絡してくれたっけ――お母さんのことを思い出すと胸が少し苦しくなる。
「寝ていなさい。学年とクラスと名前教えてね。担任の先生に報告しないといけないから」
 二人が名乗ると、純一にも「ヒエピタ」何とかをくれた。先生は直哉兄さんに向かって元気のない声で言う。何だか先生の方が病気みたいだ。
「先生はこれから職員室に行ってきます。その間に誰かが来たら、『職員室に行っているけど、直ぐに戻る』と伝えてくれる?」
 ベッドから頭を出した直哉兄さんは元気のない声で「はい」と返事した。
 保健室のドアが閉まると、直哉兄さんは起き上がってニコニコと僕に微笑んだ。
「早くお腹冷やさなきゃ…それとお薬塗らなきゃね。シャツ濡れて気持ち悪くない?」
 そう言いながら先生の机に行き、お薬のチューブを持って来た。
「これを塗って、二つの『ヒエピタ』を交互に貼れば大丈夫だよ」
「お兄さん、スゴイね。あの銀色をどうやって上げたの?」
「あれは中に水銀というモノが入っている。手が冷たい時に両手を擦り合わせると温かくなるだろう?あれと同じで布と布を擦り合わせて温度を上げると体温計の温度もその温度を表示するんだって。一回失敗して8℃8分まで上げてしまったけれども。でも、この体温計は振ったら下がるから便利だよ」
 お兄さんて何でも知っているんだな…と感心して聞いていたけれども、あっと思った。
「でも、『ヒエピタ』は額に貼るんでしょ?先生に覗かれたらバレちゃうよ?」
「大丈夫、あの先生は放課後のチャイムが鳴らないと顔を出さないんだって。体調の悪い人が来たら別だけど、お熱を測ってベッドに入れれば先生の仕事は終わりなんだ。先生の机にご本があっただろう?いつもご本を読んでいるんだって」
 お兄さんの手が純一のヤケドの周りにお薬を塗りつける。とても丁寧な塗り方だったのでそんなに痛くはない。それからそっとヒエピタを載せてくれた。とってもいい気持ちだった。
 誰も居ない部屋でお兄さんと二人きりになったのは初めてだ。お腹はやっぱり痛かったけれども、ちょっとは嬉しい。
「ね、体温計のズルの仕方良く知っていたね?僕はあんな体温計を見たのは初めてだよ?」
「『ひまわり園』にいると、色々なズルの仕方を教えてくれる上級生が居るんだ。本当はズルはいけないことだけど、今回は仕方ないかな…。いくらあの保健室の先生がやる気のない先生でも、煙草の火のヤケドは職員会議で報告されるもの。僕の家だってあんなガラスの体温計はなかったよ?でも、『ひまわり園』では体温計というものが家になかったって子供も居る。いいお家に生まれた子供も居るけど、『ひまわり園』に来て、『大人が殴らないから幸せ』って言っている子供もいるよ?純一が大変だって呼びに来てくれた平野さんも確かそう言っていた」
 色々な子供が居るんだなと思った。お母さんがあんなことになってから純一の世界がガラリと変わってしまったけど、それまでは確かに幸せだった。
「ね、お兄さん、いいお家に生まれて、そのまま大きくなったらどんな大人になるのかな?」
 先生がなかなか戻って来ないのを良いことに会話を続ける。
「色々だろうけど…たとえば僕が少ししか通えなかった小学校は大学までそのまま上がれるし、純一も転校しなければそうだっただろう?あ、そうだ、僕の友達で今でも仲良くしてくれている家に時々遊びに行くんだけど、純一も来る?」
「僕も一緒でいいの?」
 直哉兄さんの誘いは嬉しかったけど、僕なんかが行っていいのだろうか?
「もちろん。ママのお友達だった人の家だし、純一なら大丈夫だよ」
 結局その日は放課後のチャイムが鳴るまで保健室で過ごした。直哉兄さんの言った通り、先生は一回も覗きに来なかった。「ヒエピタ」は貰っていいことになったので、純一が使った分は「ひまわり園」の冷凍庫に保管され、直哉兄さんは大谷副園長から新しい「ヒエピタ」を貰って直哉のお腹を一晩中冷やしてくれた。皆みたいなヘンなツルツルのお肌になるのかなと思っていたが、直哉兄さんの素早い手当てで、ちょっと茶色いアザみたいな傷口が残っただけだった。

 それから数日後、直哉兄さんの紹介で冷泉君という家に行った。
 冷泉君のパパには会ったことはないけれど、ママも冷泉君もとってもおっとりとしたいい人だった。
「まあ、可愛いわねぇ。お名前は?」
 世田谷の大きなお屋敷に住んでいる冷泉君のママは人の良さそうな綺麗な人だった。
「小倉純一です。今日は突然お邪魔して済みません」
 ペコリとお辞儀をすると、「どうぞ、何のお構いも出来ませんけど」と笑顔で僕と直哉兄さんを迎え入れてくれた。
 それからが、冷泉君との付き合いの始まりだった。

◇◇◇
 
 僕が冷泉君のママから貰った参考書や問題集を大きな紙袋に入れて「ひまわり園」に帰るためにJRの駅に向かっていると、直哉兄さんが珍しげに紙袋を見ている。
「純一…それは何?」
「冷泉君のママがね、どうせ冷泉君は使わないから二人でお勉強しなさいって参考書とか問題集をね、くれたの」
 てっきり笑ってくれると思っていた直哉は複雑な顔をした。
「……そうか。勉強出来るのは嬉しいけれど、しょせんは人の厚意をアテにしないといけないのだよな…」
 呟く声は暗かった。
 
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テーマ : 自作BL連載小説
ジャンル : 小説・文学

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こうやま みか

Author:こうやま みか
素人の完全な趣味で「ボーイズラブ」小説を書き始めました。
全然上手くないのですが、コメント頂ければとっても嬉しいです。
またヤフーブログが本館扱いで、こちらでは当面(ってイツ?)旧作を掘り起こして掲載していきたいと思います。
著作権は放棄しておりませんので、無断転載などは禁止させて頂きます。何卒ご了承くださいませ。

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