スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「純愛と妄執に揺れる心」第一章-19

 僕が問題集や参考書を貰ってしまったことが悪かった…とお兄さんの顔を見て、途方に暮れた顔をしていると、お兄さんはちょっと笑って僕の髪の毛をクシャっとする。思い直したように言った。
「こんなことを言った僕が悪い。冷泉君の家に遊びに行けるのだって、冷泉君のママに交通費を貰っているからだもんな…。早く自分でお金が稼げるようになりたい…な」
「うん!そのためにはお勉強を頑張るのが一番だって冷泉君のママも言ってた…」
 純一の紙袋はかなり重い。そのことを察した直哉兄さんは、黙って手を差し出して紙袋を純一から譲り受ける。
「手がジンジンしている…」
「こんなに重いもの、良く一人で持てたな。言ってくれれば僕が持ったのに」
 そういいながら、直哉兄さんは純一に付いた紙袋の紐の跡を左手で包み込んでくれる。いつもの直哉兄さんの穏やかさが戻ってきたのが何よりも嬉しい。
 今までは参考書を貰ったことの喜びで全く感じなかった袋の重さが、無くなった今となって純一の手のひらの真っ赤な跡と解放感で思い知る。
 冷泉君の家の周りは、高級住宅街だけあって道路の街路樹も行き交う人も、そして車すら洗練されている。皆幸せそうだった。少なくとも「ひまわり園」の近くを歩いている大人たちとは表情からして違う。それに、女の人はスカートに明るい色のしゃれたセーターを着て小さな首飾りをしている。白髪の女の人も居ない。ママが生きていた頃、ママのお友達が「白髪が生えてきて…」ととても悲しそうにママに話していたことがある。「美容院で染めたらいいわよ。今一番綺麗に染めてくれる美容院を紹介するわ」とママが事も無げに言っていたことを思い出す。
「ひまわり園」の近くの女の人は、白髪はそのままで、セーターもなんだかくすんだ色のを着ていた。スカートの人も居るが、たいていはジーンズだ。それも腰のところがゴムになっていて、太ももの辺りもパンパンに肉が詰まっている感じだ。そして自動車よりも圧倒的に自転車が多い。「ひまわり園」の近くは小さな道が多いので、自転車の方が便利なのだろうか?
「ねえ、あの大きな赤い車、ハンドルが左についているよ?僕は右にしかハンドルのついたしか知らない。それにとってもカッコいいね」
 直哉兄さんが通っていた元の小学校のお友達の家に来るたびに純一は新しい発見をする。「ひまわり園」に来た時――もう3年も前だ――読んだ「シンデレラ」のお話を思い出す。
 お屋敷で継母にこき使われているシンデレラの様子は「ひまわり園」や小学校での純一で、王子様のパーティに行った時のお城での彼女の様子は、冷泉君達のお家に行っている純一と直哉兄さんとそっくりなのかな?と思う。
「ああ、あの車はフェ○ーリだ。この辺りでも珍しい…な」
「カッコいいね。でも高いの?」
「ああ、多分、億単位だ」
 絶句してしまった。「億」という単位は学校で習った覚えがある。そんなお金があるとは知らなかったが。
「お金持ちなんだね。僕が『ひまわり園』でお金持ち!と言われてとても悲しかったけれども…ホントのお金持ちってあんな車を買える人のことなんだね。あんな車を買えるようになるにはどうすればいいのかなぁ?」
 直哉お兄さんに質問するつもりはなくて、独り言のつもりだった。
「ああいう車は、普通の会社に勤めていたら買えないだろうな…会社でも経営しないと無理だよ」
「でも…お母さんは会社を経営していたけど…車は持ってなかったよ?」
「会社といっても、色々あるんだ。儲かっている会社もあれば、全然儲かっていない会社もある…」
「ふーん…今、一番儲かる会社って何だろう?」
「やはり、インターネットの会社が強いと聞いたことがあるよ」
 純一の心に「インターネットの会社を経営」という文字が刻印された。
 「ひまわり園」の最寄り駅で電車を降りた。やはり自転車が多い。それも車用の道を堂々と走っている。車自体が少ないので大丈夫らしい。
 食事と入浴を済ませると、早速冷泉君のママに貰った参考書を広げた。随分難しいことが書いてあるが、説明を読んで、問題を解いてみた。解けると嬉しかった。時々難しい問題が有ったので直哉兄さんに教えて貰う。直哉兄さんも時々鉛筆が止まった。覗き込んでみると、理科や算数の問題だった。純一が説明を読み、「こうじゃないかな?」と解いて見ると正解だった。直哉兄さんは1年年下の純一が自分の解けない問題を解いても嫌な顔は全くせずに、「純一は賢いな」と褒めてくれた。でも、直哉兄さんは純一が苦手な国語や社会の問題を教えてくれる。
 二人でするお勉強は、学校で習っているものよりもとても面白かった。それに、直哉兄さんとお勉強をすると頭の中にスラスラと入るような気がした。
「ひまわり園」の消灯時間まで、場合によれば消灯時間が過ぎても直哉兄さんのベッドに潜り込んで懐中電灯でお勉強をした。
 学校は相変わらずやる気のない先生が投げやりに授業を進めている。でも、純一は直哉兄さんと教えあいをしていたので、先生の黒板に書いた計算ミスも気づくようになった。指摘をすると目立つので放置していたが。
 平島達は、純一を見てもはやし立てるだけで手出しはしてこないようになった。あのメモが効いているのだろうか?

◇◇◇

「ひまわり園」での生活に慣れた頃、お兄さんは中学へと進んだ。この近くの公立中学だ。
 冷泉君のママなどは「あの問題集や参考書を全部なさったとお聞きしましたよ?私立中学に進まれては?」
 純一が「あの問題集と参考書を全部二人で解いたので、もし、中学生用の物があるなら、そして冷泉君に不要なら下さいませんか?」と言った結果だった。
「いえ、私立に行くにはお金がかかります。問題集や参考書を戴いて、中学ではもっと勉強します。ただ、高校進学の時には私立も考えています。それも、学力さえクリアすれば、学校独自の奨学金などがある学校を探します。もし、そういう高校をご存知でしたら教えて下さい」
 純一の前でキッパリという直哉兄さんは、背も伸びとても大人っぽい。「ひまわり園」では一緒だけど…小学校と中学校に離れてしまうのは、仕方がないけど、とっても悲しい出来事だ。
「ええ、ええ、藤原君のお母様と私は昔からの親友でしたの。それがあんなことに…。なので、色々と学校を探しておきますわね。宅の息子は相変わらずの勉強嫌いで…それなのに大学まで保障されていますでしょ?何だか不公平ですわね」
 彼女は育ちの良さを感じさせるため息を零した。
「仕方のないことです。父があんな事件を起こしてしまったのですから。ただ、大学だけは何としてでも行きたいと思っています。純一と出来れば同じ大学へと。高校も出来れば純一と同じところに行きたいので、お金がかからない高校の件、どうか宜しくお願い致します」
 直哉兄さんが深々とお辞儀をしたので、純一も慌てて同じ動作をした。
「まあ、顔を上げて下さいませ。何でしたら、お二人の中学校の学費は立て替えますわよ?出世払いということで…」
 冷泉君のママは人の良い笑みを浮かべて言った。
「いえ、そこまでのご迷惑はお掛け出来ません。高校の件だけ宜しくお願い致します」
 冷泉君とは純一ぐるみで仲良くなった。彼の家には地下に道場があり、そこで合気道や柔道を教えて貰っている。人の良い彼は純一にも直哉兄さんと分け隔てなく接してくれて、冷泉君のママがベンツで柔道や合気道の先生の道場に送り迎えをし、習ってきたことを惜しみなく教えてくれる。
 屈託の無い笑顔は、純一の元の学校に居た同級生と同じ雰囲気だった。直哉兄さんは時々、冷泉君に勉強を教えていた。そして、お兄さんが少し苦手な数学の問題は純一が教えたのだが、冷泉君は一学年下の純一に教わることについても気にする様子は全くない。
「純一君って、顔がいいだけではなく頭も良いのだな。それに家庭教師の先生よりも教え方上手いと思うよ」
 ママに似たおっとりとした笑みでそう言ってくれる。
「ママ、僕の数学の先生を断って、純一君に教わるようにしたらダメだろうか?」
「でも…純一君はプロではないし…どうしましょう?」
 冷泉君のママは困惑気味だ。冷泉君は直哉兄さんの得意とする国語や英語はそこそこだが、数学や化学が苦手だった。そちらは純一の得意とする科目だった。
「じゃあ、こういうのはどうかな?ママ、今度先生がいらした時に横で見ていてよ。そして、その後同じ問題を純一君に解説してもらう。どちらの教え方が良いかママが判断して」
 直哉兄さんも純一を誇らしそうに見ている。
「確かに純一は教え方も上手いですよ。僕もとても助かっています」
「そうねぇ…では今度、拝見してみようかしら…」
 家庭教師の問題で、純一は一つ世間知が付くことになる。

スポンサーサイト

テーマ : 自作BL連載小説
ジャンル : 小説・文学

コメント

非公開コメント

プロフィール

こうやま みか

Author:こうやま みか
素人の完全な趣味で「ボーイズラブ」小説を書き始めました。
全然上手くないのですが、コメント頂ければとっても嬉しいです。
またヤフーブログが本館扱いで、こちらでは当面(ってイツ?)旧作を掘り起こして掲載していきたいと思います。
著作権は放棄しておりませんので、無断転載などは禁止させて頂きます。何卒ご了承くださいませ。

FC2ブログランキング
ランキングに参加させて戴いております。ご訪問の際ポチっと。とっても喜びます!!

FC2Blog Ranking

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
カテゴリ
月別アーカイブ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。