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「純愛と妄執に揺れる心」第一章-20

 数学の家庭教師の先生は水曜日にいらっしゃるので…私も弘雅のレッスンを拝見致しますわ。その後、純一君に同じ問題を教えて貰います、それで宜しいかしら?」
 弘雅というのは冷泉君の名前だ。直哉お兄さんの親友で、数学がちょっと苦手。でも、小学校までの算数を入試レベルで完璧にマスターしていれば、中1の数学は実はそれほど難しくはない。だた、「プロの家庭教師」に勝てるとは思わなかった。弘雅君があまり熱心に頼み込むものだから、とうとう冷泉君のママが妥協案を出してきた。お兄さんは何だか嬉しそうな顔をしている。
「僕は家庭教師というものを良く知りません」
 困惑して直哉兄さんの顔を見る。
「大丈夫だよ。僕に教えているように弘雅君に教えればいいのだから。それに、相手はプロの家庭教師なのだから、純一が負けても仕方ないよ」
 水曜日は冷泉君のママから「ひまわり園」に連絡を入れてもらって、門限を許してもらうことになった。
 お兄さんも一緒に冷泉君の家に来る。冷泉君のパパは相変わらず帰りが遅いようで大きな家には冷泉君とママと直哉兄さんと僕、そして家政婦さんだけが居る。
 冷泉君とママが家庭教師のレッスンを受けている時は、大きなリビングでお兄さんとお勉強の教えあいっこをしていた。純一はこの時間がとても好きだった。「ひまわり園」ではたくさんの人の気配がする。勉強をしている二人を見て、あからさまに眉根を寄せる先輩たちも居る。
「施設育ちの人間が勉強したって何になるんだよ?手に職をつけて独立する方が早いぜ。男なら建築業、女なら水商売が金持ちへの早道だ。小倉は、やたら綺麗な顔をしているからホストでもすれば早いんじゃね?大学に行ってもロクな就職なんて出来ない世の中だしよぉ」
 そう言い放つ先輩も居る。確かに施設育ちの人間はほとんどがそういう方面の職業に就いていた。だが、純一も直哉兄さんも、親が健在ならば大学への道を望んだハズだ。純一のお母さんは、純一が私立の小学校に受かった時、泣いて喜んでくれた。その帰り道に大人用の辞書――国語辞典と漢和辞典――の一番大きいのを買ってくれた。純一の頭よりも大きい辞書で、とても重かったハズなのにお母さんは極上の笑顔で本屋さんの紙袋の重さを感じていないようだった。あの辞書は、お母さんのお葬式の慌しさでどこに行ったのか分からないのが純一の心残りだった。お葬式だけでも大変だったのに、お母さんの会社が倒産したのだからバタバタは二重だったので。
「大学にもよるのではないでしょうか?誰も知らない大学を卒業すれば確かにその通りです。けれど、誰もが知っている大学を卒業すれば違った道が拓けると思います」
 お兄さんが穏やかな口調で反論した。お兄さんの口調は大人びていて、そして凛としていた。
「まあ、東大とかならそうかもな…でも施設育ちが東大になんて入れるワケもねぇし」
 お兄さんの反論に捨て台詞を残してその先輩はそそくさと立ち去っていった。
 その点、冷泉君のリビングは大きいし、折を見て家政婦さんが紅茶やお菓子を出してくれる以外は人の出入りがない。集中して勉強することが出来た。
「先生、有難うございます。レッスンを拝見させて戴いてお邪魔さまでございました」
「いえいえ、いつでもご覧になって下さい。ではこれで失礼を致します」
 玄関で冷泉君のママと話しているのが家庭教師の先生なのだろう。テキパキと話す声の通りがいい大人だった。玄関のドアが重厚な音を立てて閉まる。
「弘雅も疲れておりますので、10分後に純一君はお部屋にいらして下さいね」
 冷泉君のママは今日もフワフワのセーターに上品な形の黒いスカートをはいている。
「はい。分かりました」
「雅弘は、英語も家庭教師の先生に習っている。その上英会話は英会話学校に行っている」
 直哉兄さんが純一にだけ聞こえる声で教えてくれた。
 10分後、冷泉君の個室に行くために螺旋階段を上る。冷泉君の個室に入ったのは初めてだがとっても広い。机も学校の机を4つ併せた位の表面積がある。
 家庭教師の先生とは机ではなくて部屋の中央に置かれた大きな移動式テーブルでレッスンを受けていると聞いてまたまた驚いた。しかも、テーブルの横には純一が塾に行っていた頃に散々見慣れたホワイトボードまで設置されている。
「この問題なのだけど…」
 冷泉君のママと直哉兄さんまでが加わってのレッスンだった。
「この問題はね…」
 お兄さんに教えるように教えた。いちいち雅弘君の目を見て分かっているかどうか確認しながら、分かってないな…と思った時は、もう一度噛み砕いて丁寧に教えた。ホントは直哉兄さんにも目を見て分かっているかどうかの確認はしていた。でも兄さんは理解していることが目の輝きで分かったから一回で説明を終わらせたのだけれど、冷泉君は一回では理解出来ていないところも有った。僕の教え方が悪いせいなんだろうけど。
「分かった。こうすれば良いのだね?」
 冷泉君が目を輝かせて、次の問題に移った。純一は黙って冷泉君が解いているのを見ていた。
「正解だよ」
 冷泉君のママが大きな目をさらに大きくして、口元に白くて少し柔らかそうな指を当てている。
「まぁ、私も数学は苦手でしたのに…純一君の説明を伺って分かりましたわ。それに純一君の方が熱心で教え方も上手ですわね」
 冷泉君は悪戯っぽい目をした。
「あの先生、今日はママが居るせいでいつもよりも熱心だったよ。いつもはもっともっといい加減だもの。あ、直哉、英語の宿題聞いていいかな?」
 冷泉君のママが浮かべた純一の教え方への賞賛の表情に笑いを浮かべていた直哉兄さんは頷いた。
「この問題とこの問題なのだけど、合っている?」
「間違っている。これは…」
 英語は純一にとって学校では習っていない。けれども直哉兄さんと同じになりたくて教えて貰っている。だからお兄さんもスラスラと説明をしているのを聞いていた。
「ママ…直哉が賢いっていつも言っていたよね?それに純一君の教え方も熱心で分かりやすい。二人に習った方が成績も上がると思うのだけれど…ママはどう思う?」
 冷泉君のママはしばらく考えていた。
「弘雅…英語の先生もレッスンの時はいい加減なのかしら?」
「英語の先生は…次に行くお家が大学受験らしくて…レッスン中に俺には自習させて高校の参考書を必死で解いている時が多いかな…数学の先生は時々居眠りしているし…」
 冷泉君のママの大きな目が釣りあがった。いつもは優しくて綺麗な人なだけに迫力が違う。
 大人の家庭教師というのも随分いい加減なんだなっと思う。冷泉君のママがお月謝をいくら払っているかは知らないけど怒るのも当然だ。
「弘雅…どうしてそれを今まで言わなかったのかしら?」
 冷泉君のママの優しげな言葉とは裏腹に声は怒りのためか少し低い。
「こんなモノだと思ってた…。でも、今回の実力テストの順位を見てさすがにマズいかなっと思い始めた。直哉や純一君に教わったらダメかな?」
「そんないい加減な先生しか派遣しないなんて…少し酷いですわね。今のところは純一君に数学をお願いしていいかしら?出来れば、直哉君に英語をお願いしたいのだけれど…もちろんもっと難しくなれば、また考えます。あくまでもお友達同士で教えあうという感じで、でもビシビシと指導をお願い致しますわ。どうかしら?」
「僕は構いませんが…。冷泉君には柔道や合気道を教えて貰っていますし」
 直哉兄さんがそう言ったので純一も慌てて言った。
「僕も、自分のタメになりますから、是非、一緒にお勉強したいです。いつもこちらにお邪魔して、ケーキやマドレーヌをご馳走になったりご本を読ませて戴いたりしてとても感謝していますから」
「ひまわり園」で過ごすよりも、冷泉君のお家で過ごすほうがずっとずっと居心地がいい。家庭教師という名目が加わればもっとこのお家に来る機会が増える。
「謝礼の方は…それなりのことをさせて頂きますわ。あの有名な家庭教師センターは結構なお値段を取っておきながら、実質はこれですからね」
「いえ、いつもこのお家でとても良くして戴いています。ですから謝礼は結構です」
 直哉兄さんがキッパリと言い、その日はもう遅いこともあって「ひまわり園」に送って貰った。
「明後日、数学と英語の小テストがあるんだ。明日も来て欲しい」
 そう言われて、頷いた。
 次の日、冷泉君のママがJRの駅までベンツで迎えに来てくれていた。でも、その顔は明らかに怒っている。

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テーマ : 自作BL連載小説
ジャンル : 小説・文学

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こうやま みか

Author:こうやま みか
素人の完全な趣味で「ボーイズラブ」小説を書き始めました。
全然上手くないのですが、コメント頂ければとっても嬉しいです。
またヤフーブログが本館扱いで、こちらでは当面(ってイツ?)旧作を掘り起こして掲載していきたいと思います。
著作権は放棄しておりませんので、無断転載などは禁止させて頂きます。何卒ご了承くださいませ。

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