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「純愛と妄執に揺れる心」第一章-23

「純一君は、銀行のカードを持っているかしら?」
 冷泉君のママとの会話が思いのほか長くなったので、いつの間にか二人とも紅茶のカップが空になっている。そのカップに優雅に陶磁器で出来た紅茶ポット――上から保温のために綺麗な厚い布が被さっている――から紅茶を注ぐ。
 銀行のカード…純一は殆ど荷物を持たずに「ひまわり園」にやってきた。それから約6年の月日が流れたので当然、純一の後輩も大勢入居してきたが純一の荷物は多い方だったことに気づいていた。本来純一が通うハズだったランドセル――といっても、お母さんに買ってもらったランドセルは今の小学校には持っていっていない。直哉兄さんがお腹を蹴られてケガをした時に病院に連れて行ってくれた上島先生が卒業生の父兄に頼んで古ぼけたランドセルを貰ってきてくれた。その方が、学校でイジめられるリスクが少なくなるという。
 実際、そのランドセルで登校すれば、純一の元の私立小学校はバレずに済み、「施設の子」というイジメは、精神的にも肉体的にもあれからも遭ったが、「ひまわり園」で幼心に受けた「お金持ちの子」という非難はされずに済んでいる。
 お母さんのランドセルの中には財布が入っていた。その中に有名都市銀行のカードも。ただ、純一はカードの使い方は知らないので銀行に行ったこともなかった。
 ただ、施設の子供も迷子になったりトラブルに巻き込まれることもあったりするので紙幣ではなく硬貨で千円だけは貰っていた。お小遣いという意味ではなく、一人千円こっきりだ。純一はお母さんが買ってくれた財布にそのお金を入れていて、いつも持ち歩いている。当然カードも使われることのないまま財布に入っている。
「持っています」
 かつてのハウスキーパーの青井さんがほんの数回淹れてくれた紅茶よりも香りも味も良い紅茶を一口飲んでから財布を取り出した。紅茶は子供の身体に良くないからと言ってフレッシュジュースがおやつに出されることが多かったので、純一は紅茶を飲む習慣は冷泉君の家を始めとして直哉兄さんの友達のお屋敷に遊びに来てからのことだった。
「見せて貰っても宜しいかしら?」
 何故そんなものを冷泉君のママが見たがるのかは分からなかったが、先ほど純一のママのことを褒めてくれたので心の構えは解けてしまっている。
「はい」
 ポケットから財布を出し、カードを手渡した。
「ああ、良かったですわ。純一君のお名前で口座が開設されていますわね」
 ますます意味不明なことを冷泉君のママは言った。
「暗証番号はご存知かしら?」
 そう言えばお母さんが教えてくれていた。
「はい。申し上げましょうか?」
「いえ、それには及びません。純一君は藤原直哉君ととっても仲が宜しいのよね?」
 冷泉君のママは優雅な動作で立ち上がり、メモ帳とペンを持ってテーブルに戻った。
「はい。とても。施設で知り合ってから兄弟のように仲良くしてもらっています」
 冷泉君のママはにっこりと微笑んだ。カードを見ながら何かを書き写している。
「では、毎月25日にどこの銀行でも構わないですからそこに行ってカードの残高を確かめてくださいね。弘雅のお勉強を見て貰った御礼を志し程度ですが振り込んでおきます。 それを二人でお分けになって。そうそう、それ以前に純一君のお母様がこの口座にお金を入れていらっしゃると思いますから、その金額も確認しておいた方が宜しくてよ」
 困ったな…と思った。直哉兄さんは「お金はいりません」と断ったハズなのに。その表情が顔に出たのだろう。冷泉君のママは諭すような表情をした。
「お勉強を教える職業があるのをご存知でしょう?」
「ええ、僕も塾に行ったことがありますし、冷泉君は家庭教師の先生を…」
「そうです。純一君は、昨日弘雅のために数学のお勉強をなさったと仰ってましたわよね?それは立派なお仕事です。といっても、家庭教師は大学生や大学を卒業した方のお仕事なので…多額のお金をお渡しすることは出来ませんが。ですが無料というのも気が引けますので、心ばかりの御礼をさせて下さいませ。きっと直哉君も納得する程度の御礼ですわ」
 そう笑顔で言われると、断るのも悪い気がした。それに冷泉君のママは僕のカードの数字を書き取っている。今更断っても多分、お金を払ってくれる気なのだろう。
 また、僕はまだ小学六年生だ。冷泉君が数学は苦手といっても僕より一つ年上なので、そんなに上手に教えることは出来ないだろう。冷泉君のママが言う通り「少しの金額」ならばそんなに気にすることはないかも知れない。直哉兄さんにはそれとなく聞いてみて、お兄さんが気を悪くしなかったら本当のことを言ったらいいし、気を悪くしそうだったら大人になるまで黙っていようと思った。お兄さんにこのカードのことは言いそびれていた。銀行のカードのことなんてわざわざ打ち明ける問題とは思っていなかったので。
 それよりもお兄さんにお守りとして渡したお母さんのサファイアの指輪が純一には宝物だった。
 その指輪はお兄さんが大切に保管してくれている。どこに有るのかは教えてくれなかったが、お兄さんを信じているので別に気にしてもいなかったが。直哉お兄さんが小学校を卒業して、中学に通い始めた。仕方のないこととはいえ別々の学校に通う方がとても辛かった。
 お兄さんは近くの公立中学のブレザーを着てとても大人っぽくなった。僕も来年は同じ制服を着ることになるのだろうけれども、一年は別々の学校に通うというのがとっても寂しい。
 相変わらず学校は最悪だった。お兄さんを蹴った平島のヤツは施設の近くの道で時々見かける。別に意識して見つけるわけではないが、男としては長い髪の毛を金色と赤色に染めて鳥のトサカのように立たしているし、耳と鼻に大きな銀色のピアスをしている上に身体が大きいのでとっても目立つ。一人の時もあれば、同じような格好をしている仲間と道路でタバコを吸っている――しかも、タバコを持った手を大きく振って話していたりするのでちょっと他の大人も迷惑げにしているが、服装は髪の毛と同じような派手な色で胸元には太いチェーンをしているので、誰も注意はしないようだ――僕が稀に一人で歩いている時は意味ありげに口笛を吹くのが不気味だった。普段はお兄さんと一緒に歩くことが多い。そんな時の平島は知らん振りをしている。
 六年生のクラス替えで「ひまわり園」の平野さんと同じ組になった。最悪なことに平島とも。平野さんは背も伸びてとても綺麗な女の子になった。どうやら平島は、一年生の時に「バカ」とか罵っていたクセに平野さんに気があるようだった。何かといえばからかっているが、平野さんが無視をすると途端にシュンとなる。
 平野さんは同じ施設に居るからか、良く僕と話す。とても他愛のない話だけだけど。そういう時は平島が必ず「カップルだぁ」と囃す。平野さんは顔を赤くする。僕も「カップル」という言葉の意味くらいは知っている。けれども僕は平野さんと付き合ってなんていなかったし、他人に揶揄されることはもう慣れていたので無視をしている。
 小学校6年のクラスでは一番前の机に座っていても、先生の授業が聞き取れない。僕の耳が悪いのではなくて、皆が立ち歩いたり大声で私語をしたりケンカが始まったりするからだ。先生も諦めているのか、そんな同級生達に注意もしない。
 僕は学校に行きたくなかったけれども、「ひまわり園」ではいつかお兄さんが教えてくれた体温計のズルは出来ない。電子体温計はぬるま湯に漬けるしか体温の誤魔化しが出来ないと誰かが言っていた。「ひまわり園」は発熱しない限り学校は休ませてくれない。
 僕は学校に行ってただ座っているだけだった。先生の授業は聞き取れないし…第一聞き取れても、僕には退屈な授業だった。6年生になっても算数の授業は分数の計算も出来ない同級生が多くて、先生は算数の時間はまだ分数の授業をしている。お兄さんとお勉強を続けなければ絶対に学力なんか付かないことは分かっていた。


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テーマ : 自作BL連載小説
ジャンル : 小説・文学

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こうやま みか

Author:こうやま みか
素人の完全な趣味で「ボーイズラブ」小説を書き始めました。
全然上手くないのですが、コメント頂ければとっても嬉しいです。
またヤフーブログが本館扱いで、こちらでは当面(ってイツ?)旧作を掘り起こして掲載していきたいと思います。
著作権は放棄しておりませんので、無断転載などは禁止させて頂きます。何卒ご了承くださいませ。

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