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「気分は、下克上。」医師編-11

「酔ったフリをして下さいね」
 記憶力の良い彼には言わずもがなの囁きをする。祐樹も彼もアルコールは強い。ただ、彼は行為の余韻の上気した頬や潤んだ眼差しは酔っているとハタ目からは見えるだろう。少なくとも今夜の彼は肌を合わせた人間同士がかもし出す妙な甘ったるい雰囲気は全く持っていなかったので。
「お客様、如何なさいましたか?」
 深夜に近い時間を配慮してかホテルマンも静かな話し方をする。手に持っているのは多分暖炉の火を消すためのものだろう。もう夜も遅いので暖炉の火も落とすようだ。ただ、ここで秘めやかに語り合うのも悪くないと祐樹も思っていた。多分祐樹の肩に顔をうずめている彼も。
「いえ、友人が少し酔ってしまいまして部屋に戻る前に少し休んでいたのですが…」
 そう言いながらポケットからルームキーを出してホテルマンにかざす。
「左様でございますか。宜しければ水をお持ちいたしますが」
「ええ、お願いします。大丈夫です、彼は酔っても吐いたことは有りませんから…この絨毯を汚すことは絶対に有り得ません」
 祐樹が断言するとホテルマンは温和な微笑を返してきた。正確に何時聞いたのかは忘れていたがここのペルシャ絨毯は祐樹の年収を遥かに超える値段だとクラブフロアのスタッフが言っていた。それに関西一のホスピタリティを誇るこのホテルでゲスト、それもスイートの客はたいていの我が儘が通ることも。部屋番号が刻印されたルームキーをかざしたのはそういう意図だ。
「いえ、そういうご心配はなさらないで下さいませ。お薬などは必要ございませんか?」
「ええ、水だけで大丈夫です」
「承りました。直ぐにお持ちいたします。暖炉の火はそのままにしておいた方が宜しいでしょうか?」
「…そちらがご迷惑でなければ、お願い致します。暖炉の火に当たっていると酔いが醒めるような気がしますので」
 僅かに祐樹の肩から顔を上げて彼が言った。
「畏まりました。では、直ぐにお水を持って参りますので」
 彼が静かに歩み去ると、祐樹は吹き出した。
「普通の酔っ払いは冷たいところに行きたがることくらい知ってますよね?」
 彼も祐樹の瞳を見詰めて悪戯っぽく微笑する。
「それは当然知っているが…他に言い訳のしようがなかった。祐樹はもっと良い口実が考えられるか?」
 しばらく考えを巡らした。
「無理ですね…。アルコールの作用は人さまざまですから…特異体質ということで…」
「そうだろう?」
 共犯者めいた微笑を浮かべていると、先程のホテルマンがコップではなく一番大きなワイングラスに氷入りの水を持って静かに歩み寄ってくる。アルコールを摂取した身体には水分を多めに飲むという原則を職業上知っているらしい気の使いようだった。
 高価なペルシャ絨毯に膝を付き、彼にワイングラスの乗ったトレーを差し出す。彼の白い指が幾分けだるげに動きワイングラスの足の部分をしっかりと掴む。
 その動作にも彼独特の艶っぽさはあったが、以前のような艶やかな感じではなく清楚さが際立っている。やはり、今夜の行為を境にして彼の中で何かが変わったのだと痛感した。
 そういえば、愛の行為の後は彼に水を飲ませるのを忘れていた。あれだけ息を乱したのだから当然咽喉は渇いているハズで。案の定彼の咽喉が絶え間なく動き、冷水を嚥下している。桜色に染まった細い首筋の動きに目が釘付けになる。
「有難うございます。レモンまで入っていて…とてもすっきりしました」
 彼がホテルマンに礼を言っている。この階にもレストラン――確か地中海料理だったと思うが――からレモン入りの水を用意させたのだろう。伊達に高い料金は取っていないのだなと納得する。
「お役に立てて幸いで御座います。お手数をお掛けして大変申し訳ないのですが、お部屋にお帰りの際にフロントまでご一報下さいませ。その後に火を消しに参りますので」
「お世話をおかけして申し訳なく思います。必ずフロントに寄りますので」
 彼が丁寧に礼を言っても、このホテルでは殆どバレている彼の素性は分からなかったのかホテルマンの顔は善意に溢れていた。もしかして内心では気づいているのかもしれないが。ただ、前髪を下ろすと彼の印象はかなり変わるので気づかれてないような気もする。が、今日の彼の醸し出す雰囲気は清廉な感じなので気づかれていても全く問題はないのだが。
「すみません、咽喉とても渇いていたでしょう?気が付かなくて申し訳なく思います」
 ホテルマンの足音が遠ざかるのを耳でとらえて再び指を付け根まで絡めた。
「いや、確かに咽喉は渇いていたが、飲みたければちゃんと言うので気にしないでくれ」
 彼の桜色の眼差しがすぐ近くで微笑んでいる。それだけで祐樹の胸は満たされる。
「それを聞いて安心しました。貴方に愛想を尽かされることが一番恐いので…言いたいことや不満な点が有ったら――たくさん有るとは思いますが――遠慮せずに言って下さいね。改善するように努力しますから」
 彼は切れ長の瞳で真摯に祐樹の顔を見詰めていたが、ほんのりと微笑んだ。
「特に不満な点などない。ずっと祐樹が一緒に居てくれればそれでいい。私だって祐樹からの愛想尽かしが一番恐い。一緒に暮らしているとアラも見えてくるだろう?私に不満が有れば…」
「ないですよ。唯一不満が有るとすれば」
 彼の瞳が心配そうな色を帯びる。祐樹もそうだが彼もこの関係を壊したくないと思っていることがヒシヒシと伝わってくる。
「仕事が忙しすぎてなかなかゆっくりと二人で過ごせないことくらいです」
 彼は小さく微笑んだ。
「そればかりは…。私にもどうしようもないな…。祐樹が救急救命室に手伝いに行ってなかったとしても、心臓外科の方で当直勤務だし」
「当直は教授以外の免除ナシですから。貴方だって教授室で寝泊りする日があるくらいですから…仕方ないです。それに休日は一緒に過ごして下さっています。それで充分ですよ。ただ、夏の休暇はまたどこか海外に行きましょう」
 彼は薄紅色の唇に楽しそうな微笑を浮かべた。
「ああ、シンガポールは楽しかった…な。ただ…」
「ええ、母のお見舞いですよね。盆とお正月は帰省しろと仰るのでしょう?それは呑みます。見舞いとお墓参りを済ませてから海外に行く…というのはどうですか?」
「お墓参りもさせてくれるのか?」
 彼の瞳が透明な喜びに変わる。
「貴方が役所に用紙を提出すれば戸籍の上では兄弟ですから、当然のことです。ただ、その件は私の判断で保留にしていますが」
「戸籍まで変わるのは確かに厄介だから…その件は祐樹が考えてくれれば良い。しかし、私は祐樹のお母様を自分の母のように思っている」
「母もそう思っていると思いますよ。いい加減な実の息子よりもずっと頼りになる息子が出来たと。自宅の鍵はその証でしょう。でも…お墓参りが済んだら旅行に行きましょうね」
 このホテル独特の良い香りに包まれて、オレンジ色の暖炉の光を二人して見詰めながら手を繋ぎ、顔を近づけて話すこの一瞬が宝石のように貴重なものに思える。たとえこれからこんな時間が何度でも過ごせるのだとしても。
「そろそろ、部屋に帰らないか?やはりホテルの人にこれ以上迷惑を掛けるのは忍びない」
「ええ、貴方も水分をもっと摂取した方が良い。口移しに飲ませてあげますよ。何が良いですか?」
「口移し…か…。それも嬉しいが、実は今飲みたいのは梅昆布茶だ」
 色気のない回答に少しがっくりする。
「ただ…今日は祐樹の素肌を感じて眠りたい。祐樹の心臓の音を直接聞くととても安心して眠りにつけるから」
 彼の唇が幸せそうに弛む。
「そのくらい、お安い御用です。今日はキス以上のことは何もしませんからゆっくり眠って下さいね」
 祐樹の言葉に極上の微笑が返される。

この作品はヤフーブログで新規更新しようとすると、無情のエラーが(泣)なので途中で申し訳ないのですが、こちらで更新させて頂きます。本日は無事にヤフーさんに受理されましたが、こちらにも載せておきます。

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テーマ : 自作BL連載小説
ジャンル : 小説・文学

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こうやま みか

Author:こうやま みか
素人の完全な趣味で「ボーイズラブ」小説を書き始めました。
全然上手くないのですが、コメント頂ければとっても嬉しいです。
またヤフーブログが本館扱いで、こちらでは当面(ってイツ?)旧作を掘り起こして掲載していきたいと思います。
著作権は放棄しておりませんので、無断転載などは禁止させて頂きます。何卒ご了承くださいませ。

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