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「気分は、下克上。」医師編-10

「シャンプーもしましょうね…。この時間に暖炉の火がまだあるかは分かりませんが…ともかく行ってみましょう」
 彼の髪を濡らしてホテル備え付けのシャンプーを手に取る。彼は目を瞑ったまま洗いやすいように肢体を動かした。
「祐樹にしてもらえるシャンプーはとても気持ちが良いから…大好きだ」
 最愛の彼にそんなことを言われると、もっと気持ちよくシャンプーをしてやりたくなる。
 頭皮をマッサージする手も細心の注意を払った。確かこのくらいの力加減が彼のお好みのハズ…と両手を動かした。手先の器用さや記憶力は彼には到底及ばないが、祐樹とて若干の自信はある。
「とても気持ちがいい」
 うっとりと呟く彼を喜ばせたくて手の平全体で彼の髪を洗う。こんな行為には関係のないことをする人の存在も祐樹にとっても初めてだ。
「もっと…して欲しいが…暖炉に行きたい。また洗ってくれるか?」
 夢見心地の彼の声は祐樹の鼓膜にも心地よく響く。
「ええ、もちろんです。貴方が私の夜勤明けにワイシャツとエプロンだけを纏った姿で朝食を作って下さるなら、こんなことは何時でもして差し上げます…よ?ドライアーで髪の毛を乾かしますね。鏡の前に座って下さい」
 バスタブを出る時、ふらりとよろめいた彼の肢体を支えた。彼の精神力の強さは知っているがこんな行為の後で一階に下りて行けるか危惧の念を抱く。
 祐樹も髪は洗いたかったが倍の時間が掛かってしまうために棚上げにする。ドライアーを最強にして髪から水分を飛ばす。
「朝食を作る時にワイシャツとエプロンだけで作るくらいはお安い御用だ。次の救急救命室帰りの時でいいのか?」
 行為の後の甘い雰囲気を漂わせた彼が紅く染まった肢体――鎖骨上の情痕や胸の尖りのルビー色が祐樹には眩しい――を洗面台兼女性の化粧直しのための大きな鏡に映して緋桜色の嬌声の余韻を漂わせた口調で言う。
「ええ、是非お願いします。夜勤明けの疲労がそれだけで吹っ飛びそうだ」
 祐樹とてイチイチ数え切れないほどの行為を男女問わずにした経験がある。生涯最後の相手はこの人だろうな…と決意はしていたが。
肌を合わせた後というのは、男女問わず甘く親密な雰囲気を漂わせることも経験上良く知っている。このホテルは関西でも随一のステイタスを誇るが、そういう行為に使う人間もあまた存在するだろう。
それに彼は財界人が読む雑誌に良く載っている。29歳で教授のポストを掴んだ人間として。そして、心臓バイパス術の権威として。財界人が良く出入りするホテルのロビー近くに二人して行為の余韻を残して座っていても大丈夫かとの危惧も少なからず存在する。夏の休暇で行ったシンガポールでは旅先だけに知った顔に会う危険性は少なかったが、大阪のホテルは違う。一階ロビーはプライベートな空間ではなく誰に遭遇するか分からないオフィシャルな場所だ。そういう場所に行為の甘い余韻を残した彼を連れて行っても本当に良いのだろうか…と。いくら最愛の彼の要望でも、いや、大切に思っているからこその心配だった。
彼の髪を洗ったのも彼とは分かりにくくさせるためだった。前髪を下ろした彼は驚くほど印象が変わる。
髪を乾かしてから彼の肢体を拭う。彼も浴室に用意されている一番大きなバスタオルで祐樹の身体を拭ってくれる。
ワイシャツを着せ掛けると胸の尖りが露に見えて、祐樹には目の毒だ。ネクタイは省略してジャケットを着せる。彼も器用な手つきで祐樹の着衣を整えてくれる。こちらはネクタイもキチンと結んでくれた。ジャグジーに浸かったのが功を表したのか、彼の足の運びは普段どおりになっている。
ルームキーを持って部屋を出た。隣を歩く彼の横顔をこっそりと盗み見る。彼は部屋を出た瞬間に雰囲気を変えたことに気づいて瞠目した。
部屋の中ではあんなに乱れていたのに部屋を出た瞬間から、彼の表情が仕事場で見せるような怜悧で真摯なものに変わっていた。顔は薄紅色に上気したままだったが、先程の艶めいたものではなく酔っている程度にしか見えない。行為の際は妖艶さと清楚さを見せる彼だったが、今の彼は清らかな表情しか浮かべていない。
今までは、彼との行為の後に少なからず浮かべていた甘い雰囲気は今の彼には感じられない。部屋の中では、いつも以上に乱れていたのが嘘のような涼しげな表情だった。
心の底から彼のために安堵の吐息を漏らさずにはいられない。これならロビー階に居ても酔っているという言い訳は熟練のホテルマンでも納得するだろう。
彼の肢体が見せた行為の際の進歩と、目の前の清廉な雰囲気とのギャップも謎だ。お芝居が出来る程、彼のメンタリティは器用ではないハズなのだが。
ロビー階まで下りて、暖炉の傍に行く。幸いなことに火は燃え盛っていた。しかも深夜に近い時間だけあってソファーに座っている人も居ない。一人掛けのソファーではなく長椅子に並んで腰を下ろした。通りすがりの人が居ないのを見極めたのだろう、彼の頭が祐樹の肩に凭れ掛かる。暖炉も上に飾ってある食器も点在するソファーも見事なものだったが、祐樹の気持ちは横に座っているひとに傾いてしまう。人が居ないのを良いことに手を握り締めた。人が通りかかっても分からない角度を計算して指の付け根までをしっかりと絡み合わせた。
こういう場所での秘めやかな触れ合いは興奮を煽る。彼は満足げな吐息を零して絡めた指を力強く握り返してきた。
「このホテルで最初の夜を過ごした後、帰りのJRで私が祐樹の手に手を重ねたことを覚えているか?」
 秘め事めいた囁きに鼓膜が必要以上に震えた。
「もちろん、覚えていますよ。貴方に関して忘れることは一つもない」
「一回きりのことだと、それでも良いと思っていたのに…また誘ってくれた。それが魂の底から嬉しくて仕方がなかった。私から手を触れるのは…体中の勇気を振り絞っても出来そうになかったが、その羞恥心を押し殺して手を重ねた。振り払われたらどうしようかと内心はとてもドキドキしていたが…。あれから随分と関係が深まって…私はとても感謝しているが、それでも一抹の不安はある…な。祐樹に愛想を尽かされたらどうしようとか…」
 小声で囁く彼の声が、少し震えているのが分かる。
「それほど勇気を振り絞って下さっていたとは知らなかった…。慣れているのかとばかり思っていた。だから、手酷いこともしてしまいました…。無垢で純粋な貴方をさぞ傷つけたでしょう?本当に済みませんでした。愛想尽かしを恐れているのは私の方ですよ?貴方はそんなことを考えないで下さい。それに、今夜は一段と感じて下さって…感激しました。『おかしくなる』と仰って下さった緋桜色の声は鼓膜に焼き付いています。ああいう声をずっと聞かせてください」
 彼は祐樹の手をさらに強い力で掴んだ。いつもは冷たい彼の手が暖炉の火で温められたのかとても暖かい。
「……仕事以外のことで私が考えるのは祐樹のことばかりだ…。いつも頭の中に祐樹が居る。今夜は、頭の中と身体の中に存在する祐樹の比重がいつもよりも重くなったので、つい口走ってしまった…。あんなに感じたのは――初めから祐樹のしてくれることは私の悦びだったが――初めてで戸惑ったが、しかしとても嬉しかった。クセになりそうな程だ…」
 オレンジ色の火を見詰めながら小さな声で言う彼の瞳も暖炉の炎が映っている。桜色の唇が小さく言葉を紡ぎ出す。
「ええ、貴方から仕事を取り上げようとは思ってもいないです。けど、プライベートの時は私のことで聡の頭をいっぱいにして…。そのうち…キスだけで達することが出来るような身体にしてあげる」
 彼の頭が少し動いた。
「本当に…?そんなことが出来るの…か?」
「ええ、絶対にそうしてみせます」
 忍びやかな睦言を半ばオフィシャルな場所で交わす。
 人の気配を感じてさり気なく手を離した。

この作品はヤフーブログで新規更新しようとすると、無情のエラーが(泣)なので途中で申し訳ないのですが、こちらで更新させて頂きます。本日は無事にヤフーさんに受理されましたが、こちらにも載せておきます。

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テーマ : 自作BL連載小説
ジャンル : 小説・文学

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こうやま みか

Author:こうやま みか
素人の完全な趣味で「ボーイズラブ」小説を書き始めました。
全然上手くないのですが、コメント頂ければとっても嬉しいです。
またヤフーブログが本館扱いで、こちらでは当面(ってイツ?)旧作を掘り起こして掲載していきたいと思います。
著作権は放棄しておりませんので、無断転載などは禁止させて頂きます。何卒ご了承くださいませ。

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