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「気分は、下克上。」医師編-2

 部屋のチャイムが軽やかに鳴らされた。いつものルームサービスとは違う趣きだ。このホテルではルームサービスも簡易式テーブルごと運ばれるが今回のテーブルは宴会場の使いまわしではないかと思われるほど重厚だった。それにホテルマンが2人付き添っている。
「お部屋でお食事をと承りましたので、お食事中のサービスを務めさせて戴きます中村と申します」
「宜しくお願いします」
 彼は慣れているのか涼しい顔だ。二人きりの食事を期待していた祐樹はアテが外れた。第一肩が凝ってたまらない。ただ、彼には何らかの思惑があるハズだ。彼が祐樹のためにならないことはしないことは分かっている。
「食前酒で御座います」
「ああ、有難う」
 広い室内で向かい合って食事、しかも給仕人がいるという状況は初めてだ。
「慣れていますね?やはりアメリカで?」
 彼は眼だけで微笑む。唇はキールの甘さを楽しんでいるように綻んでいた。
「あちらでは世界各国のVIPが手術を受けにきたので…手術が成功した時には御礼として色々なことをしてもらったな…。自家用ジャンボを持っているような人も居た。帰国はクイーン・エリザベス二世号と同じ程度の自家用の船の人も。その時にミシュラン3つ星のシェフを引きぬいた大富豪ご自慢の料理を執事付きで御礼に食べさせて貰ったこともある」
 彼の煌びやかな過去は仄聞していたが、想像以上の待遇だったらしい。
「アメリカはやはり事情が違いますね」
「ああ、違う面が多いな。病院や執刀医の評判でのみ患者さんが集まってくる。日本のように医者任せではなく、患者さんが医者や病院を選ぶ。支払い能力をまずチェックする病院も多数有ることだし…」
 銀の蓋を載せた皿がテーブルに静々と置かれる。
「ホタテ貝のマリネ、キャビアのクリームソース添えで御座います。ワインはアルザス・リーズニングが宜しいかと」
 宜しいも何もさっぱり祐樹には分からない。だが、これからの学会や何らかの催しでこういう会食がなされないとは限らない。こうした席も体験しておいた方がいいという彼の心遣いなのだろうと腹を括った。ただ、こうなるとプライベートな話は全く出来ない。
「支払い能力をチェックするというのは?」
「患者さんを診察する前にクレジットカードの提示を求める」
 優雅な手つきでナイフとフォークを操りながら彼は説明してくれた。
「日本では考えられませんね。もし、カードが失効していたらどうなるのですか?」
「その場合は、診察拒否だ。現金が有れば別だが」
「とてもシビアですね…ただ医療を完全なサービス業と捉えるとそういう考えも可能ですね。但し日本では通用しない気もしますが」
 彼はワイングラスに良く調和した細く白い指で繊細なワイングラスを優雅に口元に運ぶ。その動作は流れるように流麗でかつ色っぽい。
「佐々木前教授はそういった病院作りを目指していらっしゃる。執刀医も指名出来るそうだ」
 懐かしい名前を聞いたついでに忌まわしい名前も思い出した。
「あちらの病院に移った山本センセなどはどうされていますか?」
「ゆ…田中先生の想像通りだと思うが…」
 彼も給仕の人の耳を憚って名前を呼ばない。こういうのも、何だか新鮮だ。
「では執刀医への道は程遠いということですか?」
 ウミガメのコンソメスープを飲みながら尋ねた。
「もちろん。ただ、あの先生もあちらの病院をクビになってしまうと行く場所がないので人が変わったようになってはいるらしい」
「負けていられませんね。ただ、勝てる自信はありますが」
 彼は鴨のフォアグラのポアレを器用に切り取って口に運び、満足そうな顔になる。
「ゆ…田中先生に特にお願いしたいのは、病院内の教授の動向だ。どの教授が病院改革に積極的で、その教授が消極的かという点を探り出して欲しい。その分野では私などはるかに及ばない」
 彼の瞳が真剣さを帯びる。アメリカという国の病院経営を見て来た彼には日本の病院制度そのものが脆弱だという結論に達したのだろう。
「分かりました。これからは教授クラスの動向に細心の注意を払います。このチーズ…ワインに合いますね。何というチーズですか?」
 デザートチーズが運ばれて来た頃にはすっかりこの場の雰囲気にも馴染んできた。人間は何でも経験が大切なのだと思い知った。給仕を担当してくれている中村さんに聞いた。
「空輸したてのミモレットでございます。ワインとの相性が難しいチーズですが、1978年のラトゥールには不思議と調和致します」
 彼ほどの記憶力はないが後学のために覚えておく方がいいのだろうな…と思う。さしあたって使い道は思い浮かばないが。
 彼もナイフとフォークを食事終了の形に置いた。
 ワインも様々な種類が料理に合わせて出てきているので、ボトルでしか呑んだことのない祐樹にはどれほど酒量が胃の中に入ったかも分からない有様だ。
 ただ、アルコールは他人が居ると不思議に回らない。それは彼も同様で、頬を僅かに紅く染めている程度だった。
 研修医から医師になったとはいえ実質的な勤務は変わらない。が、彼のためには祐樹の情報収集能力と昔ながらの腹芸が必要なことは分かっている。彼はこの病院でのキャリアは浅い上に、物事をストレートに表現してしまう――個人としては美徳だが大学病院では欠点でしかないのが現実だ――それを補佐することを自らに課した。
「有難う。ゆ…田中先生はコーヒーでも?」
「いえ、教授にお任せ致します」
「では、打ち合わせがあるのでこれで」
 彼が慣れた手つきでサインをすると黒子のようにもう一人のホテルマンが現れ青いシルク(だろう)でふんだんに飾られたテーブルを静かに運んで行った。最後に丁重なお辞儀を残して。
 スーツのまま、オッドマン付きの椅子に座りこむ。スプリングがちょうどいい椅子は油断すると寝てしまいそうになる。
 彼はベッドサイドに備え付けてある「起こさないで下さい」のランブを点灯させてから悪戯っぽく笑いかけた。
「たまにはこういうのも良いだろう?」
「料理は文句なしに美味しかったですが…肩が凝りました」
「私だって、最初の執刀医を無事勤め上げた時に接待を受けた時はそうだった。でもこういうのも慣れだから…。慣れておいた方がいいと思って…」
「ええ、貴方の厚意なのは分かりましたよ。貴方と出会ってから随分色々な体験をしました。このホテルでこういった関係になってから…」
 彼におもむろに近付き、後ろから抱き締めた。彼は一瞬身体を預けた後に首と手を後ろに回してキスを強請った。触れるだけのキスはワインの味がした。
「まずは東京出張で、貴方の講演、その後はシンガポールのラッフルズホテル。あのホテルもとても素敵でしたね。その後はM市民病院での執刀と母との対面でしょう?それから大晦日からお正月にかけての温泉旅館…と、母も交えた初詣とその後の私の部屋に忍び込んでの行為。一番印象に残っているのは?」
 彼はしばらく黙っていた。ワインの酔いが回って来たのかもしれない。
 酔いというのも不思議なもので、気が張っていると酒量を多少過ごしたくらいでは酔わないし、寛いでいると酔いが回る。アルコールは麻酔薬として使用出来ないのは個人差や緊張の度合いに因って効果がマチマチな点で、それ以外は麻酔薬と同じだ。
「どれも印象に残っていて…どれとは決めることは出来ない…な。祐樹とこんな関係になれただけで私には宝物のようなものだから。それに祐樹のお母様に許して戴けたことも望外の喜びだし」
「貴方は、ワインを摂取すると胸の尖りの色もワイン色になりますよね?確かめても…構わない?」
 彼の耳に不埒な言葉を流し込む。耳たぶがロゼワインの色に染まる。



この話はヤフーブログで終了した「気分は、下克上。」の続きです。
29歳にしてアメリカで天才心臓外科医として世界的名声を欲しいままにした香川聡が、母校であるK大学病院に教授として招聘されることになったことに反発を持った研修医田中祐樹(27歳)が色々あった上に恋人同士になったその後の話しです。
すっかりラブラブになった祐樹と香川聡の二人を楽しんで戴ければ幸いです~!



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テーマ : 自作BL連載小説
ジャンル : 小説・文学

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こうやま みか

Author:こうやま みか
素人の完全な趣味で「ボーイズラブ」小説を書き始めました。
全然上手くないのですが、コメント頂ければとっても嬉しいです。
またヤフーブログが本館扱いで、こちらでは当面(ってイツ?)旧作を掘り起こして掲載していきたいと思います。
著作権は放棄しておりませんので、無断転載などは禁止させて頂きます。何卒ご了承くださいませ。

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