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「気分は、下克上。」医師編-1

「祐樹、おはよう…二日酔いは大丈夫か?」
 至近距離から聞こえて来る最愛の彼の声に完全覚醒する。
 顔を涼やかな声の主の方に向ける。寝ている間に寝返りを打っていたらしく、祐樹の視界には寝室の壁しかなかったので。
「お早うございます。ご存じの通りアルコールには強い方でして…頭痛も有りません。聡は?」
 朝の挨拶に唇を重ねてから聞いてみた。
「昨夜の主賓は祐樹だ。私は隣に座っていただけで、祐樹ほどは呑んでいない」
 昨夜、それは祐樹の研修医としての時期が無事に終わったお祝いを医局の皆が祝ってくれた宴会だった。もちろん医局の長である祐樹最愛の彼は当たり前のように床の間を背負った上席で、昨夜の主賓の祐樹はその隣というその席順は初めての宴会だった。黒木准教授などに言わせると、昔は製薬会社の「寸志」や「お祝い」などの熨斗が届いてもっと盛大だったらしいが、祐樹は最愛の彼と正式な場所で隣に座れるだけで充分満足だった。
 彼はパジャマ姿のままベッドを彼にしか出来ないしなやかな動作で降りる。しばらくして大ぶりのグラスにミネラルウオーターを注いだものを持ってきてくれた。
「正式に医局へようこそ。これからも何かと頼りにすると思うがどうか宜しく頼む」
 彼の紅色の唇が嬉しそうに綻んでいる。
「こちらこそ、より一層のご指導とご鞭撻をお願い致します」
 頭を下げてから適度に冷やされたミネラルウオーターを飲みほした。頭痛はなくてもアルコールを分解する酵素は水分を必要とする。瑞々しい水分が体中を癒してくれる。
「有難うございます。相変わらず気が利きますね」
 祐樹が微笑むと彼も微笑み返す。少し恥ずかしそうな微笑。こういうところは同居しても全く変わらないのが彼らしい。
 同棲という形を取ってはいたが、そして祐樹は自分のマンションを一度は解約した。しかし、一年ごとの勤務先に提出する書類でハタと困惑した。「現住所」の欄に同じマンションはマズい。事務局の人間は当然その書類を見ることになるのだから。それに彼が住んでいるのは京都でも有数の豪華マンションだ。「研修」という二文字が取れても独身の医師が住めるレベルではない。病院中で、このレベルのマンションに住めるのは長岡先生のような実家が裕福な人か、――彼は患者さんから差し入れのお弁当くらいしか受け取ってはいないし、彼の医局でも特に金銭を受け取らないように指導は徹底しているが――何かと余禄が多い執刀医クラスの教授職くらいなものだ。それで慌てて元のマンションに形だけは住所と住民票を置いている。
 医師になると給料も上がるし。自己裁量で出来ることが多くなる。まだまだ駆け出しなので指導医である香川教授のアドバイスを受けながらだが。
 変わることと言えば医局で自分の意見を堂々と述べることが出来ることくらいだ。が、以前の医局のトラブル以降、黒木准教授以下とても良くまとまっていて、香川教授の同級生の柏木先生も生き生きと仕事に励んでいる。祐樹の出番はなさそうだった。少なくとも政治的には。
「プライベートでもお祝いをしなければならないな…。ずっと前に一緒に行こうと約束していて、ついつい延び延びになっていたいつものホテルのスイートに行かないか?お祝いということで、祐樹の望み通りのことをするが?」
 間近に見る彼の流し眼は羞恥心の薄紅色と、行為の期待の淫蕩な深紅の薔薇色が混ざった綺麗な光を放っている。もちろんそちら関係のことを考えているのは明らかだ。
 朝だけにマズい。そんな扇情的な眼差しをされると、我慢が効かなくなるのを辛うじて我慢した。
「それは素晴らしい提案だ…。今週末にでも。いや、貴方のそんな色っぽい目を見ると我慢出来ない。けれど、我慢しないとダメですよね?」
 母の入院している病院で初めて執刀医として出張することになった日にスイートはキャンセルしている。それ以降、あのホテルは何度も利用したが、金銭的につましい彼は――祐樹が3回に1回は支払うという習慣も出来たこともあって――いつもの部屋しか使っていない。
 母が提案した養子縁組は、母の署名など必要事項を記入した用紙は送付されてきたが、まだ役所には提出していない。彼は養子縁組の用紙を穴があくほど見詰めていた。目にはうっすらと涙を浮かべながら。
「祐樹のリクエストに何でも従うとなったら…やはり金曜の夜にチェックインして日曜の夜か、月曜の朝にチェックアウトだ。月曜の朝にチェックアウトすると言っても日曜の夜は…少し控えて欲しいのだが…月曜の手術に響くから…」
 最後の方はとても小さく控えめに発言された。そういう初々しさもとても好ましい。
「それは承知しています。聡の負担になるようなことはしたくないので」
「今週末に予約を入れておくが、いいか?」
 サイドテーブルから携帯を取るという、一見何でもない動作なのに。彼の指の動きが艶めかしい色香を放つ。
「ええ、大丈夫です。救急救命室の方はお休みにさせてもらいます」
「阿部士長――あ、もう杉田が本名だな…も祐樹のことは絶賛していた。柏木先生よりも田中先生の方が処置は的確かつ迅速だと。それに鈴木さんも同じ感想だった…」
 阿部士長は長過ぎた独身生活にピリオドを打って祐樹も最愛の彼も良く知っている杉田弁護士とこじんまりとした結婚式を挙げた。もちろん2人とも招待されて祝福してきたが。
 阿部士長は病院内では旧姓で通すことにしたらしかったが、結婚の効果か、以前よりは少しだけ人間が丸くなったような気がする。といっても、お休みを貰う時に毒舌を吐かなくなった程度で、救急救命室では相変わらず怒鳴っているが。



「へぇ、流石に部屋の大きさと豪華さが違う」
 いつもの部屋もとてもシックで落ち着いていたが、スイートルームはそれ以上に上品さが漂っている。もちろん、チェックインはいつものクラブフロアだ。
「お祝いなので、フレンチか中華のお店で…とも考えたのだが…」
「いえ、十分だ。それにこのホテルは患者さんの知り合いなども御用達のホテルなので」
 京都のホテルもそうだが、祐樹達の患者さん――特に特診患者――は社会的地位が高い人が多い。流石に患者さんの顔と名前は覚えているがその見舞客ともなると暗記出来ない数にのぼる。しかも見舞客の方では祐樹はともかくとして彼の顔を見憶えていることも多い。彼も信じられないほどの暗記力の持ち主だが、廊下ですれ違っただけ…という人まで把握出来ているわけではない。
 夜の7時にチェックインして部屋に案内された。最上階近くの部屋だったが、クラブフロアラウンジも最上階近くにあるので夜景はそんなに変わらない。変わっているのは部屋の大きさと調度…そしてウエルカム・フルーツの豪華さだけだ。
「私のリクエストに何でも応えて貰えるなんて夢のようだ。約束してから何をしてもらおうかとワクワクしていた…」
 彼の薄い肩を引きよせて口づけを送った。彼も待ちきれない様子で唇の先端をなぞったり甘く噛んだりした。上品な部屋に淫らな水音が響く。
 その後、行為になだれ込もうとしたが、彼の紅く染まった瞳としなやかな指が祐樹を制した。
「レストランで食事が摂れない代わりに、フレンチレストランから取り寄せたディナーを用意させている。それを食べてから続きをして欲しい」
 男2人でフレンチレストランに行くのは確かに不自然だ。そのことを見越しての彼の配慮を嬉しく思う。ただ、彼と同じ部屋でこうして戯れているだけでも十分なお祝いだが。



この話はヤフーブログで終了した「気分は、下克上。」の続きです。
29歳にしてアメリカで天才心臓外科医として世界的名声を欲しいままにした香川聡が、母校であるK大学病院に教授として招聘されることになったことに反発を持った研修医田中祐樹(27歳)が色々あった上に恋人同士になったその後の話しです。
すっかりラブラブになった祐樹と香川聡の二人を楽しんで戴ければ幸いです~!



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テーマ : 自作BL連載小説
ジャンル : 小説・文学

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こうやま みか

Author:こうやま みか
素人の完全な趣味で「ボーイズラブ」小説を書き始めました。
全然上手くないのですが、コメント頂ければとっても嬉しいです。
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著作権は放棄しておりませんので、無断転載などは禁止させて頂きます。何卒ご了承くださいませ。

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