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刹愛の公子(1)



 このお話は、「タニス・リー」原作の「闇の公子」の二次小説です。原作をご存知ない方が多いと思われますが、ファンタジー物で、「地球が平らであった頃に美しき妖魔の王が居て、その妖魔の王にまつわる物語」です。人間を時には愛し、時には残虐な行為をし、人間を見下しながらも人間が居ないと存在出来ない妖魔の王、美しきアズュラーン。彼はかつて、人間が滅びることを看過出来ず命を懸けて戦った「憎悪」に勝利するも人間からは蛇蝎のように嫌われている(まぁ、自業自得ですが)ので、功績を認められずにいる…といったお話の続きになります。備忘録としてこちらにアップしておきます。完成の暁には一般書庫に移します。実はイラストを戴いた銅貨様のリクエストで書きました。

    


 漆黒の闇が平らな地球を産着の如く覆っていた。一際闇が凝っているが故に却って月光の輝きめいた、夜の煌びやかな輝きを放つ空の一点が有った。
 その貴やかな光の中心には、闇の公子・妖魔の王・夜を統べる美しき者の異名で善良な人間からは恐れられ、性、悪にして妖魔の王に頼むことのある人間からは渇望されている、美しきアズュラーンが、久方振りに地上へと無聊を慰めんと彼の地下の都ドルーヒム・ヴァナーシュタから天掛ける黒馬に乗って飛来していた。
 妖魔は悪を楽しむ。あたかも猫が鼠をいたぶるかのごとく。些細かつ重要な暇つぶしででしかないが。
 悪徳の匂いは妖魔には薔薇の如くかぐわしい。その幽かな香りに興を覚えたアズュラーンであったが。馬首を翻してその方角へと向かう途中で我が名を呼ぶ声を妖魔の耳ならぬ耳が聞き取った。
「はて、余を呼ぶとは。いささか身の丈知らずの愚か者よ。見に参ろう」
 闇夜に吹く花の盛りの風の如き耳に心地よい声に宿る、滴る悪意は黒曜石の輝き。
 妖魔の王への呼び掛けは決して賢明な業ではない。妖魔の遊戯は気随に悪を為すことで有った故。
 善良な人間なら忌むべき己の名を恭しく唱えるその声はドルーヒム・ヴァナーシュタでヴァズドルーの貴公子達が奏でるこの世ならぬ楽器の音色に似ていた。
 妖魔の王には慕わしい響きを愛でて、アズュラーンはこの世の言語全てにおいても語ることあたわざる美が具象化した白い唇をこの上なき優雅さと酷薄さで彩った。
 黒馬が音もなく降り立った場所はとある神殿だったが、そのことについては麗しきアズュラーンは驚かぬ。神殿すらも憎悪は渦巻いているのが人の世の常。
 夜の闇の美しさが擬人化したアズュラーンは音もなく馬から下り風のようにしなやかに神殿の奥へと歩みを進めた。
 闇の公子の1人であるアズュラーンは夜の帳をも見通せる。そこに佇んでいたのは1人の神官。
 神官はアズュラーンの姿を一目見ると、一刹那その表現することあたわざる美貌に崇拝の念を浮かべた後、恭しく床に跪いた。
 アズュラーンの闇よりも黒い瞳は神官の姿を一瞥するのみだったが。
 その稀有な美貌は妖魔の王に興を起こさせるのに十分だった。妖魔が厭う陽光よりも光り輝く金色の長い髪は月の光の如く繊細に神官のしなやかな肢体を覆っていた。容貌は白いが気高く咲き誇る百合の如し。瞳は麗しの妖魔の君にと同じく黒曜石の黒。尤もその光は夜の公子が金剛石の輝きならば、彼のそれは只の黒い石に過ぎないが。ただ、人間が望みうる最上の光を放っていたことは事実である。そして肢体は蓮の茎の如くほっそりとしなやかに息づいている。
 アズュラーンは唇を酷薄かつ満足げに形作り、天上の、否、地下の妖魔の国で奏でるよりも美しい音楽的な言葉で語りかけた。
「この神殿はそなたが宰領しているのであろう?だとすれば、そなたの望みとは何ぞ?」
 妖魔の君は、古今東西の知識を備えている。神官の衣装もまた。
「畏れ多きことながら御身をお呼び立ていたしましたご無礼誠に申し訳なく、忝く存じます。私は御身に人間に成り代わり御礼を申し上げたく、十年の間御身の御名前を呼び続けて参りました」
 跪いたまま、黒い瞳を僅かに上げてアズュラーンに奏上する。
「はて、そなたに礼を言われる謂れはないが?」
「御身に反論するご無礼をお許し下さいましょうや?」
 この若き神官の言葉には、妖魔の好む心からの崇拝の色が満月の如く漲っていた。
「許す。申してみよ」
「有り難き幸せで御座います。私は神に仕える身ではありますが、幼き頃より御身様の御業を聞き知っておりました。またこの場所には書物があまた御座います。畏れ多くも御身のご所業を書いた本も。
 それらを拝読するにつけ、貴方様が御身を畏れ多くも御身を犠牲にしてまで人間を『憎悪』から救って下さったことを存じました。そして、忘恩の徒である情けなき人間の所業も。人間に成り代わって篤くお礼を奏すべく、御身をお呼び奉った次第で御座います。我が身を人間に成り代わって存分に遇して下さいませ。神は、人間には無関心であることも書物からは窺えました」
 闇の公子は、薄い唇を僅かに笑みの形に刻んだ。滅多に表情を変えることのない闇の公子としては稀有のことだったが。
「その言や良し。ただし、我は妖魔の王である。そちの魂を生きながら引き裂いて人間には耐える事が出来ぬ苦痛を与えるのも我次第である。魂を引き裂いた人間は我が弟でもあり否でもある狂気の公子であるチャズに救いを求めるのが常であるが、それも承知の上の事であろうな?」
 アズュラーンは、この神官を試したく思ほした。彼にとっては人間を試す事など日常茶飯事ではあった。そしてその言葉を聞くと殆ど全ての人間は顔色を変えるのが常だった。
 妖魔の王・麗しのアズュラーンとしては稀有のことであったが、神官の表情は全く変化は無い。
「左様でございます。全ては御身の思し召しのままに。御身の人間から受けられた心無き仕打ちを、数ならぬ私が、御身様の心に少しでもお慰めになるならば、いかようの仕打ちでもこの身には極まれる喜びで御座います」
 神官は跪いたままアズュラーンににじり寄り闇よりも黒い服の裾に恭しげに口付けた。
 アズュラーンは常に脳裏の底に仕舞い込んでいる、忌忌しい記憶を蘇らせた。「憎悪」と闘い、人間を救ったものの、全ての人間は忘れている、あるいは信じていない過去をこの神官だけが正確に理解していることに。先ほどよりも神官を見詰める眼差しが深くなった。
「しかと左様か?我が何をしようとも甘んじてそれを受けると申すのは?」
「御意で御座います。それで御身のお気持ちが少しでも晴れるならば」
「では、夜伽を申し付ける。我は妖魔の王である。そちの人間にしては美しいその身体で人間の罪を償え」
 彼の黒い瞳がおずおずとアズュラーンを盗み見る。神官とはいえ人の子だ。しかもこの神殿では肉の交わりを禁じていることもアズュラーンは知っていた。
「御意のままに。私一人の身体で人間の罪が贖えるとは思いませぬが、ご無聊の慰め程にお役に立てれば身に余る光栄で御座います」
 まだ目を伏せている神官の顔をアズュラーンは長く形の良い爪の先だけを使い、容貌を見詰めた。話している間も妖魔の貴族であるヴァズドルーが奏でる楽の音色の如きの声を愛でていた。その上、神官の容姿はアズュラーンの戯れに手折る程度には整っていたので。
「そなた、名を何と申すか?」
「御身の思し召す通りの名前でお呼び下されば、身に余る栄誉で御座います。私は御身様の下部で御座いますから」
 彼の黒い瞳には明らかに闇の公子への愛情、否畏怖であろうか?の念が冴え冴えとした月の光の如く宿っていた。
 

_________________________

 なお、銅貨様のブログはこちらです~!
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 銅貨様、いつも有り難うございます~!










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こうやま みか

Author:こうやま みか
素人の完全な趣味で「ボーイズラブ」小説を書き始めました。
全然上手くないのですが、コメント頂ければとっても嬉しいです。
またヤフーブログが本館扱いで、こちらでは当面(ってイツ?)旧作を掘り起こして掲載していきたいと思います。
著作権は放棄しておりませんので、無断転載などは禁止させて頂きます。何卒ご了承くださいませ。

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