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刹愛の公子(3)



 このお話は、「タニス・リー」原作の「闇の公子」の二次小説です。原作をご存知ない方が多いと思われますが、ファンタジー物で、「地球が平らであった頃に美しき妖魔の王が居て、その妖魔の王にまつわる物語」です。人間を時には愛し、時には残虐な行為をし、人間を見下しながらも人間が居ないと存在出来ない妖魔の王、美しきアズュラーン。彼はかつて、人間が滅びることを看過出来ず命を懸けて戦った「憎悪」に勝利するも人間からは蛇蝎のように嫌われている(まぁ、自業自得ですが)ので、功績を認められずにいる…といったお話の続きになります。備忘録としてこちらにアップしておきます。完成の暁には一般書庫に移します。実はイラストを戴いた銅貨様のリクエストで書きました。

    

 父母は元から知らぬ身の上のシェディムは己が身の不運さを乳母の愛で補われていた。 しかし、神殿に仕える身の上には乳母は不要。祖国からも石もて追われる如くに、または人間が蚊蝿を五月蝿げに追い払うが如くに唯一人で神殿へと追い遣られたシェディムは、乳母を恋しく思う気持ちを紛らわせる為に妖魔の王・麗しの君アズュラーンの書物を読み耽った。勿論神殿が祀っている神についての本も読破した事は言うまでもないが。
 唯一のシェディムの慰めは美しきアズュラーンの数々の御業を書いた神殿秘蔵の本を読む事のみ。そして、夜な夜な不思議な慕わしさをシュディムをして抱かしむる麗しの公子、アズュラーンの御名を夜な夜な呼ぶことが、何時しか日課と成っていた。公子の来臨などゆめゆめ望んでは居らぬ。闇の君への憧憬は日増しに募るばかりであったが。
 神殿の長とも成れば、並みの神官が読むことあたわざる図書館への鍵が手渡される。主に、神に背く異端の存在である妖魔の王や死の公子であるウールム、そして狂気の王チャズの所業があたうる限り正確かつ綿密に書かれていた。神殿には異端の書物も必要であった故。
 勿論シュディムは――平らな地球の豊かな語彙ですら表現することあたわざるアズュラーンの書物を飢えた人間が食物を貪るかの如く、干天の慈雨で土地が水分を吸収するかの如く読み、かの公子の事を理解した。かつての公子の悪行も、そしてその愛も。己も父母に愛されなかった故か、もしくは他の理由が有った故か公子の悪行は完全では無かったにしろ理解する事は容易かった、人の身には稀有の事で有ったが。
 また闇の公子にかつて愛されたあまたの人間についても。羨望は感じたが、己が闇の公子に寵愛される程の美貌を持ち合わせて居ない事は元より承知していた。そして美しきアズュラーンが裏切った恋人をどのように遇するかも神殿の長しか入る事あたわずの図書室で知った。
 神殿では、仕えた当初こそ話しかけて来る者も居たが、神官長に――シュディムが望まぬことではあったが、彼よりも「神」に似た者は皆無であった故、彼の就任は当然であった――なってからは、親しく言葉を掛ける神官は居らず、ますます孤独を深めることとなった。ジュディムは、昼間は書物を読む限り人間に関心を持って居らぬ神に神官長の務めとして祈り、夜の帳が落ちてからは神官長の部屋で心の底から妖魔の君・闇の公子アズュラーンに祈りを捧げる日々を送っていた。
 この部屋に訪れるような神官は居らぬ。灯火を消し、ひたすら闇の公子を賛美する――勿論、この事実が露見すれば神官長の身分は剥奪されるであろうが、シュディムは地位など何も望まぬ人間に育っていた。当然であろう、王家の第二皇子として産まれたものの、塔に閉じ込められて育ち、国に飢饉が起ると災厄の元凶として疎まれた身の上――その事実は最後の挨拶をした乳母が涙ながらに語りしものだった。
 そのようなある夜の事、不意に空気が変わるのをシュディムは五感に依らず感じた。
 錠を下していた――闇の公子への祈りは己一人で行いたかったので――筈の扉が開き、夜の闇が凝った如く黒く輝く一人の貴人がすらりと佇んでいた。書物で想像していたアズュラーンよりも遥かに美しい。シュディムが想像していた姿も十分麗しの妖魔の王に相応しいものであったが、公子本人の前では古代の大芸術家が描いた、色褪せた絵画の如し。 公子本人の姿は平らな地球で画聖と謳われた偉大なる画家ですら十全にその姿を写しえぬ事は一目瞭然であった。その姿を一瞥し、その類い稀と言う言葉では表現するにあたわない美貌をずっと崇拝の念を持ち凝視したく思ったが、その非礼さに気付くと慌てて跪いた。
 妖魔にはいくつかの身分が存在する事をシュディムは元より承知していた。妖魔の王・美しきアズュラーン、妖魔の貴族たるヴァズドルー達、そしてその下位に仕え女であるエシュヴァ…この三階級が程度の差こそあれ、見目良き者であることも。しかしシュディムは己が跪いて居る御方が闇の君であることを直感的に悟っていた、何故かはしかと分からぬが。
 畏れ多き事ながら思いの丈を公子に奏上する。
 闇の公子は、平らな地球の豊かな言葉ですら表現する言葉が無い程の、耳に心地よい声でシュディムに――威厳は有るが決して高圧的では無く、どこか面白そうな声で――こう命じた。
「では、夜伽を申し付ける。我は妖魔の王である。そちの人間にしては美しいその身体で人間の罪を償うが良い」
 己が身体で人間の罪が贖えるとは露塵ばかりも思わなかったが、それでも闇の公子――妖魔は愛欲を好む。勿論、麗しの公子の目に留まればだが。しかもそのような人間は稀である事も心得ていた――が戯れとは言え己が身を欲しているのだ。幼い頃から崇拝せずあたわざる御身からその様な思し召しが有った事は望外の悦びであった。
 闇の公子はシュディムの花のかんばせを貴人特有の長く細い爪を使って上げさせた。直視する無礼を本能的に避けた。十分な崇拝の念を持っていた故。
「では、余に付いて来るがよい。夜空を駆ける馬に乗る。余の命には逆らわぬ良馬故、ゆめゆめ怖がってはならぬ」
「御身様に侍る以上の光栄は御座いませぬ。よし、夜を駆ける御身様の馬が私を落としたとすればそれは私が御身様の御意に逆らった証と心得まする」
 公子は黒曜石の輝きを更に深くして微笑んだ。その輝きは金剛石のそれよりも眩い。
 神殿は寂としていた。あたかも他に神官が居ないかのごとく。公子が神秘たる眠りの粉を振りまいたのかもしれぬ。
 夜の闇よりも深い黒い馬の前にシュディムを易々と先に乗せた公子は、しなやかに馬に跨るとシュディムには理解出来ない言葉を馬に掛けた。馬は矢の如く空中を駆け抜けた。 かなりの速度で疾走している事はシュディムの金の絹の如き髪が物語っていたが揺れもせず、地上を駆ける馬よりも神秘に満ちていた。
 着いた場所は、シュディムの想像を絶する場所であった。月と星とが地上よりもさんざめくように照らし、寝台は黒い水仙と薔薇の花で覆い尽くされている。アズュラーンが馬ならぬ馬に一声掛けると、一瞬にして馬の気配は消え去った。シュディムは呆然として――憧憬のみを抱いていた御身からこのような情けを掛けられるとは予想だに出来ぬ事で有ったが故――辺りを見回した。麗しの君の顔を拝見する事は冒涜で有る様な気がした。二人――と呼んで良いのかシュディムは迷ったが――以外の気配は皆無の不思議な場所であった。
 いつの間にか、神官服は床ならぬ床に落とされシュディムは産まれた儘の姿となっていた。神官の常として長く伸ばしている金の髪だけがシュディムの肢体を覆うのみだった。
 美しき公子は、その姿を愛でたかの如く満足げに微笑を一閃させると優しくシュディムを寝台へと誘った。

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 なお、銅貨様のブログはこちらです~!
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こうやま みか

Author:こうやま みか
素人の完全な趣味で「ボーイズラブ」小説を書き始めました。
全然上手くないのですが、コメント頂ければとっても嬉しいです。
またヤフーブログが本館扱いで、こちらでは当面(ってイツ?)旧作を掘り起こして掲載していきたいと思います。
著作権は放棄しておりませんので、無断転載などは禁止させて頂きます。何卒ご了承くださいませ。

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