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刹愛の公子(最終回)




 このお話は、「タニス・リー」原作の「闇の公子」の二次小説です。原作をご存知ない方が多いと思われますが、ファンタジー物で、「地球が平らであった頃に美しき妖魔の王が居て、その妖魔の王にまつわる物語」です。人間を時には愛し、時には残虐な行為をし、人間を見下しながらも人間が居ないと存在出来ない妖魔の王、美しきアズュラーン。彼はかつて、人間が滅びることを看過出来ず命を懸けて戦った「憎悪」に勝利するも人間からは蛇蝎のように嫌われている(まぁ、自業自得ですが)ので、功績を認められずにいる…といったお話の続きになります。備忘録としてこちらにアップしておきます。完成の暁には一般書庫に移します。実はイラストを戴いた銅貨様のリクエストで書きました。

    

 闇が領地を拡大するにつけ、シュディムの心の臓は高まった。崇拝という言葉では表現することあたわざる闇の公子・アズュラーン様は今宵もご来臨し給うのであろうか?否、妖魔の常として他の彼に相応しい大きな遊戯を見つけられたのやもしれぬ。もし、ご来臨し給わずとも一夜の幸せな夢を見たと諦めようと心は千路に乱れるのは人間としては常の事。
 神殿の内部が針を落としても聞こえるが如く静寂に包まれた。常にはない事であったが。そしてシュディムの耳は、否、五感は麗しの君、アズュラーンの人には到底真似の出来ない幽かな、そして優雅な足取りを捉えた。
 元より錠は掛けてはおらぬ。足音ならぬ足音を聞いた刹那、シュディムは優雅に脚を折り、恭しげに跪いた。
「我が君、お待ちいたしておりました」
 込み上げて来る歓喜のさざ波がシュディムの声を震わせた。愛に満ちていた事は言うも愚か。
「余とそなただけの寝台へ赴こうぞ」
 公子の瞳は昨夜と変わらぬが、口調には優しげな気配が数滴混じっていた。
 黒薔薇と黒水仙の褥はシュディムの流した涙の雫や汗の滴り、そして公子の巧みな愛の業で溢れさせた白真珠の珠で濡れていた。特に黒薔薇の花弁には白真珠の首飾りを解いた如く無数の雫が黒い花弁を彩っていた。シュディムの薔薇を思わせる吐息が儚げに苦しげに変わる頃、公子はシュディムの横に横たわり、月の光で出来たかの如き絹糸の髪を興有りげに梳きながら妖魔の貴族たるヴァズドルーが奏でる音楽よりも遥かに美しい声で囁いた。
「余が昨夜申した事は覚えているであろう?我が愛は滅多に与えぬが、ひとたび与えなばそは確かな物となると」
「御意に御座います。ただ、私は所詮人の子に過ぎませぬ。御身様のお情けをこの身に賜ったことこそが望外の幸せに御座います」
「何を申すか?そなたは神官であろう?余が望めば不老不死の水も天上界から入手せし事も書物には書いてなかったか?」
 公子の声に意外さが混じる。これは稀有なことであった。シュディムは知らなんだが。
「それも存じております。そして私の御身様への愛が――誠に畏れ多いことでは御座いますが――生涯変わる事は御座いません。しかし、御身様への私の愛がわだつみの海よりも深いがゆえ、御身様に失望される事が死よりも恐ろしいので御座います」
「余は簡単に心変わりはせぬ。そちが望むなら不老不死の水は勿論の事、我が都ドルーヒム・ヴァナーシュタにそちが望む限りの屋敷を建てて遣わそう」
「いえ、私の願いは二つで御座います。それのみをお聞き届け下さいますか?我が愛を永遠に捧げますゆえ」
 アズュラーンは瞠目した。かつての情人達は――例外も居たが――公子の愛を欲しいままに貪るとその後は何かに目移りするのが常だった故。公子を愛してはいたが、他の物に興味を移した。かくの如き過去を過ごしてきた公子にとってシュディムの申しようは目覚しきものに思えた。妖魔の常として新しき戯れ事は珍重すべきものである。
「申してみよ」
「二晩に亘り愛の術を敬愛せざるあたわざる御身様から全て教わりました。幼少のみぎりよりお慕い申し上げて参りました唯一の御身様に。もはや思い残すことなどないと今日の昼は思い居りましたが、人の子とは愚かであり、理性もまた泣き叫ぶ幼子の如き弱きもので御座います。せめてもう一夜のみお情けを戴きたく…」
 予想だにしなかったシュディムの申し出であったが、妖魔は多くの愛の国を持つ。シュディムが悲しみと諦念を湛えた瞳を見て哀れを催した。闇の公子にしては彼の長い――恐らく永遠に続く――生涯で初めての事で有ったやも知れぬが。
「あい分かった。そちの言い分を聞いて取らす。してもう一つの望みとは?」
「私が今際の際にご来臨賜りますようにお願い致します。私がいかほど生きるかは分かりかねますが――そして世の常の人間と同じ程の命であるならば――御身様は失望なさいましょう。容貌が変わり果てておりますゆえ。しかし、この世で最期に御目もじしたく切望するは我が君のみ。そして最期の時に『私の愛は生涯変わる事無く御身様に捧げた』と言い置いて死の公子の下に参りたく存じます」
 それも一つの気の利いた趣向かも知れぬと考えたのか、また他に思うところが有ったのかは今となっては確かめる術もないが、アズュラーンは深淵の如く底の見えぬ声で応じた。
「そちの望み、しかと心得た。そちの余に対する愛が変わっておらぬことも承知いたしておる。両方とも叶えてつかわそう」
 シュディムの髪を梳る手が先刻よりも繊細かつ愛しげに変わった。公子自身も己の心の説明は付かぬ行為だったが。
 次の日、夕焼けが未練げに居残っている頃、神殿に公子が黒馬から慌しく下りた。公子が何らかの魔術を使用したのか、神殿の人影は絶えていた。何時もは夕べの晩餐の頃合いであったにも関わらず。
 シュディムは、跪いて公子を迎えた。公子は無言。だが瞳は瞋恚の炎に焼かれていない事は明白であった。他の炎なら滾っていたが。何時もの場所に飛来すると、シュディムは目を見開いた。先客が居た故。美しきアズュラーンには比ぶるべくもないが優美かつ繊細な美貌としなやかな肢体を持つ美女であった。
 物言いたげにシュディムは公子を尊敬に満ちた眼差しで見遣った。
「この者は我が従者エシュヴァである。そなたも書物で知っている筈」
 妖魔の貴族であるヴァズドルーに仕える侍女の総称であることはシュディムも知っていた。美女は夢見がちながらも感嘆の眼差しでシュディムを凝視している。公子の恋人たるシュディムの不興を恐れて上目遣いではあったが。
「この者は余が特に呼び寄せた。用は済んだであろう。疾く去るがよい」
 公子が申し付けるや否やかの美女の姿は消えた。うたかたの如く。
 その後、闇の公子とシュディムの愛の交歓は記されておらぬ。が、朝の忌忌しい刃の気配がするまで公子はシュディムを離さなかったことのみが伝わっている。
 後朝の別れの時に公子はシュディムに繊細な銀細工で出来た鈴を渡した。
「余は約束は違えぬ。今際の際にはそれを鳴らすが良い」
 シュディムのしなやかな指が鈴を受け取った。触れた手をお互いが引こうとはせぬ。朝光の刃の切っ先が出るか出ないかの瀬戸際に至ると公子が言った。闇の君に相応しい沈痛さで。
「では、今ひとたび会おうぞ」
「何時までも、そして何処におりましても御身様の事をお慕い申し上げております」
 シュディムは金剛石の如き涙を流して奏上した。
 その後、シュディムは昼と夜の祈りを一日も欠かさず神官としての務めを果たし続けた。神官の常として妻は娶らず、またその行いは誰の目から見ても神官長として完全たる璧の如し。そのシュディムが病に斃れたのは齢70の時だった。その国の国民のみならず、王族も、そしてあまたの国からも陸陸と見舞い客が溢れた。神官として完璧に勤め上げた故。
 ただ、虫の息になると、かねてからの遺言通り神官室にはなんびとも入室出来ぬ事となった。老いたシュディムは気息奄々と日が暮れるのを待った。そして枕元から宝石――それはみな黒か紫だったが――が付いた小箱を取り出した。震える手で開けると中から鈴をu恭しげに手に持った。50年も経っていながらあたかも今作られたかの如き鈴であった。妖魔の国で作られた人間には作ることあたわざる逸品である。わざわざ揺すらずとも彼の手は震えている。妙なる音が響いた瞬間、懐かしい足音が聞こえた。が。シュディムには跪く余力などどこにもなかった。己の容貌の変化を恥じてシーツを上に上げることすら今の彼には手に余る。
「約定通り参った。余への愛は誠であったと見ゆる」
 闇の公子は以前の儘の美貌であった。当然ながら妖魔は年を取らぬ。公子の声には紛れもない満足げな響きが含まれていた。公子の長い指がシュディムの顔を一撫ですると、いかなる妖魔の魔法か、かつての美貌の青年の顔と身体に戻っていた。シュディムは慌てて寝台から下り跪いた。
「御身様、私の愛は全て貴方様のもので御座いました。」
「そちの愛、確かに受け取った」
 公子の声が震えているのは気のせいであろう。
「これで人間の罪、少しは贖えましょうや?」
「そちのような人間ばかりだと人間界は詰らぬ。しかし、余は少しは人間を見直した」
 その言葉を聞くとシュディムの身体は朽木の如く倒れた。公子は足早だがしなやかに彼の身体を抱き起こした。
 臨終の顔は公子に愛された18の時のまま。唇には満足げな微笑を刻んだ最期であった。

 その後、妖魔の都、地下のドルーヒム・ヴァナーシュタではかのエシュヴァ――彼女が殊更得意とするは、凝視した人間の姿を空中に映し出すというものであった――が以前にも増して連日公子に呼び出されたという。黒薔薇の褥に横たわる月の光の髪と黒い瞳を持つ青年のしなやかな姿を映すことを命じられるために。

                          <了>
________________________

 なお、銅貨様のブログはこちらです~!
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 銅貨様、いつも有り難うございます~!





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こうやま みか

Author:こうやま みか
素人の完全な趣味で「ボーイズラブ」小説を書き始めました。
全然上手くないのですが、コメント頂ければとっても嬉しいです。
またヤフーブログが本館扱いで、こちらでは当面(ってイツ?)旧作を掘り起こして掲載していきたいと思います。
著作権は放棄しておりませんので、無断転載などは禁止させて頂きます。何卒ご了承くださいませ。

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