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「気分は、下克上。」第十四章-22




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「香川教授とはとても親しいそうじゃないか…お前が怪我した時のアイツの狼狽ぶりは皆知っていることさ」
 最愛の彼を「アイツ」呼ばわりされて、腹は立ったが…。血走った目で睨む山本センセに咄嗟に冷たい口調で言い返した。これが一番無難なのではないかと。
「中年の先生とは違って、教授と私は2歳しか違わないのです。実は学部生の時から存じ上げていたので…それで格別な親しみを持って『は』居ますが?しかし、意見の対立があることも事実ですよ?」
 睨み付けると却って逆上させることになるかと思い、冷静さを装う。が、そういえば2学年しか違わないハズなのにどうして彼とは面識が無かったのだろう?と今更ながら疑問に思えてきた。同じ心臓外科に居たハズなのに…。先輩とはいえあんなに祐樹好みの容姿を持つ彼を見逃すとは到底思えないのだが。
「ふふん?そうかな?面白い事実が出てくるかもしれないな?」
 粘着質な眼差しを向ける山本センセは、多分生涯で初めての挫折を味わい心の底から憤激の情が湧き立っているのだろう。
 興信所…その文字が祐樹の頭の中でパトカーのサイレンのように赤色を帯びて回転している。山本センセは齋藤医学部長からは通告を出されている身だ。それならもう病院関係の人間を使うことは出来ないだろう。だとすれば?
 黒木准教授の部屋を出た瞬間に山本センセは興信所に連絡して人数を増やすかもしれないな…と思った。杉田弁護士を通じて――場合によっては直接お願いに行って――ヤの付く特殊な職業だけをクライアントに持つ弁護士先生から興信所に手を回して貰うしか防止策はないだろう。
 祐樹自身の特殊な性癖がバレても別に困らない。準公務員の祐樹をその件だけで退職させることは無理だ。ただ上司である彼とそういう関係にあるのは事実を突き止められたら今度は矢面に立つのは彼だった。彼から仕掛けた同性の「パワー・ハラスメント」疑惑くらいは大学中に広まる可能性も有る。ウワサは誰かがリークすれば悪性の癌のように大学病院中に増殖していくことを祐樹は知っている。それに彼はこの世界では有名人だ。週刊誌にでも載ってしまう事態になれば…と思う。同性との恋愛という裏の世界では喜ばれそうな話の上に、大学教授と研修医との恋愛沙汰だ。絶好のネタにされるだろう。それだけは避けなければならないと固く決意する。
 黒木准教授は祐樹に心配そうな表情を見せる。当然、黒木准教授は祐樹と山本センセのやり取りを録音した携帯電話を聞いているので。
「山本君、こちらへ来たまえ。田中先生は…」
 山本センセは悪戯が見つかって不貞腐れている小学生のような顔つきで黒木准教授の方へ歩み寄る。最後にひときわ粘つく眼光を祐樹に向けた。
「私はそろそろ失礼致します」
「そうか…ご苦労様」
 黒木准教授は険しい瞳で山本センセを見ていた。
 准教授室を出る。杉田弁護士に電話をしなければと携帯を取り出した。祐樹が持っているのは彼の携帯だと、今更ながらに気付く。齋藤医学部長室でのやり取りでかなり頭が混乱しているようだった。平常心を失ってしまうとはこういうことなのだ…としみじみ思う。
 こんな初歩的なことを失念するなんて祐樹の生涯では初めてだった。
 直ぐに返しに行かなくてはと理性は告げるが、渦巻く感情のままに盗聴器が仕掛けられている可能性の高い教授室に行くのも危険だ。杉田弁護士への通話くらい彼の電話を使っても咎められないだろうと思う。
 彼は余り携帯の番号を人に教えては居ないらしい。それは知っていたが彼からは連絡が取れるようにメモリは入っているはずだと携帯を何気なくいじった。
 案の定、「ス」の欄には杉田弁護士の携帯と事務所の固定電話の電話番号が入力されていた。「スギタ」とだけ書かれた素っ気のないディスプレイにふと違和感が過ぎった。祐樹の番号は着信名が「DEAR」と暗号めいていたのに、他は苗字だけなのだろうかと。
 いけないと思いながらも手は勝手に動く。「ア」から順番に見てしまう。驚くほど登録されている人数が少なかったが、彼の記憶力だ。もしかしたら電話番号くらい頭の中にインプットされているのかもしれなかったが。
 彼の携帯のメモリはやはり全てが苗字だけの登録で、「S」だけ外国人らしき名前の単語が有ったのみだ。祐樹の番号だけが浮いている。
 これは一体…?と混沌の渦の中に新たなる一滴が垂らされる。が、祐樹だけが特別扱いを受けているような暖かい感触の水滴だった。
 とにかく、杉田弁護士に連絡を取ろう。そう思って病院から離れる。祐樹だけのお気に入りの喫煙場所の一つに人目を忍んで行った。自分に付けられているかも知れない盗聴器のことが気になったが、ライターを見つけ出してから着衣はそのままだ。怪しげなことは何も起ってはいない。大丈夫だろうと判断した。杉田弁護士には随分と助けて貰ったお礼も未だ言っていないなと思いながら。
 彼の事務所に電話を掛けると運良く事務所に居てくれた。
『どうだったかね?上手く先生たちの処分は決定したかね?あ、そちらは危ないので最低限の話だけで構わない』
 流石は――祐樹の世界も違った意味で魑魅魍魎が棲んではいるが――海千山千の修羅場を越えて来た人だ。こちらの状況もキチンと把握して話してくれている。
「はい。その件ではお世話になりました。こちらの方は解決しそうなのですが、この前の私の方の一件で…」
『それは、まずオメデトウ。ああ、興信所か。さては逆上されたとか?』
「そうです」
 冷静な杉田弁護士と話していると祐樹もすっかり頭に血が上った状態からは脱することが出来そうな気がした。あくまで一時的だろうが。
『ただ、あの業界はスジをきっちり通すのだ。几帳面さという点では銀行と同じだな。いや、命が掛かっている分、アチラの業界の方がもっと真面目で融通が利かないかもしれない。何とかして急かしてみるようにはするが…あまり期待はしないで欲しい』
「どうか宜しくお願いします。こちらも何分切羽詰っていますので」
 いつもと違う雰囲気を感じたのか、杉田弁護士は少し黙り込んだ。
『何か有ったのだな?いや、答えなくていいから。分かった何とかするように努力はしてみよう。そちらも気を付けて』
 諭すような口調に、幾分心が落ち着いた。
「有り難うございます。何卒宜しくお願いします。こちらもあと一歩ですので…」
 自然に頭が下がった。敵もいるが味方をしてくれる人の存在がこんなに有り難く思えたことはなかったので。
 彼に携帯電話を返しに行こう。そう決然と思った。吸いかけの煙草を靴先で消した。吸殻は灰皿めいた缶に入れて顎を上げて歩く。
 愛しい彼の顔を見るのが嬉しいような、反面怖いような不思議な気持ちで胸がざわめく。
 教授室のフロアはいつも通り静まり返っていた。ドアをノックし名前を告げた。
 幾分硬い声で入室の許可が下りた。一息、息を吸って入室する。動悸が高まっていることを自覚した。絶対に顔も強張っているな…と自覚しながらもどうすることも出来ない。
 彼の顔もいつもよりもよりいっそう白く冴え冴えとしていた。蒼褪めて見えるのは疲労のせいだろうか?秘書は帰宅時間を過ぎている。2人だけの空間が張り詰めた空気で満たされる。
 祐樹も扉のところで足が凍り付いたように立ちすくんでしまった。言うべき言葉を懸命に探すが、脳は虚しく空回りを続けるだけだった。

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こうやま みか

Author:こうやま みか
素人の完全な趣味で「ボーイズラブ」小説を書き始めました。
全然上手くないのですが、コメント頂ければとっても嬉しいです。
またヤフーブログが本館扱いで、こちらでは当面(ってイツ?)旧作を掘り起こして掲載していきたいと思います。
著作権は放棄しておりませんので、無断転載などは禁止させて頂きます。何卒ご了承くださいませ。

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