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「気分は、下克上。」第十五章-5



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 祐樹の驚愕の顔を見て、彼は医局に駆けつけて来た時と同じ硬い表情に戻った。
「祐樹がこれ以上私のことを知って嫌になると…困るから…これ以上は語るのは控えることに…する」
 オレンジ色の照明に灯された彼の瞳が寒色の光を宿す。確かに驚いたが、今は彼のことをもっと知りたかった。
「貴方ほどの綺麗な人がどうしてそんなに自信がないのか理解に苦しむのですが…もっと自分を誇れば良いと思います」
 強いて話題を変えた。祐樹が彼を拒んでいない様子なのを見て取ったのか彼は苦しげに微笑んだ。その表情も魅力的だったが。
「綺麗…か…。祐樹がそう言ってくれるのは嬉しいが…。それは数値的根拠があるの…か?客観的に証明出来るの…か?」
 祐樹も自分が情緒的な人間ではないと思っていたが、どうやら彼はいつぞや杉田弁護士が言ったように徹底的に客観的評価のみを受け入れる人間らしい。流石は年の功で…杉田弁護士の言葉は至言だった。
 床に膝をついていた足を上げて中腰になり彼の黒い前髪を梳く。
「客観的…には証明出来ないですが…私は貴方のことをとても綺麗だと思います…よ?それに何より貴方のことが全て知りたいです。相手を良く知りたいと思ったのは貴方が初めてです」
 前髪は整髪料のせいで梳いても暫くは立ったままで、時間をおいてサラリと元に戻る。その様子が妙にエロティックな眺めだった。彼も徐々にリラックスした満足げな表情に戻る。
 彼のアメリカ行きがよもや自分と密接に関係していたとは想定外もいいところだ。祐樹が彼と同じ性癖を持つ人間だと知ったなら…ゲイ・バー「グレイス」で声を掛けてくれたら良かったのに…とも思うが、彼の経験値の浅さからすると本当に口説いたことはないし、そもそも口説くという発想自体が無いのかもしれない。彼は前髪への愛撫で心地よさげにしているのが、口を開く気配はないことに妙に苛立つ。この苛立ちが独占欲というものかと漠然と思った。こちらから誘導しないと彼は喋ってはくれない気がした。
「以前、関係した男性は三人だと仰いましたよね?しかし、それは私の過去を聞いて咄嗟に話を合わせて下さったのでは?私が察するところ…そういう経験は多分一人…しかもそんなに長くは続けなかった?」
 幾分切り口上で質問してしまった。「高嶺の花」発言は祐樹には自覚がなかったが、彼の境遇からすると…そして、日本へと凱旋帰国をしてからの彼の言動を考え合わせると何となく納得した。誰とも群れない――それは若くして掴んだ地位が絡むのかも知れなかったが、それならそれで自分の派閥を作りそうなものなのに…彼は切羽詰ると祐樹の元にやって来ただけで。腹心として充分役に立ちそうな黒木准教授とも微妙な距離感を持って接しているのは漠然と感じていた――彼は、誰にも相談する相手が居なかったのかも知れないな…と思う。比較的誰とでも喋る祐樹とは性格の違いがあるのだろうか。
 彼は目を瞬かせてゆっくりと形の良い唇を開いた。
「良く分かった…な。実はその通りだ。
 祐樹が男女共に人気があるのは分かっていたし、過去に何人も付き合う相手が居たのは納得していたし…祐樹の魅力ならそれが当然だと思っていた。ただ、飛行機の中で暇つぶしに読んだ小説の一節に『初めての相手は万事重苦しい。遊び慣れた相手の方が付き合っていて楽しい』と書いてあったのを思い出して…祐樹はその小説のセリフを言った人――それは男女間の小説だったが――と同じように思うのではないかと精一杯背伸びをしてみた。けれど、やはり見抜かれた…か。まぁ、私の経験の乏しさからすれば仕方の無いことだとは思うが…」
 彼は特別苦い薬を飲んだ直後の顔をしている。前髪を撫でる手は休めずに彼に言う。祐樹が感じた違和感や、祐樹を思いやって彼が切ない演技をしていたことが分かって手と心は震えていたが。
「では、逆にお伺いしますが、私の魅力に客観的なデータはありますか?先ほどから褒めて下さっていますが…数値化出来るものですか?」
 彼は、多分学生の時に教授に指名されてもこれほど狼狽しないだろうと思わせる表情を浮かべた。
「…それは…そうだな…。しかし、祐樹は沢山の人と付き合って来た。私は告白されたことは皆無だ。それはデータにならないか?」
「私だって告白されたことなど有りません…よ?仄めかされただけです。『ホテルに行かないか?』などと。それでツイツイ関係が深まっていっただけで…そんな相手の誰一人として私は職業も勤務先も適当に誤魔化して付き合っていました。そういう関係だと、確かに遊び慣れた人間の方がイイことは確かです。けれども、貴方の場合は私にだってリスクは大きいんです。何しろ職場では雲の上の人です。そんな人に手を出して怒らせてしまっては僻地に飛ばすことぐらい簡単ですよね。最初は――今思えば嫉妬の余り酷く抱いてしまったことをお詫びします。
 しかし、仄めかされたこと、貴方にも有るハズだと踏んでいますが?」
 彼は珍しく言葉に詰った。どうやら図星らしい。ここぞとばかりに畳み掛けた。ゆっくりと彼の髪の毛を梳きながら。
「ホテルには誘われなかったが…向こうのそういうクラブで自宅に誘われたことは有る。 私は日本に帰る気は無かったので――というか、祐樹があの綺麗な人と付き合っているのを見るのに耐えられなかった――それで、一回だけ…祐樹と雰囲気がどことなく似ている人とそういう関係に…なったことは…。所詮、祐樹は手の届かない太陽のような人だと思っていたから。でも、一度そういう関係になった人も祐樹ではないと心の底から思い知らされただけだったので…それきり…だ」
 彼の耳に心地よい声が幽かに震えている。祐樹を見詰める彼の瞳が不安定に揺れている。
 安心させたくて彼のしなやかな手に祐樹の左手を重ねた。軽く叩く感じで愛しさを伝えた。
「そういう綺麗な貴方だからこそ惹かれたのです。強くて脆い…。それに申し上げましたよね?私が自分から告白したのは貴方だけです。それに貴方を知ってから自分は徒らにラブ・アフェアを楽しんでいただけで…本当の愛を知らなかったと痛感しました…よ。貴方だけです。こんなに心配して行動したのは…。以前の私ならたとえ関係が有った人間だとしても厄介ごとが起ったら、自然消滅を目論んでいました」
 強く言い切った祐樹を彼は涙の膜を張った瞳で見詰めた。
「祐樹の別れ方は自然消滅だと以前、聞いたことがあった。この数日間、明らかに祐樹の様子がおかしかった。だから私の関係――と言っても身体だけの関係だが――自然消滅を…と考えているのではないかと…そう思って居ても立ってもいられなかった。今日もそうだ。このホテルで待ちながら、来ない理由が医局絡みのゴタゴタではなくて…関係を絶とうとしている意思表明ではないかと…何度も電話を掛けていたら『電源が入っていないか…』というアナウンスに切り替わった。それで矢も盾も堪らずに病院へ戻った。私は一度、祐樹から逃げ出した人間だ。でも、今回は…どうしても結果をこの目で…そして耳で確かめたかった…」
 吐息交じりの切ない口調に祐樹は彼の不安が自分の想像以上に深かったことを思い知らされた。
「それで…大学病院を辞めて東京に行こうとなさったのですか?」
「ああ、斉藤医学部長の部屋での会話…か?」
 次の言葉を聞いて、祐樹は彼の決断に今夜何回目かももう分からないほどの衝撃を受けた。瞠目し、口の中が乾いているのを自覚した。彼の想いの深さと、それを思い切る決断力の潔さに。

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こうやま みか

Author:こうやま みか
素人の完全な趣味で「ボーイズラブ」小説を書き始めました。
全然上手くないのですが、コメント頂ければとっても嬉しいです。
またヤフーブログが本館扱いで、こちらでは当面(ってイツ?)旧作を掘り起こして掲載していきたいと思います。
著作権は放棄しておりませんので、無断転載などは禁止させて頂きます。何卒ご了承くださいませ。

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