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「気分は、下克上。」第十五章-16



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 彼の長い指が気だるげに目蓋を擦っている。睡魔にと必死に戦っている子供のような動作だった。が、子供と違う点は、指の一本一本の動きが以前よりさらに瑞々しく、かつ妖艶な色香を滴らせている。彼としては多分無意識の動作なのだろうが。
「バスタブに湯を張って来ます…ね。貴方も疲れたでしょう?心身ともに…」
「ああ、そうだな…祐樹だって疲れた顔をしているが、大丈夫か?」
 潤んだ瞳が落ち着きなく瞬く動作と心配そうな口調が祐樹のことを心の底から案じてくれているのが分かる。
「ええ、大丈夫です」
 反射的に答えてしまったが。今夜のジェットコースターに乗ったのと同じ位の感情の乱高下と、その後救急救命室での勤務は確かに疲れた。大腿骨複雑骨折の整復は祐樹に取っては時間との戦いの中で最高の手技をした。あれ程焦ったのに処置は祐樹としては今までの中で一番満足出来る出来ばえで…それはそれで満足していたのだが…。ただ、眠いことは眠い。普段よりも足の運びが遅くなっているのは自覚していた。
 バスタブに湯を張る準備をし、オレンジ色のバス・ソルトを入れた。10分程度で身体が浸せる程度になることは習慣で分かる。彼の横たわっているベッドに倒れこみ、シーツの上から彼を抱き締めた。
「10分経ったら起こしてくださ…い」
 彼の薄紅色の耳たぶに囁きを送り込むと、祐樹はつかの間の眠りに身を委ねた。彼のしなやかな指の動きが祐樹の髪を梳いているのを感じながら。
 ふと目を覚ます。職業柄覚醒は素早いほうだ。が、抱き締めていたハズの肢体のしんなりとした肌触りなのに熱を底に秘めた最愛の彼の気配がない。
 慌てて上半身を起こして部屋の中を見回す。と、彼は茶色のライティングデスクに几帳面に座ったまま、机に膝枕を付いて片手で頬を支えて居眠りをしているようだった。彼がホテル備え付けのパジャマに着替えていることにも気付く。髪の毛も濡れている。そこまで見て腕時計を確認した。
「げ…」
 10分どころか、1時間も経過している。疲れていたとはいえ、彼も祐樹も同じような疲労度だろう。それなのに…。
 大急ぎでベッドを下りた。その音に反応したのか、彼の顔が祐樹に向けられた。
「起きたの…か?あまり良く眠っているようだったので起こさなかった」
 今夜の嬌声――といっても密やかなものだったが――のせいなのか、居眠りのせいなのか幾分掠れた声で静かに言う彼の口調は夜のしめやかで静謐な雰囲気だった。
「済みません。せっかく一緒にシャワーを浴びて、浴槽で温まりたかったのに…寝過ごしてしまいました。もう入浴なさったんですね?」
 いくぶん照れくさそうに頷く彼の仕草も朝露を宿した満開のコスモスが風に吹かれて雫を落としているかのような清潔な色香を宿している。
「祐樹が随分気持ち良さそうに寝ていたので、もしかしたら朝まで起きないかもしれないと…いや、それは全く構わないのだが――色々有って疲れているのだから――ただ…」
 オレンジ色の照明に照らされた彼の顔に羞恥の風情が混ざる。語尾も消え入るようだった。
 次の言葉は容易に予測出来たが。敢えて彼に口に出して欲しいと思った。祐樹の墜落睡眠を許してくれた彼には悪いが。
「ただ、何ですか?」
 彼の頬が薄い薔薇色に染まるのを、感嘆して眺めていた。意を決したように彼は続けた。
「祐樹が朝まで起きなかったら……私の身体にくれた祐樹の白濁を洗い流せないので…落ち着かないし……最悪出勤時間間際にしか祐樹が起きなかったら…そのまま職場に行くのは憚られる…そう思って……自分で流そうと……10分過ぎて祐樹を起こしたら…さらに抱き締められたので…これは、完全に眠っているな…と」
 寝起きのせいであまり回転が良くない祐樹の頭脳だったが…。彼が祐樹自身で愛した場所を自分で処置したのは多分、最初に逆上して彼を抱いた時以来ではないだろうか?
 今夜、晴れて恋人同士になった記念すべき日なのに彼にそんなことをさせて申し訳ない気持ちになった。
 ただ薄い薔薇色に染まった頬に長い睫毛の影がとても綺麗だった。
「無理やりに起こして下されば、貴方のソコを存分に綺麗に出来たのに残念です…それに、一人で掻きだすのは勇気が必要でしたでしょ?申し訳ないことをしました。素朴な疑問なのですが…どうして隣のベッドで寝なかったのですか?」
 ツインの部屋なので、抱き合っていたベッド――祐樹が寝ていたのはそちらだったが――以外にもう一つベッドが備え付けられている。彼も疲れているので、出来れば綺麗なベッドでゆっくり眠って欲しかったのだが。
「私も今日は色々と疲れたのでベッドに入ってしまえば、多分朝まで熟睡してしまうだろう…せっかく祐樹とこのホテルに居るのだから…祐樹の体温と香りに包まれて眠りたいと思って…祐樹が目覚めたら分かるように…仮眠を取ろうと思って…」
 話の途中で両手の長い指を交差させるように動かしている。その指は露が滴っている錯覚を覚えるほど色気のある動きをしている。
「これからも、共に夜を過ごすのですから…眠れる時は遠慮せずに眠って下さい」
 彼は瞬きをしてからおもむろに口を開く。
「しかし、今夜は『恋人として』の夜を過ごした初めての夜なので、祐樹が嫌でなければ…一緒のベッドで朝を迎えたいと」
 その健気な言葉にますます彼への恋情が鋭角を増して滑り落ちていく。
「もちろん、嫌ではありませんよ。明日の手術も有りますので、貴方はそちらのベッドで寝て下さい。シャワーを浴びて来ます」
「ああ、待っている」
 その言葉を背に浴室へ向かう。バスタブの湯もそんなに冷めてなかったが。彼は多分、自分一人でベッドには入らないだろうな…と思ったのでシャワーで全身を洗うと、申し訳程度にバスタブに浸かり5分で浴室を出た。身体に水滴は付いていたが。水分を吸収してくれるのはバスローブだろうと、彼が着ていたパジャマではなくバスローブを羽織っている。
 案の定、彼は椅子に座ったまま頭をコクリコクリと揺らしていた。
「私を待っていて下さるのはとても嬉しいですが…ちゃんとベッドで寝て下さい」
 彼の尖った肩を掴んでそう囁いた。その瞬間、祐樹の胃が空腹のサインを鳴らす。今まで忘れていたが、夕食を食べ損なっていることに気付く。
 彼もその音を捕捉したらしい。
「そういえば…私も夕食は食べていない…」
 もう深夜なのでクラブ・フロアは営業時間を過ぎている。部屋に食べ物は?と見回した。この宿泊階はウエルカム・フルーツが用意されている。季節ごとに違うといった趣向だ。
 今回は季節に相応しく山梨県産の白桃だった。手で剥くほどには熟してはいないが、手回し良く白桃が二つ載っているリチャード・ジ○リの皿の横に布のナプキンで包まれたナイフとフォークが置いてある。
「桃…召し上がりますか?確か好き嫌いはなかったですよね?」
「食べる。好き嫌いがないということを覚えていてくれたのだな?」
 唇に仄かな微笑を浮かべた彼はとても嬉しそうだった。桃のせいだか、「好き嫌いがない」と祐樹が覚えていたせいだかは分からなかったが。
 返事を聞いてから薄い皮を剥く。種を取って八分割した桃の皿にフォークを添えて出すと彼は嬉しそうに受け取った。祐樹の分を剥いていると、彼はフォークで桃を突き刺して口に運んでいた。
「桃の糖分を含んだ水気たっぷりの果実が舌で溶けるようでとても美味しい」
「それは良かったです。でも、今夜の貴方の魅力的な身体は私にとって桃なんかよりもずっと魅力的でした。この桃よりも清冽で清純な色香を纏っている貴方にとても惹かれます」
 手を止めて真剣に言い募る。彼は言葉に出して言わないと分かって貰えないことを痛感していたので。
「…そう…か?私はそうは思えないのだが…祐樹がそう言ってくれるのはとても嬉しい」
 彼の澄んだ眼差しが桃の芳香を放っているような錯覚に陥る。
 桃を食べ終わって、まだ使っていないベッドに2人して横たわった。彼もよほど疲れていたのか、祐樹のバスローブの合わせ目が開いた胸に額を当てて直ぐに眠りの国に入ったようだ。
 クラブ・フロアからのモーニングコールだった。祐樹が応対していると彼も目覚めた。昨夜の桃の清楚かつ色香のある微笑を向けてくれる。
「昨夜の記念に…というわけではないのですが…、ワイシャツ…クリーニングに出し忘れてました、迂闊にも。貴方のワイシャツと私のワイシャツを交換して着ませんか?そうすれば、一日中、愛する貴方の香りに包まれて仕事が出来るので幸せです」
「私も祐樹の匂いに抱きすくめられている気分がするだろうな…」
 彼は澄んだ微笑を浮かべた。昨夜の桃よりも遥かに色香が匂う微笑だった。


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こうやま みか

Author:こうやま みか
素人の完全な趣味で「ボーイズラブ」小説を書き始めました。
全然上手くないのですが、コメント頂ければとっても嬉しいです。
またヤフーブログが本館扱いで、こちらでは当面(ってイツ?)旧作を掘り起こして掲載していきたいと思います。
著作権は放棄しておりませんので、無断転載などは禁止させて頂きます。何卒ご了承くださいませ。

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