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「気分は~」駆け落ち編-1



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 病院内の銀杏の葉が色づく季節だった。枯れ葉は人恋しい気分を祐樹にさえ喚起させるが、現在は幸福さを感じる。最愛の彼の存在によって。明日は少し早い鍋にでもしようかと思う。同居を始めてから祐樹の料理の腕前も上がった。
 祐樹は教授室に秘書経由で呼ばれた。同棲している間柄となった現在ではマンションでは同性とはいえ恋人同士の関係で、職場ではあくまで上司と下っ端の部下という態度は崩さない。秘書を使って呼び出したというのは何か祐樹に仕事上での指示があるに違いない。
 今夜は二人で杉田弁護士と阿部士長の結婚内祝いを持って杉田弁護士の事務所に行こうと約束していたが。
 名前を告げドアをノックすると、涼やかで穏やかな彼の声がした。小春日和の笑顔を浮かべている彼に束の間見惚れる。
「電話でも良かったのだが…北教授の正式要請で夜の7時まで救急救命室に行ってくれないか?」
 応接ソファーに向こう側に座った彼は幾分形の良い眉を顰めて行った。どうやら彼も今夜の約束を気にしているらしい。本当に電話一本で済む用件だ。ただ、彼に会える機会は逃したくない祐樹にとっては大歓迎だが。彼の穏やかに澄んだ笑顔も同じ満足げな雰囲気をまとっている。目と目が合い微笑した。穏やかで親密な空気が漂う。ずっとこうして向き合っているだけで良いとすら思われる。
「了承致しました。7時までという約束なのですね?」
 秘書の耳を気にして目で問うと、彼の瞳も意味ありげな光を宿す。
「そのように計らった。それ以降は…」
「分かりました。以前の話のままということですね。では、所在を明らかにしておきます」
 通常業務をこなして救急救命室に駆け込んだ。珍しく麻酔医科の友永先生が居る。よほど人員が足りないのだろう。
 ただ、この時間に救急車で運ばれて来た患者さんはなく、阿部士長の目を盗んで内緒話をする。
「先生も助っ人ですか?」
「そうだ。ウチの科で一番暇な俺に回って来た。それはそうと今朝の手術以来だな…田中先生の手技の上達具合は素晴らしい。執刀医として指名される日も近いのではないかと内心では思うのだが…」
 まんざらお世辞でもない口調だった。が、祐樹は最愛の彼とでは手技のレベルが違うことは自覚している。早く彼に追いつきたいのだが。
 麻酔科――それは、想像を絶する過酷さだ。祐樹達の職場では「労働者の権利」よりも「医師としての義務」が優先されるのが当たり前なのだが、特に麻酔科は過酷だ。
24時間休みなしに勤務して、その後も通常の手術スタッフとして加わる。友永先生は黒木准教授とも友達で、各科の事情や病院内外の情報通だと聞いたことがある。実家も確か先祖代々京都だと聞いた記憶がある。
「ここの麻酔…新薬じゃないか?これは日本での臨床例が少ないだろう?」
 専門医だけあって自分が使う薬品は抜かりなくチェックしていた。
「仕方ないじゃない…それが一番安いんだもの。鈴木さんが値段と効き目をキチンと調べてそれに決めたのよ。ウチは貧乏なんですからね」
 阿倍士長が会話を耳聡く聞きつけて、二人を睨みつけた。
「すみません…」
 流石に鬼の阿部士長には逆らえない。それに祐樹はいつぞや彼が極秘で病院を脱出した時の彼のまるで学生のような初々しさと仄かに香る枝垂れ桜のような色香を余すところなく写っている画像を数点譲って貰った過去もある。ちなみにその画像は祐樹の携帯とパソコンにこっそりと仕舞われているが。
「要請です。交通事故。意識不明。左腕骨折」
「もちろん、受けて」
 部下のナースに指示を飛ばす安部士長は「お願いね」と祐樹と友永先生に一声かけて患者さんを迎えるために救急車専用駐車場へ走っていった。
「頭を打っているので念のため全身麻酔にしましょうか?」
「ああ、そうだな。もしかしたら頭も空けるかも知れない。それにこの薬は全麻(全身麻酔)の臨床報告数が圧倒的に多い。下手に局部麻酔をするより安全だ、俺の腕だと」
 ストレッチャーが慌ただしく運ばれてくる。ちらりと部屋の扉の向こうに患者さんより青ざめた男性が見える。
「あの男性は、付き添いですよね?名前と血液型。既往症やアレルギーの有無を聞いて下さい」
 慌ただしくポータブルCT画像とレントゲンを撮りながら祐樹はナースに指示をする。「このCTでは頭部の出血までは確認出来ません。やはり骨折整復中に容態の変化があるかも…」
 幸い左手の骨折も複雑骨折ではなかった。整復中に容態が変化してもすぐに脳に集中出来るだろう。
 ナースが持って来た患者さんの血液型と既往症などを書いた簡易カルテを見た友永先生が顔色を変えた。
「この人はもしや…」
 麻酔をかけ終わると、「確かめて来る」と言い残し救急救命室を慌ただしく出て行くのを気配で感じていた。
 整復中脳波も計測機器も数分毎にしていたが、表示がレッドに変わることはなかった。ということはこの患者さんは骨折だけだ。安心して整復を終えた。
「この患者さんは病院長権限の特診室に速やかに上げるようにと斎藤医学部長のお達しだ」
 祐樹の気づかぬ内に戻って来た友永先生が緊張した表情で言う。
「そんなVIPなんですか?」
 院長権限の特診ベッドが有るらしいとはウワサで聞いていたが本当にあるらしい。
「ああ、詳しいことは病院長から聞け。誰が処置しているかを聞かれたので田中先生だと答えると、処置が終わったら直ちに部屋に来てほしいとのことだ」
 この病院の最高権力者に会うのは気が進まない。が、これも業務だ。仕方がないだろう。
「この全麻が切れるのはちなみに何時間後ですか?」
「臨床例が主にアメリカ人を対象にしているので、確かなことは言えないが…90分から120分の間だろう、この患者さんの体型からすると」
「分かりました。では病院長に会って来ます」
 他に緊急を要する怪我はないことは確かめてあった。阿部士長が居れば大丈夫だろう。
 以前一回だけこの部屋に来た時とは打って変って満面の笑みを浮かべた斎藤医学部長兼病院長に迎えられる。
「いやあ、田中君か、いつぞや以来だね。評判は聞いているよ。メキメキと手技の腕を上げてきているそうだね」
 そのお世辞も怖い。許可をもらって応接セットに座った。最近は吸わなくなった煙草を吸いたいと切実に思う。何だか無理難題を押し付けられそうで。
「いえ、ひとえに香川教授のご薫陶の賜です」
「君が患者さんの処置に当たってくれたのは僥倖だった。君は口が堅い。病院長権限で、あの患者さんの主治医を申しつける。これは先方の希望でもある。香川教授にも通達済みだ。ただし、この件は香川教授以外には口外無用ということにしてくれたまえ」
 どうやら大変なVIPらしい。
「どんな方なのですか?まだお若いようですが?」
「話すからには絶対口外しないと確約してくれたまえ」
「分かりました。香川教授には話しても宜しいのでしょうか?」
「それは構わない」
 斎藤病院長の話を聞いていると、その患者さんがとてつもないVIPだと分かった。時計を見れば麻酔から覚めてもおかしくない時間だった。失礼があってはいけないと、医学部長室を辞してから最愛の彼に電話をかけた。祐樹がここから急ぐよりも彼の方が特診室に近い。
「分かった。そんな部屋があるとは知らなかったが、直ぐに向かう」
 祐樹が病室に近づいた時、最愛の彼はノックをしようとしている姿勢のまま凍りついたように動作を止めている。何やらただならぬ雰囲気だ。そっと彼の細い肩を叩くと弾かれたように祐樹を見た。その表情は、どんな困難な手術でも彼が浮かべないような不思議なニュアンスが浮かんでいて。真っ青な顔に目蓋が紅色のコントラストが綺麗だった。
 祐樹は彼を病室から遠ざけるように肩を支えて歩いた。彼の足がぎくしゃくと震えている。彼がこれほど我を失うのを見るのは初めてだ。しかも表情はぞっとするほど色っぽいというシュチュエーションは。
「どうしました?」
 彼の薄紅色の唇が乾いたのか舌で湿らせている様子もとてもそそられる。白く長い指先で病室のドアを指さすのが精いっぱいのあり様のようだ。病室のドアに耳を近づけた。彼の様子から患者さんの容態急変ではないのは明らかだったので。

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この話は「瞬殺、eveyday・・・」様とのコラボ作品です。ナゼ、教授が固まったのか詳しく知りたい方は直ちに 「気分は 駆け落ち編2(R-18)へ行って下さいませ~♪
 




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こうやま みか

Author:こうやま みか
素人の完全な趣味で「ボーイズラブ」小説を書き始めました。
全然上手くないのですが、コメント頂ければとっても嬉しいです。
またヤフーブログが本館扱いで、こちらでは当面(ってイツ?)旧作を掘り起こして掲載していきたいと思います。
著作権は放棄しておりませんので、無断転載などは禁止させて頂きます。何卒ご了承くださいませ。

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