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「気分は~」駆け落ち編-6(通算4)



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「何だか疲れましたね」
 祐樹にとっては患者さん――宝城君や付き添いの藤島さんのことではない。その前の病院長との会話が原因だったのだが。ただ、祐樹の想像を遙かに絶する、二つ年上の恋人の初心さに驚いたことも事実だ。
 狸院長と渡り合って疲れている自分よりも、心ならずも他人との濡れ場を目撃してしまい、目蓋に朱を散らしている隣を歩く彼の方が消耗度は高いだろう。
「祐樹でも…疲れるのか?」
 心の底から不思議そうな声を漏らす最愛の恋人に、辺りに誰も居ないのを確かめてから言った。
「別段、他人様の性生活を覗き見したって疲れませんよ。誰かさんと違って…その前の病院長との会話と、専門とは全く関係のない患者さんの主治医兼使い走りにされたことが疲れたのです。病室の前で固まっていた貴方はとても眼福でしたけど」
 あんな光景は祐樹の生涯でももう二度と見られないに違いない。あの冷静沈着な教授のフリーズした姿など。
「杉田弁護士の事務所に行く前に教授室でコーヒーでも飲まないか?」
「煙草を吸わせて下さるなら…」
 そんな条件を出したが、彼が祐樹の喫煙を咎めたことはない。というより、何も我儘を言ってくれたことがないのが目下の祐樹の密かで贅沢な悩みだ。
「ああ、またネスカフェ・ゴールド100回掻きまわしをして頭をすっきりさせる」
 多分、脳裏に浮かんだ(彼にとっては)忌まわしい情景を振り払うかのように頭を振った。ムースで固めた前髪が一筋落ちて白い額にかかっているのも艶めかしい眺めだった。目の縁が先ほどの情景を見てしまったせいで紅く染まっているのも白衣によく映えている。
 彼の執務室へ行き、コーヒーを炒れてくれるのは彼の役目だった。祐樹は引き出しの奥から灰皿を取り出し応接セットで煙草を吸っている。知らない人が見たらどちらが上司なのか面食らうだろう。二人とも全く気にしていないが。
 本物の豆から淹れたコーヒーの香りがする彼特製のブラック・コーヒーを受け取る。秘書は終業時間が過ぎている。
「宝城真樹君だったな…。宝城家と言えばこちらでは有名な名家だが…確か女系家族としても有名だったような」
「ご存知だったのですか?」
「いや、こんなこの街には色々な名家があるとかいう他愛のない噂話を同級生がしていた記憶があるだけだ。真樹君…は花のように綺麗だったな…」
 その言葉で危うく噎せ返りそうになる。煙草の灰も床に落としてしまった。
「ああ、床に灰を落とさないのが決まりだった筈なのに」
 小さい声で言いながら彼は静かなごく自然な動作で秘書エリアから雑巾を持って来て床を拭いた。彼は散らかったものが有ると勝手に手が動く性分なのは一緒に暮らしていて良く分かっている。
「綺麗ですかねぇ…?少なくとも私の好みではありませんが…」
「祐樹の好み…とても興味があるな…どんな人が好みなのだ?」
 このいくら言ってもさっぱり分かっていない人にどういう方法で分からせようか一瞬殺意すら覚える。あんなにも睦言を交わした仲だというのに彼の気持ちの奥底まで入って行けないのかと思うともどかしさが募る。彼の気持ちは分かっている積りだが。祐樹に溢れるほどの愛情を注いでくれていることも知ってはいる。殺し文句も無自覚に吐くくせに時折とんでもない発言もする。
「私の好み…ですか?簡単ですよ。ちょっとそこを立って、右に行って下さい。そして、右手の扉を開けて…」
 彼は怪訝そうに祐樹の指示に従う。右手の扉はクローゼットだ。教授室でスーツや礼服に着替えることも想定されているせいか本格的な造りになっている。
「開けたが?」
 そんなことは言われなくても分かる距離だ。
「で、何が見えます?」
「鏡…だが?」
 真剣に言っている様子が却って笑える。関東に人間は関西人を一括りにして考えてくれるが、この街の人間はそんなに冗談が好きでもないし、ボケも突っ込みもしない。ただ、笑うだけだ。ひとしきり笑っていると彼は途方に暮れた顔を鏡越しに向けた。
「祐樹がどうして笑っているのか分らない…の…だが?」
「そこに映っている人が私の完璧な好みの人です…よ」
 そういえば、彼が病室の前で彼らしくなく狼狽して居た時からずっと笑いを堪えていた。その発作が出てしまったらしい。笑いの発作が止まらない。
 彼がとても幸せな色の微笑を浮かべてこちらを見ているのでなおさら。
 室内の電話が鳴った。この時間に教授室に電話というのは何かのアクシデントかトラブルだ。彼の高い位置にある腰が祐樹の前を横切り受話器を取る。気兼ねをする相手からの電話らしかった。
「はい。畏まりました。ではそのように調節致します。失礼いたします」
 彼が珍しく困り果てた顔をしている。
「どうしました?」
 煙草を揉み消して聞くと彼は眼のふちを紅く染めてげんなりした声で言う。
「宝城真樹君の院長特別診察は仮の院長代理として私が務めることになった。どうやら院長が各方面に連絡を取ったところ、関わり合いにならない方がいいとの政治的判断だ。そこで外科の私が仮の院長権限で責任を持つことになってしまった」
 仕事では滅多に弱音を吐かない人だが、こっそり呟いた声を聞いてしまう。
「出来るなら、あの病室には金輪際近づきたくなかった」
 祐樹としては彼の新鮮な一面が見られるかもしれないと、かすかにほくそ笑んだ。
 これから、この街屈指の名家の想像を絶する実生活を見せ付けられる運命を祐樹はまだ予想していなかった。
 大学生の真樹君に4人も妾がいたとは…。名家ほど秘密が多いというのは本当らしいと分かったのは翌日だった。


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この話は「瞬殺、eveyday・・・」様とのコラボ作品です。
時系列的には事故に遭って目覚めてから、次回「気分は 駆け落ち編」との繋ぎの回になります~!
続きが気になる方は
「気分は 駆け落ち編5(R-18)へ行って下さいませ~♪

次回からは本格コラボになりますが…更新は気長にお待ちくださいませ><


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最近、村ポチが下がって凹み中です。こ、更新の元気を下さいませ~!
画像クリックして下されば、滅茶苦茶更新の力が湧いてきます♪ 




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こうやま みか

Author:こうやま みか
素人の完全な趣味で「ボーイズラブ」小説を書き始めました。
全然上手くないのですが、コメント頂ければとっても嬉しいです。
またヤフーブログが本館扱いで、こちらでは当面(ってイツ?)旧作を掘り起こして掲載していきたいと思います。
著作権は放棄しておりませんので、無断転載などは禁止させて頂きます。何卒ご了承くださいませ。

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