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「気分は~」駆け落ち編-8



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 本日の手術も無事終わり、助手達の「手術報告書」が上がってくる。それに留意点や所見を書き加え、執刀医の欄に判を押す。
 第一助手の名前は田中祐樹。その名前を見ると微笑みが心の中から浮かんで来るのを止めることが出来ない。
 学生時代から永遠の片思いの相手だと思っていた。思い切ってアメリカから戻って来たが、彼が自分に「そういう」気持ちを持ってくれる可能性はゼロに近いと思っていた。彼の恋の相手は、魅力的なひと限定だろうと諦念を持っていた。それにも関わらず、彼は手術以外に自信のない自分に愛の言葉を囁いてくれて、同棲までしてくれている。
 恋人としての彼は、自分が夢想していた以上に優しく情熱的に接してくれる。
 日本に帰って来て本当に良かったと「田中祐樹」と署名された部分を見詰めていた。
「香川教授…病院長の代診で病院長特診患者様の容態伺いの時間ですが」
 秘書が年齢に相応しい低い落ち着いた声で促す。
「そう…ですね。もうそんな時間ですか?」
 宝城家の御曹司、宝城真樹君の病室に行かなければならないことは秘書に言われるまでもなく頭では分かっていたのだが。
 主治医は最愛の祐樹だ。惚れた欲目ではなく彼は優秀な心臓外科医にも、救急救命医にもなれるだろう。彼に任せておけば――怪我に貴賎はないが――心臓外科の専門医からすれば腕の単純骨折などの治療法は簡単かつ単純なもので、主治医に丸投げをしてしまえば教授クラスの出番はない。
 が、それは「普通の」患者さんの場合で、宝城真樹君は「院長特診室」に入院している。この部屋は、病院長が責任を持って預かる患者さんのための部屋で、病院長が主治医という特別な患者さんのための部屋だ。病状の軽重に関わらず社会的ステイタスを持った、いわゆるセレブリティが入院する。病院の生き字引でもある秘書に聞いたところ、宝城真樹君が使っている部屋の最近の入院患者は、何と宮様だった。昭和天皇陛下の兄弟でいらっしゃるところの…。そういう人が御使用になられる部屋らしい。
 教授総回診ではなく、教授や病院長が数人のナースを連れてこっそりと回診するのがしきたりらしい。
 宝城真樹君は京都の名家中の名家出身なので特別室に案内されたわけだが、色々と病院長が宝城家のことをしかるべき人に問い合わせた結果、「病院長の回診の必要はない」との報告があったらしい。その辺りの事情は、思い出すのも赤面ものだが――うっかりと病室のドアに手を掛けた時、病室の中から聞こえてくるアノ時の声で分かってしまった。
 最愛の祐樹には初心だとからかわれる――実際、経験値の高い祐樹からすれば、そう揶揄されても仕方のない過去の恋愛経験だったので、腹も立たないが――自分でも何が行われているか分かってしまった。宝城真樹君と藤島さんは行為の真っ最中で、他人の性の営みなどを見たことも聞いたこともない自分は頭の中が真っ白になってしまった。今、冷静になって考えると、そっとその場を立ち去るという選択肢が一番良かったと思えるが、聞いていた時はただ、聞いているだけで何をすべきかなどは脳裏から吹っ飛んでしまっていた。比較的物事に動じないと自己分析していた自分でも、他人の性行為を目の前にすると思いきり動揺してしまった。祐樹が来て――彼は、慣れているのだろうか?――ドアをそっと開けた時は本当に脳のシナプスの電流がショートするのではないかと真剣に思った。医学的にはそんなことは有り得ないとは分かってはいるが。
 そこで聞いた言葉が「駆け落ち」だった。多分宝城家から御曹司が許されざる恋に落ちて駆け落ちをしたのだろう。その気持ちは良く分かる積りだ。もし、最愛の祐樹と自分が何らかの事情――病院内に2人の真実の関係が露見し、院内LANか何かで決定的な画像でも流出してしまったなどという事態――が起こってしまったのなら、別になりたくてなったわけでもない。(当時)片思いをしていた祐樹がこの病院に勤務していることを知った上で、招聘の話が出た時に提示された教授というポジションに就いただけだ。だから、祐樹さえ一緒に居てくれるのならば、日本の私立病院だろうと、アメリカの病院だろうとポジションなどには拘泥せずにこの病院を逃げ出す。
 自分は異性愛者にはなれないと自覚しているので、宝城真樹君と藤島さんの恋愛も別に「ああ、そうなのか…」と受け入れることは出来た。
 ただ、愛の営みを、自分がするのではなくて他人がしているのを見た時の衝撃は大きかったが。
 しかもその上宝城真樹君は「妾」の存在が4人居て、その誰とも関係を持っていたというのが信じられない。モラリストではない積りだが、そういう行為は好きな相手と2人だけでするものだと思っていた。同時進行の性行為などは自分の常識の範疇を超える。
 それでも病院長命令だ。形式だけでも回診はしなければならない。回診というよりご機嫌伺いといった方が正しい。
 溜め息を一つ零し、白衣のまま立ち上がる。手術指示書や手術報告書の作成に没頭したかったが。
 宝城真樹君と藤島さんのそういった行為は、祐樹が扉をわずかに開けた時に全部頭にインプットされてしまっている。他人は自分の能力――見たものは全て忘れない、ビデオカメラのような記憶力――を羨むし、自分でも随分と役に立っているとは思うのだが、今回ばかりはその能力も疎ましい。
「では行って参ります。直ぐに戻りますので」
 自分も含め外科医はみな早足が当たり前だ。が、いつものペースで歩けない。ただただ嫌な時間を後に回したいという子供じみた思考が歩調を緩めてしまう。そんな自分が情けなかったが、苦手なものは苦手だった。
 人の気配のしない、「病院長特診病室」フロアに足を踏み入れる。
 と、向こうから青年が歩いてくる。
 真樹君の「妾」の1人だったといういわくつきの人物だった。確かに綺麗な男性だが、自分にとって祐樹以外に惹かれる人間は金輪際現れないだろうと確信していた。会釈をしてやり過ごそうとする。真樹君の情事を思い出し、顔が上気するのを感じるが、なるべく平静な顔をして廊下の隅に寄った。

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この話は「瞬殺、eveyday・・・」様とのコラボ作品です。
この話から本格的な話のリンクが始まります。
いつもは祐樹視点で書いていますが、この話では不可能なので、珍しく教授視点で書いてみました。
この綺麗な男性が何を考えているのか気になる方は、
「気分は 駆け落ち編7(R-18)へ是非是非行って下さいませ♪
 スミマセン、仕事が一段落したせいか、気が緩んで発熱してしまい、ベッドと病院(漏れなく点滴)するだけが精一杯で、携帯やネットも全然見られませんでした(泣)更新が滞ったことや、魅島様とのコラボも私の音信不通でご迷惑をお掛けしたこと、そして素敵ブログの訪問が滞ったことを心からお詫び申し上げます。今も微熱は有るのですが、お医者様には「快方に向かっているね」とのことですので、もう年内に更新が滞ることはないと信じ…たいです。

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最近、村ポチが下がって凹み中です。こ、更新の元気を下さいませ~!
画像クリックして下されば、滅茶苦茶更新の力が湧いてきます♪ 







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こうやま みか

Author:こうやま みか
素人の完全な趣味で「ボーイズラブ」小説を書き始めました。
全然上手くないのですが、コメント頂ければとっても嬉しいです。
またヤフーブログが本館扱いで、こちらでは当面(ってイツ?)旧作を掘り起こして掲載していきたいと思います。
著作権は放棄しておりませんので、無断転載などは禁止させて頂きます。何卒ご了承くださいませ。

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