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「気分は、下克上。」最終章-15(香川教授編 二)





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「帰る」という祐樹の声を聞いて、現実モードに頭が切り替わった。
 自分には滅多にないことだが、祐樹関係のこととなると少しは自信のある頭脳が上手く働かないことがあったので。そういう場合は頭脳に紗が掛かったようになる。
 そういえば、祐樹とゲイバー「グレイス」で出会いそのままホテルに連れて行って貰え二人の関係が始まった時もそうだった。
 最近では同棲生活も開始して、肉体の悦びというものが自分でも怖いくらいに脳を侵食している。彼と身体を繋げる悦楽の度合いが底なしに深まってくるような気がしていた。
 頭の切り替えが早いのが心臓外科医に限らず外科医の適正だ。自分は充分に適性にだけはは恵まれていたと思っていた。流石に手術の時は手術に集中出来るが、教授室で祐樹と触れ合うと、身体と心が妖しく疼く。そして、デスクワークの途中でも切り替えが出来ずに気がつくとパソコンを叩く指が止まってしまい、祐樹のことを考えている自分が居ることを自覚する。祐樹のこととなると切り替えが働かない…。
 そう思って、祐樹に嫌われることを覚悟で「執務室ではそういう接触はしないでくれ」と頼んだ。彼は内心どう思ったのかは分からなかったが、少なくとも気を悪くしている気配はない。そのことに安堵していた。
 ただ一つの例外は産婦人科の中山准教授に会うと言った日、彼は仕事が終ったのを確かめてから教授室で鎖骨の上のキスマークを丹念に付けてくれた。何故だかは全く分からないが山中准教授と会うのを快く思っていないのだと思う。
 外科手術のノウハウをレクチャーするだけでそれほど祐樹は不快だったのかが不明だが、自分にとって祐樹に嫌われないようにするのがプライベートでの最優先事項だ。食事をしながら手術のビデオからDVDに焼いたものと外科医用のサイトに乗っている参考資料をプリントアウトした書類を渡し、口頭で留意点を話すつもりだった。
 祐樹が不快ならば、口頭での説明は止めて今から作成する書類で代用し待ち合わせの喫茶店で資料だけ渡して即座に帰ろうと思った。
 私服の中山准教授は、随分派手な服を着ていたような気がする。それも肌の露出度の高い…。それに香水の匂いも濃厚だった。声までがねっとりとしていて全てが不快だった。 仕事の話をする時には長岡先生のような肌を隠すスーツ――といっても同じブランドという意味ではないが――を着るのが常識ではないかと思う。余計に早く帰りたくなったので、お茶が済むと今日大急ぎで作成した資料ともども全部手渡して「帰ります」と言うと彼女の表情が一転した。
「予約しておいたのに酷い」などと今までの聞きようによっては上品な口調が切羽詰ったドスの利いた声で「とってもお食事楽しみにしていたのに、酷いわ。二次会の雰囲気の良いバーも予約していたのに…それを私がキャンセルしないといけないのですか?この私が」とまで言われた。とても恨みがましい雰囲気で。最後の「この私が」という言い方に違和感を覚えたが。彼女はキャンセルするのが恥だとでも思っているのだろうか?コ・メディカル(ナースさんや事務のスタッフなど)だと勤務時間は決まっていて、食事会や飲み会などは比較的きっちりと参加出来る。が、医師だとそうは行かないので――帰り際に急患が搬入されたり、患者さんの容態が急変したりして――キャンセル慣れしている筈なのにな…と思う。
 それに「楽しみにしていた」と言っていたのは心臓外科最新の手技の筈で、それは充分説明してあったし、「分からないことがあれば遠慮なくお聞きください」とも言った。
 バーに言っても話題に困ることは確実だ。今日話す予定の手術の件は書類を読めば分かる。しかも自分は一般的な世間話は相槌を打つくらいしか出来ない、あまり人間には興味がないせいかもしれないが話題が極端に少ないし、病院内でも極めて少数の人としか話さないので、産婦人科の彼女との共通の知人は多分居ない。それに他人のウワサ話には全く興味がない。
 仕事と祐樹のことならいくらでも話せるが、仕事の件は手渡し済みだ。祐樹のことを話すわけにもいかないので。そうなると話題は皆無だ。そんな面白みのない自分の会話を喜んで聞く人間など居ないだろう。
 それに良く知らない人と会話しているよりも祐樹が待つマンションで、会話はしないまでも傍に居る方が断然楽しい。
「予約してしまったお店のお代金はこちらがお払いしますから、こんな面白みのない人間と話すより、貴女を楽しませてくれる男性でも女性でも誘って楽しんで来てください。領収書を執務室に持って来て下されば払います」
 そう言って、席を立ち会計を済ませている時にちらっと見えた彼女は何故か肩を落としていた。何故残念に思うのかも全く分からなかったが、待ち合わせの喫茶店を出た瞬間、頭の中は祐樹のことで一杯になっていたので深く詮索する積りもなかった。
 マンションに帰ると祐樹が何故か安堵した表情で出迎えてくれた。その日の出来事は今もって全てが不可解だった。ただ、祐樹が太陽の微笑みをふんだんに贈ってくれたのは嬉しかったが。
 祐樹のお母様に会うに当たって花束を…とも考えた。しかし、第一に祐樹が2人の真の関係を言う可能性は高い。彼は言ったことは不測の事態でなければキチンと守るタイプの人間だ。そうなると世間一般に認知されていない関係は、異性愛者においてはお金を貰って愛人として囲ってもらっている女性と同じ扱いではないかと漠然と思う。いくら愛されているからといって、愛人は表には出られない。
 日本に帰って来て、特診患者の手術をこなすようになって。病院長命令で断りきれずに主治医になった特診患者さんは例外なく名前を言えば日本人なら――少なくとも新聞を読んでいる人なら――誰でも知っている人達だ。そこで良く出くわすのは本妻と愛人とのトラブルで。診察にたまたま訪れた病室のドアを開けようとして、女性二人の金切り声が聞こえたので入室を遠慮していると「裏の人間なら、お見舞いなど筋違いでしょう?愛人の分を弁えなさい。病院は本妻のエリアです」と聞こえてきたことがあった。
 祐樹のお母様にとって自分は愛人よりも蔑まれる可能性は大きい。「愛人の分を弁えなさい」と本妻が上品な口調ではあったが、やはり平常心でなかったのだろう。ドアの外まで聞こえるような声で詰っていた。祐樹のお母様も自分が花束を持って行くと却って火に油を注ぐ結果にならないかと思った。最愛の1人息子によりにもよって同性の恋人が出来たなどとお知りになられたら、どんなに怒り、かつ悲しむか…不倶戴天の敵だと思われるかもしれない。そんな人間がのうのうと花束を持って出掛けられるわけがない。
 第二は、仕事で行くのだから花束を持ってというのは不謹慎過ぎるか…と思った。K大付属病院の医師として手術の助っ人としてでM市民病院に行くのだから。出張費まで出る公務には、プライベートな花束は相応しくない。ただ、公私混同は確信犯的にしてはいるが…。祐樹のお母様の病室を個室にして貰ったり、カルテを貰ったりして。
 そのことをお母様に正直に告げて許しを請うた。いつの間にか涙が出ていたことに気付く。想定とは全く違った展開のせいで、脳貧血を起こす危惧を持っていた最悪の精神状態から気持ちが一挙に喜びに変わり、そのせいで涙腺が脆くなっていたことに今更ながらに思い至る。
「無理に御見舞いなんて良いですから…。実の息子以上に息子らしい人が出来て私も嬉しいです。それはそうと私もそろそろ疲れたので…」
 親身な口調で労わられた時には、もっと泣きそうになった。必死で他のことを考える。
 ざっと見ただけだが、祐樹のお母様は腎炎で透析が必要なレベルの病人だが、透析をしている最中は確かに苦痛で疲れるが、彼女は週に一度の透析だ。日曜日には行われない筈で、やはり自分のことを考えて下さっての辞去の勧めだろう。祐樹とお母様にこんなにまで良くしてもらっていると思うと、申し訳なさに足が竦んだが、それ以上に今まで生きてきた中で二番目になる大きな喜びが体内を駆け巡っているようだった。もちろん一番嬉しかったのは祐樹からの愛の告白だったが。
 病室から出ても、まだ本当に許して貰えたという実感は湧かなかったが…それでも先ほどとは違った意味で足が雲を踏んでいるように頼りない。祐樹は心配そうにこちらを見ているので、これ以上心配をかけまいと必死に足を動かしたが。涙腺が脆くなっていることは祐樹も分かったようで…努めて何でもない話をしてくれた。そういうさり気ない優しさにも心が温かくなる。先ほどからの緊張で咽喉がこれ以上ないほどに乾いていた。そのことが分かったのかどうかは分からないが、祐樹が飲み物を買ってくれた。彼は自分がして欲しいと思った時に奇跡のような優しさをくれる人だ。

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こうやま みか

Author:こうやま みか
素人の完全な趣味で「ボーイズラブ」小説を書き始めました。
全然上手くないのですが、コメント頂ければとっても嬉しいです。
またヤフーブログが本館扱いで、こちらでは当面(ってイツ?)旧作を掘り起こして掲載していきたいと思います。
著作権は放棄しておりませんので、無断転載などは禁止させて頂きます。何卒ご了承くださいませ。

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