スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「気分は、下克上。」 初詣編





_________

___________________________________________________________

 病院は年中無休だが、手術がメインの香川外科はお役所並みに年末年始の休みが取れる。
 27日が仕事納めだったのだが、今もって頭の上がらない阿部士長に半ば脅されて救急救命室の手伝いをしていた祐樹だった。もし最愛の彼が27日から休暇を取るならこの脅しには屈しなかっただろうが。ただ彼も手術がメインとはいえ「書類仕事がそのために後手後手に回ってしまいどうやら30日までかかりそうだと」とても残念そうに告げたので。祐樹も救急救命室での仕事を受けた。但し、「30日までで、それ以降は脅されても仕事は絶対に引き受けません」と強い口調で鬼の阿部士長に必死に対抗して。
 年末年始は救急救命室ではいつも以上に患者さんが多い。酔っぱらって喧嘩を起こして担ぎ込まれる患者として搬送される人や急性アルコール中毒の患者さんや餅を喉に詰まらせたご老人など…。祐樹は外科医としての助っ人なので酔っぱらい運転で事故を起こした加害者や被害者などの手当がほとんどなのだが。
 元旦は祐樹の母親を見舞いに行くと律儀な彼は言い張っていた。この点はロクに見舞いに行っていない祐樹よりマメで几帳面だ。それなら31日から元旦にかけてM市の旅館に泊まってゆっくりと二人きりで時を過ごし、その後見舞いに行けば旅行気分も正月気分も味わえる。M市にはロクな旅館がないことも知っている。それならば車で少しの天橋立の旅館が――何せあちらは観光地だ――色々な旅館が有るに違いない。夏休みには二人してシンガポールに行ったがその時の手配は彼に任せきりにしていたので。今回は祐樹が手配しようと激務を縫って色々調べた。
 出来れば個室の中に露天風呂が付いている旅館が良い。彼の白くしなやかな肢体が露天風呂でほんのりと色づく有様を想像すると調べる労力など物の数ではない。それに冬のボーナスで祐樹の懐も少しは暖かかったので。
「露天風呂付きの個室で新年を過ごしたい…」
 そう彼のマンションのリビングで告げると、近頃はそちらの方面にも寝室ではかなり慣れてはきてかなり大胆になってきたものの、それ以外の場所ではまだまだ初心な恋人は清楚ながらも官能の濃い紅色の表情をにじませてこくりと頷いた。彼も「露天風呂」という言葉に即座に情事を連想したのか、瞼が濃い紅に染まっている。
「それは楽しみだが…大晦日だと花屋さんが閉まっているだろうな…祐樹のお母様には是非花束を持って見舞いたいのだが…」
 そういう気配りは祐樹にはとても出来ない。
「どうしたものかな…M市民病院の売店に花は売っているだろうか?」
 そんなことを相談されても、そもそも祐樹は花を持って母を見舞ったことがない上にM市民病院に売店があることすら知らなかった。
「売っているかどうかは知らないのです。済みません」
「そうか…。行ってみて売ってなかったら困るな」
 コーヒーの湯気を顎に当てながら困惑した表情で眉を顰める表情も愁いを帯びてとても綺麗だった。
「手ぶらで良いと思いますよ。私も見舞いの品を持って行ったことは有りませんし」
「それは祐樹が実の息子だから…遠慮がないせいだろう?私は…同性なのにお母様に認めて戴いた恩が有る上に祐樹を託して戴けた。お見舞いの品を持って行かないとマズいだろう?M市民病院には執刀医としてしか行っていない。その時にはお見舞いの品を持って行けなかったことは慙愧に堪えない」
 彼の律儀さにはほとほと感心するし、とてもとても愛おしいと感じるが。
「腎炎の食餌療法は塩分抜きが基本ですよね?なら花には拘らずメロンなんかは如何です?確か母も好物ですよ?」
 折衷案として口から出まかせを言う。母の好物は祐樹も知らない。つくづく親不孝をしているな…と思う。祐樹の表情を凝視していた彼も祐樹の言葉のあやふやさを感じたようだった。
「メロンか…それも悪くはないが、やはり果物屋さんも年末年始は休みだろうな…。花に詳しそうな長岡先生にでも聞いてみることにする」
「そうですね。少なくとも長岡先生なら我々よりも花に詳しいでしょう…。ただ、M市民病院では貴方の顔は職員全員が知っています。ただの見舞いに訪れたとしてもナースが気付くと院長や事務局長にご注進が行くかもしれないので…前髪を下ろして…そう、シンガポールの時や、極秘で病院を抜け出して杉田弁護士事務所に行った時のような服装でお願いします。私もそんな格好をしている聡を見るのが大好きで…」
 彼は前髪を下ろして学生風の衣服を着れば驚くほど年下に見える。下手をすれば祐樹よりも若い感じにはなる。K大学病院の教授としての彼の姿しか見ていないM市民病院のスタッフは多分気付かないだろう。彼は祐樹の最後の言葉に嬉しそうで青さが匂う眼差しで微笑する。
 ベッドの上では紅色の官能をにじませる眼差しも大好きだが、彼はそれ以外では以前と変わらない無垢な雰囲気は変わらない。「昼間は処女、夜は娼婦のような」女性が男の憧れと以前聞いたか読んだかしたが…彼との関係が深まるにつれ、その言葉が嘘ではないことを実感する。
 大晦日の日は2人で出かける用意をし、彼の服装や髪形が「K大付属病院・香川教授」という肩書からは程遠いものであることに新鮮な――といっても何度か見たが――喜びを感じる。青いセーターに同色のマフラー、そして茶色のチノパンに幅広のベルトこれらは祐樹がシンガポールに行く時に贈ったものだと思い至る。大切にして貰っているのかチノパンにもベルトも新品同様だった。前髪整髪料を使わずにさらりと下ろしている。手にはチノパンと同色のダウンジャケットを持っている。
「とてもお似合いですよ。では行きましょうか?」
 ちなみに祐樹もシンガポールに行く時に買ったお揃いのチノパンだった。セーターはお揃いではなかったが、彼は晴れやかに微笑んでダウンジャケットを祐樹に差し出した。色は藍色と青色との中間色だった。そういえば「祐樹は青が似合う」と言ってくれたっけ。 祐樹とはブランドと形――といってもダウンジャケットにそうそうバリエーションはないが――は同じで、年の瀬で忙しそうにしていた彼に買い物に行ってくれる時間を捻出してくれたことにとても感激した。
 駅前のレンタカー屋で車を借りた。今度は祐樹の趣味で2ドアのスカイライン(といってもGT-Rではないが)のミッション車だ。どうもオートマチックでは運転した気がしない。まあ、オートマでない分、車中では手を繋げないが、個室の露天風呂という楽しみが待っているのでヨシとしようと思っていた。どこも不景気らしく、一番値段の高い部屋は空いていたし、抜かりなく確かめて隣の部屋は空室であることも知っていた。
 車の自分専用のを買いたいし、その上彼のマンションは入居者には専用の駐車場が漏れなく付いていることを知ってはいたが、たまにしか乗れないし税金も馬鹿にならない。欲しいとうっかり彼に漏らしてしまうと、事もなげに買ってしまいそうで…生活全般でも食費は入れてはいるが、食費以上の食材が冷蔵庫の中に入っている。ヒモみたいな生活は祐樹の本意ではなかった。だから車のことは内緒にしている。
 彼の左の薬指にはいつぞや贈った指輪が慎ましげな光を放っていて、かなり満足した。ただ旅館に着くと外すだろうが。
 祐樹にも指輪を…と以前遠慮がちに言われたが謝絶した。ペアリングなど作れるハズもない年代モノだったし、第一装身具までお揃いに付ける趣味はない。その代わり「束縛する物」としてネクタイをリクエストした。が、祐樹は一本だけで良いと言うのをうっかり忘れていて、5本も贈られた時は自分の短慮を悔いたものだったが。 
「万が一、道路が渋滞していたら困るので、駅前でお弁当とお茶を買って行きませんか?」
 車を駅前のパーキングに入れてそう提案した。宿は空いていたが、道路状態は分からない。どちらかと言えば食の細い彼には十分な食事を摂って欲しかったので。
 京都駅は観光客と帰省客でごった返していて、お弁当を売っている売店も長蛇の列だ。
 ただ、彼が横にいる、それだけのことで比較的短気な祐樹も待つ時間が楽しかった。彼のリラックスした表情と他愛のない会話をするだけで十分満足した。それに露天風呂のことを思い出すと自然に顔がゆるんでしまう。

__________________________________

 



_________
 
 パソコンの方は、↑↑をポチッとお願い致します。更新の支えです~!!!

http://x4.cyber-ninja.jp/bin/ll?05829340N
アクセス解析
 スミマセン!元日更新後、寝込んでしまい、ブロ友様に年賀に回れませんでした。今日こそ回りますので何卒ご容赦下さいませ。
スポンサーサイト

コメント

非公開コメント

プロフィール

こうやま みか

Author:こうやま みか
素人の完全な趣味で「ボーイズラブ」小説を書き始めました。
全然上手くないのですが、コメント頂ければとっても嬉しいです。
またヤフーブログが本館扱いで、こちらでは当面(ってイツ?)旧作を掘り起こして掲載していきたいと思います。
著作権は放棄しておりませんので、無断転載などは禁止させて頂きます。何卒ご了承くださいませ。

FC2ブログランキング
ランキングに参加させて戴いております。ご訪問の際ポチっと。とっても喜びます!!

FC2Blog Ranking

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
カテゴリ
月別アーカイブ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。