スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「純愛と妄執に揺れる心」第一章-1


 日付が変わる頃、NYの経済市場をネットと衛星放送でチェックしていた藤原直哉は玄関に人の気配を感じた。
(また遅い帰宅だな…、仕事か?それとも…?体調を確かめなければ…)
 パソコンも衛星放送もそのままにして個室を出る。2人の趣味でシンプルに纏められた40畳のリビングを早足で突っ切ると玄関スペースに向かう。玄関といっても普通のマンションのキッチンがすっぽりと入る大きさだ。シューケースが整然と並ぶ玄関に小倉純一がドアに全体重を預けて端整な顔を紙の色に変色させて額には脂汗の雫が光る。
「大丈夫じゃ…なさそうだな?」
「ああ、吐きそうだ」
「洗面所に行くか?歩けるか?」
 気力だけで立ち上がった純一は歩き出そうとしてふらりとよろめく。すかさず温かい腕で身体を支えられた。勤務先から帰宅してシャワーを使ったのだろう。清潔なボデーソープの香りと彼の温かい体温を感じて少しは気分がマシになった。彼の腕の中にいるとどうしてかささくれた心が休まる。直哉の長身とそれに相応しい広い肩が顔の辺りに来る。
「もう少し…このままで…吐き気はかなり治まったから」
「今日は女と一緒だったのか?小学校の授業参観の時に嗅いだ香水の香りがする」
 直哉の口調には咎める気配は全くない。それにシ○ネルの五番をこう表現する人間も珍しいだろう。彼の無駄のない筋肉の付いた腕に包まれて、彼の低くて誠実な声を聞いていると気持ちが治まるのも不思議だった。このままずっと腕の中に居たいと切実に思う。
「そうだ。今日の女は『サロン・ド・ロゼ』の鈴木黎子(れいこ)の片腕、柴宮菜穂だ。40代後半の女にしては珍しい香水だよな…あの年齢なら昔の栄光を引き摺ってデ○オールのポワ○ンが定番なのに…」
 純一が虚ろな笑いを浮かべると直哉は男らしい眉を顰めた。
「まだ『サロン・ド・ロゼ』に拘っているのか?お前だって、正業で充分成功を収めただろう?この前の経済誌にも載っていたじゃないか…。もう過去のことは…」
「水に流せない。どうしても。オレの母親がどうして自殺したのか…もし鈴木黎子が深く関与していたなら、オレは絶対に許さない。『恨みは岩に刻め』がオレのモットーだ。ハムラビ法典もオレは大好きだね」
 普段の顔色に戻ってきた顔で不敵に笑う。
「『目には目を。歯には歯を』か…気持ちは分からなくはないが…過去にばかり目を向けるのはどうかと思うが。
 かなり気分はマシになってきたようだな。リビングまで歩けるか?水と精神安定剤を用意する」
 背を向けた直哉に向かって純一はポツリと呟く。絶対に聞こえないように。
「オレが『サロン・ド・ロゼ』を潰そうとしているのは、オレの過去だけじゃない…直哉の復讐も兼ねているんだ…二人分の人生を狂わせたのがもし鈴木なら、絶対にオレは同じことをしてやる。どんな手を使っても」
 普段の倍の時間を掛けて靴を脱ぎリビングにたどり着く。ガーデンプレイスの最上階に近い部屋は東京の夜景が一際鮮やかだったが、慣れてしまえばどうとも思わなくなる。ここはステイタスだけで決めた住まいだ。
 リビングのテーブルには、鮭をふんだんに乗せたお茶漬けと、温かい日本茶そしてミネラルウオーターの入ったコップと純一がエステ「サロン・ド・ロゼ」関係者に会った時に必需品になってしまった精神安定剤の薬剤が几帳面に置いてある。
 向かい側には直哉が座っている。
「薬のことは良く分からないが…胃に何か入れてから飲んだ方がいいだろう?夜食用に作っておいた」
「サンキュ。今日は柴宮が行きつけのホストクラブの新人ホストとして接触したから…酒以外何も口に入れていない」
 直哉が心配そうな顔をする。心配されているのかと思うと純一は少し嬉しい。
「アルコールと精神安定剤を一緒に飲むのはマズくないか?
 それに常連のホストクラブなんだろ?当然指名するホストは決まっているものだと聞いているが?」
「大量の精神安定剤と酒を飲むと確かに幻覚を見たり、薬が効いている時のことは覚えていなかったりするらしいが…一錠なら大丈夫だ。
 ホストクラブは金で黙らせた。指名していたナンバー1ホストも表向きはインフルエンザで休みということにして…。ホストにも充分な休業手当を払ってある。ヘルプに付いたオレを見て『貴方を指名するわ』と鶴の一声だ。で、店が終るまでリシャ○ルやドン○リ・ゴールドをバンバン開けさせたし、ホストクラブは大喜びさ。アイツは今日350万は使ったハズだ。その後、お持ち帰りされたが…」
 純一の声が暗さを帯びた。
「ホストクラブでも『お持ち帰り』って言うのか…てっきり合コン用語かと…。それに純一は、高校の時に年を誤魔化してホストクラブのボーイのバイトしていただろ?その経験が役に立って良かったじゃないか」
 無理に作ったと思しき明るい声で話題転換をしようとしてくれる直哉の気持ちが嬉しい。
「さあ、正式な名前は知らないな…。ついでに言うとホストクラブで一見の客と寝るようなホストは枕ホストと言って馬鹿にされる。オレが『新人です』と挨拶したのが良かったのだろう…これならホテルに誘っても大丈夫だと踏んだんだろうな…
 だが、収穫は有った。22年前、『サロン・ド・ロゼ』は画期的なレーザー脱毛の機械を導入して売り上げをかなり伸ばしたと」
 直哉は顎に手を当てて真剣な顔をした。
「22年前…それはお前の…」
「そう、母さんが経営していたエステが『サロン・ド・ロゼ』おかげで経営不振に陥り、債権者から責められて…そのせいで自殺した年…だ。オレが7つの時の話しだが」
 暗い目になっているのは自覚している。
「その機械…レーザー脱毛って言ったか?その機械がもともとお前のお母さんのエステが使っていたものだと分かれば…」
「ああ、オレもそう思った。母さんのかつての部下に会ってくるつもりだ。詳しい話を聞いてくるが…。しかし、あんな大きなエステティクサロンが、数店舗しかない母さんのエステを目の敵にして、本店の両隣に『サロン・ド・ロゼ』を挟むように建てて…しかも、母さんのエステの会員証を持って行けば数段上のサービスを受けさせるようにしたという点はどう考えても不自然だ。母さんの店だって良心的な値段でサービスしていたから…向こうは当然赤字だろう。それでも敢行したところに悪意以上のものを感じる。あれさえなければ、母さんは今も元気で経営を頑張っていたハズなのに…」
 直哉は痛ましそうな目で純一を見た。
「そうだな…22年前のあの日、『ひまわり園』に来たお前のことは忘れられない。あの時のお前は一時的な失語症になっていたものな…。一つ上で施設の先輩の俺が面倒を見なければと自然に思えた。それに…」
 直哉の目が懐かしさを帯びた。
「『ひまわり園』は民間の孤児収容施設だ…大谷園長と奥さんがボランティアを兼ねて経営していたよな…部屋を見てビックリした覚えがある。一つの部屋に二段ベッドが三つも置いてあって」
 純一も自然と穏やかな笑みを浮かべる。
「純一がちゃんと字…といってももちろん平仮名だが…を書けて良かったと思った。一日目は眠れなかっただろう?」
「小学校に上がる前に母さんがお受験の塾に通わせてくれたからな…漢字も小学三年生くらいまでの字は書けた」
「そうそう。俺とは筆談で会話してたっけ…。『部屋で1人でねむるのが当たり前だと思っていたのに、人がたくさんいるから、ねむれない』って書いてたよな。大きくて綺麗な字で」
「『僕も最初はそうだった。直ぐに慣れるから…』いつの間にか直哉のベッドに潜り込んで、直哉が持っていた懐中電灯で筆談しながらいつの間にか眠っていた…な」
「あそこは、虐待や育てられない親がどこかに捨てた子供が集まって来る場所だ。当然、生育環境の良くない子供達が集まる。ベッドに寝るのが初めて…とはしゃいでいる子供の方が多いのに、1人部屋が当たり前のように育った俺たちはやはり恵まれていたのだな…と今になってそう思う」
 懐かしい邂逅の記憶が純一の気持ちを鎮めてくれる。


スポンサーサイト

テーマ : 自作BL連載小説
ジャンル : 小説・文学

コメント

非公開コメント

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

Re: No title

とくめい様

コメント有難うございます!
休載などは(止むを得ずの事情がない限り)有りませんのでご安心下さいませ~!
ヤフブロがメイン、かつ「純愛~」を最優先させて頂いています。
確かにBL的要素が少ないのも承知の上で踏み切りましたし、前作よりも支持を頂けないだろうな…と思っておりますので。
でも、話は最後まで終わらせる積もりです。
こういうコメントがとても励みになります。
コメント有難うございました~!
返信が遅くなり申し訳有りません(TT)
プロフィール

こうやま みか

Author:こうやま みか
素人の完全な趣味で「ボーイズラブ」小説を書き始めました。
全然上手くないのですが、コメント頂ければとっても嬉しいです。
またヤフーブログが本館扱いで、こちらでは当面(ってイツ?)旧作を掘り起こして掲載していきたいと思います。
著作権は放棄しておりませんので、無断転載などは禁止させて頂きます。何卒ご了承くださいませ。

FC2ブログランキング
ランキングに参加させて戴いております。ご訪問の際ポチっと。とっても喜びます!!

FC2Blog Ranking

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
カテゴリ
月別アーカイブ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。