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「気分は、下克上。」初詣編 ~お見舞い~





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「母さん、お見舞いに来たよ。明けましておめでとう」
 元旦の病院は多分家で過ごす入院患者も多いとみえて閑散としていた。彼も執刀医として度々来ている病院でナースなどに見咎められたら厄介だと危惧していたのだが。スーツや白衣を着ていない上に前髪を下してダウンジャケットを着た彼は祐樹よりも若く見える。そのせいも有ってかすれ違った顔見知りのナースは祐樹を見て挨拶したものの、彼に視線が移ってもあの「香川教授」だと認識はない。媚を含んだ目で「お友達ですか?」と祐樹に聞いてきたぐらいだ。
 少し面白くなかったが、若いナースは祐樹にも同じような目つきを送って来たのでヨシとしようと思いなおした。
「まぁ。明けましておめでとうございます。本年も愚息を宜しくお願い致します」
 実の息子を見事にスルーし、後ろに立っている彼に新年の挨拶を嬉しそうにする母に、まさか狙っているんじゃ…?と思わず勘繰ってしまう。
 そそくさと母の個室に入る。スタッフに見られたら厄介だ。
「明けましておめでとうございます。本年もどうか宜しくお願い致します。お具合は如何ですか?」
 彼は丁寧かつ真摯な涼しげな口調で問いかけた。といっても心配そうな色は滲ませているが。祐樹は旅館から花を入れた箱を持っている。彼は手ぶらでも良かったハズなのに旅行鞄を持っている。ずっと不思議に思っていたのだが。聞いてもはぐらかされるだけだった。
「お陰さまで、何とか良いお正月を迎えることが出来ました。愚息を連れてきて下さって有り難う。あ、祐樹おめでとう」
 何だかどうでもいい口調で言われる。どうやら母は彼が言い張ってお見舞い兼年賀に来たと思っているようだ、あながち間違いではないが。
「おめでとう。今年こそ少しは容態がマシになればいいね」
 母の視線が目敏く彼の左手の薬指をチェックしている。安堵と感嘆の混じった吐息と共に。
「その指輪をして下さっているのね。とてもお似合いです」
「有り難うございます。こんなにも貴重なものを下さって。あの後、とても感激しました」
 彼は丁寧に頭を下げる。
 そういえば、彼が指輪をして病室を訪れたことはない。仕事の帰りに寄るのだから当たり前だが。ただ母も指輪の行方は気になっていたようだ。
「いえいえ、愚息がご迷惑をお掛けしているのではと心配していましたよ」
「いえ、とんでもないです。迷惑などは全くないです。託して戴いて有り難うございます。お陰さまでとても幸せです」
 ほんのりと頬を染めて笑う彼は場所が病室ということもあってか、とても清楚で誠実そうな雰囲気だ。
 そんな彼を横目で見ながら箱から花を出した。シュガーピンクとでも言うのだろうか、白っぽいピンクのバラと濃いピンクのバラだけを使った豪華なアレンジメントだった。流石に東京の、しかも長岡先生御用達の花屋さんは違うな…と思った。
「これ、お見舞い」
 彼からの…。と続けようとしたのだが。
「どうせ祐樹ではなくて、聡さんからだろう?」
 はっきりと断言されて少し面白くない。まぁ、母が彼を最高に気に入ってくれたのは良いことだが。
「いえ、2人で選びました」
 性格的に嘘を吐(つ)くのが苦手な普段の彼だったが、祐樹の表情を見て慌てて言った。
「そう、有り難うございます。祐樹も少しは大人になったんだねぇ。お母さんは嬉しいよ。
「お見舞いの花は2人で選んだのですが…。指輪のお礼にと思いまして…これを私からのお年賀も兼ねてお持ちしました」
 彼の手が魔法のように素早く動き旅行鞄から紙包みを取り出した。
「まあ、開けていいかしら」
「はい。お気に召すと良いのですが」
 彼は少し緊張した声で言った。なるほどそれで、旅行鞄を持って来たのだなと思う。
「気持ちを合わせますよ。聡さんがくれるものなら何でも大歓迎」
 母の手がいそいそと紙包みを丁寧に開けていく。
「まぁ、綺麗なパジャマ…何だか着るのが勿体ないくらい。それにブランド物なのね」
 ブランド物と聞いて、慌ててブランド名を確かめた。上品な白を基調としたパジャマで、シックで落ち着いた花が全体に散っているが、彼御用達のブランドではない。少しホッとする。母もそんなにブランドの知識はないハズだが、彼御用達のブランドなら知っている可能性が高い。確かにブランドはブランドだが、彼御用達よりはゼロが一つか二つは少ないはずだった。
「実は私の受け持ちの患者さんが着ていらしたもので、お母様にきっとお似合いだろうと思いまして、どこに売っているかお聞きしました。ご病気がご病気なだけにお節料理は差し入れ出来ないですし」
 彼もとても幸せそうに笑みを浮かべている。彼がお金を惜しんだというわけではなく、母に似合いそうな入院患者さんの服をさり気なく探してくれていたのだと思うと祐樹も嬉しくなる。
「お節料理?聡さん、作れるの?」
 心の底から驚いた声で母は言った。
「本さえあれば作れると思うのですが…作ったことは有りません」
「この人は料理もとても上手だよ。一回料理の本を見たら素晴らしい手際で作ってくれる。ただ、母さんのお節…懐かしいな…高校三年生の時以来食べてないから」
「祐樹…忙しい方に料理まで作らせているの?」
 咎める眼差しと口調だった。作らせてはいないが、結果としてお手製の料理を作ってくれていることは多々有る。特に祐樹が救急救命室の助っ人に行ってから帰宅した日曜日の夜などに。どう答えるべきかと考えていたが。
「いえ、家事は折半でしているので…私が料理当番の時は私が作りますし、祐樹に作って貰う日の方が断然多いです」
 嘘だと思ったが、彼の言うことの方が母は信じそうなので黙っていた。以前、母には嘘を吐きたくないと言っていた彼だったが、方便的な嘘は許容範囲らしい。
「祐樹が料理をするのですか?縦の物を横にもしないこの人が?」
 それは言いすぎだ…とは思ったが。高校時代まで母に自室の掃除まで任せていた祐樹は反論出来ない。
「ええ、上手ですよ?最近はレパートリーも増えましたし…お母様のお節料理の作り方を教えて戴けたらとても嬉しいのですが…」
「母のお節料理は本当に美味しいですよ。お雑煮も懐かしいなぁ。私が料理上手なのはきっと母に似たと思います」
 祐樹得意の舌先三寸――彼には使っていないが――を久しぶりに肉親に使ってしまう。母は彼のことをいたく気に入っているし案じてもいる。彼のいない時に祐樹の携帯に電話が掛かりそうだったので。
『恋人とはいえ、職場では雲の上の人に料理まで作らせているとは何事なの?』
 叱責口調がありありと脳裏に浮かんでしまい、打開策を必死で考えてのことだ。
「お節ねぇ…私がこんな病気だから聡さんにお教え出来ないのが残念だわ。田中家伝来のお節料理が私の代で途絶えてしまうのだねぇ…」
 しみじみとした母の述懐だった。
「作り方を書いたノートなどは有りますか?もし有るのでしたらお預かりして作ってみますが?」
 誠意のこもった声だった。母が感心した眼差しで彼を見遣った。
「それは、もちろん有りますよ。姑から私も習いましたから。でも本当に?別に気を遣って貰う必要は…」
 彼は透明で悲しげな眼差しを母に注ぐ。
「私はご存知の通り、父母を早く亡くしましたから。引き継ぐべきものが有りません。もしお母様がお節料理やお雑煮の作り方を託して下されば私も幸せです」
 母は少し涙ぐんだ後、慌てて手で涙を拭った。
「ええ、では、友達が見舞いに来たらお節料理の作り方を書いたものを家から持って来てもらって、郵送しますね」
「有り難うございます。一生大切に致しますので」
 母は祐樹の顔をキツい目で見据える。その眼差しは、この人を大切にしなさいと言葉には出さないが雄弁に語っている。
 言われなくても大切にするさと目で伝えた。 

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 体調やスケジュールと相談した結果、取りあえずリクエストの多かった「祐樹の母を」という件を先に更新させて戴きました。
 この後の更新は、どうなるか…私も分からないです。スミマセン!!コメとポチ次第のような気もします~!
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プロフィール

こうやま みか

Author:こうやま みか
素人の完全な趣味で「ボーイズラブ」小説を書き始めました。
全然上手くないのですが、コメント頂ければとっても嬉しいです。
またヤフーブログが本館扱いで、こちらでは当面(ってイツ?)旧作を掘り起こして掲載していきたいと思います。
著作権は放棄しておりませんので、無断転載などは禁止させて頂きます。何卒ご了承くださいませ。

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