スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「純愛と妄執に揺れる心」第一章-7



「じゅ…純一っ」
 慌てた直哉の声と肩を叩く動作で追憶を断ち切られた。
「ああ、何?」
 懐かしい過去から一挙に現実に引き戻された気がして純一は少し不機嫌だ。
「こんな夜中にそんなところでぼうっとしているから…何か有ったのではと思っただけだ」
 いつの間にか習慣になってしまった口角を思いっきり上げて皮肉な表情を浮かべる。
「そっちこそ、明日早いんだろう?早く寝なくてもいいのか?」
「確かに早いが…純一ほどハードスケジュールではない。それにこの仕事をしている人間はNY市場をリアルタイムで聞くためにこの時間に寝ている人なんか居ない。コーヒーを注ぎに来たら純一が居たので驚いた。何か有ったのか?」
 彼の目が心配そうに細められる。
「いや、今夜は久しぶりのホスト稼業で、流石のオレでも吐きそうなほど飲んで…それでぼうっとしていた」
「そうか…ならいい」
 コーヒーを注いでいる直哉の引き締まったすらりとした長身に複雑な視線を注ぐ。
「なぁ、今夜そっちの部屋で寝ていいか?」
 直哉も先ほど純一が浮かべた複雑な視線を放っていた。
「どうして?『相互不干渉』がルールじゃなかったのか?オーナーの小倉純一氏」
 広い肩をアメリカ人風にすくめ「分からないなぁ」というジェスチャーをした。
「さっきまで…出合った頃のことをずっと思い出していた。それで懐かしくて…」
 直哉は誠実さを見る者に与える穏やかな顔に微笑を浮かべる。
「懐かしいな…『ひまわり園』か…一緒に寝るのは構わないが、シャワーを浴びて寝る支度をしてからにしてくれよ。酔っ払いがそのまま俺のベッドに入ってくるのは歓迎しかねる」
 相互不干渉は純一が決めたルールだ。ずっと一緒に暮らしてきたがこの部屋を購入したのは純一で、やっと復讐する地盤が出来たこともあり、復讐には消極的――というより反対している――直哉には「相互不干渉」を言い渡すしかなかった。
「もちろんだ。あの頃のようにパジャマに着替えてから行くよ。もうNY市場のチェックはいいのか?」
「ああ、そんなに興味深い動きはないし、株価や為替レートを変動させるニュースも今夜はないだろう。今夜は寝ても多分大丈夫だ、きっと。会社の人間もそう思っているハズだ」
 パソコンのモニターの前にいたせいか、広い肩から純一よりも太い首筋にかけてストレッチ運動をしている。恐らくは肩凝りか眼精疲労が原因だろう。
「大変だな…シンクタンク勤務というのも…」
「いや、純一の方がもっと大変じゃないか?だから心配している。本業一本でさえ疲労度は俺の計り知れない程度なのに、過去のことを調べるとなるともっと純一に負担が掛かる。
 もう、過去よりも未来に生きるべきだと俺は思うね。幸い施設出身の人間にしては破格の暮らしを手に入れた」
「払った代償も多かったが。その代償を償うべき人間がいるなら、償うべきだ。そうでないと先には進めないのがオレの性分でね…」
 直哉の端整な男らしい眉の間にシワが寄る。
「俺が青井さんに会わせなければ良かった…か?」
「確かに引き金を引いたのは元ハウスキーパーの青井さんだ。だが、オレはその前からずっとお母さんを自殺に追いやった人間は許せないと思っていた。遅かれ早かれ関係者を見つけ出して事情は調べていただろう。やっと軍資金も稼いだし復讐はこれからだ。オレた…オレが舐めてきた辛酸を倍返しにしてやる」
 「オレたち」と言いかけて慌てて訂正する。まだ直哉には今まで純一が掴んだ過去の事実の全容を話していない。
 小さな溜め息をつくと直哉は「あと30分程度で仕事を終らせるから」と言い残し彼専用の書斎に消えた。
「一緒のベッドに眠るなんて久しぶりだな…」
 パジャマに着替えて直哉の寝室に入った純一は、母を失い一時的な心の避難場所にしていた直哉の存在は年月を経るごとに薄れていくだろうと漠然と思っていた。だが、どうしても直哉の存在は純一にとってはかけがえのないものになってしまっている。純一の魂の半分が直哉に宿っているかのように、どこに行くにも一緒を選択してしまっていた。
「最初はとっても可愛かったのに、な。それがどこをどう間違ったのか可愛げのない大人に成長してしまった。育て方を間違えたのかも」
 ベッドに入ると直哉は少しおどけた口調で純一をからかう。
「お兄さんだと思っていたが、実はお母さんかよ?」
 直哉の身体に不自然ではない程度に密着させて思い出話にふける。ベッドサイドの明かりだけを点けて。
「オレの笑顔があれだけの威力が有ると見切って笑えとアドバイスしたのか?」
「え?」
 唐突な質問に怪訝そうな問いを発したが、直ぐに思い至ったとみえる。
「ああ、そうだ。純一はとても可愛いかった。あの天使の笑顔だったら性悪な施設の子供でさえも純一に手出しは出来ないと幼心に思ったものだ」
「『ひまわり園』に直哉が居てくれなかったらオレはどうなっていたのか分からない。まぁ、当時は偶然だと思っていたが、あれは必然だったんだな」
「必然というか、運命の悪戯だな…青井さんが『ひまわり園』を純一に紹介したのは、俺があそこに居たからだ。青井さんの所属するハウスキーパー派遣会社を俺の屋敷でも使っていたなんて偶然だろうな…。青井さんは幼い子供にあんな悲惨な場面を純一坊ちゃまに見せたことをたいそう悔やんで会社の仲間に相談した。『いい養護施設はないか?』と。それで一年前に同じような事件を起こして、親族からも見放され精神を病んだ俺が結構普通に暮らせていると聞いて、大谷園長先生に相談したのが切っ掛けだったと聞いている」
「そうだな…。あの時は直哉もトラウマから抜け出せていなかった…」
「ああ、そうそうあんな体験をした子供の数は少ない。同じような心の傷を持つ子供同士で仲良く出来ればお互いのためになるのではないかとの大谷園長先生の配慮も有ってあそこに純一が入ってくることになった。狙いは当たったな…お互いにトラウマこそ表面上は解決した。俺のトラウマは純一が癒してくれた。とても感謝している」
「もっと別のトラウマは抱え込んだが……」
 作り物のように端整な目が、人工品では絶対に作りえない皮肉な冷笑を浮かべる。
「それだって無事に解決したじゃないか…純一の天使の微笑で…」
「そうだな…あの時初めて、自分の顔と笑顔が武器になることを思い知ったよ。これも直哉お兄さんのお陰だな。ただ、逆に武器になるものを持っていた自分にも気付かされた。
 何も持っていない平凡な人間だったら、復讐なんて考えついていなかったのかも知れない」
 施設や学校、そして高校生の時にバイト先で降りかかった様々な屈辱と憤怒の念。それを晴らさない限り、純一は新しい人生を踏み出すことが出来そうにない。新しい人生のアテも…はなはだ漠然としか思い浮かばないが。
 食べるものがないというのがどれだけ心細いか、悪意の有無に関わらず言葉や肉体への暴力がどれ程精神的ダメージを与えるか、それになにより、肉体の蹂躙というものがどれだけの無力感や絶望感を抱かせるか。色々な場面が脳裏を過ぎる。
 そっと、眠りについた隣の暖かみに触れた。そのぬくもりだけがたった一つ心を和ませてくれる。
 もし、過去にけりがついたら…。
 ただ、藤原直哉という人間だけは自分だけのものにしたい。
 ただ、それだけだ。
 29年生きてきてたどり着いた一つの答えだった。ただ、この復讐を終らせない限り新しい一歩が踏み出せない性格であることも分かっていた。

スポンサーサイト

テーマ : 自作BL連載小説
ジャンル : 小説・文学

コメント

非公開コメント

プロフィール

こうやま みか

Author:こうやま みか
素人の完全な趣味で「ボーイズラブ」小説を書き始めました。
全然上手くないのですが、コメント頂ければとっても嬉しいです。
またヤフーブログが本館扱いで、こちらでは当面(ってイツ?)旧作を掘り起こして掲載していきたいと思います。
著作権は放棄しておりませんので、無断転載などは禁止させて頂きます。何卒ご了承くださいませ。

FC2ブログランキング
ランキングに参加させて戴いております。ご訪問の際ポチっと。とっても喜びます!!

FC2Blog Ranking

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
カテゴリ
月別アーカイブ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。