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「純愛と妄執に揺れる心」第一章-8

「聞きにくいことを聞いていいか?」
 直哉は低い地声をさらに低めて言う。口調は沈んではいるもののほんのりと暖かく純一を案じているのことが、言葉と口調の両方から感じられる。
「ああ。直哉に隠すことなんてない」
 本当は隠し事には事欠かなかったが。
「俺のベッドに入って来たのは、『ひまわり園』のことを思い出したというのが一番の理由だろうが…
 今夜帰宅した純一の顔、酷かったぞ。やはり、性行為に対してはまだ恐怖心やコンプレックスが抜けていないのではないのか?これは俺のせいでもあるが…」
 この会話がもし煌々と灯りの点いたリビングやキッチンスペースで向かい合ってなされたならば、純一は即座に「違う」と嘘をついたハズだった。また、直哉の口調が純一を心から案じているのが分かる種類のしみじみとしたものだっただけに純一の心のゲートは雨に濡れた砂糖菓子のようにあっけなく崩れた。
「直哉のせいでは全くない。あれはオレが招いた自業自得の出来事だと思っている。
 が、性行為は嫌いだ。嫌悪感しか抱かない。男相手でも女相手でも…。特に女相手だとこちらが主導権を握らなければならないし、勃たせないと話にならないから、それだけでも精神力を使い果たして…。
 それよりも男相手がもっと嫌だな。嘔吐感を我慢しながら楽しんでいるフリをして…かつ相手を虜にさせる手練手管を…と考えながらベッドに――ベッドじゃない時もあるが――居るのはとても疲れる。
 相手が女でも男でも一回すると、一年は寿命が縮まったような気分に襲われる。
 だが、最も人間が心を開くのがその最中だし、弱みも握れる。特に男は…な。だから止めるつもりもない。『相互不干渉』だけは守ってもらう。こんな……オレが嫌なら出て行っていいんだぞ」
 複雑な色合いの溜め息だけが返事だった。「出て行く」という返事が返ってくることを密かに恐れていたのだが、ついにその言葉は発せられることがなかった。そのことには安堵する。
 現時点での収入は純一の方が直哉を遥かに凌駕しているが、直哉も世間一般では高給取りの部類に楽々とカテゴライズされる程度の収入はある。ガーデンプレイスのこのグレードのマンションは直哉には無理だろうが、最も分譲価格の安い部屋ならローンを組めば支払えるハズだ、詳しくは知らないが。直哉が純一に愛想を尽かして出て行こうとすれば簡単に出来る経済力は持っている。それなのに同居人として何故止まっているのか、一回聞いてみたい気もするが聞くのが怖い気もする。
 いつの間に眠りに落ちたのか、直哉の規則正しい寝息が聞こえてくる。
 お互い、背は伸び、施設出身という特殊な出自からは考えられないような最高学歴を得、仕事も直哉は外資系のシンクタンクに勤務している。純一は大学時代の起業の延長でそこそこ知名度のあるIT企業のトップの座に居る。と言っても、直哉はともかく純一は復讐のために時間を費やす積りだったので、そのIT企業の代表者というか広告塔は純一の意のままになる人間に頼んではいる。
 その人間――学生時代からのの友人で純一とも直哉とも気心が知れている――が皮相な経済関係テレビ番組やバラエティ兼ニュース番組というワケの分からない番組に時々出演することもあって、世間では純一が経営しているという事実は世間の人間の大方は知らない。
 しかし財界では周知の事実だ。経済界では周知のことでも恐らく政界では利に敏い国会議員しか知らないだろう。
 ただ、株券を70%持っているのが純一で、残り30%は株式市場で一般投資家に売買されている。優良かつ健全な会社運営の仕方をしているので株価は倍々ゲームで上昇している。株式配当金も未曾有の不況と言われる昨今では破格の金額が支払うことが出来た。 もちろん、純一もその恩恵には充分預かっている。純一の株式資産はイザとなれば現金化出来るが、それ以外にも資産は充分築いているので復讐の軍資金には事欠かないだろうとの目論見も有った。
 お互い大人になったが何故か直哉の寝息は子供時代のものとほとんど変わらず目を閉じて聞いているとシンプルではあるが充分にお金の掛かった広い室内の雰囲気も視界からシャットアウトされて、「ひまわり園」に居るかのような錯覚に陥る。

 ◆   ◆   ◆

 お腹がキューとならないために、朝ご飯は食べたいんだけれど…またおかずはどんどん取られてしまうんだろうなぁ。困ったなぁ…。それに今日から「公立」の学校に登校するんだ。お勉強も大切だから、お腹がキューだととっても困る。「公立」の小学校は「給食」という昼御飯があるって直哉兄さんが言ってたけれど、白い御飯にお味噌汁だけだと、小学校の教室でお腹の虫が鳴くのはとってもとっても恥ずかしいや。
 さっきみたいに笑ったらおかずを取られないのかなぁ…直哉兄さんは笑えば大丈夫って言ってたけど…。直哉兄さんは何でも知っているからやってみようかな…。
 朝食のトレーを受け取ってから直哉兄さんにバイバイをした。隣の席で食べてくれたらとっても胸がポカポカするんだけど…でも、ワガママは言えない。席だって決まっているんだから。「集団生活はルールを守ることが大切です」って大谷園長先生が、僕がここに来た時に教えて下さった。決まりを守らないとダメなんだ…。今まではお母さんとハウスキーパーの青井さんの言うことはキチンと守ってきたけれど、これからはお母さんの代わりに大谷園長先生や、他の先生の言いつけや「ルール」を守らなければいけないみたいだ。そうじゃないと、ひまわり園にも居られなくなっちゃう。ひまわり園のお兄さんお姉さん達はとっても怖いけど、直哉兄さんはとってもとっても優しい。直哉兄さんとさよならするのは絶対に嫌だから…僕はいい子にならなくちゃ。
 トレーには、パンと目玉焼きと牛乳とサラダ――と言っても青井さんが作るサラダと違ってキャベツを細かく切ったものにレタスとハムがちょっぴり乗っているだけのものだけど。目玉焼きもお目々が一個しかない。青井さんはいつもお目々が二つだった。ロールパンも何となくパサパサしているなって考えて、大変なことを思い出した。パンって手で掴める!
 目玉焼きもサラダも、そしてパンまでも誰かに取られちゃうのかなぁ。
 真っ黒い気持ちで席に着いた。
 テーブルにトレーを置くと、やっぱり手が伸びてくる。悲しいけど笑おう!頑張れ!と、直哉兄さんが教えてくれた通りに手の持ち主に向かってニコっとする。でも、お腹はキューキュー言ってて、直哉兄さん向かってに笑うようには上手く笑えなかった。
 でも、手を伸ばしたお兄さんの目を見詰めて頑張って笑っていると、何でか知らないけれども赤くなって、パンを取った手と僕の顔を交互に見て…そして僕のお皿にパンを返してくれた。やったあ!僕のトレーを見るとおかずもちゃんとある。大谷園長先生の「召し上がれ」の時間までは周りを見て笑えばいいのかなぁ?っとまだ、誰にも取られていないトレーを見て思った。
 伸ばされた手の方向のお兄さんやお姉さんを見て頑張って笑っていたら、誰も僕の朝ご飯を取らなくなった。
 やっぱり直哉兄さんってスゴいなぁ。これでお腹がキューは大丈夫だ。
 でも、皆、どうして僕が笑うと赤くなるのか不思議だけど。
「頂きます」
 皆がそう言って食べ始める。それまで僕の朝ご飯を取られないかなって心臓がトクトクしていたのだけど、大丈夫だった。昨日の夜は久しぶりにお母さんの夢――最後に見た血まみれのお母さん――を見なかった。夢を見ると、御飯が食べられなくなっちゃうんだけど今日は平気!これも直哉お兄さんと夜にお話ししたせいかな…。御飯をたくさん食べた。
 とっても久しぶりにお腹がいっぱいになるまで食べることが出来て、少しは力が出てきたみたいだ。
 新しい学校…友達が出来るといいんだけど…お話しできない僕だから、どうなるのかなぁ?前みたいに口でお話し出来るようになるまで、どのくらいかかるのかな?病院の先生も分からないみたいだし。
 直哉お兄さんと同じ学年だったら良かったな。でも同じ学年だと「お兄さん」じゃなくなるんだよな…それは困るから。僕は直哉兄さんの弟でいいや。


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テーマ : 自作BL連載小説
ジャンル : 小説・文学

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こうやま みか

Author:こうやま みか
素人の完全な趣味で「ボーイズラブ」小説を書き始めました。
全然上手くないのですが、コメント頂ければとっても嬉しいです。
またヤフーブログが本館扱いで、こちらでは当面(ってイツ?)旧作を掘り起こして掲載していきたいと思います。
著作権は放棄しておりませんので、無断転載などは禁止させて頂きます。何卒ご了承くださいませ。

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