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「気分は、下克上。」~お見舞い~3





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 エンジンキーを回してエアコンの設定温度を一番上まで上げた。車内は冷え切っていたので、「しばらく待って下さい」とのジェスチャーをガラス製の入り口の中で親しそうに話しながら祐樹を見ている二人に送った。
 4ドア車の場合だと偉い人間が後部座席に座るが、2ドア車の場合はどうなのだろう?2人で年越しとお見舞いしか想定していなかったため、母を乗せるなどとは思いっきり予想外だった。助手席にどちらを座らせるかは結構頭の痛い問題だ。母を助手席に乗せるべきか、最愛の彼を助手席に乗せるべきか…。遠目に彼の様子を窺った。母と楽しそうに話している。本当の親子――といっても顔は全然似ていないが――よりも仲睦まじげに話している。そろそろ車内も暖まったことだし座席のことは臨機応変で考えようと二人を手招きした。
 彼は母の歩調に合わせてゆっくりと車に近寄ってきた。自然な笑顔を浮かべている。すっかり母と意気投合したらしい。まぁそれはそれでとても喜ばしいが。ドアを開けて助手席のシートを倒す。どちらが後部座席に座ってもいいように準備していると、彼も気付いたのか少し考える風情だった。祐樹の視線と彼の視線が絡み合う。どちらも困惑の色を浮かべている。その静寂を破ったのは母だった。
「祐樹、事故を起こした時に一番危険なのは車の前に座っている人間でしょう?」
 祐樹が何と答えようかと思っていると彼が助け舟を出す。一概には言えない質問だったので。
「いえ、事故によりますが…後ろから追突されれば後部座席の方が危険です。しかし、交通事故死亡率は圧倒的に助手席と運転席の方が高いですね…」
 寒さの余り息を白くした彼が説明する。どうして救急救命室に現役で勤務している祐樹よりも彼の方が詳しい説明を迅速に行えるのかはやはり頭脳の差なのだろうか…。
「じゃあ、聡さん、私と一緒に後部座席に乗りましょう。大切な体なのに事故で怪我をしたらたまりませんから…」
 運転手役は慣れているが、そういえば母を乗せたことはない。どれだけ信用されてないか良く分かる。彼はちらりと祐樹を見て済まなそうな目配せをしてくれた。この場で主導権を握っているのは間違いなく母なので大人しく従うことにする。
「で、先に初詣をする?それとも家に帰る?」
 発車させる前に母に確認をした。
「神様にお参りする方が先だとは思うけれども…でもそうなったら聡さんが寒い思いをするからねぇ…」
「お参りをする神社は大きいのですか?つまり、初詣の人達がたくさんいらしていてお参りに時間はかかりますか?」
「そんな大きな神社ではないですよ。ご町内の小さなお宮さんですから。ただ、祐樹の受験祈願にもお参りして…まさかの第一志望合格を果たした有り難いお宮さまでね…」
「では大丈夫です。そんなに時間がかからないのでしたらこの格好でも充分暖かいですから」
 彼はあくまでも母の意見を尊重したいらしい。母が言っている神社ならば参拝にそんなに時間はかからないことは知っている。
「イザとなれば、私のダウンジャケットを貸しますから…。っと、ではなく、私のを着て下さい」
 バックミラー越しに母に睨まれて慌てて言い方を変える。
「それでね、愚息ったら、小さい頃にこの人の父親にカブトムシ取りに山に連れてやると言われて大喜びで…『カブトムシとクワガタ虫をたくさん取りに行くんだ』と水筒をぶら下げていたのですよ。収穫は小さなクワガタ虫だけだったのですがね。この人の父親が『疲れた上に咽喉が渇いてたまらなかった』と愚痴を言って。『祐樹が水筒を持って行きませんでした?』と聞いてみたら…『あの水筒は空だった』と。私はてっきり父親がお茶を詰めていたと思い込んでいまして…父親は私が持たせたと思ったらしいのですが…そんなそそっかしい子供でしたねぇ」
 幼い頃の失敗談を暴露されて顔が赤くなった。バックミラー越しに彼の顔を見ると、笑っていいものか困った顔をしている。本心では笑いたいが祐樹の前なので我慢しているのだろうな…と思わせる表情だったが。
「母さん、そんな昔話をしなくても…」
「年寄りは昔話が大好きと相場が決まっていますからね。家に帰ったら祐樹のアルバムもお見せしましょうね」
「それは…是非とも拝見したいです。それに祐樹がそんなにそそっかしい子供だったとは思いも寄りませんでした」
 彼のリラックスした口調にはホッとする。
「そそっかしさは直りましたか?」
 母は少し真剣な声で彼に質問している。きっと仕事振りを案じてくれているのだろうなと。
「ええ、仕事は几帳面で丁寧です。それに大胆さは私も驚かされることが有ります。ただ、外科医にとっては慎重さに裏打ちされた大胆さは得がたい適正です」
「ああ、昔から怖いもの知らずでしたからね…あれはどこの遠足かは忘れましたが、日本庭園に行ったことがあって…愚息ったら庭園の池で泳いでいた立派な錦鯉を手掴みで取って『先生、捕まえた』と得意げに見せて…先生が慌てて『直ぐに離しなさい』と怒鳴られたこともありましたね…。あの時から大物狙いなのでしょうか…?」
 過去の恥ずかしい出来事を次々と暴露されて赤面ものだったが。「大物狙い」と発音する時の母の口調には複雑なニュアンスが潜んでいる。しかし、幼心に掴まえたいと思って無心に行動した錦鯉と成人してから真剣に好きになった最愛の彼を一緒にされてはたまらない。
「大物狙いって…綺麗だから掴まえたかったし、自分の傍にいて欲しいと思った、もちろん大切にするし幸せにする。それだけだよ。別に大物だからってことはない」
 含みのある口調に気付いたのかバックミラーに映った彼の顔は神妙な顔をしている。母も真剣な眼差しながらも笑顔で祐樹の顔を鏡越しに見ていた。
「ここだろう?」
「そうそう。よく覚えていたね。祐樹にしては上出来だ」
 町内の小さな神社なので駐車場などはない。それに京都市内とは異なり駐車禁止の標識もない。車を停めても迷惑にはならない程度の道路の幅もある。
 鳥居に一番近い所に車を停めて助手席のシートを移動させる。彼は母の手助けをして車を降りているので、その隙にダウンジャケットを脱いだ。
「これを着て下さい。私の代わりになる医師はたくさん居ますが、貴方の代わりになる人は居ません。それに何より貴方に風邪を引かせると自分で自分が許せなくなる」
「いや、本当に大丈夫だから…」
 彼の澄んだ瞳が困惑の色を湛える。ジャケットを手渡そうとしても受け取らない。
「遠慮せずに着てくださいな。バカは風邪を引かないと昔から言いますから」
 近寄って来た母は優しげに彼に言った。彼を前にした母の毒舌には免疫が出来たようだ。そんなに腹も立たない。祐樹の手から上着を取ると背伸びをして彼の肩に着せ掛ける。
「有り難うございます」
 くすぐったそうな明るい微笑を浮かべてジャケットを羽織った彼は病院前で祐樹が渡したマフラーを手早く解くと、祐樹に返してくれた。
 マフラーには彼の体温と香りが仄かに伝わっている。首に巻くと彼を感じているようでとても暖かい。
 三人でお参りを済ませて車に戻った。京都市内独特の底冷えのする寒さとは別種の、日本海から吹いてくる風が冷気を運んでくるようだったので。祐樹もあまり風邪は引かない体質だがこの温度では油断は出来ない。車内はエアコンの暖気が残っていて生き返った気持ちになる。発車させる前に是非とも聞きたいことがあった。
「随分長いお祈りだったけど、何を祈っていたの?」
 金銭的には慎ましい母にしては珍しく千円札のお賽銭も気になった。硬貨しか賽銭箱に入れているのを見たことがなかったので。
 彼も、祐樹が祈るよりも長く神様――どんな神様を祀ってあるのか祐樹は知らなかったが――に祈りを捧げていた。お賽銭は硬貨だったが。
「決まっているだろう?祐樹が聡さんに愛想を尽かされないようにだよ」
 その言葉に祐樹よりも彼の方が驚いたようだった。涼やかな目を大きく見開いている。おもむろに顔を伏せて何かを堪えるように細い肩を震わせてから母に向かって深々と頭を下げた。

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 18禁だけを更新するのは、何となく嫌なので(苦笑)こちらも更新致します。新作よりもこちらが断然簡単なので…
 新作は、もう少しお待ち下さいませ。勝手を申しまして誠に申し訳ありません。
 初詣編もこちらに纏めてしまえという…行き当たりばったりのような…。実家行きは次回になります。読んで戴ければとても嬉しいです。
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こうやま みか

Author:こうやま みか
素人の完全な趣味で「ボーイズラブ」小説を書き始めました。
全然上手くないのですが、コメント頂ければとっても嬉しいです。
またヤフーブログが本館扱いで、こちらでは当面(ってイツ?)旧作を掘り起こして掲載していきたいと思います。
著作権は放棄しておりませんので、無断転載などは禁止させて頂きます。何卒ご了承くださいませ。

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