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「気分は、下克上。」~お見舞い~4





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 少しは「愛想尽かしをされないように」という祐樹だけに非があるお祈りかと…どれだけ信頼されていないのかとゲンナリした。が、それだけ母も彼のことを気に入ってくれているのかと思うとそれはそれでとても嬉しかったが。
「それはいいね。母さんのお祈りが効くように俺もお賽銭を弾めば良かったかな?」
 下を向いて顔が見えない彼の気持ちを引き立てようと軽い口調で言う。
「祐樹は神様も仏様も信じていないのだから、却って逆効果ですよ。『大学に合格しますように』とお願いに上がった日も私一人で行ったからこそお願いを聞いて下さったのだとつくづく思います」
 そういえば、入試前の初詣は寝過ごしてパスしたっけと思い出した。
「そういえばあの日は勉強疲れで寝過ごしたよね?」
「お正月から寝過ごすなんて、育て方を間違えたとしか思えないね、まったく…」
 病人のクセにどれだけ元気なのかと少しは思ったが。母も横目で彼を心配そうに見ている。
「受験生は疲れているものだよ…何しろセンター入試が近いし…それに模擬テストの判定もヤバかった」
 模擬テストの結果は当時全て母にも見せていたから母にではなく彼に聞かせるための言葉だった。
「あの時はどれだけ気を揉んだか分からないよ…それに初詣の日に寝過ごしたのは勉強疲れじゃないだろう?大晦日に友達と『気晴らしだ』と言い訳して遊びに行ったのが原因だったと覚えているのですけどね…。聡さんは、模擬テストの判定は良かったのでしょう?」
 いきなりの指名に顔を上げた彼はすっかりいつもの落ち着いた微笑を浮かべている。
「はい。まあ、そこそこは…受験しても大丈夫というレベルでしたが」
「流石ねぇ…A判定?祐樹はCでした…ひどい時はDでしたからね…」
 恥ずかしい過去を次々と暴露されて赤面モノだったが。学年が同じだと個人情報が今よりも公開されていた時代だったので模擬テストの上位者は氏名が公開されているハズだ。
物持ちの良い母のことだから祐樹の模試一式も捨ててはいないだろうから確かめようがあるが、彼とは学年が違うので真偽のほどは確認出来ない。
「Aだったことも有りますが…違った時も…」
 肉親のえにしが薄い彼を気遣って話しを変えた方がいいような気がした。大学受験当時に心配してくれる人は元婚約者の家族しか居なかったハズなので。
「そういえば、昼食の時間ですが、どうします?
 母は食餌制限が有りますが」
「私には遠慮しないで…聡さんはお腹空いていますか?もしそうならどこかのお店へ行きましょう。食餌制限は確かに辛いねぇ…塩っ辛いものを思いっきり食べたいよ…。でも病気だから仕方がないね…。折角家に帰れるのだから本当なら手料理を作って聡さんに食べて貰いたかったのですが…」
 彼はきっぱりした顔で母を見た後に祐樹の瞳をバックミラー越しに窺う。
「私はそれほど空腹ではありません。祐樹は?」
「私も時間通りに食事が摂れる仕事ではないことは貴方も良くご存知ですよね…大丈夫です」
「聡さんの方が忙しいのだろう?祐樹に気を遣わなくても…」
 母は祐樹を睨んでから、労わる眼差しを彼に向けた。
「いえ、私の方は手術以外と受け持ち患者さんの診察を別にすればデスクワークですから。それに比べると祐樹の方が救急救命室の出向で食事を摂る時間がないのは本当です」
「素人目には研修医の先生の方が暇そうだけど…。それに威張っていますしね」
 あくまでも母は案じる眼差しで彼を見ている。
「それは…お母様が市民病院に入院されているからです。一連の医療改革で研修医の受け入れ制度も変わりました。大学病院に残ろうとする研修医は減少傾向にあります。市立病院や、私立病院の研修医はお客様扱いですし待遇も良いのですが、大学病院は旧態依然としていますから待遇は最悪です。本当に体力と根性がなければ無理です。それに自尊心を傷つけられることも多いですし…。祐樹が大学病院に残ってくれて本当に良かったと思っています。市立病院の研修医の方がよほど楽に働けます」
 もし祐樹が同じことを言ったとしても母は信じなかっただろうが、彼の言葉はすんなり母の心に染み込んだらしい。
「祐樹は聡さんのお役に立っているのですね?」
 彼は涼しげで暖かい微笑を浮かべる。
「ええ、とても助かっています」
 その言葉には万感の思いが込められていることは祐樹だけではなく母にも伝わったようだ。母も安堵した表情で微笑する。
「祐樹が足を引っ張っていないかとても心配でしたが、大丈夫そうですね。研修期間が終わっても大学病院に残るのだろう?」
「ああ、その予定だけど…」
 彼は複雑なニュアンスを瞳に浮かべている。
「もしお母様がお望みならば喜んでこちらの病院に推薦状を書きますが…」
「とんでもない。こんないい加減で頼りなくて何をしでかすか分からない愚息が同じ病院に居るかと思うと毎日がハラハラで治るものも治らないです。どうか、みっちり仕込んで下さい。私生活は別にして仕事では遠慮しないで下さいね」
 遠慮なんかされてないと言おうと思ったが…ヤメにした。確かに彼の要求する仕事はハードだが、祐樹が将来良い勤務医になるために必要だと彼が親身になって判断したことだとは分かっている。
「はい。指導医として精一杯努めさせて戴きます。私は先ほどの神社でお母様のご容態が良くなることと、祐樹がずっと一緒に居てくれることをお祈りしました」
「まあ、有り難いことです。祐樹は、多分私のことなんて神様に祈ってくれませんからね」
 図星だった。「ずっと彼と居たい」ということしか祈っていなかった。話題転換も兼ねてギアを入れて車を動かす。
「家で良いね?」
「聡さん、本当にお腹は空いてないのですか?」
 祐樹を無視して母は確かめている。バックミラー越しに窺った彼はとても嬉しそうに微笑んでいる。本当に空腹ではないのだろう。彼は食が細い上に旅館の朝ご飯――旅館はどこでもそうだが、普通の家の朝ご飯よりも豪華だし量も多い――をほとんど残さず食べてきている。
「ええ、全く空腹では有りませんので…それに祐樹が育った家を是非とも拝見したいです」
「普通の家ですよ…それにお正月に帰宅するとは思ってなかったので…お正月さんを迎える準備も出来ていませんし。掃除は時々近所の方がして下さっていますが…」
 9年ぶりの実家に向かってスカイラインを走らせた。
「ご入院中なら当たり前です…こちらこそ無理を申し上げて申し訳なく思っています」
「祐樹の部屋は出て行ったそのままにしていますからね。高校時代とそんなに変わっていません。まあ、あんまり汚かったから見かねて整理整頓はしましたが」
「それは楽しみです。是非ともアルバムも見せてください」
 彼は楽しそうに唇を弛めている。
「それはもちろん。そうそう、祐樹は昔から色んなことをして学校の先生を困らせたり困惑させたりしたものでしたが…上司である聡さんは本当に困っていませんか?」
 今度は過去のどの話を暴露するつもりだろう?バックミラー越しに彼にアイコンタクトを試みる。「笑いたければ笑って下さい」と。
「ええ、全くそんなことはありません。むしろ私のことを心配して色々と手助けをして貰っています」
 彼が言っているのは医局のゴタゴタが起こった時のことだろう。母は満足げなため息をついた。
「祐樹も大人になったのねぇ。あれは高校の宿泊研修の時だったかしら。落柿舎に行ったことが有りまして…文化財なのに、落柿舎の垣根の竹を数本抜いたことも有りました。あの時も高校の先生に平謝りをしたのは私です」
 彼の肩が揺れている。必死で笑いを堪えているのが分かる。
「あれは…建物だけが文化財だと思っていたんだ。まさか無造作に突っ立っている普通の竹の垣根までも松尾芭蕉の弟子の丹精だとは思いも寄らなかった。どう見ても適当に立ててあるとしか思えなかったし…」
「侘び寂びを理解出来ない愚息で…本当に情けないです。」
 彼の肩の揺れが大きくなる。自分の過去の愚行が彼に知られたのは少し恥ずかしいが、彼を笑わせたのだからヨシとしよう。
「ここが実家です」
 そう言って車を路地に停めると彼は今まで笑っていた(であろう)顔を起こして神妙そうな顔で家を見た。
「母さん、鍵下さい。先に行って客間を暖めてくるよ。車のエアコンはこのままにしておくから身体を冷やさないようにね」
「あ、私も行く」
 母は財布から鍵を取り出し祐樹に渡したが。彼の方を向いて優しく制止した。
「家の中は昔からの灯油ストーブしか有りませんので、愚息が部屋を暖めてから行きましょう。いいね、祐樹」

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こうやま みか

Author:こうやま みか
素人の完全な趣味で「ボーイズラブ」小説を書き始めました。
全然上手くないのですが、コメント頂ければとっても嬉しいです。
またヤフーブログが本館扱いで、こちらでは当面(ってイツ?)旧作を掘り起こして掲載していきたいと思います。
著作権は放棄しておりませんので、無断転載などは禁止させて頂きます。何卒ご了承くださいませ。

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