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「気分は、下克上。」~お見舞い~5





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 久しぶりに見る実家は祐樹が家を出てから時間を止めたのかと思うくらい何も変わっていなかった。ただ、丹精を込めて磨いてくれる主婦の不在を示すガラスの曇りなどは祐樹が暮らしていた時にはなかったものだが。母の言葉通り近所の人が掃除には来てくれているようで目立った埃はなかった。
 灯油も祐樹が覚えている場所にキチンと置いてある。客間のストーブに灯油を入れて部屋を温める。この辺ではごくごく普通の年代モノの一軒家だ。懐かしさの余り周りを見回す。
 二階のかつての自分の個室はどうなっているのだろうと階段を上がる。少し埃っぽい感じはするものの、おおむね綺麗だ。同じ学部の友達は比較的金銭的に恵まれた人間が多かったので自分の部屋はそのままになっていると聞くことが多い。が、他の大学に行った高校時代の同級生などは下宿して家を出てしまうと兄弟達の個室になってしまったり――祐樹には兄弟は居ないが――物置に変貌してしまったりという嘆きも良く聞く話だ。
 部屋の扉を開けると、祐樹が大学入学のために出て行った時のままの状態に保たれていた。机や旧式のパソコンやCDプレイヤーや本棚は掃除以外で触られた形跡もない。ベッドにはさすがにベッドカバーは掛けられていないが。ここを掃除する時の母の心境を思いやって「親不孝をしていたな…」としみじみ思う。母の気丈さに甘えた結果がこの部屋には凝縮している。そして、年末年始の休みに――夏休みは、まだ母に対してどう接していいのか気持ちの整理がつかなかったのだろう。それにお盆の時期はご先祖様があの世から帰ってくると信じられている。母には親近感を抱いたにせよ、田中家のご先祖様(といっても祐樹にはピンと来ないが)に律儀な彼は顔向け出来ないと思ったのではないかとフト思う。京都市内で育った彼は仕事面でこそ論理的な思考を得意とするが、情緒面は「京都人」だ。昔からのしきたりなどに自然と馴染んでいる。そこが京都府の日本海側に育った祐樹などとは違う――祐樹の母の見舞いに行こうと言ってくれた彼は母の寂しさも親身になって考えてくれているのだな…と。祐樹の部屋にだけ勉強がはかどりますようにと設置されたエアコンの電源を入れた。エアコンは使ってないと独特の埃とカビの臭いがするが、母はマメにフィルターを掃除してくれたのか、それとも近所の人にお願いしてくれたのか不快な臭いは全くしない。何時でも帰って来てもいいように準備された自分の部屋。
 母が車内で祐樹の思い出話を彼に暴露したのは赤面の至りだが、それも母の愛情の証なのだと思い知る。そして、昔話を彼と共有することで彼の気持ちをさらに祐樹に向けさせる密かなたくらみがあったのでは?と思う。記憶の共有が――それが伝聞であったとしても――心理的な絆を強化することは心理学上の常識だ。母は多分、教科書ではなく経験としてそれを知っているのでは?と思った。
 自分の部屋も彼に見せようとエアコンは付けっぱなしで客間に下りた。ストーブも最強にしておいたお陰で春の陽だまりの温度だった。ただし、台所などは寒いが。
 玄関から出て車に向かう。後部座席ではまだ祐樹の幼い頃の失敗談を話しているのか、祐樹が同乗していた時は祐樹に遠慮して笑いを堪えていた彼が声を立てて笑っている様子が見えた。その表情はとても楽しそうで暖かな雰囲気をまとっている。涼やかな切れ長の目尻には笑いすぎたせいの涙の小さい雫が煌いている。彼の左手の小さいダイヤよりも綺麗だった。
 後部座席の窓をノックすると、二人は同時に振り向いた。運転席のドアを開けて、座席を倒す。母が車外に出ようとするのをさりげなく手助けしている彼の動作は「かいがいしい」という言葉がぴったりだ。
 車外に降り立つと、眩しげに祐樹の家を見る。
「どこにでもある田舎の一軒家ですよ…。それに内部はかなりガタがきています」
 母の手前もあってそっと囁く。彼は手早くダウンジャケットを脱ぐ。
「ここが祐樹の育った家…なんだな。まさか祐樹の実家に招かれるとは思ってもいなかった」
 神妙そうに、そしてとても嬉しそうに彼も囁く。
「聡さん、寒いですから早く入って下さい。マナー通りに玄関に入る前にコートを脱いで下さるのはとても感激ですが…風邪を引いたら困ります。愚息はどうでも良いけど…それに古くて汚い家で済みませんが」
「いえ、迎えて下さって本当に有難うございます。失礼します」
 深くお辞儀をすると、母の先導に従って玄関に向かう。
「祐樹、客間のストーブは大丈夫だったかい?」
「ああ、ちゃんと灯油を入れて温めた」
「客間はこちらですよ?」
 立ちすくんでいる彼を促した。たたきで靴を脱ぐと、彼は母の方を向いて神妙な眼差しで問いかける。
「私のような者でも差し障りがなければお仏壇を先に拝ませて頂きたいのですが…ご迷惑でなければ…ですが…」
「なぁ、お若いのに感心なこと…差し障りなど全く有りませんよ。ただ、お仏壇の部屋は寒いですが…」
 母は心から感心した声を出す。
「いえ、やはり先ずは祐樹のお父様にお線香をと思いまして。ご迷惑かも知れませんが…」
「迷惑なんてことはないです。きっとあの世で喜ぶと思います。祐樹なんてお仏壇?そんな物…ウチに有ったっけ?と言うのがオチですから」
「仏壇が有ることくらい知っているよ。ただ、拝んだことがないだけだ」
 母はウンザリした眼差しを祐樹に一瞬注いだ後、彼をいそいそと仏間に案内する。といっても4畳ほどの小さな部屋だが。仕方なく祐樹も後に続く。お線香とマッチを出した母は、まず自分で仏壇を拝む。鉦を鳴らした後で、お線香とマッチを彼に手渡した。彼は厳粛な表情を浮かべて細く長い指でマッチに火を点けお線香に火を移す。お線香の炎を5本の白魚の指を扇のように動かして消してからお線香を立てて長い時間手を合わせていた。
「寒いですから…もうその辺で…」
 そう母が案じる声を出すまで背筋を伸ばして正座して合掌している様子はとても真摯だった。
「お仏壇を拝ませて戴いて有難うございます」
 彼は一仕事終わった安堵を漂わせる声で母に礼を言っている。
「いえいえ。お若いのにご立派なこと。それに拝んで下さって有難うございます。寒いですから客間へどうぞ。祐樹、お茶の用意をして下さい」
 そう言われて絶句する。お茶はこの家に暮らしている時はどこからともなく出てくるのが当たり前で、置き場所がどこにあるのか全く知らなかった。
「いえ、お茶くらいでしたら私が煎れますが…」
「とんでもない。聡さんはお客様なのですから…祐樹、まさか病人にお茶を煎れさせるようなことはしないだろうね」
「はいはい。分かりました」
「『はい』は一回」
 彼と母を客間に座らせると仕方なく台所に行った。急須とヤカンと――沸騰機能の付いた電気ポットは有ったが、ヤカンで湯を沸かす方が早いだろう――湯のみ茶碗はかろうじて発見出来た。だが、茶葉を入れている容器が見つからない。途方に暮れていると、彼が静かに台所に入って来た。先ほど祐樹の恥ずかしい過去の暴露話が効いたのか唇にほんのりと笑みを浮かべている。
「こんなに時間が掛かっているのは、多分祐樹にはお茶の葉を入れている茶筒が分からないだろうとお母様が仰って。お母様が立とうとなさったので置き場所を聞いてきた」
 彼の細い指が迷うことなく乱立した金属製の筒の中から一つを取り出す。開けてみると玉露と書いてあるお茶の包みが未開封のままで入っていた。
「助かりました。何しろ台所は未知の領域でして」
 そう言いながら、急須に茶葉を入れて熱湯を注ごうとした。
「それは玉露だろう?沸点に達したお湯はまずい。少し冷ました方がいい。まずお茶碗にお湯を注いで冷ますのが一般的だが…」
「貴方は何でも良く知っていますね」
 彼の記憶力には驚かされてばかりだ。彼の生い立ちから考えるとこの知識も本か何かで知ったハズだ。
「ああ、これか…アメリカ時代は、日本の作法を聞かれることが多かったので本を数冊読んだ程度だが」
 彼はふんわりと微笑む。お茶碗に注意深くお湯を注いでいる両手を見るともなしに見ていると左手の指輪の周りに昨日祐樹が付けた情痕が、古びた台所という日常生活の中ではひどく淫靡な雰囲気をかもし出していた。


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こうやま みか

Author:こうやま みか
素人の完全な趣味で「ボーイズラブ」小説を書き始めました。
全然上手くないのですが、コメント頂ければとっても嬉しいです。
またヤフーブログが本館扱いで、こちらでは当面(ってイツ?)旧作を掘り起こして掲載していきたいと思います。
著作権は放棄しておりませんので、無断転載などは禁止させて頂きます。何卒ご了承くださいませ。

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