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「気分は、下克上。」~お見舞い~6





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「多分この位の温度で大丈夫な筈なのだが…」
 真剣な眼差しと慎重な手つきでお茶を三等分していた彼は、祐樹の視線に気づくと不思議そうな表情を浮かべた。
「貴方がこんな昔風のキッチンでお茶を入れているところはとても新鮮な眺めですね。マンションのキッチンでの貴方は見慣れましたし調和していますが…」
 彼は切れ長の瞳を懐かしげに細める。彼のマンションの台所はグレードに相応しくドイツ製のシステムキッチンだ。
「私だって幼い頃はこういう台所だった。何となく父母が生きているような気がして懐かしくてならない」
「母はご存知のような病気ですが、今日もお分かりになられたでしょう?とても元気で、しかも貴方をとても気に入っています。貴方も余計な気遣いなどせずにもっとリラックスして下さいね」
 唇を弛めた彼は思い出し笑いをかみ殺している。
「幼い頃の祐樹のエピソードを色々聞かせて頂いた。笑っていいのかとても悩んだが…結局笑ってしまった。意外にも色々そそっかしい子供だったのだな」
「いくらでも笑って下さい。幼少の出来事ですから…」
 先ほどから気になっていた彼の左手の薬指をそっとなぞる。彼の身体が幽かに震える。
「お茶…持って行かないと…お母様が…」
 いくらか上ずった声と頬に一刷毛紅梅色が刷かれたのも新妻の初々しさとはこういうものだろうな…と思う。
 彼は自分との行為が馴染むにつれて、悦楽の深淵を止め処なく極めているのは知っている。が、基本的に場所の雰囲気を気にするタイプだ。オフィシャルな場所での情事などはもっての外だし、祐樹の実家というのも彼にとっては――特に母が居ることもあって――そういうコトをしてはいけない場所と位置づけられているようだ。
「ああ、そうですね。折角聡が丹精込めて煎れて下さったお茶ですから。私が持って行きましょう。火傷でもしたら大変です」
 玉露を煎れるためにしなやかに動く指と銀色の指輪…そしてその周辺を飾る情痕に目を奪われていたせいで、熱湯を彼に使わせてしまったなと反省する。
 本来ならばお茶入れは祐樹の役目だ。彼が指に熱傷(火傷のことだ)を負ってしまうと手術スケジュールに大幅な変更が出る。その点、祐樹は柏木先生などに替わってもらえばいいわけで、手術のスケジュールに変更は出ない。それに母も「祐樹に」お茶入れを命じた。彼は茶葉の在り処を教えに来たに過ぎないのに。
「ああ、では先に客間に戻っているから。その前に、この戸棚を開けていいか?」
「ええ、別に構いませんが?」
 お茶は煎れ終ったのに何をするのだろうと見ていると木で出来た小皿を手品のように出した。そういえば母もお茶碗の下に何か敷いていたっけ。お茶の用意が済むと彼はしなやかな動作で台所を出て行った。出る間際にちらりと祐樹を見る目が暖かい。
 彼が去った台所は妙に寒々としていた。彼の控えめに付けているシトラス系の香りが少しだけ漂っていて遣る瀬無い。やっとのことでお盆を探し出してお茶を運んだ。
「お茶…これで良かった?」
 客間のドアの外から声を掛ける。彼が扉を開けて中に入れてくれた。何しろ廊下も寒い。病気の母に――全く病人らしさは感じられないが。そういえば祐樹の周りには病人らしくない病人が妙に多い。救急救命室を密かに采配している鈴木さんを始めとして――なるべく寒い思いをさせたくないという彼の心配りだろう。
 客間では祐樹のアルバムが広げられていた。彼は目を輝かせてアルバムに見入っている。その写真に母が説明を加えている。
「お茶…これで良かった?」
 祐樹が小皿ごと母の前にお茶を置き、次に彼にも同じようにした。最後に自分の分を置いたのだが。
 検分するように全体を見てその後お茶を口に含んだ母はおもむろに言った。
「このお茶は、祐樹が煎れたのではないですよね?聡さんでしょう?」
「ああ、そうだけど?」
「何か不手際でもありましたか?」
 声が重なってしまった。彼はとても神妙な顔をしている。学部生の時に十分なテスト対策が出来ず自信のない講義の口答試験を受ける時、祐樹もこんな顔をしていただろうな…と思わせる顔だった。
「いえ、とっても美味しいですよ。それに玉露の煎れ方も申し分ないです。それに茶托を用意するなどは祐樹には思いつかなかったでしょう。祐樹だったら、カップラーメンに熱湯を注ぐのと同じ要領で大雑把に入れてくるのが関の山ですからね」
 全ては母の言う通りなので反論出来ない。ああ、あの木製の小皿は茶托というのかと一つ賢くなった。
 彼は横で安堵の吐息を零している。
「良いお育ちをされたのね…」
 母の目は祐樹を見るよりももっと優しげだった。
「いえ、幼い頃に両親を亡くしましたので…アメリカ時代に日本文化に興味の有る同僚に聞かれてその時本で読んだだけです」
「…そうだったわね。年寄りはダメですね。重要なことを覚えても直ぐに忘れてしまいます。とっても美味しい玉露…有難う、聡さん。
 そうそう、台所の食器棚の隣にちょっとしたノートや料理の本を並べたところがあるから、祐樹、その中から『お節料理』と書いた大学ノートを持って来て。それくらいなら出来るだろう?私は聡さんに祐樹の写真を見せているから」
「はい、はい」
「『はい』は一回」
 肩をすくめて出て行く。祐樹としては幼い頃の自分の写真に彼がどう反応するか見てみたかったのだが。
 今度は直ぐに見つかった。かなり古びたノートだった。母が若い頃――そんな頃が有ったとは想像を絶するが――お姑さん(祐樹が物心も付かないうちに亡くなっているお祖母さん)に教え込まれた田中家のお節料理のレシピに間違いはないかと内容をチラッと見て確かめた。何年もそのノートは使われているらしく、ページによっては料理の汁と思しき染みがついている。
 今度は自分で客間の扉を開けた。
「これだろう?」
 内容からみて合っている確信はあったが、もしかしたら全二冊ということも考えられる。もしそうならもう一度寒い台所に戻るために立ったまま手渡す。
「ああ、そうそう。聡さん、おせち料理とお雑煮の作り方が全部書いてありますが、忙しい貴方が本当に作るつもりですか?無理にしなくてもいいのですよ?」
「いえ、私の仕事は主に予定が定まっている手術ですから、お正月休みはキチンと取れます。むしろ取りにくいのは救急救命室とも兼務している祐樹のほうです。
 本来ならばお母様に直接教えを請いたいのですが、ご病気がご病気なので…何とかこのレシピ通りに作ってみます。塩分を使わない料理がありましたら、来年は作って持って参ります。味見をして頂きたいので…」
 レシピに目を落としざっと見ている様子だが、彼の場合はそれだけで記憶にインプットされているのだろう。
「来年のことを言うと鬼が笑うと言いますけど…でも、とっても楽しみです。来年は少しはましなお正月さんを迎えることが出来ます。それまでに祐樹が愛想尽かしをされないでいると好いのだけれども…」
 年寄りの話は無限ループだといささかゲンナリする。
「祐樹もそこに突っ立ってないでお座りなさい」
 祐樹が座るのを待って、母は真剣な顔になる。今までの和気藹々とした雰囲気が嘘のように厳粛な空気が部屋を支配する。
「聡さん…貴方は、愚息とずっと一緒に居てくださる気持ちは変わりませんか?」
「はい。出来ればずっと一緒にいたいと思っています。祐樹が望む限りは…ですが」
 彼はノートから顔を上げると母をまっすぐに見て真摯な声で言った。
「祐樹は…どうなの?」
「もちろん…彼と一緒に居たいと思っている。電話でもそう言ったよね?」
「聡さん…貴方は愚息にはもったいないような方ですが、好きになって下さって有難うございます。そこで、聡さんを私の養子として迎えるというのはどうだろう?指輪を託した日からどうすれば一番好いか考えてきたのだけれども」
 思いがけない母の言葉に、祐樹は制止の声を上げた。

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 本当は新作を書かないといけないのですが、なかなか体力・気力が戻って参りません…。
 「教授、理想のお嫁さんですね」と複数の方からコメントが…私もそう思います。
 いつもコメント返しが出来ないのに、コメント有難うございます~!
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こうやま みか

Author:こうやま みか
素人の完全な趣味で「ボーイズラブ」小説を書き始めました。
全然上手くないのですが、コメント頂ければとっても嬉しいです。
またヤフーブログが本館扱いで、こちらでは当面(ってイツ?)旧作を掘り起こして掲載していきたいと思います。
著作権は放棄しておりませんので、無断転載などは禁止させて頂きます。何卒ご了承くださいませ。

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