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「気分は、下克上。」~お見舞い~8

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「では、この部屋で…キスしたのは私が初めて…なのか?」
 彼が妙に真剣な眼差しで聞く。
「もちろんですよ?この部屋に他人を招き入れたことがないのですから」
 どうしてそんな論理的に必然なことをわざわざ確かめるのかは分からないが。ただ、彼の眼差しが暖かな春の日差しを思わせるものに変化した。
「祐樹はモテただろうから…この部屋でもたくさんの人とそういうことをしているのだと思っていた。お母様はお仕事で不在のことが多いと聞いていたので」
 モテるのは私ではなく、貴方です…と言いたいが言えない。言っても信じないか実名を挙げろと迫ってくるのがオチだ。産婦人科の准教授の「香川教授攻略作戦」は純粋に彼を好きになったのではなく下心満載だったので意外にもロマンチストな彼には理解不能のような気がする。それ以外にも狙っている人間は祐樹の見積もりでは十指に余るが、確かな証拠もないので言い辛い。
「そんなにモテてないですよ。それにそんなことよりも…貴方とこうしているほうがずっと幸せです」
 本棚に後頭部を預けた彼の唇を再び奪う。唇の冷たい感触を唇で味わっていると、彼の薄い唇が開いた。舌が祐樹の唇の表面を突付く。早く口を開けてくれと言わんばかりの行動に片手を彼の白い額の髪をかきあげる。彼は閉じていた瞳を開けて近くにある祐樹の瞳を凝視する。眼差しは春のうららかな光を浴びた梅の花の風情だった。
 口を開けて舌の先端部分を絡ませる。ひとしきり感じやすい先端部分を突付いたり舐めたりした後で、彼の舌は祐樹の舌の裏側に忍び込む。舌に関わらず裏というのは性感帯であることが多い。その濡れた感触に祐樹の体温も上昇する。
「ダメです…。これ以上キスしていると、あちらのベッドに押し倒したくなる」
 唇を僅かに離して、彼の香る吐息と唾液で濡れそぼった唇を感じながら正直な心情を吐露する。
 彼は困惑した瞳で扉の方を見遣る。
「それは…下に…。そうでなかったら…構わないのだが」
「それもスリルが有って面白い…」
 もちろん本心ではなかった。困惑に揺れる彼の瞳が、いつまで経っても変わらない彼の初心な部分を強調していて…その清純な色香を宿す瞳を見ていたい欲求に駆られてしまう。
「しかし…」
「ええ、分かっています。今は何もしませんから、適当に座って下さい」
 安堵とも失望とも付かない吐息を零した彼は、辺りを見回して座る場所を探していた。祐樹の部屋は母を除いては祐樹しか入ったことがないこともあって、椅子は勉強机に付いている物しかない。
「本当に、何もしないのだな」
 確認するところが律儀な彼らしくて愛しい。
「ええ、下に母が居るとなると、恥ずかしがって気もそぞろでしょうから。いや、逆に燃えてくれるかもですが…。ただ、行為の後では普通の顔が出来ない貴方であることは分かっています。困らせたくはないので何もしません。本当はデープキスもする気はなかった」
 彼は顔を薄紅色に染める。その様子もとても初々しい。こんなに馴染んだというのに、そして行為の時は祐樹も驚くほどの大胆さを見せるようになったというのに清潔そうな風情は出会った時のままというのも彼の稀有な資質だろう。
 先にベッドに座って、横に彼を座らせる。お互いの息の触れる距離で。ただ、身じろぎすれば身体は触れるが敢えて手も繋がなかった。
「お母様が私を養子にと仰って下さってとても嬉しかった。それに祐樹が止めてくれたのも…私を思い遣ってのことだろう?」
 真剣で怜悧な瞳に涙の膜を張って彼はゆっくりと話し出した。
「ええ、そうです。杉田弁護士に『グレイス』で色々なカップルの養子縁組のことを聞きかじっていましたから。といっても、当時の私は全くの他人事としてしか聞いていませんでしたが」
「当時?今は他人事ではないと?」
「ええ、『グレイス』に入り浸っていたのは貴方の帰国前です。出会いの場所としてよりも、気の置けないお気に入りのバーとしての方で重宝していましたよ。杉田弁護士は学生時代に『グレイス』に行って、ああ、その最初の日に貴方と邂逅したんですよね?全く気づきませんでしたが…それ以来気が向くと行っていたのですが、杉田先生と呼ばれていた人が、弁護士だと知ったのはウチの大学病院が医療過誤訴訟に巻き込まれた時に…訴訟代理人としてウチの大学に来られた時で。先方も、私の本職を知ったのはその時です。『グレイス』では会社員としか名乗っていませんでしたから。尤も、杉田弁護士はそんなに本職を隠そうとはしてませんでしたが、私はひた隠しでしたよ」
「それで、私には職業も素性も明かして付き合ったのは初めてだと言った…のか?」
「ええ、刹那的な出会いしか求めて居なかったですから。ともかく、貴方は地位も権力も財力もお持ちです。私とは背負っているものが全く違う。それに律儀な貴方にこれ以上の精神的負担は掛けられません。今でも母のことについて私以上に心配し、かつ動いて下さってますよね?知っていますよ?貴方が臓器移植チームに研修医として参加させて欲しいと要望をお出しになったこと」
 大学病院は専門分野が普通の病院以上に細分化されている。祐樹の病院でも脳死のドナーから心臓や肝臓をレシピエントの患者さんに移植した例も数例有るが、それは香川外科ではないチームの担当で、心臓外科所属の香川教授といえども部外者扱いだ。ただ、ドナー不足のためにそれほど術例が多いわけではないので、確固とした「科」の扱いではない。チームというイレギュラーな扱いのために、教授クラスだと研修だけで移植医として認められるという病院内の暗黙の了解が有る。但し、外科所属が前提だが。
 母は自分が年寄りだとしきりに言ってはいるが実際は52歳だ。頓挫しかけた「ES細胞」ではなく画期的な「iPS細胞」のよる再生医療の道が拓けた今、医療先進国はこぞってこの万能細胞の人の臓器を再生しようとしている。母の存命中に母の腎臓も作り出せるかもしれない。あくまでも可能性としてだが。その時のために彼は専門外の分野にも熟練しようとしているな…と柏木先生からその件を聞いた時に直感した。
 彼はどう答えるか一瞬躊躇った様子を見せた後控えめに頷いた。
「ドナーからのかけがえのない臓器を移植する際の手術のビデオを全例見た。ここだけの話しだが、手技にも疑問が残るし、手際も良くないと判断した。ドナー移植も将来行われるだろう再生医療も臓器の入れ替えという点では同様の手術だ。今現在、ウチの病院でお母様の手術が行われるとしたら安心して任せることが出来るのは桜木先生しか居ない。しかし…」
「ええ、桜木先生はいわゆる癌の手術しか眼中にないですからね…でも、桜木先生は貴方の手技の冴えをとても賞賛されていましたよ?」
「いや、あの先生は私などよりももっと素晴らしいが…。」
 祐樹自身も桜木先生という悪性新生物――癌の言い換えだ――手術の隠れたスペシャリストの(彼は病院内での地位には固執せず手術だけに全精力を注いでいるので、心臓外科専門の祐樹は不覚にも知らなかった。というのは、教授や准教授という地位に居る人間しか他科の噂にはなりにくいので)存在を知ってから彼の手術のビデオを数件だが見たことが有る。確かに舌を巻く手技だったが、惚れた欲目ではなく客観的に見ても香川教授の方が優れていると思ったものだった。が、彼にそのことを告げても――彼は自分の魅力と能力は過小評価し過ぎのきらいがある――信じないだろうから言及は避けた。
「今でも十分お忙しいというのに…母のことを気に掛けて下さっているのですよね?養子になるともっと束縛しそうで…」
 彼の瞳が悲しげに瞬く。
「いえ、今は束縛されたいです。ただ、誰にだって心変わりがないとは100%言い切れないでしょう?私は貴方以上に好きになる人が出てくるとは思えないのですが…貴方が私を愛想尽かしする可能性は皆無とは言い切れません。その時に養子縁組が足かせになるかも知れませんし…それに、今の貴方の愛情表現で十分満足しています。それに、貴方の資産目当ての積もりは全くないのですが、養子縁組をしてしまうとそんな下心が有ったのではないかと思われるのも切ないです」
「祐樹も知っているだろうが私は天涯孤独の人間だ。探せば親戚も居るかもしれないが…顔も知らない親戚に遺産を受け取って貰うよりは、こんなにも良くして貰っている祐樹やお母様の方に譲りたいと切実に思う。私は長岡先生にチラりと聞いたのだが、相続人が居ない場合は遠い親戚が代襲相続という形で遺産を受け取るケースも有るとか…」

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こうやま みか

Author:こうやま みか
素人の完全な趣味で「ボーイズラブ」小説を書き始めました。
全然上手くないのですが、コメント頂ければとっても嬉しいです。
またヤフーブログが本館扱いで、こちらでは当面(ってイツ?)旧作を掘り起こして掲載していきたいと思います。
著作権は放棄しておりませんので、無断転載などは禁止させて頂きます。何卒ご了承くださいませ。

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