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「純愛と妄執に揺れる心」第一章-9

 久しぶりの直哉の体温と穏やかな寝息に包まれた静寂の中で、純一はホストクラブで飲んだ大量のアルコールと、その後服用した精神安定剤の効き目のせいか思考は散漫になってはいるが、眠気は全く襲って来ない。もともとアルコールは強い方だし、飲みすぎても冷静さは失わないように心して身体を慣らせていた。それに二日酔いの症状である翌朝の頭痛というものは生まれてこの方経験したこともない。精神安定剤も幼い頃から飲みつけているせいか、効き目は鈍い。
 同じベッドで寝るのは本当に久しぶりで、純一は直哉に会った頃のことを思い出さずにいられない。

 あの時はお兄さんが出来てとても嬉しかったのを覚えている。しかし、それ以外の環境は最悪だった。
 「ひまわり園」では純一の微笑が効いたのか、当時はとても精神的に傷ついた「お金持ち」という声は少なくなった。どうすれば根絶出来るかを考えた純一は、「強い人間を味方に付ければ好い」との結論を出した。というのも、当時「ひまわり園」で発言力がある大きなお姉さん――当時はそう思えた。7歳の子供にとって17歳の女性はお姉さんというより大人の女性だった――に微笑んだ時に「困ったことがあったら言ってね」と頭をしつこく撫でられた。ねっとりした手は幼心には不気味だったが、今思えば彼女も母性本能から撫でていたのだと分かる。
「ひまわり園」では養護施設の常で18歳までは生活出来る。18歳を過ぎれば自活の道が待っているだけだった。彼女は高校を事実上中退して働いているとのことだった。本当に高校を中退すると園を出ないとならない決まりらしく、高校に籍だけ置いているという。自由になるお金もかなりなもので…今思えば、風俗関係の仕事だったのだろう。ただし、夜はキチンと施設に帰ってきていたから、昼間に需要がある仕事だったハズだ。
 そこで精一杯困った顔を作って「みんながいじめるのが困る」と言ったところ、彼女の前では純一へのヤジが止まった。一人ずつではなくて、一番威張っている人間を味方に付けると効率が上がると幼心に思った純一は施設の中で、彼女と同じ程度に影響力のある人間を観察して、一人一人に笑ってみようと思ったものだ。
 直哉兄さんにそのことを夜のベッドに潜り込んで告げると、「純一は頭が良いな。そこまで考えることが出来るのか」ととても感心されて、「ひまわり園」の陰の実力者の名前を教えてくれた。「直哉兄さんも苛められないように頼んでみようか?」と言ったが笑って謝絶された。優しい直哉兄さんが実は自尊心の高さを持ち自分の手で人生の蹉跌を修正しようとしていることを知った。他人の力を借りることを潔しとしない人間なのだと。
 他人の手は借りないが、他人である純一にはとても良くしてくれた。
 相変わらず失語症だった純一は、「実母の自殺死体を見てしまったことによる一時的なもの」という医師の診断書と、それまでに受けていた教育のレベルがかなり高かったこともあって、「ひまわり園」の校区の小学校に転校することが許可されていた。
 その初登校の日、純一は久しぶりにゆっくりと悪夢を見ずに眠れたし、朝ご飯をお腹いっぱいに食べることも出来たので比較的元気よく登校した。それに傍には直哉兄さんが居てくれるのでなおさらだ。転校する前の私立小学校のランドセルしかなかったのでそれを背負って、転校する前のようなクラスメイトが居ることには微塵も疑いを持たずにいた。
 転校する前の小学校ではそんな児童は居なかったので声が出ないことはとても心配だった。
 しかし、前の学校では皆がおっとりとしていて、骨折などのケガをしたクラスの友達がいると皆が庇っていた。もちろん純一も先生の言うとおりに当たり前のように骨折した友達の松葉杖を持って来て上げるといった手助けもしていた。今回の学校もそういうものだと思っていた。
 直哉兄さんからは「小学校では『施設の子』と言って苛められる」と言われていたが、実感が全くなかったこともあり、直哉兄さんの昔の話を聞いて上げて少しでも直哉兄さんの精神科への通院が短くなればいいなと思って――病院に通うのは純一も嫌いだったので直哉兄さんもそうだと――直哉兄さんのお話しを強請った。
 直哉兄さんに付き添われて職員室の純一のクラスを担任してくれる先生のところに行った。校門からして今までの学校とは違う。校舎は言うまでもなくくたびれていて…行き交う児童達の目も暗かった。前の学校とは全然違うかも…と直哉兄さんの「『施設の子』と言って」という言葉がにわかに現実味を帯びた。
 その先生も、「ひまわり園」の園長先生のように疲れているのが子供心にも分かってしまう程だった。筆談で自己紹介と「よろしくお願いします」と書き、直哉兄さんも純一のことをお願いしますと頭を下げてくれた。が先生はどこか投げやりに頷くのみだった。学校の先生と言えば、前の学校の先生しか知らない純一はとても戸惑った。何しろ前の学校の先生は皆元気そうで笑顔を絶やさない――もちろん、悪戯をしたり規則を破ったりしたら怒るが――快活な感じのする先生ばかりだった。
 今思えば、純一の通った小学校はいわゆる貧困層の多く住む地区で色々な児童のトラブルを抱えて先生ももしかしたら24時間態勢で働いていたのではないだろうか?小学校の児童専用トイレでタバコの吸殻が落ちているなんて、前の学校では考えられないことだったから。
 下町と言っても色々あるが、あそこは特別な場所だった…と僅かな甘みと圧倒的な苦さで思い出す。江戸時代は遊郭が有ったことで有名な地域だが、今ではソープ街として外国まで有名な場所の近くだった。
 これは純一が小学校に入って二年が経過した時の出来事だが、直哉兄さんが「あそこには絶対に行ってはいけないよ」と言われた場所に偶然迷い込んだことがある。道も細くて入り組んでいるために行ってしまったのだが。そこでは、純一が信じられないことに露店――といっても地面に新聞紙を引いただけの店だったが――に、靴は1つから売られていた。右の靴が数個並び、左の靴も(右の靴とは全く呼応していない)数個という単位で売値が付いていた。
 そんな風景を見るのは初めてで露店の前で立ちすくんでいると、着ている服が元の色が何色かも分からない上に、右と左の靴が違うものを履いた小父さんが真っ黒な顔とヘンな臭いをして近づいて来た。今思えばホームレスかホームレス予備軍と言ったところで、ヘンな臭いとは月単位で入浴もしていない人間の発する臭いだった。
「坊や、可愛いねぇ…小父さんとトイレに行こうか?」
「トイレは行きたくないです」
 その雰囲気に怖くなってそう言い捨ててから力の限り走って逃げたものだったが、あれは正解だったと思う。小学生だった自分はトイレに誘われたのだと言葉通りに解釈したのだが、トイレに連れ込んで酷いことをする下心があったのだろう。

 担任に連れられて教室まで行った。
「小倉純一君だ。今は話すことが出来ないが、クラスに馴染んでくれば、先生は治…」
 生気のない声での純一の紹介は教室中からのざわめきにかき消された。
「ガイジだってね…」
「ガイジだ」
 施設での「金持ち」は意味が分かったが――とはいえ純一の心に太い棘として突き刺さった――今度は同じニュアンスで意味の分からないことを言われ二重に傷ついた。「身体障碍者」の隠語だと後で直哉兄さんに教えて貰った。「『ガイジ』って何?」とその晩直哉兄さんのベッドに潜り込んで書いたところ、兄さんは怒った目をして「そう言った人間の名前を僕に教えろ」と怖い声で純一に言ったものだが。
「静かに!」
 そう先生が怒鳴ってもひそひそ話しは終わらなかった。純一は「ひまわり園」で見かけた子供が同じクラスに居ることを発見した。その女の子は気の毒そうに見つめている。そういえばこの子にも笑ったっけと思って、微笑みかけた。
「何、ブスの平野と同じ施設か?」
 何となく威張った感じのする平野さんの隣の子が大声で平野さんに聞いている。平野さんは曖昧に頷いた。
「施設の子供だって…」
「ガイジで施設…」
 こうなると先生の制止は効かなくなった。前の学校では皆先生のお話はちゃんと聞いたし、叱られたらシュンとしたものだったのに。

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テーマ : 自作BL連載小説
ジャンル : 小説・文学

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こうやま みか

Author:こうやま みか
素人の完全な趣味で「ボーイズラブ」小説を書き始めました。
全然上手くないのですが、コメント頂ければとっても嬉しいです。
またヤフーブログが本館扱いで、こちらでは当面(ってイツ?)旧作を掘り起こして掲載していきたいと思います。
著作権は放棄しておりませんので、無断転載などは禁止させて頂きます。何卒ご了承くださいませ。

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