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「気分は、下克上。」~お見舞い~9

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 長岡先生は仕事以外では完璧な良家の美人子女という外見に似合わず、すっとぼけた行動をする女性だ。が、彼女自身もかなりの資産家らしいし、婚約者も大病院の御曹司だ。 法律問題も彼女の中では仕事に類するものとしてカテゴライズされているようなので長岡先生の言うことは信頼出来るだろう、多分。ただ、この問題は杉田弁護士に聞いてみようと思う。
 話しているうちに先ほどの高ぶった感情が戻ってきたのか、彼が肩幅こそ標準だが肉付きは薄い肩を震わせていることに気づく。
 肩に手を回して、顔を覗き込む。嗚咽は幽かだったが、後から後から涙の雫が溢れては白い頬を伝って流れている。
「泣かないで下さい。情事以外で貴方に泣かれるとどうしていいのか分からなくなる」
 人差し指で滑らかな頬の涙の雫を堰き止めようと試みるが、大粒の水晶を思わせる煌きは止まらない。
「ずっと…一人で生きてきた…祐樹とこういう関係になれただけでも神様からの贈り物だと思えてとても嬉しかったのに…お母様から指輪まで託されて、その上今日は養子縁組の話まで持ち出されて…。夢かと思うほど――そしてもし夢なら覚めないで欲しいと思うほど――驚愕したし感激した。そこまで気に入られるようなことを私はしてはいないのに…」
「いえ、していらっしゃいますね。年末年始の休暇は、貴方が仰るまではどこか外国ででも…と思っていました。そうなれば母は病院で一人――と言っても、誰か親戚とか友達はお見舞いに来るかも知れませんが、息子である私は来なかったと思います…よ?
 それにこの病院に執刀医として来るようになってから必ず私を助手に指名して下さってますよね?その意味は母も分かっていると思います。以前『他に祐樹以上の腕を持つ医師は教授の部下には居ないのかい?』とこっそり聞かれたことがあります。『もちろんたくさん居る』と答えました。
 それに極めつけはお節料理を引き継ぎたいと仰ったでしょう?イマドキの女性で、しかも婚約者ですらそんなことを言う殊勝な人は少ないと思います。
 私がいい加減な息子だから…貴方のような律儀で真面目な方が一生付いていてくれれば母は安心します。その証が養子縁組という一見突拍子もない提案で…。でも母は私のことも考えてくれているようですが、貴方のことも大切に考えて――資産のことについて母は不覚にも知らなかったのは仕方ないですよね――いると思います。以前も言いましたが、母と私は顔だけでなく性格も良く似ているんです。つまり、気に入らない相手だとスゲなくあしらいますよ?あんなにも母が好意的だった例を私は長い付き合いでも知らないです」
「それは、祐樹が恋人をお母様に紹介したことがなかったからなのではない…か?」
 この人は自分の魅力も能力も過小評価し過ぎている…と何度目かのため息が出た。が、過大評価をするような鼻持ちならない人なら祐樹はこれほど惹かれなかっただろう。
 というよりも、彼の方で一介の研修医と道ならぬ恋に落ちるような羽目にはならないだろう。ハナも引っ掛けなかったに決まっている。
「母に紹介する価値があるような恋人を持ったことはありません。貴方だから紹介しようと思いついた」
 彼の瞳を間近に覗き込んで真摯な口調で告げる。彼の涙の雫を宿した睫毛が幽かに揺れる。
「本当に?」
「ええ。それに貴方は母に最初に会いに行く時、『お母様に反対されれば別れる覚悟だ』とも仰っていましたよね?その件も母には伝えました。母はその言葉にもとても感激したらしいです」
「思ったことを率直に言っただけなのだが…」
「ええ、貴方はそうでしょう…いつも思ったことを正直に教えてくれる。でもその真実の響きが人を感動させるのです。私を筆頭に。おそらく母もそうだと思います」
 彼の瞳が困惑の色を湛える。
「私には良く分からないな…思ってもいないことを言うのはどこか卑怯な感じがしてならない。それなら黙っていたほうがましだと思っている」
「そこが貴方の長所ですね。私が貴方を生涯ただ一人の人だと思い定めたのは自分を言葉で飾る習慣のない貴方だからです。
 帰国した貴方には正直含むところは有りましたが…初めての夜は身体の相性が良いとしか思いませんでした。それから二人の時間が多くなるにつれて、貴方の肢体も魅力的だとずっと思い続けていますが…それ以上に貴方の――人となり――の方がより一層私を惹きつけ続けていますよ?」
 高校時代まで誰も入れることがなかった殺風景な自分の個室。そこに彼がいることで、ただそれだけのことで風景にも祐樹の心の中にも華やぎが生まれる。
「そう…なのか?」
 涙の膜越しの瞳が春の日差しのうららかさを帯びた。
「ええ。そうです。貴方のことを知れば知るほど、貴方の丸ごとが私を虜にします。
 ですが、貴方の長所は諸刃の剣ですよね…プライベートではそれで構わないのですが、職場ではマイナスにしかならない。私が研修医の期間を終えても貴方の傍に留まりたいと思うのは、確かに貴方の手技に惚れこんでいてもっと学びたいと思ったことが第一の理由ですが。
 しかし、権謀術数が渦巻く職場に貴方一人を置いておくのは危なっかしくて見ていられないという側面も大きいです…。確かに内科の今居教授は内田講師達の尽力に因ってかつてほどの権力は有りませんが、他にどんな伏兵が出てこないとも限らない」
 内科の今居教授は、斎藤医学部長兼病院長とは犬猿の仲だ。そして表向きは香川教授をアメリカから招聘した張本人と看做されている。斎藤医学部長も外科出身なので、香川教授も斎藤派と思われたわけだ。
 実際は、黒木准教授では教授職を譲るのに若干不安が残ると佐々木前教授が判断した。そして元教え子でもあり、アメリカで著名な外科医として活躍していた彼に白羽の矢を立てたという経緯なのだが。
 今居教授は医学界も未曾有の激震が走っているのにも気づかず、大学病院の教授職やそれに伴う権力抗争には興味があるが、病院改革には全く関心がないというある意味お目出度い思考回路の持ち主だ。その点彼は病院の収益を含め大学病院のこれからのあり方を広い視点で考えている。内田講師はその点を見切った上で上司である今居教授に反旗を翻した。幸い結果は上々だったが、頭の古い教授の中にはまだまだ敵も多そうな気配だった。
 祐樹が養子縁組を躊躇っている理由にもなっている。というのは、戸籍など見る気になれば閲覧する手立てはいくらでも有る。斎藤病院長も二人の仲に気づいている気配は有るが静観の構えで居てくれる。
 しかし、彼を失脚させようとする人間がかつての医局内抗争の時のように現れると二人の関係はモラル的にはあまり好ましくないという理由付けにはなる。特に高いモラルを保持しなければならない教授職に居る彼が「養子」として祐樹の母の籍に入っていることが知れてしまってはマズい。少し世慣れた人間なら養子縁組がこういう性癖を持つ人間の事実上の結婚に等しいということは知っているハズなので。
「そうだな…。確かに祐樹の方がこの病院では先輩だ。それに医局のトラブルの時も私の手足となって動いてくれた。この件は全面的に祐樹に任せる。ただ、私としてはとても感激していたとお母様に伝えて貰えれば有り難い」
 静かに流し続けた涙も止まり、彼の頬に涙の跡が残っている。無垢な子供が母親に向ける笑顔を浮かべて祐樹に告げる彼の口調も落ち着いていた。夜明けの新雪のような笑顔だった。誰も踏みしめたことがない雪を踏み初めたいと望むのは人情というもので。
「ええ、そうしましょう…。この部屋で、貴方を抱きたいと切実に思います。このベッドに貴方の身体の温もりと汗と体重を覚えこませたい」
「だから…」
 彼は頬を少し紅らめると困ったように階下に視線を流す。
「母は一時帰宅です。掃除をしに来る近所の方も、まさか元旦からは来ないでしょう。鍵は持っているので…、母を病院に送り届けてからだといい?」
 本当は実家の鍵など持っていない。ただ、母は長期入院中なので帰宅しないだろう。近所の人に掃除を頼んでいるので――多分あの人だろうな…という心当たりはあったが――その人が合鍵を持っているハズだ。この鍵をくすねても、母がよもやの帰宅をすることがあってもその人に合鍵で開けて貰えるし、その前にもきっと祐樹は仕事絡みで母の病院に来る。その時にこっそり返しておけば問題ないと密かに企んだ。
「それなら…構わない」
 祐樹の肩に顔を預けて彼は吐息混じりに答えた。

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こうやま みか

Author:こうやま みか
素人の完全な趣味で「ボーイズラブ」小説を書き始めました。
全然上手くないのですが、コメント頂ければとっても嬉しいです。
またヤフーブログが本館扱いで、こちらでは当面(ってイツ?)旧作を掘り起こして掲載していきたいと思います。
著作権は放棄しておりませんので、無断転載などは禁止させて頂きます。何卒ご了承くださいませ。

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