スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「気分は、下克上。」 春-45

 香川教授と祐樹の弱みを探ることは、主に香川教授が対象だったと思われる。4月の書類提出の時、3日間ほとんど睡眠も取れず集中力が途切れた時に提出を促されたのは確かだが、もう少し考えていればと臍を噛む。しかし、後悔先に立たずだ。起こってしまったことを嘆くよりも、香川外科に留まることを考えるのが建設的だ。
 祐樹が専門でもないのにAiセンター(死後画像検索センター)の人事に抜擢される切り札に使用されたのかは病院長の明晰かつ権謀術数の頭脳にのみ存在する闇の中でしかない。本人が語らなければ絶対に分からないだろう。
 そもそも切り札は一回切ればそれでジ・エンドなのに。その切り札が祐樹に降って来たのは何故だろう?
「どうして、私がそんな身に余るという言葉で表現不可能なほどの重要ポストに推挙されたのか、全く分かりません。あくまでも私は心臓外科医です」
 心臓外科医という呼称は、外科医とは違って専門性に特化した人間に与えられる。普通の病院で外科を診療しているのが外科医で症例は外科分野なら何でも扱う。たとえば最愛の彼の場合、「心臓外科医」と名乗らず「外科医」とのみ名乗るのは、自分の専門性に誇りを持っていない証拠と見なされる。――もちろん彼はそんな恥知らずの呼称は決して用いないだろうが――
 病院長の目が教え子を諭す教授のようになった。といってもこの人の肩書は教授であることに間違いはない。教授よりも病院長や医学部長が偉いので、「教授」と呼ばれないだけのことだ。
「安易に解答を求めず、自分なりにお考え下さい。これからは、医師一年目の――病院の医師としては最下層と言ってしまっては身も蓋もないですが、事実ですから仕方ないですよね?――医療従事者としてではなく管理職として周囲は見ます。まず、ご自分で判断して、その判断が間違っていないかを先輩諸氏に伺うのが一番です。長い時間を共にしている香川教授にも、答えを求めず、判断結果の是非を問う形が理想です」
 「長い時間」というのも意味ありげな言葉だ。
「そもそも、あらぬ誤解を与えたことは謝罪致します。住所の欄は『今居る住所』だと思い込んで書いてしまいました。
 また、私は救急救命室勤務のために時間が不規則で…手技の手ほどきのために上司であり、また指導医でもある香川教授のマンションに伺っても良いとの寛容なお言葉を頂いております。ですからマンションにお邪魔する機会も少なくはないです。その点は御含みおき下されば幸いです」
 多分医学部長のお考えになっていた「模範解答」通りの言葉だったのだろう。目が少し柔和な光を帯びる。
「ルース・ベネディクト博士がお書きになった『菊と刀』は当然御存じですよね?」
 記憶をスキャンする。確か、大学入試の時に読んだことが有ったような。
「『罪の文化』と『恥の文化』ですか?」
 ロマンス・グレーの頭が満足げに上下した。
「彼は批判も多いが、私は彼の思想に触れて蒙を啓かれた気がしましたよ」
 「菊と刀」の書名を聞いて、何かのワナかと身構えてしまう。文学には造詣の深くない祐樹でも、「菊」が秘められた花びらの場所の喩えで、「刀」は男性自身の象徴ということくらいは知っている。つまりは二人の関係の隠喩も含んでいるのだろうか?
 病院に君臨する天皇の啓示は現実にいらっしゃる天皇陛下の憲法上の地位と同じく象徴的だが、聞き返すと墓穴を掘りそうなので自己規制が働く。きっと「菊」は御紋章で「刀」は武士道のことだろうと無理やり納得する。が、このお言葉は大変象徴的だ、深々度の隠喩――男色の行為――までも含んでいると判断しておかればならないな…とも思う。お言葉の裏の裏まで読み取らなければならない立場にあれよあれよという間になってしまったのだと感慨にふけってしまう。
「日本人は世間の目のみを気にして行動する民族だとね。つまりは『露見しなければ恥ではなく、思い煩うことはない』と博士は述べています。私も同感です。あらぬウワサが立っても必ずもみ消すことは御約束します」
 一定の譲歩は引き出せたようだ。斎藤病院長との謁見がそうそう出来るとも思えないので、もう少し踏み込んでみようと決意する。
「確かに画像読影については勉強していますが、私の専門はあくまで心臓外科です。香川教授が執刀なさる時は第一でも第二でも構いませんので、助手を務めたいのですが、兼任は可能なのでしょうか?非力な私なりにではありますが…失敗例はありませんし、学ぶべき点も多々有ると日日実感しているものですから」
 手の平と額に汗がにじむ。背中には嫌な汗の粒が滴り落ちている。兼任は不可能だと言われてしまったらどうしよう?
 最愛の彼が追い落としの標的になった時、彼は最終兵器を持っていた。退職という。しかし、祐樹はこの最終兵器は使用出来ない。最愛の彼の傍に居たいと希求しているからだ。
 背中の汗の玉がゆっくり滑り落ちていくことを自覚しながら病院長のお言葉を待つ。



_________________________________________________________



ブログランキングに参加させて戴いています。宜しければクリックお待ちしております~!とってもとっても励みになります!!!コメントも熱烈歓迎中です!!!
 ポチっとお願い致します!!!


この作品はヤフーブログで更新中に一部作品に「投稿できない文字列が含まれています」との痛恨のエラーが。なので途中で申し訳ないのですが、こちらでも更新させて頂いております。









スポンサーサイト

テーマ : 自作BL連載小説
ジャンル : 小説・文学

コメント

非公開コメント

プロフィール

こうやま みか

Author:こうやま みか
素人の完全な趣味で「ボーイズラブ」小説を書き始めました。
全然上手くないのですが、コメント頂ければとっても嬉しいです。
またヤフーブログが本館扱いで、こちらでは当面(ってイツ?)旧作を掘り起こして掲載していきたいと思います。
著作権は放棄しておりませんので、無断転載などは禁止させて頂きます。何卒ご了承くださいませ。

FC2ブログランキング
ランキングに参加させて戴いております。ご訪問の際ポチっと。とっても喜びます!!

FC2Blog Ranking

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
カテゴリ
月別アーカイブ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。