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「気分は、下克上。」 春-42

 重厚かつ豪華な部屋に朗々と御言葉が流れる。
「先ほど、田中先生にお忙しいかと伺ったところ、負担ではないとのお返事もありましたし、北教授の推薦もある。救急救命室のMRIが3ステラであることは、放射線科では周知のことですから、3ステラの熟練者であると私が紹介すれば、その点は大丈夫です」
「それはそうですが…しかし…」
 救急救命室にちんまりと備え付けてある――といっても、MRIは強力な磁場を人工的に作るので、周囲に金属を持った人が入らないように目印の結界は張ってあるが――機械がそんなに高性能とは祐樹も思いも寄らなかった。
「しかも、昨日の手術中に患者さんがお亡くなりになったアクシデントに死後画像診断を行おうと言いだされたのは田中先生だと伺っています。とっさの素晴らしい判断力は組織のサブとはいえトップとして得難い素質だと思いますが?」
 いや、その素晴らしい判断力とやらは最愛の彼をどうにかして救いたいと必死に考えた結果に過ぎないのだとは口が裂けても言えない事実だ。それに昨日極秘で行った死後画像診断の画像が病院長室にまで届くとは祐樹の想定外のことだった。
 勝手に大学病院の施設を置田准教授には合コンの餌で釣り極秘にしようと思っていたのに…。ただ、「Aiセンターを作る」とどうやら昨日決意した斎藤病院長は、香川教授の(言い出したのは祐樹だが)放射線科への協力要請は本来ならば越権行為だ。Aiセンターを作ると病院の天皇が思いつかなければ、教授会でつるし上げられる事態になっていたかもしれない。その点では殿様だか天皇だかの気まぐれで助かったとも言える。
 それにしても、アメリカに昨日まで居た人間がどうしてそんなことまで知っているのかと思うと「雲の上の人」の異名は返上した方が適切だと思う。雲の上の人は下々のことなど把握しなくても良いハズだ。多分病院内のあちこちにアンテナを張ってあるに違いない。誰が漏らしたのか聞きたいが、聞ける身分でもない。
「主治医として死因を究明しようとしたその心構えもご立派です。現在、死因が特定出来るのは日本国の場合20%未満ですからね。その点では先進国として情けない限りです。だから医師が『心不全』だとか『心肺停止』だとか当たり前のことを死亡診断書に書くしかない。
 そんな大きな軋みの存在する医療現場の現実に誠実に対応しようとなさった香川教授も立派ですが、そのための助言をなさった田中先生を高く買っているのですよ」
「はあ、それは有難うございます」
 高く買われなくても良い、ただそっと香川外科に居たいだけだと言いたいが言えるわけもなく、曖昧に返事をするしかなかった。
「先ほど、田中先生は『執刀医の責任ではありません。主治医としての私の責任です』とも仰っていましたね?」
「はい…確かにそう申し上げましたが…しかし…」
 何とか突破口を見出そうとするが、頭の中では「晴天の霹靂」の墨書きが踊っていて考えがまとまらない。
「主治医としての責任を全うされた。しかも指導医である香川教授の責任には一切言及されていらっしゃらない。普通は指導医に責任の一端を担わせようとするものです。上司に対して実に忠実な親愛の情をお持ちのようですね。これもまた素晴らしい。そうそう、香川教授のお名前で思い出しましたが…」
 斎藤病院長の重厚な顔が複雑なニュアンスを帯びる。しかも気のせいでなければ「親愛の情」の部分にビブラートがかかっていたような気がする。
「教授が何か?」
 これも何かの布石に違いないとは思いながらも聞き返さずにはいられなかった。
「ご存知のように手術の方は完璧で、私や佐々木前教授が予測していた以上の業績を上げておられます。まさに神業と呼ぶに相応しい仕事振りには私も驚嘆のため息を付かざるを得ません。
 しかし、教授方の垂涎の的である各種委員会の委員長のポストをことごとく謝絶なさっていらっしゃいます。しかもその上、病院の監督省庁である厚労省の事務次官との親睦を兼ねた月に一度のお食事会に――各大学病院に病院長ともう1人という内訳の2人の枠が存在するのですが――他の教授をお誘いの病院内メールをお出しすると1分以内に「出席」のメールが返信されるのが常なのですが…香川教授だけは1分以内に「欠席」のメールが届くという、極めて異例の方です。手術や診察が終わると――まあ、その仕事内容は「素晴らしい」の一言に尽きますが――そそくさと御帰りになられる。まるで自宅に待っている恋人が居るかのようですね」
 委員会や食事会の件は初耳だったが、最後の言葉が意味深だった。
「手術や診断こそが外科医としての務めであるとお思いになっているのでは?委員会やお食事会の候補などたくさんいらっしゃると拝察しますが。
 それに、香川教授は独身です。恋人が居ても何の問題もないと思います。そこまで口出しなさるのはプライバシーの侵害ではありませんか?」
 ささやかながらも一矢を報いる。
「そう、香川教授は独身ですね。妻の座を狙っていた准教授も実際にいたと聞いていますし」
 のんびりとした口調に祐樹の胸に苦いモノがこみ上げる。産婦人科の准教授のことを指しているに違いない。あの事件ではどれほどヤキモキさせられたか。名前を思い出すだに腹立たしい。しかし、そんな瑣末なことまでご存じとは…。病院の天皇と呼ばれている人がナゼ下々のゴシップのまで詳しいのだろう。
「それに、教授夫人という権力的な面だけでなく、私から見ても非の打ちどころがない容姿の持ち主の心を射止めたいと野望をお持ちの女性は多いですよ。特に医局の先生方にはね」
「容易に察しはつきますが、それが何か?」
「そうそう、それに田中先生も主にナースの間で人気ナンバー1だそうですよ。何でもナース有志連合が毎年人気投票をしているそうで。もちろん口コミでこっそりとのようですが。
 いやぁ容姿に恵まれた方というのは実に羨ましい。最近ナースの在籍数も病院の査定の対象になりましたから、看護学校や看護学部のある大学を回る時にはどちらかに同行をお願いしたいくらいです。きっとウチの病院を志願してくれる学生さんが増加するでしょう」
「いえ、香川教授はともかく私などはとてもお役に立たないと存じますが」
 一体、この下々のウワサまでも――しかもナースの裏で密かに行われたという人気投票の結果すら――網羅している天皇陛下は何を意図してこんな話をしているのだろうと背筋がゾクゾクする、もちろん悪い意味でだが。 
「当病院きっての人気を誇るお二人が実はこういう関係だと知れ渡ったら、あらぬ憶測を呼んでしまい、きっと黄色い悲鳴が飛び交うでしょうね。ゴシップの種は皆、大好きですからね。下らぬことを勘ぐる人間も多いと思いますよ」
 俊敏な動作で立ち上がった斎藤病院長は二枚の紙を差し出した。
 その書類を見た瞬間、背筋に氷点下の悪寒が走った。




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こうやま みか

Author:こうやま みか
素人の完全な趣味で「ボーイズラブ」小説を書き始めました。
全然上手くないのですが、コメント頂ければとっても嬉しいです。
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著作権は放棄しておりませんので、無断転載などは禁止させて頂きます。何卒ご了承くださいませ。

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