FC2ブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「気分は、下克上。」 春-41

「田中先生はさっき言い当てたことが良いヒントになりますよ?」
 いつの間にか差し替えられたコーヒーを飲みながら試験管の表情で祐樹の顔を見つめる。
 正解を考えるしかなさそうな雰囲気だった。ツイツイ学生時代を思い出す。医学部には担当教授の口答試験が他学部よりも遥かに多かった。
 混乱した頭で必死に考えた。最愛の彼には全く及ばないが祐樹も頭脳にいささかの自信はあるつもりだったが、先ほどからの衝撃で許容量オーバー気味だ。
「ええと、確か画像が粗いという印象は受けた覚えが…」
「正解です」
 病院の天皇とも呼ばれる斎藤病院長が満面の笑顔を浮かべた。が、祐樹には悪魔の笑みにしか見えない。
「つまりですね。田中先生が普段救急救命室でご覧になっているCT画像と放射線科のCT画像は、性能の違うCTで撮影されているのです。田中先生が画像に違和感を覚えたのはそのせいです。
 さすがご慧眼ですねぇ、万が一正解が分からなければあの辞令は無駄に終わる筈でした。いやぁ、ウチの病院の看板、香川外科の懐刀の異名は伊達ではありませんね」
 褒め殺しの言葉が怒涛のごとく降ってくる。正解を口にしない方が良かったのだと思ってみても後の祭りだ。
「え?それでは救急救命室にあるCTの方が高性能ということですか?普通は逆ではありませんか?」
 尤もな疑問だった。CT画像をじっくり調べることが要求される放射線科に高い性能を持つCT機が設置され、ちらっとCT画像を見て一刻を争う医療を施す救急救命室には性能の劣った機械を設置するのが妥当な判断だと思えるのだが。
「ちなみに救急救命室は3ステラの性能を持つ機械で、放射線科は1.5ステラです。と言っても、大学病院の放射線科のほとんどは1.5ステラの機械を使用していますが。
 私が北教授の要求を呑んで3ステラの機械を導入したのは、彼に莫大な借りがあるからです。阪神淡路大震災当時の北教授の伝説とも言うべきご活躍は聞いたことが有りますよね?」
 脳裏に北教授の秘密の研究室が浮かんだ。おびただしいモニターが設置された高価な隠れ家。あれも斎藤病院長が一枚噛んでいたのか…。
「はい、確か最も被害が甚大だったN田区で大活躍なさったとか」
「そうです。当時はインターネットも一般的ではなく、しかもここ、京都では揺れはさほどでもなかった。揺れで目覚めた私は良くある地震だと二度寝をしようとした時にポケベルで連絡して下さったのが北教授でした。『直ちに救急隊を組織して被災地に向かうべく命令を下されたし』とね。
 あの方のことは信頼していましたから、全権委任しました。次第に事態がテレビなどで明らかになって来ると、北教授の判断が迅速かつ適切であったことがしみじみと分かりましたよ。
 ちなみにO阪大の救急隊は渋滞の中で立ち往生だったそうです」
 にんまりと笑う斎藤病院長の表情に霧がかかったようになるが、口調は嬉しげだ。笑いを隠しているのに違いない。あの大学とはよほど相性が悪いらしい。いや、大学ではなくて病院長だが医学部長だかかもしれないが。
「そうでしたか…そこまでは伺っていませんでした」
「北教授の御蔭様で救急医療はウチの病院の名を高からしめた。
 大渋滞に嵌まって身動きが出来なかった、どこぞの大学とは違うとね。被災地の真っ只中に有るK戸大学は場当たり的な処置しか出来ないのは仕方ないと思いますよ。
 万が一、震源がここ京都で地震があった場合でも、北教授の作成なさっている緊急マニュアルが完成出来ていない場合、ウチの救急救命室も同じ運命ですから。まぁ、北教授のことですから完成して下さると信じていますが。
 他の大学と言えば対岸、四国のT島大学の功績も大きかったですが」
 斎藤病院長の脳内勢力図には近畿圏だけが重要なのだと思わせる顔つきだった。
「それで3ステラの方を救急救命室に入れたと…」
「ええ、2台購入して口頭で指示を出しました。放射線科の浅井教授はご不満のようでしたが、素人目にはどちらが高性能かなどは分からないですから。3ステラの場合、コイルの巻き数が多くなるので重量が異なるのですが、トン単位の機械の重さを量る人間は居ません」
 斎藤病院長に異を唱える人間はこの病院には居ないというのが実情だろう。天皇とか神とか言われている所以だ。
 斎藤病院長自らが「この機械はこちらに」と仰ったとしたら、大学中がその勅命に従うだろう。
 何かで読んだが、1945年8月15日正午に終戦のお言葉を昭和天皇がラジオの前でお話しになったのも全国の日本人に敗戦を伝え、戦闘を終わらせるための究極の手段だったとか。
 玉音放送がなければ、戦闘を継続してしまう部隊や民間人も多数存在したという試算があるという話しだ。前代未聞の敗戦の玉音放送が行われた理由…などとと現実逃避の思考で、少しは茫然自失の状態から立ち直った。
 が、祐樹はこの病院の絶対権力者に初めて対峙している現実に眩暈がしそうだ。最愛の彼とは異なり、祐樹はこの病院の独裁者と比べれば、一般庶民という役柄だ。
 しかもその上、この人事は断らなくてはならない。大学病院の上部に属する人間のほとんどが敵に回ってしまう危惧がある。最愛の彼は実力を一見淡々と――しかし祐樹しか知らない内心は必死で――発揮して黙らせているが、祐樹にはその実力もない。どう断れば角が立たないだろうと考えを巡らす。
 祐樹もCT機の性能について言われるまで気づかなかったのだから、門外漢には全く分からないだろう。ここは専門性に特化した大学病院なのだ。
「私の専門は心臓外科です。しかも直属の上司である香川教授の御指導で救急救命室の手伝いに出向中です。とてもそれ以上の重責を担う自信は有りません」
 コーヒーの湯気を頬に当てて斎藤病院長はのんびりと微笑んだ。
「北教授に聞いたところ、CTやMRI画像検索に最も熱心なのは田中先生だと御墨付きを頂きました。田中先生なら放射線科の医局員とも対等に議論が出来るだろうと。しかも、」
 思わせぶりに言葉を切った。そして、おもむろに口を開く。
「医師は激務だと覚悟していると仰ったのは田中先生ではありませんか?」
 目を細めて笑う微笑に背中が凍りつく。自分の言葉で自縄自縛になっていく展開に活路を見出すのはどうすればいいのだろう?


_________________________________________________________



ブログランキングに参加させて戴いています。宜しければクリックお待ちしております~!とってもとっても励みになります!!!コメントも熱烈歓迎中です!!!
 ポチっとお願い致します!!!


この作品はヤフーブログで更新中に一部作品に「投稿できない文字列が含まれています」との痛恨のエラーが。なので途中で申し訳ないのですが、こちらでも更新させて頂いております。












スポンサーサイト

テーマ : 自作BL連載小説
ジャンル : 小説・文学

コメント

非公開コメント

プロフィール

こうやま みか

Author:こうやま みか
素人の完全な趣味で「ボーイズラブ」小説を書き始めました。
全然上手くないのですが、コメント頂ければとっても嬉しいです。
またヤフーブログが本館扱いで、こちらでは当面(ってイツ?)旧作を掘り起こして掲載していきたいと思います。
著作権は放棄しておりませんので、無断転載などは禁止させて頂きます。何卒ご了承くださいませ。

FC2ブログランキング
ランキングに参加させて戴いております。ご訪問の際ポチっと。とっても喜びます!!

FC2Blog Ranking

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
カテゴリ
月別アーカイブ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。