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「気分は、下克上。」 春-40

 多分祐樹の今の顔は「茫然自失」を絵に描いたような顔だろう。今朝彼との話題にしていた「晴天の霹靂」よりももっと強いショックを表現することわざは何だっけと真っ白になった頭でぼんやりと考える。
 莫山先生とやらの天衣無縫な筆さばきが脳裏に浮かんでは消えている。これくらい強い衝撃を受けたのは生まれて初めてのような気がする。
 ああ、そう言えば、最愛の彼とまだ、こんな関係になっていない時、というよりどちらかと言えば敵意を抱いていた時にゲイバー「グレイス」で酔っている彼を見つけた時も――その時は長岡先生が婚約者だと信じていたし、異性愛者だと思い込んでいた――大いにショックを受けたが、その時とは角度の違う「晴天の霹靂」だった。
「この辞令、本当なのですか?」
 咽がカラカラに乾いていることに気づいて冷めきったコーヒーを飲みほしたが、味は全く分からなかった。
「ええ、田中先生の最後の言葉をお聞きしてやはり適任かと思った次第です」
「最後の言葉というと?」
 辞令の言葉を理解した瞬間、あまりの衝撃人事で頭が真っ白になってしまって、脳のシナプスに微弱な電流が流れていないような医師としてあるまじき非科学的発想頭を過ぎる。
「ですから、『画像が粗い』と」
 まだ室内に居た秘書に手でコーヒーのお代わりの合図をしながらのほほんと答える病院長を確認する。
「確かにそのような返事はしましたが、それとこの仰天人事はどうつながるのですか?」
 秘書がコーヒーカップを取り去ったため机上に出来たエリアに不本意ながらも震える指先で書類を広げる。



「K都大学付属病院外科医師 田中祐樹殿
  5月1日を以て『死後画像診断センター(Aiセンター)』副センター長に任命する」
 その後に斎藤病院長の署名と仰々しい印鑑が押してあった。



 斎藤病院長は本気らしい。祐樹はツイツイ、「精神科で診てもらったらいかがですか?」と口走りそうになったが、相手が相手なだけに90%は本気率が入っているとはいえ冗談でも言うわけにはいかない。
「私が学会で昨日まで海外に居たのはご存知ですよね?」
 下っ端の医師なら答えは直答が常識だが、雲の上に君臨する人は違うらしい。悠然とした表情で話題を変える。
「はい。存じ上げていました」
 どこの国に行っていたのか、今の混乱する頭では出てこないのが残念だ。確かアメリカのどこかの都市で、それも斎藤派閥の重鎮を連れた大名旅行だろうだったような。
 祐樹はふと最愛の人の驚異的な記憶力を羨ましく思った。
「この人事案、香川教授はご存知なのですか?」
 「案」に力をこめてささやかな抵抗を試みる。
「いえ、心臓外科には関係のないお話しですから、まずは本人の了解を得てからと思いまして」
 ならば、心臓外科所属の祐樹にも関係のない話しだろうと突っ込みたくなるが、恐ろしくて口に出せない。
「それに、私が空港から直行で病院に帰って来た時には手術室に入られていましたし」
 ということは、自宅に戻らずに――海外学会出張の次の日は休暇を取得出来る院内規則が有る――病院へと直行したということか。元気でなければ務まらない仕事だが、老いたりとはいえ元気な人だと妙なところで感心する。 まぁ、それぐらいのバイラリティがなければ医学部長と病院長の兼務は出来ないに違いない。他の大学はほとんどが病院長と医学部長は別人だ。
「死亡時画像診断センター、通称Aiセンターが各大学で設立の動きがあるのは存じています。
 また病理解剖を拒む遺族の心情も良く分かります。いくら死亡していたとしても愛する家族の身体を解剖するのは忍び難いでしょう。
 しかし、」
 とここで声のボリュームを上げた。これ以上仕事を増やされては最愛の彼とはますます会う時間が減ってしまう。それ以上に恐ろしいの事実、それはこの人事が公開されると病院内の上部構造の中に確実に敵を増やす。それも二桁単位で。
「私は心臓外科の専門医です。そもそも死亡時画像診断は放射線科の業務では?その上副センター長は講師の肩書の先生は稀で、ほとんどが准教授の先生が就任なさっていると仄聞します。場合によっては教授職の方の就任もあるとか…。この3月まで研修医だった私にそんな資格はないと存じますが?」
 温厚な黒木准教授なら怒らないかもしれないが、他の科の准教授や講師の先生は激怒するのが目に見えるようだ。一年生医師が自分達の頭越しを遥かに飛び越えて副センター長就任が万が一公になった時に大学病院の上部構造の騒ぎを想像してウンザリする。
「それはそうなのですが…学会で、ウチの病院と因縁浅からぬO阪大学の病院長と鉢合わせしましてね。『色々と問題は山積しているものの、死後画像診断センターは設立することに決めた』と言われまして…」
 関西に有名私立病院は少ないだけに、逆に国立大学病院はライバル意識が強い。先ほどの温厚そうな雰囲気が払拭され、世にも悔しそうな顔つきになっていた。この天皇は負けず嫌いらしい。
 「因縁浅からぬ」とは婉曲表現で、過去に色々悶着を起こしているライバル病院だ。向こうの医学部長も病院長もこちらの病院に敵意を持っているのは、確実性の高い噂だ。そして斎藤病院長も。
「出遅れ感は否めませんが、こちらも死亡時画像診断センターを作ることに決めたのです。独立行政法人になってお国からの費用は出なくなりましたが、ウチの稼ぎ頭の香川教授を始めとして財源の捻出には困りません。困ったのが人事です」
「しかし、放射線科の置田准教授などはとても優秀でしたが?それに放射線科の浅井教授もなかなかの人物だと聞いております」
 祐樹に振るな…と必死に念を込めるが病院長にはあいにく届かないようだ。しかも浅井教授は病院長のライバル、内科の今居教授の派閥に属する。
「浅井教授はセンター設立には反対の立場だ。お父様が法医学会の重鎮でいらっしゃる」
 なるほど、タテマエではお父様を持ち出してはいるが。内心では「今居教授の派閥に居る限りポストはやらないよ」ということなのだろう。天皇どころか独裁者の趣きだ。
 死後画像診断センターが出来れば、法医学者の立場が危うくなることくらいは祐樹にも分かる。しかし共存共栄の道がどこかの医学雑誌に書いてあったように思うのだが、混乱する頭ではにわかに思い出せない。
「そこで順送りにセンター長は置田准教授に内定しました。ご本人も了解済みです。そこで困ったのが副センター長の選定だったのです…。そこで救急救命室の北教授に相談してみました」
 どうして放射線科から救急救命室に話しが飛躍し過ぎるのか?。
「どうして、そこで救急救命室が出て来るのですか?」
 疾風怒濤の話しの展開にさっぱりわけが分からない。救急救命室は死亡時画像診断とは縁もゆかりもない。蚊帳の外の北教授の名前がなぜここに出てくるのだろう?



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Author:こうやま みか
素人の完全な趣味で「ボーイズラブ」小説を書き始めました。
全然上手くないのですが、コメント頂ければとっても嬉しいです。
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