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「気分は、下克上。」 春-39

 病医長室の豪華な応接セットに座るように促すと、病院長も向かいの席に悠然と腰かけた。
「いやあ、田中先生をお呼び立てしてすみませんね。香川教授の懐刀として有名になったことは聞いていましたが。
 お会いする機会もなく、めでたく当病院の勤務医に成られたお祝いをする歓迎会も出席出来なくて本当に申し訳有りません」
 顔だけ見ていると本当に申し訳ながっている様子だが、下手に出ているのが却って怖い。先ほどの意味深な言葉も問い質したかったのだが、天皇とも呼ばれる人に聞かれてもいないことを質問することは、神経が太いと自認する祐樹ですら無理だった。
 そもそも病院長が1年生医師を名指しで病院室に呼び出すなど無責任なウワサでも聞いたことがない、しかも陛下単独でのお迎えつきでなど。祐樹も自分の身に起きていることでなければ、タチの悪いウワサだと笑ってスルーするだろう。
 あまつさえ歓待の証だろうか、美人秘書がロイヤル・コペンハーゲンのコーヒーセットでコーヒーを運んで来て丁重にお辞儀をすると別室に下がって行くほどだ。
――この歓待の理由は何ですか?――
 そう聞きたいが、聞けるわけもない。座り心地は多分最上なのだろうが、居心地の悪いことおびただしい。
「香川外科と救急救命室の仕事はいかがですか?二足のわらじで大変なのでは有りませんか?」
 この質問の意図が不明だ。
「両方とも大変勉強になりますし…また大変だと思ったことはありません」
 最愛の恋人と過ごす時間が減ってしまうのは不満だったが、そんなことは言えるわけもなく、祐樹は優等生的な答えを返す。下手なことを言って最愛の彼に類が及ぶことは絶対に避けたい。
「ほう?それほど負担ではないと?」
 香りの良いコーヒーを飲みながら斎藤病院長は目を細める。何だか獲物を狙っている狸のような目のようだった。
「はい。医師は激務だと心得た上で職業を選択しましたので」
「ほほう、それは感心ですなぁ」
 のんびりとした口調だったが目は細められたままだ。祐樹も作り笑いをして返答に替える。
「そうそう、初めてこの部屋に来て怖気づかなかった人間を私は1人しか知りません。が、田中先生も緊張なさってないですよね?」
 話は一向に本題に入らない。実は緊張しているのだが、他人から見たら緊張していないように見えるのだろう。祐樹の特技の1つだ。が、会話に主導権を握れる立場にはないので我慢して話をする。
「どなたが怖気づかなかったのですか?」
「香川教授ですよ。緊張していないというよりも心ここにあらずといった雰囲気でしたが」
 搦め手から攻めているのか、単なる世間話なのか全く分からない。
「香川教授が何か?」
「いえ、彼は非常に良くやってくれています。実は佐々木前教授の推薦でしたが、表向きは私が招聘したことになっています。おかげで他の大学から羨ましがられるやら恨まれるやらで大変ですよ」
 相変わらず目は細められているが、誇らしげに笑いながら言う病院長に最愛の彼に対する嫌悪は片鱗もない。
 香川教授絡みの話ではないとしたら一体、祐樹に何の用だろう?
「昨日香川教授の手術で術死があったそうですね?」
 真顔に返った斎藤病院長は念を押すように質問する。
「いえ、あれは手術中に患者さんが俗に言われるエコノミー症候群で亡くなったというご不幸です。責められるべきは執刀医である香川教授ではなく、術前に十全の管理が出来ずにいた主治医の私です」
 斎藤病院長の目がさらに細くなった。さては地雷を踏んでしまったか?と思うが、最愛の彼に火の粉がかからないことが最優先事項だ。
「教授の執刀は通常と同様に完璧でした。心臓バイパス術で患者さんはお亡くなりになられたのではありません。術前に座禅を組ませるという行為を看過しえなかった主治医の私の責任です」
 応接机のコーヒーに手をつけることなく祐樹は言い募った。
「つまりは、責任は田中先生に有ると仰りたいわけですね」
「そうです。主治医としてもっと注意を払うべきでした。手術中に患者さんがお亡くなりになったのは不幸な偶然で、絶対に執刀医としてのミスではあり得ません
 責められるべきは…先ほどから申し上げている通り私に有ります」
「田中先生お一人の責任を認めると仰った。その言葉に嘘は有りませんか?」
 弾劾か?とも思ったが、それにしては大げさ過ぎる舞台だ。わざわざ病院長室で、しかもコーヒーまで煎れられてするような話ではない。しかも斎藤病院長は微笑を浮かべている。目は相変わらず細かったが。
「はい。私の責任です」
 目に力を込めて言い張った。斎藤病院長は立ちあがり、受話器を取る。
「ああ、私だ。例の物を持って来てくれたまえ」
 控え目なノックの後で先ほどの美人秘書が大判の封筒を手に現れた。CT画像などを入れる封筒なのは一目で分かる。病院長が中身を取り出して、光にかざす。
「昨日の患者さんの死後CTとMRI画像で間違いはないですかね?」
 ここに読影機がないのは当たり前なので、祐樹もその画像を注意深く観察した。CTの撮影だけをオーダーした積りだったが、放射線科の先生は職人肌というか完璧主義者が多い。昨日お願いした置田准教授も典型的な放射線科の医師だ。彼や祐樹が部屋を離れて遺族に説明している時にでも撮影したのだろう。そうでなければMRIの画像が巡り巡ってここに有るわけはないのだから。それにしても驚くべき把握能力だ。K大学病院の天皇と呼ばれるのは伊達ではなかった。
「ええ、そうです。ここの肺塞栓が患者さんを死に至らしめたのです」
「他に気づいた点は?」
 MRI画像を手に試験官のような事務的な口調で聞いてこられた。
 もしかして、病院内で無理を言って死後画像診断を断行したことが問題なのかもしれないな…と思いながら、学生時代の口頭試験を受ける学生のように反射的に言ってしまっていた。
「いつも見ている画像よりは荒い印象を受けます」
「正解です。田中先生の読みは鋭い。やはり香川教授の懐刀と呼ばれているだけのことはありますね。そのお言葉を聞けて良かったです。ようやく本題に入れる。君、あの辞令を」
 人形のように部屋に佇んでいた秘書が病院長の執務机から封筒を取り、淡い真珠色に塗った綺麗な手で恭しげに病院長に手渡した。
「これが辞令です。開けてみて下さい」
 言葉通りに開けて、羅列してある文字が脳に届いた瞬間、場所柄もわきまえる余裕もなく、
「ウソだろ?」と声に出してしまっていた。脳裏に「晴天の霹靂」という言葉が降ってきた気分だ。それも莫山先生だかの天真爛漫かつ壮大な筆書きの色紙付きで。



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こうやま みか

Author:こうやま みか
素人の完全な趣味で「ボーイズラブ」小説を書き始めました。
全然上手くないのですが、コメント頂ければとっても嬉しいです。
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