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「気分は、下克上。」 春-38

 今日は滅多にないことだったが、手術室のスタッフから偶然外れていた。
 だから通常業務として患者さんの容体確認の仕事をしていたのだが。当たり前のように前を悠然と歩く斎藤病院長の恰幅の良い背中を見ながらそっと腕時計をチェックする。
 今日の手術は上手くいったのだろうか?先ほどまで考えまいとしていた思考が蘇る。通常ならば手術は終わっているはずの時間だった。病院長の用事よりも更に重度の優先事項が存在する。そもそも患者さんの診察時間も手術が終わるべき時間に終わらせようとスピードを調節していたほどの。患者さんの診断をしている限り余計なことは考えずに済むという理由で。
 祐樹の先に進む背中に向かって、思い切って話しかけた。相手は病院の神とか天皇と言われていようと、祐樹にとっては――クビになったら困るが――もっと大切な人が居る。
 しかし、病院を背負って立つ貫禄のオーラは伊達ではない。あまり人に対して臆することのないと思っている祐樹ですら、話しかけるのは多少の勇気の必要だ。
 斎藤病院長は行き違う医療従事者がことごとく頭を下げる中、「そのまま、そのまま」などと手で制して歩いている。何だか殿様の後ろを歩いている家臣になった気分だった。
 頭を下げた先生がたやナース達は、次に祐樹を見て、実に不思議そうな顔で首をかしげた。それはそうだろう。1年目の新米医師が病院長と2人で歩くなどそうそうないのだから。用が有れば、電話一本で病院長室に呼びつける斎藤病院長なのだ。それが教授職の人間であったとしても。
「すみませんが、患者さんの件で急を要すると判断した件があります。お部屋に伺う前に医局に寄っても構いませんか?」
 恐る恐る申し上げる。逆鱗に触れるかと思ったが、案外気さくな笑顔で頷いて下さった。思わず敬語を使ってしまう程の威圧感を感じる。
 本来ならば最愛の彼の部屋に行って手術がどうだったかを彼の表情から読み取りたかったが、一介の医師が――いかに香川教授が指導医だといっても――教授室を訪ねるのは憚られた。
 医局ならば何がしらの状況は分かるだろう。
「そうですねえ。香川外科の医局の様子も拝見したいですし。あそこは例の一件以来、綱紀粛正が進んだと聞いています。実際に見たいものです」
 例の一件、それは医局内における香川教授追い落とし事件のことだ。確かにあの一件以来医局で無駄話をする人間は居なくなった。と、同時に先ほどから滴っている背中の冷や汗の粒が大きくなったような気がする。そういえば病院長は彼と自分の本当の関係を黙殺してくれている気配がある。その件だろうか?と一瞬考えるが、今の自分は「みなし」公務員だ。昔は国立大学の医師は公務員だったが、大学が独立行政法人となった今では公務員ではなく準公務員扱いではあるが、公務員法の対象となる。その法律には同性愛者だからといってクビにすることは出来ないということになっている。あくまでタテマエかもしれないが。
 しかし、香川教授との「不適切な関係」を理由に何らかの処分を受けるのであれば、それこそ電話一本で呼びつけるハズで、その選択肢は消去した。
 医局の扉をスライドして開けると、その場に居た先生やナース達は総立ちで出迎える。一様に天皇降臨の驚愕の表情を浮かべてはいるものの、無理に愛想笑いをしようという理性は働かせたに違いない。唇には恭しげな微笑を浮かべようとしてはいるがいびつな形の唇の形に凍り付いてしまっている。いつもの自分ならきっと大笑いしてしまう状況だったが、今の祐樹には笑う心のゆとりはなかった。
 そういえば、病室にこの人が顕現した時、拝む患者さんが居たのは心臓に重い疾患を抱えている人たちなので入院歴も長い人も多いからだろう。
 また今はインターネットという文明の利器もある。自分の入院する病院のホームページを見る人も多いだろう。 確かあそこに斎藤病院長の挨拶と顔写真が大きく表示されていた。
 病院長を偶然見かけたか、サイトで見たのかは分からないが、医学部長兼病院長のご尊顔を拝する機会が多い人なのだろうと不意に思い至った。
 直立不動の中に柏木先生の姿がある。彼が今日の手術の第一助手だったことは知っていた。それが白衣に着替えてここに居るということは、今日の手術は無事成功だったということか?
 病院長が「私を空気だと思って、通常業務に励んで下さい」と穏やかな声で促す。
 その勅命を聞いた途端、皆は心なしか、ぎくしゃくとした動作でそれぞれの業務に戻るフリを開始した。
「どうしてお前が病院長を連れてくる」という疑問だか非難だかの視線を祐樹にぶつけて来てはいたが。
「そんなこと知るか」という視線をそれぞれに返す。
 柏木先生のパソコンは今も使わせて貰っている。祐樹の机上に有るパソコンはインターネット接続が出来るため患者さんの電子カルテは保存出来ないシステムだ。柏木先生のデスクに近づける絶好のチャンスだ。
「柏木先生、済みませんが電子カルテを見たいのですが?」
「ああ、それはいいが?」
 いつもとは違う硬い声で返事をした。祐樹が近づいても、いつもならデスクを離れる柏木先生は椅子に座ったままだった。病院長を連れてきた、もとい病院長のお伴をしてきた理由が知りたいのだろう。祐樹にとっては都合が良かったが。院内LANに接続し電子カルテを呼び出してカルテを検討するフリをしていると、柏木先生が顔を寄せた。
「何が有ったんだ?天皇自らが行幸なさるなんて…」
 唇がわずかに震えている。
「私にもさっぱり分かりません。それよりも今日の手術はどうでしたか?」
 唯一の懸念を聞く。
「ああ、いつも通りの神業だった。術後も異常はないようだ。」
 昨夜思い切り泣いたせいか、それとも彼自身の精神力の強さなのか。
 祐樹としては前者だと思いたかったが。しかしどちらでもいいような気もした。
「ヤバいぞ、病院長が時計を気にしている。田中先生の方をチラリと見た」
「そうですか。では、何が何だか分からないですが、病院長室に行って来ます」
「グット・ラック」
 柏木先生が心を込めてそう言うのを背中で聞き、斎藤病院長の傍らに行って「お待たせしました」と言いながら頭を下げる。
「香川教授ともあまりお話し出来なくて寂しいものです」
 ぽつりと言った病院長の独白に背中に大粒の汗の滴が転げ落ちた。
 やはり、彼絡みなのか?


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Author:こうやま みか
素人の完全な趣味で「ボーイズラブ」小説を書き始めました。
全然上手くないのですが、コメント頂ければとっても嬉しいです。
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