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「気分は、下克上。」 春-36

 朝はいつもの時間よりも早く起きてしまった。隣で静かな寝息を立てている人の顔をうっとりと眺めていた。が、それどころではなかったことを思い出す。
――見た限りではいつもの彼の顔との異変は感じないが、目を開けるとどうだろう?――
 そうは思っても昨日の患者さん死亡事件で――彼に責任はないようなものの、責任感が強すぎる彼のことだ。色々と反省して眠りが浅くなっていると考えられる。その可能性がある以上、細心の注意を払ってベッドを抜け出すと、利尿効果が高いジャスミン茶を湯で沸かし、ボトルに入れて、トーストやサラダ、そしてミネストローネスープを用意する。スープは缶詰を開けて、彼の好みの味付けを施した程度だ。
 目が腫れぼったいという事態にならなければいいな…と思う。そもそも、大学病院では「泣き過ぎで目が腫れた」などという患者さんは来ない。その点からすると曲がりなりにも医師免許を持っている自分でも素人同然だ。 もし、彼の目が昨夜のままだったら、医局の連中は「昨日の手術のせいで泣き腫らしたのだろう」と絶対に思われる。医師として「死」は一般人よりも身近にある彼ら(祐樹も含めて)は「死」に対して一般人とは違う価値観を持っている。特に「救急救命室」に手伝いに行っている祐樹は「運が良ければ助かるし、運が悪ければ助からない」と思っているし、香川外科では、彼の手術が100%上手く行っていることを経験から知っている人は長岡先生一人だ。彼が赴任するまで手術の成功例=患者さんが手術を受けて助かる確率は大学病院では標準規模だった。そんな医局のスタッフ達からすれば、彼の涙の理由を正しくは理解しないだろう。心情的には分かっても「いちいち患者さんが死亡したからといって泣く方がどうかしている」と思われること必至だ。今は香川教授の下で一致団結しているから不穏な動きはないようなものの、少し前の医局を割った事件の最中なら「教授として相応しくない」などの陰口や中傷がヘタをすれば斎藤病院長までウワサとして上がる可能性がある。
 祐樹がキッチンで物音を立てていたことに気づいたのか、いつもの彼の軽快な歩き方よりも少しゆっくりとキッチンに入ってきた。
「おはよう」
 声はいつもと変わりない。
 いい焼き具合になった目玉焼きの入ったフライパンを持って恐る恐る振り返る。
 目蓋の腫れも9割がた引いている。そっと安堵の吐息を洩らしてから、満面の笑みを浮かべた。
「お早うございます。良く眠れましたか?」
「ああ、お蔭様で。腫れは引いたようだな…それに目の充血も」
 薄くて形の良い唇が微笑の形に綻んでいる。
「鏡を見ました?」
「いや、祐樹がそんな顔をするのだから大丈夫だと思った」
「今朝の朝ご飯は、あいにく手作りではなく、生憎の缶詰のミネストローネスープ――作っておけば良かったと思いましたが――」
「いや、祐樹が作ってくれるものならば、何でも美味しい。まだ時間がたっぷりあるのでゆっくり食事が出来るな……それと、昨夜は、有難う」
「いえ。私が抱きたかったから抱いた。ただそれだけです」
 瞳の光を強くして断言すると、彼の微笑がますます綻んだ。
「ともかく、有難う。とても感謝している」
 そう言ってしなやかにきびすを返す彼の背中に視線が釘付けになる。
 彼は室内着に着替えていたが最近は髪を切りに行く時間がなかったのかうなじの髪が少し伸びて、細い首の真ん中辺りまで覆っている…ハズだったのだが、昨日から髪は洗ってなかったので寝癖だろうか、頚骨の上の辺りで彼の髪が一直線に撥ねている。つまりは首筋が露出しているわけで。
 普段なら髪に隠れている薔薇色の情痕も3つ2つ見えている。その滑らかな花びらと、白い首との彩りが色っぽい。しかも、髪はイマドキの男子高校生でも外に出る時は直すだろう無防備な撥ね方だった。しかも彼の髪も首筋も細くて触り心地が良いのは経験済みだ。
――あの髪に指を絡めて、花びらの色をもっと濃くしたい――
 危険な情動を危うく鎮める。
「後ろの髪が撥ねています。先にシャワー使って下さい」
 掠れそうになる声を必死に自制して何でもなさそうな声を努力して発音した。
「あ?そうか?」
 彼の白く長い指が後ろ髪を撫でている。
 白と黒の優雅な絡み合い、そして祐樹の残した桜の花びら色がちらりと見えて絶妙なコントラストを形作る。
 これ以上見ていたら、自分の理性が保てなくなるのは時間の問題なので、ともすれば彼の首筋に目が行くのを我慢して朝食作りを再開した。といっても殆ど出来ていたので、テーブルに並べ終わると、キッチンの換気扇の下に行ってタバコに火を点ける。
――ああ、ヤバかった。あれ以上あんな色っぽいあの人を見ていたら、出勤時間も仕事も忘れていけないことを挑みそうだった――
 タバコと性衝動との因果関係に対するレポートは読んだことがなかったが、徐々に落ち着いてくる。
「祐樹もシャワーはまだなのだろう?寝汗を流してから朝食にしよう。祐樹のお陰で目の腫れや充血も取れた。本当に有難う」
 いつもの涼しげな眼差しが祐樹を見詰める。彼はふと目を細める。朝の光が入るキッチンなので彼の長い睫毛がシャワー後の薄い桃色の頬に影を落とす。
「このボトルは?」
「貴方の症状が分かりかねましたので、念のために冷たいジャスミン茶を用意しました。それといつもはコーヒーですが、紅茶に…」
 彼は一瞬目を瞑ってから、祐樹に極上の笑みを浮かべた。
「そこまで気を遣ってくれて…本当に有り難く思う」
 その声までが桜色に染まっているような風情だった。


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こうやま みか

Author:こうやま みか
素人の完全な趣味で「ボーイズラブ」小説を書き始めました。
全然上手くないのですが、コメント頂ければとっても嬉しいです。
またヤフーブログが本館扱いで、こちらでは当面(ってイツ?)旧作を掘り起こして掲載していきたいと思います。
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