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「気分は、下克上。」医師編 春-33

 手早く外出の準備をして財布と携帯電話だけ持つ。
 どうしてもバスルームの様子が気になってしまった。普段と違う彼と、その元凶である祐樹自身の罪悪感のせいで、いつもなら気にも留めないことが気になる。
 バスルームの扉に向かって声を掛ける。
「そこのコンビニに行って来ます。直ぐに戻りますから」
「ああ、気をつけて。待っているから」
 その声は普段の彼のプライベートな時とほぼ同じで少しは安心した。
「ゆっくりと暖まって下さいね」
 念のために鍵を掛けてマンションの外に出た。花冷えの風が祐樹の頬を柔らかくなぞっていく。
 お互いの濡れた吐息と呼吸が凝った部屋は、清潔で生活感はあるもののどこかホテルの密室の淫靡さに満ちていた。頭の奥に紅色か真珠色の霞がかかった感じだった。
 外気に冷やされた頭が通常に回転し始める。目の腫れを治す方法は高度に細分化された祐樹の病院では全くの専門外だ。冷やすのは打撲の時の処置方法だと自嘲する。彼も何も言わなかったのは多分、あの明敏な頭脳ですら情事のせいで――後悔であって欲しくない。悪いのは祐樹なのだから――どこか回転が止まっていたに違いない。大学の時の知識を必死に掘り起こす。祐樹の専門は言うまでもなく心臓外科で、手伝いに「救急救命室」には行っているが…目の腫れで駆け込んでくる患者さんなど皆無だ。学生時代に詰め込んだ知識の量は膨大でなかなか出てこない。
 コンビニに駆け込んで、タバコとライターを買い、店外でイライラとタバコを吸う。最近ではタバコの量はかなり減ったが、タマが軽くなると時々吸いたくなる。二日連続というのはとても珍しいことだったのでタバコが欲しくなったのは事実だ。
 自分の頭の機能が彼の半分でも有ったらよかったのにとラチもないことを考えているうちにやっと思い出してホッとした。
 アイスパックを買いに再び店内に戻った。タオルは彼のマンションに――祐樹がRホテルからつい持ち帰ったのも含めて――たくさん有るのは知っている。早足で彼の部屋に戻った。鍵を開けると祐樹が出て行った時と同じ雰囲気だった。浴室で寝てしまっては一大事だ。タオルを取る用事もある。
「ただ今帰りました。そろそろ上がった方が…」
 浴室のドアを開けて言った。目の回りはかなりマシになっていた。
「お帰り。そろそろ上がろうかと思っていたところだ…」
 桜色の唇を弛ませて清楚な色気の微笑を刻む。
 湯に浸かっていたせいか鎖骨の情痕が鮮やかに咲き誇っている。立ち上がろうとしてよろめく肢体を手で支えた。
「有難う。だが、多分もう大丈夫」
 新しいバスタオルを取り出し瑞々しい肢体を拭う彼の仕草にドキリとしながらも大丈夫そうだと安堵した。肉体的にも精神的にも。
 ハンドタオルを水で濡らして電子レンジに入れる。蒸しタオルの出来上がりだ。彼はパジャマ姿で台所にすらりと立っている。
「ああ、目はこすらないで…」
 彼が何かを言おうとした時に携帯の着信音が鳴った。彼の携帯の音だった。祐樹のは…いつぞや彼に説教をしたことを遠い棚に放り投げて電源を切ってある。彼は律儀にも電源を入れていたらしい。もしかして切るのを忘れていたのかも知れないが。
「杉田弁護士からだ」
 ディスプレイを確認してそう呟くと会話を始める。
「はい。今は大丈夫ですが…。ええ、分かりました。伺います。いつご都合が宜しいですか?ええ、では明日の夕方6時ということで。はい、では代わります」
 蒸しタオルを量産している祐樹に携帯電話を差し出した。携帯電話を持つしなやかで長い指が桜色に染まっていて、少し気だるげな色香が匂い立つ。
「はい、田中です」
「お楽しみの最中だったのか?」
 のんびりとした笑いを含んだ杉田弁護士の声も結婚してからますます貫禄が付いた。
「それは…内緒です。こちらも色々有りまして…」
「携帯の電源切っていただろう?彼女に聞くと病院には居ないというし……折角、とても田中先生にも良い話があるので、直ぐに知らせようと思ったのだが。携帯の電源を切っておくなんて医師失格だな」
「ああぁ、耳が痛いです。で、そのお話しというのは?」
「香川教授と明日の6時に私の事務所で会う約束した。本当は田中先生にだけ伝えるつもりだったのだが…中年男のささやかな嫌がらせだ。明日来られるか?」
「奥様次第ですよ。私も彼女には頭が上がりませんから」
「彼女には私も頭が上がらない。ただ腰を低くして頼んでみる」
 そこまで言うならかなり重要度の高い話のハズだ。
「分かりました。私もそうします」
「邪魔したな。後はごゆっくり」
 含み笑いで電話が切れた。
「明日の六時に事務所に来いとだけしか分からないのですが…?」
 彼も首を傾げた。パジャマの襟からちらりと覗く鎖骨の情痕がとても悩ましい。
「私もそう言われただけなのだが?祐樹に心当たりは?」
「全くないです。行ってみるしかないでしょう」
 トレーに蒸しタオルとアイスパックを離して置き、祐樹の部屋へと誘う。
「そこのクッションを持って来てください」
 大きなクッションを首で指し示す。クッションを抱いて前髪を下ろした姿はとても無垢な印象だった。
 トレーで両手がふさがっているので彼がドアを開けてくれた。
「クッションを敷いて頭を高くして横たわって下さいね」
「何だか、祐樹の実家に行った時のことを思い出す」
 懐かしそうな目をして祐樹の言葉通りにする。首の下に左腕を回してさらに頭部を上に上げる。
 彼の目の上にアイスパックを置いた。
「冷たいと感じたら言って下さい。蒸しタオルで暖めますから」
「ああ、そういうことか…」
 祐樹の部屋でそういう行為はしていない。それに杉田弁護士からの電話で彼も本来の頭脳の回転を取り戻したようだった。
「ええ、そういうことです」
「全部、してくれるのか?」
「ええ、もちろんです。その目ではマズいから」
 目の部分は隠れていたが、彼の桜色の唇が綺麗な笑みを浮かべた。




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こちらではお久しぶりです

お仕事、お疲れさまです。
こちらに久しぶりにのコメントをさせていただきました。
いつも実夏さんの書かれる文章は、詳しく調べていらして頭が下がるばかりです。ブログ生活でも、私生活でも色々あると思いますが、頑張ってください。微力ながら応援しております。
次回の更新も、楽しみにしております。

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blue4clover様
いつも応援有難うございます~~!!!!
もう少しで(多分)本格稼動しますので(TT)しばらくお待ちくださいませ><
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こうやま みか

Author:こうやま みか
素人の完全な趣味で「ボーイズラブ」小説を書き始めました。
全然上手くないのですが、コメント頂ければとっても嬉しいです。
またヤフーブログが本館扱いで、こちらでは当面(ってイツ?)旧作を掘り起こして掲載していきたいと思います。
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