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「気分は、下克上。」医師編 春-24

 彼は嵐に遭った薔薇の庭園を想起させる綺麗さよりも痛々しさが強調される表情をしている。祐樹も顔や表情はいつもと違うだろう。そんな2人を見かねたのか、心臓外科に帰る途中の黒木准教授――麻酔医の友永先生と研修医の久米先生は雨宮氏のご遺体を霊安室に搬送しているので別行動だ。
「佐々木前教授の心臓外科では…患者さんが手術中に亡くなることも多かったです。それに、心臓バイパス術では成功率が極めて低く、術死こそは有りませんでしたが、3日以内に亡くなる患者さんが約3割でした。
 香川教授の「ゴットハンド」のお陰で、教授着任以来患者さんが病院で死亡することなく無事退院していったのですよ?長岡先生の内科的サポートが劇的に素晴らしいという点も見逃せない要素では有りますが…
 術死ならともかく、この場合は仕方がなかったと言えます。そんなに気を落とされることはないと思うのですが」
「…そうです…ね」
 無残に散った薔薇の花を思わせる口調だった。手の震えは相変わらず止まっていない。
「田中先生もいずれ執刀医になるだろう…このエラーとも言えない小さな出来事で気を落としていると心臓外科医など、日本のどこにも居なくなってしまう。要はこれから気をつければいいことだ」
「はい。こんな思いは二度としたくありません」
「香川教授は天才的な才能と努力で執刀医としてアメリカでもここの病院でも術死ゼロという金字塔を打ち立てて来られましたが。
 私は執刀医として8人患者さんを死亡させています。ショックを受けられたのは良く分かりますが…執刀医の自信喪失はそれこそ術死のリスクを高めます。何なら、明日の手術は、私か柏木先生にでも交代するという手もありますが…?」
 手技で黒木准教授や柏木先生に負けていないという自負は有ったが、黒木准教授は祐樹の顔色を見てそう判断したらしい。
 踏みしだかれた薔薇の表情に揺るぎない眼差しが戻る。
「ご配慮は感謝します。しかし、明日も執刀医をさせて下さい。もし、黒木准教授が危なっかしく感じられたら、その時は執刀医を変わって戴けませんか?」
「もちろんです。では、私はここで・・・」
 一礼をして去って行く。
「執務室にお邪魔して構いませんか?」
 元はといえば祐樹のエラーだ。彼に心から詫びたい。
「いや…今は遠慮して…欲しい。祐樹は今日『救急救命室』勤務ではなかったな。例の烏○にある大型書店の隣のスター○ックスで待っているから、一緒に帰ろう」
 沈痛な声と手先の震えに「はい」と言うだけが精一杯だった。
 午後は担当の患者さんを診ているうちに直ぐに終わる。そういえば昼食を食べていなかったな・・・と思い当たる。
 彼との待ち合わせにこんなにも足が重いのは初めてだ。それにしても、マンションではなく、わざわざ病院から離れたコーヒーショップに誘われたのはどういうわけかと訝る気持ちもあった。
 桜の花は相変わらず満開で、花びらが祐樹の肩に宿っている。昨日はあんなに美しく見えた桜の花だったが、今日は何の感慨も浮かばない。
 彼の精緻な顔と細く長い足を組んだ姿が目に飛び込んできた。ここは店内が禁煙で店外が喫煙だ。祐樹のために店の外のテーブルを取ってくれたのかと思うと…嬉しさと罪悪感がこもごもと胸中を去来した。
「お待たせしました・・・か?」
 そう声を掛けると何時ものような花が綻ぶ笑顔が返って来た。
「いや、私も着いたばかりだ」
 テーブルに置かれたアイスコーヒーのプラスチックのコップには結露がない。本当に着いたばかりなのだろう。彼が二杯目を注文していないならば。
「コーヒー買って来ますね。サンドイッチか何かを食べたいのですが、貴方は如何です?」
 フト思いを巡らす表情になった彼はほんのりと笑う。
「そういえば、昼食を食べていない。祐樹もだろう?適当に見繕って来てくれれば嬉しい」
 ポケットから財布を出すのを押し留めて、店内に入った。
 席に戻ると、彼は予め用意していてくれた灰皿を祐樹の前に丁寧に置く。震えはしているものの、午後見た時よりかはかなり改善されている。
 花冷えがするせいか、店の外には喫煙者と外人しか居ない。喫煙者もせかせかとタバコを吸いながらパソコンに熱中している。外人は観光客らしく日本語を解さないようだ。
「祐樹があの後で執務室に来たいと言ったのは、謝るつもりだったのだろう?」
「ええ、見逃した私が諸悪の根源ですから…」
 彼の怜悧な眼差しが祐樹を射抜く。
「いや、祐樹に報告を聞いていながら、会話を流してしまった私が悪い。祐樹が謝る必要は全くない。それに、医局の長は私だ。全ての責任は私がかぶるから…」
 真摯で潔い彼の口調と薄闇でも分かる彼の青みの帯びた綺麗な瞳に魅入られてただ頷いた。
「それに…私が祐樹を愛した切っ掛けを覚えているか?」
 パソコンに熱中している男性はこちらには注意を全く払っていない。が、外人はどうだろう?ちらっと外人の方を見る。
「あの方達は、日本語は全く分からないそうだ。先ほど確かめた。ついでに観光案内もしたが…」
 英語に堪能な彼には造作もないことだろう。
「ええ、私の『太陽のような明るさ』とか…。ただ、私は全く自覚がないのですが…」
 彼は仄かに綺麗な形の唇を弛めて笑う。
「今日だって放射線科の置田准教授の合コンに協力を頼まれていただろう?祐樹は生気の溢れた明るい性格だから、きっと彼も協力を頼んだに違いない」
「もしかして、合コンに行くのは不快ですか?何ならご一緒に…はダメだ。置田准教授の成功率が大幅に低下します」
「私のようなポストの人間が行くと、ナースさんが遠慮するからか?」
 自分の魅力と社会的ステイタスを思いっきり過小評価している最愛の恋人に気づかれないようにため息をつく。置田准教授の片思いの相手である瀬戸川ナースも、特殊な趣味を持っていない限り香川教授の方に狙いを定めるだろうな…と。ただこの件について彼に説明しても信用して貰えないのは過去の経験で痛いほど知っている。
「……いえ、貴方が参加すると・・・貴方と話している女性が誰かということが気になって・・・置田准教授の援護射撃が出来なくなる。いつぞやのように携帯電話を繋ぎっぱなしで実況中継をお聞きしてもらっても構いませんが」
 以前の手術妨害の件が明らかになった時、加害者である山本センセ達は斎藤病院長兼医学部長の個室に呼ばれた。当然祐樹は蚊帳の外だったのだが、彼の携帯電話を通話モードにして密かに聞いていた。その逆のことをしようかと提案してみる。彼は花の綻ぶ笑顔を見せる。
「祐樹の愛情はとても信頼している。置田准教授の援護射撃だけだろう?『相手探し』をする目的は皆無なのだろう?」
「最愛の人が目の前に座っていらっしゃいますからね。相手なんて探すわけはありません」
 キッパリと断言すると、彼は桜の花より綺麗な唇を開く。
「祐樹が居てくれれば、私の悪い運命も変えられるのではないか?と学生時代に思った。ただ、その時は、祐樹はノーマルだと信じていたから…『グレイス』で男性に口説かれて居るのを見て衝撃の余り、アメリカに逃げてしまった…。
 ただその結果、実力社会の向こうの病院でチャンスを与えられ、自分でも驚くような異名を付けられたし、手術の成功報酬も莫大なものになった。
 そして、この年で教授というポジションを与えられ故郷に錦を飾った。私の良い運命は祐樹によって与えられたと思っている。それにお母様も認めて下さったし…。悪い運命は逃げて行ってしまったようだ。
 だから、祐樹にはとても感謝しているし、これからも私の太陽で居て欲しい。出来れば一生」
 彼の耳触りの良い声が干天の慈雨のようにと祐樹の心にしみわたる。
「分かりました。もちろん貴方のことは一生愛し続けます。今夜は、色々疲れたでしょう?抱きしめて眠りましょうか?それとも…しますか?」
 彼の唇が動いた。声には出していないが。
「抱いて欲しい」と。



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テーマ : 自作BL連載小説
ジャンル : 小説・文学

コメント

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No title

誰にも予測できない要因によって亡くなってしまった患者さん。
祐樹くんと特に教授にとってはショックが大きかったでしょうね。
愛する人との愛の交歓で癒されて欲しいです。

Re: No title

 りりさん(o′∀`o艸)♪〃
> 祐樹くんと特に教授にとってはショックが大きかったでしょうね。
 ですよね…。ただ、だらだらっとHシーンが続くよりも何か事件があった方がいいのではないかと思ってしまいヽ*′∀`)*′∀`)ノ

> 愛する人との愛の交歓で癒されて欲しいです。
 
 ええ、その予定です(o′∀`o)

 やはり、本館の方は、暗くて重い話なだけに評判はイマイチです。。。まぁ、私の筆力が至らないせいだと思いますが。・(*ノд`*)・。。・(*ノд`*)・。。・(*ノд`*)・。

 コメント有難うございます。コメや拍手やポチなどの反応がないと書けないタイプの人間のようです(TT)これも職業病でしょうか~?
 ━━━(゚∀゚)━( ゚∀)━(  ゚)━(  )━(゚  )━(∀゚ )━(゚∀゚)━━━!!
プロフィール

こうやま みか

Author:こうやま みか
素人の完全な趣味で「ボーイズラブ」小説を書き始めました。
全然上手くないのですが、コメント頂ければとっても嬉しいです。
またヤフーブログが本館扱いで、こちらでは当面(ってイツ?)旧作を掘り起こして掲載していきたいと思います。
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