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「気分は、下克上。」医師編 春-23

「出来る限りの手段は尽くしました。しかし術前管理に問題が有ったのは事実です。私は担当医の田中から報告を受けていたにも関わらず、肺塞栓症にまで考えが及びませんでした。全ては私の責任です。お詫びのしようもないことをしてしまい誠に申し訳なく…慙愧の思いに耐えません」
 青みを感じさせる口調でそう言うとご遺族の一人一人に深々と頭を下げる。
 慌てて祐樹も彼に倣った。
 2人の准教授はそれぞれが呆然とした表情だった。
「いえ、そちらの置田准教授からは…事前に発見するのが難しいと伺いましたが?」
 故雨宮氏の息子の誠さんが涙で潤んだ目をしながらも冷静な声で反論する。
「はい、確かに難しいです。ですが、万全の上にも万全を尽くすのが執刀医の務めだと思っております」
 息子さんの目を真っ直ぐに見詰めて真摯な声で言う。
「確かにリスクの高い手術はお願い致しましたが、教授は完璧にこなされたと、放射線科の雨宮准教授がおっしゃいましたよ。私だって、かけがえのない主人がこうなってしまったのはとても…言葉では語りきれないほど残念です。でも、大切な一人息子の――しかも嫁の友子のお腹には孫が居ます――誠が『エコノミークラス症候群』で死亡しても…航空会社の謝罪が有れば、それで納得します。
 教授は死因まで突き止めて下さって…。普通はそこまでなさらないと聞いております。
 人間は遅かれ早かれ死ぬ運命ですから。主人も最期に心置きなく座禅を組んで、高名な教授に執刀して貰えて幸せだったと…そう…思います」
 嗚咽混じりの雨宮夫人の声には感謝の響きも僅かに感じさせたが、後は涙で言葉にならない。
 彼の右手が神経質に震えていることに祐樹は気づく。これは以前、祐樹の前でだけ見せていた震えだった。彼の精神的なダメージの大きさを象徴している。
「そうですよ。以前から不思議に思っていたのですが、ニュースで有名人が亡くなると『死因は心不全』とか『心臓麻痺』としか言いませんよね?私は普通のサラリーマンですからもちろん医学的知識は皆無です。でも、心臓が麻痺したり不全だったりしたら亡くなるのは当たり前の話ではないのですか?それとも一般人向けにニュースで簡単に伝えているのですか?」
 話していると「父の死」から逃れられると思っているように雨宮誠さんは素朴な質問をしてきた。
「正式な死因が分かるのは解剖か、死後画像病理診断をするしかないのが現状です。が、解剖は遺族の方の同意を得るのが難しい上に、コストがかかります。というのは、今の日本の医療保険制度は患者様――つまり生きている方のみが対象です――解剖をされると50万を病院はご遺族に請求書の額を上乗せしてしまうことになります」
「でも、ドラマなんかで『監察医なになに』などが放映されて、死体を解剖していますよね?あれも遺族に請求されるのですか?」
 雨宮誠氏は父の死からの逃避からか質問を置田准教授に重ねる。
「あれは、司法解剖です。司法解剖は警察官の判断で『変死もしくは事件性が有る可能性があるご遺体』が対象となります。この場合は国費により賄われます。病院などで亡くなった場合で不審な点がある場合は病理解剖ですが…これは余り行われていません。第一にご遺族の感情、そしてお金の問題が障壁ですね。
 先ほど仰った『心不全』や『心臓麻痺』は言わば状態を指します。例えば嘔吐が止まらない…これが状態です。その原因がインフルエンザウイルスか、ノロウイルスか、もしくは単なるアルコール中毒に因るかは医師が病理検査をして確定します」
「状態…納得しました。では死因確定はされているのですか?」
「いえ、残念ながら今の日本の死因確定率は20%です。それ以外は皆、医師の死亡診断書には『心不全』『心臓麻痺』と記されます」
 雨宮氏は不審そうな表情だ。
「たったの20%しか分からないのですか?しかし、父の死因は分かりましたが?」
「それは、死後画像診断――オートプシーイメージング――を香川教授が強硬に主張されたからです」
「それは・・・もしかして…イレギュラーな扱いなのですか?」
 置田准教授は香川教授の表情を確かめて、彼が頷くと口を開いた。
「この大学病院では初めての試みです。口外はお控え下さると有り難いのですが。
 もっとも、最近は死亡時画像病理診断センター設立の動きが各地で起こっていますが」
「香川教授の手術は著名な財界人がこぞって受けに来るくらいなのに…ごくごく普通の主人にまでこのように行き届いたことをして下さって、本当に有難うございます。きっと亡くなった主人も喜んでいるに違いありません。本当に何から何まで有難うございました」
 雨宮夫人は先ほどの彼よりももっと深く頭を下げる。雨宮誠氏とその妻も。
「いえ、当然のことをしたまでです」
 彼は固い声で言う。手は震えたままだった。
 河井技師長がノックの後入室し、置田准教授に何か囁いた。
「ああ、そうしてくれ。友永先生と研修医の先生、そしてもう1人か2人はウチの者で」
 向き直ると、ご遺族に丁寧に頭を下げた。
「ご遺体は霊安室にお運びしても宜しいですか?」
 きっとこの後に検査の予定が入っているのだろう。友永先生達はストレッチャーの運ぶ役目を振られたらしい。
「はい。お願い致します」
「霊安室は、ナースに案内させますので」
 香川教授と祐樹の青ざめた表情に気を利かせたのか置田准教授はそう申し出る。
「あのう…先ほどお値段のことを伺ったのですが…この検査のお代金は…?亡くなった方に保険は利かないと…」
 雨宮夫人がおずおずと聞いた。
「口外なさらないとお約束頂けたら、手術前に撮ったということにします」
 置田准教授はどんぐり眼を悪戯っ子のように輝かせて言う。
「宜しくお願い致します。本当に何から何までして頂いて、香川教授を始めとして…全ての先生方に…この病院には足を向けては眠れません」
 深くお辞儀をすると、置田准教授の呼んだナースに先導されて出て行った。
「香川教授…何も謝ることはなかった、と思いますが。謝ればこちらの落ち度を認めたことになる。――あのご遺族の様子では心配ないだろうが――訴訟でも起こされたら向こうに有利になってしまう」
 置田准教授は彼を心配そうに見詰めている。どうやら実際の彼を見て好感を抱いたようだ。
「いや、置田准教授の説明でご遺族が納得されていただろう?あの場合はあの態度が正しいですね。訴訟になったらお互い弁護士が仲介してしか…それも文書でです…コンタクトが取れなくなる。そうなるとご遺族の感情はもっと悪くなるものなのですよ。時間が経つにつれて…こじれにこじれる」
 そういえば、杉田弁護士と大学病院で初めて会った時のことを思い出した。祐樹がかつて行きつけだったゲイバー「グレイス」で度々顔を合わせていた時、祐樹は会社員を名乗っていた。杉田弁護士は親しい人には実際の職業を明かしていたが。香川教授の前任教授・佐々木教授の部下が起こした医療過誤訴訟の大学側代理人として杉田弁護士が突然病院にやってきたものだった。杉田弁護士は知らないフリをしてくれたが、後で「グレイス」では散々奢らされたものだった。
 その当時も黒木准教授は現在のポストに居て訴訟の窓口だったので医療過誤裁判については詳しい。
「そういうものなのですか?ともかく、死因が分かって何よりだ。オートプシーイメージングに対する認識を改めた。関西でオートプシーイメージング研究所設立に名乗りを上げているK畿大は新しい脳死判定の機械を世界に先駆けて作ったと言うし、新しい物に目がないだけかと甘く見ていた…な。
 肺塞栓症は神様だって予測出来ないのだから、そんなに気を落とさなくても。神様が不可能なら『天才香川教授』はもっとムリでしょう。人間なんですから」
 大雑把な顔の造作に相応しい、おおらかな笑顔で彼を慰めている。彼は無理やり微笑んだ顔を作るが…指の震えは止まっていない。
 祐樹自身のエラーで、彼まで巻き込んでしまった。どうすれば良いのか途方に暮れた。





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Author:こうやま みか
素人の完全な趣味で「ボーイズラブ」小説を書き始めました。
全然上手くないのですが、コメント頂ければとっても嬉しいです。
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著作権は放棄しておりませんので、無断転載などは禁止させて頂きます。何卒ご了承くださいませ。

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