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「気分は、下克上。」医師編 春-19

「お願いがあります。そちらに伺っても宜しいでしょうか?」
「ああ、今日は比較的ヒマだし、今からなら時間は取れるが?」
「では、直ぐに参ります」
 手術着を脱ぎシャワーを手早く浴びて白衣に着替え地下の――放射線が人体に影響は少ないとはいえ使用されるので地下に設置されるのが望ましい――放射線科に急いだ。
 河井技師長の弱みについては、祐樹が知っていると仄めかせば、今のところは大丈夫だろう。
 置田准教授の個室へ入る。確かに女性受けはあまりしないずんぐりとした体型に無精ひげなのかワザと伸ばしているのか判然としないヒゲがむさくるしい。
「実は、『死亡時画像検索』のお願いに参りました」
 置田准教授のどんぐり眼がさらに大きくなる。
「『オートプシー・イメージング』か?ならT葉大かK畿大に依頼しろ。ウチでは管轄外だ。それに病院長か教授の許可があるならともかく、田中先生だけの独断では絶対に無理だ」
 愛想の無い顔で明後日の方角を見る。
「浅井教授はドイツの学会でお留守ですよね?病院長もアメリカですし・・・黙って行えば、准教授がバラさない限りイチイチ画像のチェックは浅井教授もなさらないハズですよね?」
「それは…そうだが…浅井教授が気まぐれを起こしてチェックすれば…」
「香川教授の指示で行ったと申し上げれば浅井教授も納得なさるハズです」
 浅井教授は、内科の今居教授と仲が悪い上に、派閥は斉藤医学部長派に属している。香川教授も彼本人の意向はともかく病院内派閥では斎藤派に属すると看做されている。
 こちらを向いた置田准教授は少しは話しを聞くつもりにはなってくれたようだ。
「香川教授の手術絡みなのか?」
 信じられない顔つきになった。彼の手術の成功率は殆ど神業のようなもので、病院内では神聖視されている。
「実はそうです。今日の手術で…患者さんが死亡・・・しました」
 身体の奥底からこみ上げてくる真っ白な絶望に声が詰まる。
「術死かどうか確かめたいというわけか…?」
 思案顔の置田准教授は掠れた声で言った。
「はい。私も第二助手として手術室に居ましたが…手術は完璧なように思えました。…が、拍動が戻らず……お亡くなりに……」
 彼の無念さを思うと声も途切れがちになる。置田准教授も深刻な顔をした。
「万が一、術死なら…確かに他の大学に漏れるのはマズいな…。K畿大はともかく、T葉大はT大とは系列が同じだから…。ウチの看板教授に傷をつけてはならない。どうしたものか…」
「そこを何とかお願いします」
 深く頭を下げた。
「ううむ。しかしウチには専用の機械はない」
 ご遺体と同じ機械に入る患者さんのことを慮っての言葉だと分かる。
「それは存じています。ご遺体は滅菌布に包んで検査後にシーツを焼却すれば問題はないかと」
「患者さんに漏れなければ、確かに問題はないが…。田中先生も知っての通り、技師が居ないと機械は動かない。俺一人では無理だ」
 一歩前進の気がした。少なくとも置田准教授は徹底的に反対しているわけではない。
「河合技師長なら説得出来ます。今日はいらっしゃいますか?」
 有給休暇という可能性を忘れていた。河合技師長以外に弱みを握っている放射線科の技師は残念ながら居ない。
「ああ、居るが?呼ぼうか?彼が納得すれば…私も協力するのにやぶさかではない」
 この際に香川教授に恩を売っておく方が得と判断したようだ。ただ、彼を余計な、しがらみに巻き込むつもりは祐樹にもない。
「この御礼は、『救急救命室』の美人ナースとの合コンというのはいかがですか?」
 彼の太い眉毛がピクリと動いた。
「瀬戸川君も招いてくれるの…か?」
「ええ。もちろん。彼女の都合のいい日に設定しますよ?」
 現金にも内線電話を手に取る様子が嬉しげだ。
「分かった。看板教授の名誉を守るために俺レベルで出来ることはする。だが、河合技師は意外と頑固だぞ?」
 准教授権限でナースや他の医療従事者は追い払うことは出来る。
 呼ばれた河合技師は職人気質の顔を不審そうに歪めている。それはそうだろう。准教授室に呼ばれて、他科の医師――白衣にネームプレートをつけているのでスグに分かる――と対面させられたのだから。
 頑固そうな人間でも不倫をするのだなと、そして写真まで撮ってしまうのだなと思うとこの状況にはそぐわないが人間とは色々な顔を持つものだとしみじみと思った。
「何か?」
 祐樹に一礼をした後で置田准教授に聞いた。
「心臓外科の田中先生からの依頼だ。『死亡時画像検索』をと。」
 頑固な寿司職人といった感じの河合技師長は白髪混じりの眉を撥ね上げた。
「ウチの機械はCTもMRIも患者様のためにあります。ご遺体を同じ機械を使うなど論外です」
 どうやら外見と内心が一致する珍しい例の持ち主のようだった。原理原則を大切にする人。そういう人が不倫をしているという事実が人間の分からなさだ。
「しかし、患者『様』が亡くなった後に、シーツを換えて新しい患者『様』をベッドに案内しますが?それに文句を言った方はいらっしゃいません。どんな我が儘な特診患者『様』でも。ご遺体は滅菌布に包みますので、同じことでしょう?」
 河合技師長が言葉に詰まる。その服の袖をそっと掴み、准教授室の隅に誘った。置田准教授には聞こえないように小声で囁く。某ナースの名前と密会写真の件を。白髪混じりの眉が垂れた。
「田中先生以外にご存知の方は?」
 掠れた声で確認してきた。
「今のところは当事者しか…ただし」
 意味深に言葉を切る。視線で、「断れば遠慮なく口外する」と仄めかす。
「…置田准教授のご指示に従います」
「そうか…ならば、画像診断セクションの人払いを准教授権限でお願いします」
 とても意外そうに置田准教授は言う。
「分かりました。幸い、昼休みでナースも患者様もいらっしゃいませんので容易です」
 祐樹に釘を刺す視線を向けてから河合技師長は准教授室を後にした。
「すごいな…一体、どんな魔法を使ったのやら…。俺でさえ彼には手こずるというのに」
 興味津々の光をどんぐり眼に宿した置田准教授に向かって微笑んだ。
「極秘です。こちらの受け入れ態勢が整えば、スグにでも遺体を搬送しますので…読影を宜しくお願いします」
「え?読影は田中先生でも充分なハズだが?キチンと教えただろう?」
「いえ、ご遺族は私も心臓外科の人間だとご存知です。出来れば放射線科の専門家の意見が欲しい。身内同士の庇いあいというイメージを薄めるために…」
 ずんぐりした肩を竦めた置田准教授は仕方なさそうに頷いた。
「身内同士の庇い合いを避けるならT葉大の方がもっと公平だろうが…しかし、そうも言ってはいられない…か」
「内線電話をお借りします」
 置田准教授が頷くのを確かめてから手術控え室に電話をした。術創縫合も終わっている時間のハズだ。第二助手の自分が抜けて誰が縫合しているのかは気になったが。
「田中です。放射線科の許可を頂きました。ご遺族の方は?」
 幸いにも黒木准教授が居たので聞いてみた。
「そうか。ご遺体をこれ以上傷つけないのなら、CTでもMRIでも是非撮影して死因を追究して欲しいとのことだ。今から搬送するか?」
 黒木准教授は術死経験も多い。一番落ち着いているハズだ。
「いえ、私が戻ってからにして下さい。術創縫合は誰が?」
「久米先生に頼んだ。何しろ、ご遺族への説明に教授と2人で行かなければならなかったもので」
 久米先生は研修医だが腕は立つ。祐樹が脅威を感じる程度の実力の持ち主だ。問題なく縫合は済んだだろう。ご遺体の搬送は祐樹も是非付き添いたい。スタッフ専用の通路を使うといっても、敵対派閥の人間には絶対に漏れてはならないので、自分の目で確かめたかった。


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テーマ : 自作BL連載小説
ジャンル : 小説・文学

コメント

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こんにちは~www

こうやまさま、拙宅へのご訪問&コメまでありがとうございました!
嬉しかったです^^

なんだか大変そうなムードですね。
私のところも別の意味で大変ですが(笑)

全部ポチさせていただきます^^更新がんばってください!

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Re: こんにちは~www

 桜木さん

> なんだか大変そうなムードですね。

 甘い話が続いたので、ちょっと深刻にしてしまいました。まぁ、あと一回で判明しますが~!

> 全部ポチさせていただきます^^更新がんばってください!

 有難うございます~!頑張ります~!
 コメント有難うございます*・゚゚・*:.。..。.:*・゚(゚∀゚)゚・*:.。. .。.:*・゚゚・*!!!!!

Re: No title

コメント有難うございます(≧∀≦)

> 蛇足ですが置田准教授・
> 文面を読む限りでは「タイプ」かもしれません(笑)。

 あ!とってっも嬉しいお言葉です~♪♪♪
 明日の更新で再登場ですヽ(*´∀`*)ノ 
> ヤフー版の応援に行って来ますね♪
 いつも有難うございます。+ヽ(嬉′∀`)ノ。;☆
 何よりの支えです。
 コメント有難うございます━━━(゚∀゚)━( ゚∀)━(  ゚)━(  )━(゚  )━(∀゚ )━
プロフィール

こうやま みか

Author:こうやま みか
素人の完全な趣味で「ボーイズラブ」小説を書き始めました。
全然上手くないのですが、コメント頂ければとっても嬉しいです。
またヤフーブログが本館扱いで、こちらでは当面(ってイツ?)旧作を掘り起こして掲載していきたいと思います。
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