スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「気分は、下克上。」医師編 春-18

「ゆ…田中先生、病理解剖なしで死因が分かると?」
 祐樹は彼の青ざめた――とはいえ、手術着のままなので端正な顔全てを見ることは出来ないが――顔を、胸の抉られる気持ちで見た。表情は強いて笑みを浮かべてはいたが。ただ、最近は職場では「田中先生」とだけ呼ばれていたのに、「ゆ…田中」と呼んでいる点が彼の動揺を物語っている。
「ええ、『死亡時画像検索』で可能だと思うのですが」
 黒木准教授は怪訝な顔だ。
「『オートプシー・イメージング』か?ただ、あの技術はT葉大学が研究所を設立したばかりだと聞くが…そちらに依頼を?」
「いえ、この病院で行います」
 彼の青い顔に少しは生気が戻ってきた。ただ、執刀中に雨宮さんを死亡させたという衝撃からは完全に立ち直っていないのは瞬きの頻度がいつもより多いことで分かる。
 もし、T葉大に依頼して読影力の長けた専門医なら――読影もキャリアがモノを言う。――万が一彼の心臓のバイパス術が何らかの失敗をしていた場合、噂は広がるだろう。大学病院は足の引っ張り合いをする傾向もあるので、T大系列の心臓バイパス術で大御所と呼ばれている教授の耳にでも入れば香川教授の評判の失墜は免れない。それでなくとも、彼の華々しい手技のせいでもともと犬猿の仲だったT大系列の病院はピリピリしていると柏木先生から聞いている。
 この病院内で処理すれば、斎藤医学部長も手術ミスが原因で雨宮さんが死亡したとしても外には絶対に漏らさないだろう。
 祐樹は彼がアメリカから戻って来るまでは、手術に参加させて貰っていたとはいえ、足持ち――執刀中に患者さんが動かないように身体を固定する役割――しか任されていなかった。
 この病院では特に死亡リスクの高い心臓病の手術を担当する。そのための病院だ。
 当然、手術中に患者さんが死亡したり、術後直ぐに死亡したりしたケースは多数見てきたが。足持ちという役目では、「自分が殺した」という意識は希薄だ。譬えは悪いが、助手席にたまたま乗っていたバスの運転手が死亡事故を起こしたという感じでショックは受けるものの罪悪感を抱いたことはない。
 佐々木前教授を始めとする執刀医の「どこが悪かったのか?」を自宅パソコン――病院のパソコンだとデーターが流出するのが怖い。それでなくても大学病院は足の引っ張り合いだ。狐と狸の化かし合いというか、誰が味方で誰が敵かも分からない世界だ。祐樹もパスワードは掛けてあるが、所詮は病院に貸与されたパソコンなので、誰かに弱みを握られたシステム管理者が閲覧しようと思えば簡単だし、医師の中にはハッカーもどきの腕を持つ人間の存在もウワサでは存在する危険性も考えて――に保存してきた。
 彼がアメリカから凱旋帰国してから助手に昇格したが、彼の手術は「ゴット・ハンド」の異名に相応しく全てが完璧で、自分用のパソコンには彼の手技の画像は全て取り込んであるが、「どこが素晴らしいか」という文章を作成こそすれ、「どこが悪かったか」は全く思い当たらず…祐樹のパソコンにそういう文書は存在しない。
 執刀医が最愛の彼であったこと、そして手術中に雨宮さんが死亡したことにはヒシヒシと責任感を感じる。これほど罪悪感を抱いたのは手術では初めてだ。
 祐樹のこれまでのキャリアを全て使って、まずは真相究明をするべきだ。術死でなければ良いのだが。
「放射線科の准教授の弱み…というか、落とし所は知っています。救急救命室でももちろんCTやMRI画像は撮りますから…その画像を放射線科に持ち込んでいては一刻を争う救急救命室では患者さんの命に関わるので――専門医が不在の時も良くありますから――読影のコツを浅井教授や、置田准教授に教わりました。放射線科は、縁の下の力持ち的な科です。お二人とも画像診断をされる方にしてはお話し好きで、色々教わりました。T葉大付属病院は確かに現在では唯一のAi――オートプシー・イメージングの略語ですが――専門研究所を持っていますが、関西でも近○大学医学部も設立予定です」
「しかし、あそこの大学とも連携をしていない…が?存じ上げている教授も居ない」
 年は若いが教授らしい雰囲気の口調と、傷心の瞳が彼の内面の複雑さを物語っていた。
「いえ、原理は簡単なのです。MRI――磁気共鳴画像――やCT――コンピューター断層撮影――の機械を持っている病院ならどこでも出来ます。
 それに幸い、斎藤病院長と放射線科の浅井教授は学会で海外だ。置田准教授は私が説得します、絶対に」
 黒木准教授も祐樹の言うことをやっと理解したようだ。斉藤医学部長兼病院長がこの病院のトップだ。次は教授陣が横並びの状態で、その科の教授が不在ならば、違う科の教授権限の方が准教授よりは上だ。
「確かに斎藤病院長と浅井教授が病院に不在ならば、香川教授と置田准教授の権限だけで現場は動く。ただ、お二人が帰国なさった時には一波乱は免れないだろうが…」
「その辺りは任せておいて下さい。緘口令を敷くことも可能だと思います」
 彼の見かけとは異なる強靭な精神力も少しは持ち直したらしい。あくまでも「少しは」だが。
「今から、ご遺族の方にお詫びをして、『オートプシー・イメージング』の許可を戴いて来る。ゆ…田中先生は放射線科の方を頼む」
 去り際に彼は切れ長の目を祐樹に注いだ。動揺はしていたが、綺麗な感謝の笑みを瞳に浮かべていたのが印象的だった。
 放射線科の置田准教授は、最近同じ科のナースに手酷く振られている。その事実は彼が救急救命室に読影に来てくれて、雑談をしていた時に判明した。祐樹はツイツイ、ノリで「振られた後は、もっと綺麗なナースを紹介しますよ。気になるナースは居ないのですか?」などと、その時は、祐樹お得意のその場しのぎで聞いてみた。すると、「救急救命室の瀬戸川ナースが好みだ」と真剣な顔で告白した過去がある。
 救急救命室はともかく多忙だ。彼氏がいるかどうかは知らないが、居ない確率の方が高い。部下のナースのプライバシーを知らないフリをしつつ杉田(旧姓)阿部士長は耳にしている可能性が高い。杉田弁護士との結婚生活は上手く行っているようで、2人を引き合わせた祐樹はとても感謝されているし、結婚以来すっかり丸くなった阿部士長なら教えてくれるだろう。もし、彼氏が居ても合コンという古典的な催しに瀬戸川ナースを引っ張り出してくれる。何しろ今も救急救命室では「鬼」の異名の持ち主だ。
 放射線科でももちろん専門の技師が居る。河井技師長という、50がらみの貧相な男性だが、祐樹が研修医でナースの愚痴を聞いていた頃――彼がアメリカから帰国する前の話だ――小児科の某ナースと不倫をしていると、某ナースから直々に愚痴られた。彼が帰国してからは某ナースの愚痴を聞く暇はなかったので、その後はどうなったかは知らない。が、某ナースとのホテルの一室での密会写真だか記念写真だか知らないが、「2人の愛の記念に」などと、歯の浮くようなセリフと共に河井技師長の奥さんが見れば逆上すること間違いなしの写真を撮ったと聞いた。
 某ナースに食事を奢ってその後のことを聞けば、脅しにはなる。祐樹にすれば、不倫中に写真を撮るという行為は想像を絶するが。
 祐樹は彼を真剣に愛しているが「道ならぬ愛」だと世の中の糾弾を受ける覚悟はある。斎藤病院長は知っていて黙認の気配ではあるが。そういう関係に写真などの証拠を残してはマズいだろうという理性は働くのだが…。なので、彼との写真は普通に並んでいる写真が数枚有る程度だ。彼だけの携帯で撮った画像は腐るほどナースに譲ってもらってはいたが。
 この2人を巻き込めば、斎藤病院長や浅井教授には知られずに画像は撮影出来るだろう。
 内線電話で放射線科を呼び出した。あの科は撮影のスケジュールが予め決まっている。昼食時間はナースも居ない。
「心臓外科の田中ですが…」
「ああ、田中先生か?どうした?」
 置田准教授が受話器を取った。



ブログランキングに参加させて戴いています。宜しければクリックお待ちしております~!とってもとっても励みになります!!!コメントも熱烈歓迎中です!!!
 ポチっとお願い致します!!!


この作品はヤフーブログで更新中に一部作品に「投稿できない文字列が含まれています」との痛恨のエラーが。なので途中で申し訳ないのですが、こちらでも更新させて頂いております。



スポンサーサイト

テーマ : 自作BL連載小説
ジャンル : 小説・文学

コメント

非公開コメント

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

No title

ああ! ミスがなかったことを祈ります!
あんなに幸せそうだったのに(ノд・。) グスン
お医者さまというお仕事は大変だなあ……とつくづく思います。

Re: No title

 コメント有難うございます~!
 いつも、ヤフーブログか、こちらに連日のようにコメント下さいまして、本当に感謝しております(≧▽≦)v更新の支えです~!
 

> 体調がお悪いようで、心配しています。
 
 無理はしていないつもりですが、やはりブログを続けていると多少の睡眠不足や過労にはどうしてもなってしまいます(。ノ□`q。)
 リアル生活の方は落ち着かれましたか?とても心配しております。 

> 二人もやっと落ち着いた生活ができると思っていただけに、少し心配ですね。
 いえ、甘甘ばかりだと書いている方も飽きますし…しかも「医師編」と銘打っているクセに「どこが医師じゃ~!?」と自分に突っ込んでしまって…医療シーンを入れたのですが、勉強不足でオタオタしています。多分合っていると思うのですが、間違っている予感満載です
○l ̄L

 
> 次回の更新も楽しみにしております。
 
有難うございます~!頑張ります~^^
コメント有難うございます*・゚゚・*:.。..。.:*・゚(゚∀゚)゚・*:.。. .。.:*・゚゚・

Re: No title

 りりさん♪
 コメント有難うございます~!

> ああ! ミスがなかったことを祈ります!

 伏線も張っているのですが、多分大丈夫です。・゚(p′∧`q)゚・。

> お医者さまというお仕事は大変だなあ……とつくづく思います。
 
 そうですね。やはり生と死がかかっている仕事なだけに…しかも香川教授は今まで死亡させたことがないので、精神的ショックは大きいと思いますシク(。ic_i`。)シク 
 まあ、彼の救いは祐樹が居ることだと思いますが。

 コメント、とっても嬉しかったです。有難うございます
*・゚゚・*:.。..。.:*・゚(゚∀゚)゚・*:.。. .。.:*

プロフィール

こうやま みか

Author:こうやま みか
素人の完全な趣味で「ボーイズラブ」小説を書き始めました。
全然上手くないのですが、コメント頂ければとっても嬉しいです。
またヤフーブログが本館扱いで、こちらでは当面(ってイツ?)旧作を掘り起こして掲載していきたいと思います。
著作権は放棄しておりませんので、無断転載などは禁止させて頂きます。何卒ご了承くださいませ。

FC2ブログランキング
ランキングに参加させて戴いております。ご訪問の際ポチっと。とっても喜びます!!

FC2Blog Ranking

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
カテゴリ
月別アーカイブ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。