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「気分は、下克上。」医師編 春-16

「いつも、とても美味しい食事を作って下さって有難うございます。ご馳走様でした」
 祐樹とは違った意味で多忙な彼なのに、新しい献立が次々に披露されるのは驚異的だ。それに味付けも祐樹好みのものばかりだ。
 彼の手は自然な動きで食器を片づけている。祐樹が以前1人暮らしをしていた時に定食屋兼居酒屋のような店に食事に行ったものだが、「早く帰れ」と言わんばかりに食器を片づけられたのとは手の動きからして違う。
 彼は食後のほうじ茶を出しながらはにかんだ微笑を浮かべる。
「祐樹の口に合って良かった。お正月に祐樹のお母様に託された『田中家のお節料理』のレシピを見て、多分この味付けが祐樹には好みだろうな…と料理の本の調味料の多さを微妙に変えているだけだが…」
 彼がそんな工夫をしてくれていたとは知らなかった。祐樹は料理の本こそ見るが、調味料などは全部、本通りの分量だ。
「有難うございます。とても好みの味ですよ…私が作る時は貴方の好みの味付けにしますね。と言っても…参考にするものがないのですが…」
 彼は桜の花よりも綺麗で儚げな微笑を浮かべたが、少し困った表情も浮かべている。
「祐樹の気持ちはとても嬉しいが…私は自炊していた時は本当に適当に味付けをしていただけだし…それに母を病弱だったし、俗に言う『お袋の味』というものは記憶にない…な。だた、祐樹の料理はとても美味しく感じるが…」
 祐樹の手料理は、彼と生活してかなりレベルアップしたことは確かだがそれ以前はそこいらの定食屋かコンビニ弁当だった。料理に自信は全くない。
「そうですか?私の料理なんて、まだまだですよ?不味かったら遠慮なく言って下さい」
「不味かったことは、一度もない…な。祐樹が作ってくれるだけで嬉しいので」
 テーブルの上にはいつの間にかほうじ茶の茶碗しか載っていない。
「お花見、行きましょうか?身体は大丈夫?今朝はかなり激しく求めてしまいましたから」
 彼の頬に、桜色の紅が一刷毛塗られた。
「ああ、昼間ゆっくりと過ごしたし…もう平気だ。私は病気にも強いが…そちらの方も回復は早い…みたいだな」
 そう言えば彼が病気で倒れたことも――手術妨害で精神的に参っていた時は別として――ない。今思えば汗顔の至りだが、彼と最初に過ごした夜も誤解と八つ当たりから随分手酷く抱いたものだが翌朝は普段通りの身のこなしだった。何にでも適応力を発揮する彼だが、彼の細い肢体も見かけとは裏腹にタフなのだなと感心する。
「そのままの格好なら、万が一病院関係者に遭ってしまっても誰も貴方とは気付かないでしょう…宵闇なのでなおさら…。夜桜見物に行きましょう」
 祐樹は立ちあがって、お茶碗を洗っていると彼は薄手のセーターを二枚持ってキッチンに戻って来た。
「花冷え予防に…これを」
「何から何まで有難うございます」
 キッチンに掛けてあったタオルで手を拭いてから彼の幾分細い腰に手を回して口付けた。彼の肢体の奥の妖しい火種が燃え広がらない程度の軽いキスだ。明日の仕事に支障をきたさないために。
 病院の近くの神社は、当然ながら病院の近くにある彼のマンションからも近い。○山公園などの桜の名所は人でいっぱいだろうが、この辺りは閑静な場所で、特に人の気配もない。
 彼が手渡してくれたセーターを肩に掛けて、横を歩く彼の手の甲と手の甲を密着させる。手を繋ぐことは流石に憚られた。
「そういえば、救急救命室に患者さんが途切れた隙に、ウチの病室を覗きましたよ。明日手術予定の雨宮さんの容態を確かめに。異常は有りませんでしたが…手術の緊張からか座禅を組んでいらっしゃいました」
「そうか…座禅は精神統一にも良いというし…頭が真っ白になるのでリラックスも出来るから…な」
 ちなみに明日の手術の祐樹の役目は第二助手だ。黒木准教授は講義がないので久々の第一助手だった。
 目当ての神社に着いた。境内には10本ほどの桜の木が闇の中に咲き誇っている。蛍光灯が申し訳程度に設置してあり、辺りの様子は見える。それに満月の冴え冴えとした銀色と黄色の中間の光がとても桜の花と調和している。祐樹が見つけた穴場だけに人の気配はない。
「こちらに、椅子代わりの朽ちた松の根が有ります。座りませんか?」
 彼は周囲を見回してから祐樹の指の付け根まで彼の指と絡ませる。
「本当に…天橋立の雰囲気に似ている…な。それに桜がとても綺麗だ」
 祐樹も彼の指の付け根まで指をしっかりと絡ませてから松の根に腰を下ろす。2人が座っても大丈夫なことは以前、祐樹が1人で煙草を吸いに来た時の経験で知っている。
 彼の横顔が満開の桜と満月に照り映えている。
「桜も綺麗ですが…貴方の横顔の方がもっと綺麗です…よ?」
「それは…比較の対象にならないと思うが?」
「いえ、見惚れてしまいます。満開の桜よりも綺麗な貴方の顔を。貴方の全てが私を魅了する。心から愛しています、よ?今朝、言いたかったのですが、不覚にも睡魔に負けてしまったので。何度でも言います。貴方だけを愛しています」
 静謐な美しさで端正に咲き誇る満開の桜を見ていた彼の顔が祐樹に向けられる。切れ長の瞳が桜の色香で匂うようだった。祐樹の瞳を愛しげに凝視しながら彼の桜色の唇が近付いて来る。
「私も祐樹を愛している。今までも、そしてこれからも」
 祐樹は指の付け根までしっかりと絡ませた指を強く弱く握る動作をする。
 唇が重なり合う。今回は彼の唇が綻んで祐樹の唇に彼の舌の温かく湿った感触が伝わってきた。祐樹も舌を出して彼の舌に重ねる。
 お互いを求める湿った音が森閑とした境内に幽かな気配を宿す。唇を少し離すと彼の舌が追いすがってくる。舌の表面だけを重ね合う熱いキスに酩酊感を覚える。これも満開の桜の花の作用なのだろうか?
 繋いだ手と湿った舌だけでお互いを感じている。
 満開の桜は神々しく、そしてどこか美しい狂気をはらんでいる。
 ハラリと一枚の桜の花びらが彼の額に落ちてきた。その花弁を手で摘まんで彼の舌に乗せる。桜の花びらと共に彼の舌を指と舌で愛撫する。
 彼の細い肩が儚げに震えた。
 口づけを解き、肩に掛けたセーターを彼の上半身に着せかけた。
 彼の桜色の唇の端から銀色の唾液が滴っている。唇でそっと吸い取って、桜色の唇の近くで囁く。
「桜の精のようですね。桜闇に照らされた貴方もとても綺麗だ。この程度のキスなら…身体の奥は疼かない?」
「ああ、気持ちは疼くが…身体は大丈夫だ。他の・・・び・・・敏感な場所を触られるならともかく」
 普段の彼なら恥ずかしがって言わない言葉だった。きっと満開の桜のせいで彼の精神もいつもとは異なるのだろう。
「そう…それなら良かった。帰宅したら、ゆっくりお風呂に入りましょうね。髪の毛、洗いますよ…今日のお詫びに。頭皮も貴方が満足するまでマッサージして上げます、ね。お好きでしょう?」
「ああ、それは楽しみだ。祐樹のマッサージはとても上手いから」
 彼は祐樹の肩に頭を乗せた。
「頭皮だけではなくて…肩と首もね」
「有難う。でも、もう少しこのまま、桜を見ていたい」
 密やかな声で囁き合う。桜の花びらがハラリと優雅に舞う様子を2人して静かに見入っていた。お互いの体温と香りを感じながら。
 この安逸な幸せな時間が長く続けばいいと願っていた。桜の花の儚さとは裏腹に。
 「虫の知らせ」を祐樹は信じないが、嫌な胸騒ぎがしていた。


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こうやま みか

Author:こうやま みか
素人の完全な趣味で「ボーイズラブ」小説を書き始めました。
全然上手くないのですが、コメント頂ければとっても嬉しいです。
またヤフーブログが本館扱いで、こちらでは当面(ってイツ?)旧作を掘り起こして掲載していきたいと思います。
著作権は放棄しておりませんので、無断転載などは禁止させて頂きます。何卒ご了承くださいませ。

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