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「気分は、下克上。」医師編 春-3

 彼は桜色の吐息を一つ零した。即断即決の彼にしてはとても珍しい。彼の言動次第で優先させるべき本能を決めようと。
「貴方もすっかり身体が変わりましたね?以前ならこの程度の刺激では無反応だったのに」
 彼は形の良い眉を少し上げた。滅多に怒った顔を見せない彼にしては珍しい。
「誰のせいだと思っている?」
 尖らせた桜色の唇から凛とした声が出た。その仕草も瑞々しく新鮮で…朝の光に調和している。間髪を入れずに答えた。
「もちろん、私のせいですよ?そうでなければ許さないところです」
「自覚しているならそれでいい。何を許せない?」
 彼は自分の席に戻っていく。どうやら食事が優先のようだった。「何を許さない?」とは大胆な艶姿を見せる割には知り合った時の初心さや無垢さは彼の心の根底にたゆたっているようで、それもまた愛しいが。嫉妬心を祐樹が持たないとでも思っているのだろうか?
 一気に頭の中にインプットした「香川教授にバレンタインチョコレートを贈った全員の女性のリスト」を――祐樹は密かに「恨みメモ」として毎日見ていたものだ。ちなみに、以前彼にアプローチしてきた産婦人科の准教授は、長岡先生からの情報によると別口の玉の輿探しで忙しいらしい。それはそれで喜ばしいが。――怒涛の勢いで名前を並べ立てた。彼ほどではないが祐樹とて暗記力には自信が有る。
 その女名前のリストを最後まで言い切ると、危うく呼吸困難を起こしそうだった。それほどの人数が居たということだが。お茶を飲んで彼の反応を見る。彼は一回見たり聞いたりしたモノをカメラ並みの暗記力で脳に保管出来るという特技を持つ。以前医局でトラブルが有った時に興信所の尾行の車が――祐樹には付けられたが――存在しないことを即座に思い出していたという神業に近い能力の持ち主だ。
 その彼は僅かに眉を顰めて考え込む。どうやら脳内コンピューターの奥底に眠っているらしい。尾行している車種の件は直ぐに答えたというのに。
 数分経過しても答えがないということは彼の頭脳の中で「どうでも良いこと」と分類されているのだな…と密かに笑いを噛み殺す。チョコレートの贈り主で「義理チョコ」だと祐樹が確信を持って言えるのは、仕事以外ではおとぼけの長岡先生だけだ。彼女が贈って来たチョコがベルギー王室御用達のゴ○ィバ、しかも推定1万円の2段重ねの豪華版だったが。それでも彼女は東京の私立病院の御曹司と順調交際中だ。しかも政権が交代したために婚約者の岩松医師に持ち込まれていた代議士は落選し、その令嬢との縁談も破棄されたと聞いている。長岡先生は祐樹に心を開いてくれていて時々は彼女の部屋に呼ばれて香川教授にまつわる話やその他のよもやま話をするようになっていた。彼女の部屋のカオスは相変わらず健在で、比較的散らかっていても気にならない祐樹ですら片付けたくなる衝動を堪えるのを我慢している。しかも彼女が炒れるコーヒーは紅茶とココアを混ぜたような味がするのでもっぱら祐樹がコーヒーを炒れるハメになってはいるが。ただ、彼女の内科医としての才能は香川教授が惚れ込んだだけのことはあり、教えを請うのは楽しかったが。彼がやっと思い出したといった感じで口を開く。
「ああ、バレンタインデーのチョコか?あれは皆義理チョコだろう?長岡先生のが一番値段が張ると秘書作成のリストに書いてあった。彼女は結納も近いそうだし…その彼女のチョコレートが義理でないワケがない。それ以下の値段のチョコレートは皆義理チョコに決まっている」
 ここにも一人、経済感覚が小市民とかけ離れている人が居た…と脱力してから目の前の箸置きからお箸を取って食事を始める。「5000円以上のチョコは義理チョコではないと思いますが」と主張したいが…言えない。言ったら最後、「その根拠は?出来ればデータ付きで」と言われるに決まっているのだから。
「私は貴方からチョコを貰うの…とても楽しみにしていたのですが」
 我ながら未練たらしい口調になった。味噌汁を口に含むがいつものように素晴らしく美味だ。全く違うことを話しながら食事をするというのは祐樹達にはお手の物だ。昼食の時間に手術の術後カンファレンス――要するに反省会だ――をしながら患者さん差し入れの名だたる料亭のお弁当を味わうということも度々有る。
 彼の眼差しが驚きの色を浮かべた。
「祐樹は、私の部屋に積んであったチョコの山を親の敵を見るような目をして眺めていたから…嫌いなのかと思っていた。それに当日、祐樹は夜勤だっただろう?救急救命室で…。私は一応用意したのだが…嫌いなものでも祐樹は私からの贈り物だと無理に食べるかもしれないと…自粛して…長岡先生に上げてしまった」
 目の前の冷めかけた料理の存在をようやく思い出したらしく、箸をしなやかな指先で作法通りに持つと食事を始めた。
「いえ、教授室に山のように積まれたチョコに…というか、その贈り主に嫉妬していただけです」
「嫉妬?祐樹が嫉妬してくれるのか?それは嬉しい…な」
 ホウレン草の煮びたしを食べていた箸を置いて、桜色の唇が花のように綻んだ。
「聡の愛情は信じていますが…ただ、貴方の恋人の座を狙っている女性が居るとなると、理性では分かっているのですが、感情のブレーキは効きません」
 彼は真率で澄んだ眼差しを祐樹に向ける。
「私だって…祐樹のチョコの数を見た時に動揺したとは…思わなかったのか?」
 黒に近い青色の沈痛さを宿した瞳が祐樹に向けられる。彼には悪いが、暗い眼差しを浮かべてくれるだけで祐樹の嫉妬心は現金にも空の彼方に飛んでいってしまう。
「バレンタインの時期はとっくに過ぎましたけど…チョコの代わりに…私自身を味わって下さい。それも飛び切り乱れながら。聡の不安を雲散霧消させるためにも愛情を持ってご奉仕しますから。いつも言っているでしょう?『聡だけを愛している』と」
 一言一言に重みを持たせて、彼を宥める口調で言った。彼の眼差しが満開の桜にも負けない艶やかな光を放ち、唇も桜色が濃くなっている。上気した頬はサクランボの艶やかさと上品な色香を放っている。
 職業柄、2人とも食べるのは早いほうだ。キッチンのテーブルに載った料理も殆どが2人の胃の中に入っていた。
「では、約束通り、ココで…あ、エプロンは着けて下さい。縄目が肩甲骨に食い込んでとても良い風情だから」
 彼はしなやかに立ちあがると、エプロンを身に付けた。ワイシャツははだけたままなので鎖骨の情痕が紅く淫らな花を咲かせている。シャツの合わせ目からチラリと見えた彼の胸の尖りも桜色の宝石のようで…祐樹の快楽中枢は激しく刺激される。
「上の棚の物を取る動作をして」
 彼は爪先立って背筋を伸ばした。ワイシャツの臀部を隠していた部分がたくし上げられる。太ももの付け根からその上の白い絹の光沢を放つ双丘がチラリと見える。
「もっと背伸び…出来る?貴方の艶めく双丘の麓しか見えないのがとても残念なので」
「これでいいのか?」
 ワイシャツから覗く彼の祐樹にしか許されていない場所が数センチ見えた。彼は多分欲情の証だろう。汗をかいている。夏用の薄い白いシャツが肢体にぴったりと張り付き縄で戒められている肩甲骨も先ほどよりもはっきりと見える。羽根を折られた堕天使の背徳さと倒錯した色香を感じさせる。
「ええ、とても素敵な眺めだ…」
 彼の細い腰に手を回して抱き締めた後、ワイシャツの裾に手を掛ける。
 祐樹自身も先ほどから持て余していた本能の赴くままに振舞うことにする。



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テーマ : 自作BL連載小説
ジャンル : 小説・文学

コメント

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No title

「がんじ」と「下克上」本編は全部そっくり移せたんですね。新作のアップになって作業が少しは減って良かったですね(*´∇`*)
下克上番外の感想はこっちに書けるし……。

> 「誰のせいだと思っている?」

まったくだ~~(///∇///)
それにしてももて男二人、チョコ食べきれないですね。
そして、長岡先生のチョコが義理なんだからそれより安いチョコは全部義理、という教授の三段論法に笑ってしまいました。可愛い~可愛い~。
でもチョコあげた女子気の毒(^w^) ぶぶぶ・・・

Re: No title

りりさん~!
こっちにコメとっても嬉しいです~^^


> 「がんじ」と「下克上」本編は全部そっくり移せたんですね。

移せたのはいいのですが、「書庫設定」だの「カテゴリー」設定だの村リンク外しだの、眩暈がしそうです@@;
村も、ヤフーさんで登録してあるし、ミラーサイト扱いは嫌なのでこちらは取りあえずは見送りです~♪



> 下克上番外の感想はこっちに書けるし……。

とっても嬉しいです~♪♪

> > 「誰のせいだと思っている?」

ああ、そこに反応して頂けましたか~!!
> そして、長岡先生のチョコが義理なんだからそれより安いチョコは全部義理、という教授の三段論法に笑ってしまいました。可愛い~可愛い~。

基本的には人間の心情の綾まで分かっていない人なので…。この位しか考えないだろうなっと。
> でもチョコあげた女子気の毒(^w^) ぶぶぶ・・・
祐樹は「ゲイバー グレイス」に行ってませんからね~!行ったらチョコは多分倍になったかと思います~☆
プロフィール

こうやま みか

Author:こうやま みか
素人の完全な趣味で「ボーイズラブ」小説を書き始めました。
全然上手くないのですが、コメント頂ければとっても嬉しいです。
またヤフーブログが本館扱いで、こちらでは当面(ってイツ?)旧作を掘り起こして掲載していきたいと思います。
著作権は放棄しておりませんので、無断転載などは禁止させて頂きます。何卒ご了承くださいませ。

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