スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「純愛と妄執に揺れる心」第一章-12

 「ひまわり園」でのイジメは、純一の微笑み作戦が効いたのか入園当初ほどは手酷くはなくなっていった。
 ただ、大谷園長先生も副園長先生も入居者の衣食住と警察沙汰になるようなトラブルやボランティアとは言っても経営上の雑務に追われて、純一の「些細な」――純一にとっては重要なことだったが――問題に介入する暇は持ち合わせていなかった。
 それよりも小学校でのイジメは陰湿さを増していった。純一が声を取り戻した日、藤田先生が同級生のお兄さんを手酷く叱責したことも逆恨みの種になっていた。
 直哉兄さんのケガは打ち身だけで内臓には全く損傷がなく、そのことは純一を深く安堵させた。
 純一も担当の精神科の田口先生から「大人とは違って18歳までの精神的な病気は断定的なことは言えませんが、これだけ喋ることが出来るようになったのですから、多分もう大丈夫でしょう。ただし、思ったことや、心に浮かんだことなどを私でも構いませんし他の…純一君が信頼出来ると思う人に話すクセをつけてくださいね」と言われた。もちろん、その温和な先生には何でも話せそうだったが、一番に言うのは直哉兄さんだと即座に決めた。
 純一が待合室に行くと送ってくれた女の先生――上島先生という名前だった――は、直哉兄さんと一緒に待っていてくれた。ただその先生も、純一が施設で生活を始めた時から初めて目にする「疲れた大人」といったイメージをまとっていた。純一は母や会社の「働く女の人」を数人見てきたが、エステ業界で働く人間らしく、若くて溌剌として女としての緊張感に溢れているようだったので。
「純一…先生は何ておっしゃった?」
 直哉の声が少し震えているが表情は明るかった。二回もお腹を蹴られた痛みよりも純一のことを心配してくれているのが分かってしまう。
「直哉兄さんは大丈夫?僕は多分、もう大丈夫だって…でも、心に浮かんだことや考えたことを人に話しなさいって言われたよ?僕はお兄さんに話したいんだけど、いいかな?その代わりお兄さんも僕に話してね」
 お兄さんは純一を抱きしめて「良かった」と言ってくれる。
「ケガは慣れているから大丈夫…それに、直哉には何でも話したいと思っているよ。最初にそう言わなかったかな?
 それに、直哉の声、とても綺麗だね…天使の声みたいだ…」
 その言葉に上島先生も大きく頷いた。そしておもむろに口調と表情を真剣なものに改めた。
「二人にお願いがあるの…。藤原君のケガも幸いなことに大事には至らなかったようだし。学校としてはあまり騒ぎを大きくするとトラブルが大きくなるの…なので、この件は、おおっぴらにしたくないのだけれども…。それでいいかな?」
 純一はそれで十分だったが、被害者は直哉兄さんだ。直哉兄さんの表情をそっと盗み見た。兄さんは映画で観た外人さんがするように肩をすくめて純一から見れば大人っぽい表情になった。
「ええ、これ以上トラブルが大きくなったら先生の見えないところでイジメが酷くなります。今回の件も藤田先生に叱られたお返しにまたイジメが待っていると思います。僕は慣れていますから、大丈夫です。けれども…純一がイジメられたら、また声を失うのでは…と、とても心配です」
 上島先生は少しお肉の付いた身体が萎むのではないかと純一が心配する程、大きなため息を吐いた。
「純一君…ランドセルがきっかけでイジめられるかもしれないね。先生が、今年卒業した児童のお宅からランドセルを譲って戴けないかと頼むということでどうかな?」
 ランドセル――そう言えば施設のお兄さんやお姉さんがそれを見て「お金持ち」だとワザと純一に聞かせる大きさで囁いていたっけ。同じことが起こるのだったら、お母さんにせっかく買って貰った物だけど、上島先生の言う通りにした方が良いのかも知れない。
「お兄さんは…どう思う?」
 直哉は一つしか年が上だとは信じられないくらい大人びた顔をした。
「純一のランドセルは、見る人が見たら校章で直ぐに分かるから…普通のランドセルに変えた方がいいよ。『小学校で私立に行っていて、今は施設に居る』だけで十分イジめの対象になるから。僕もそうしているし」
 そういえば、お兄さんのランドセルは――といってもお兄さんの元の小学校がどんなランドセルなのかは全く知らなかったが――皆が持っている普通のやつだと思い至った。
「この小学校はね、他の小学校とは全く違うの…。特に藤原君や小倉君が以前通っていた私立の小学校とは別世界だと思った方がいいの。
 この辺りはとっても貧しい児童達でいっぱい…実のお父さんやお母さんに殴られている児童も珍しくないの…そういう場合は『児童相談所』に報告しているのだけれど…なかなか手が回らないの。お父さんが殴るからと言うので家――といっても、純一君が想像も出来ないようなお家だと思うわ――には帰らずに放課後自転車に乗ってタバコを吸う児童やケンカに巻き込まれた児童などもたくさん居るの。そういう児童は『補導』といって警察へと連れて行かれます。でもお家はお父さんやお母さんが警察に迎えに来ないのが普通で…そんな場合は先生達が手分けをして警察に謝りに行って、お家に送るのだけれども、お家ではもっとひどく殴られるという最悪のパターンなの。そのむしゃくしゃを施設の子供達にぶつけて――いえ、それが間違っていることは先生たちも良く分かっているのよ――いるのが悲しい現実なの…」
 上島先生はまた身体が小さくなるのじゃと思うため息を吐いた。この先生も施設の大谷先生と同じくとても疲れているんだなと思った。お父さん――純一には居ないけれども――やお母さんに殴られる児童が居るという事実にひたすら驚愕したが。
「直哉兄さんは、パパやママに殴られた?」
「いや、パパの病院経営が上手く行っている時はパパもママもとっても楽しそうに僕のお話しを聞いてくれたり、塾や小学校――元のだけど――の集まりに出てくれたりしていたな。パパの病院が危なくなった時は、パパは暗い顔をして書斎に閉じこもっていたけど、ママは『心配しないでね』って優しく抱きしめてくれた。
 そうだ、元の学校の同級生で、転校しても仲良くしてくれる子が何人か居る。パパがあんなことになっても、ママの友達で『直哉君、何時でも遊びに来てね』と涙ぐんで言ってくれたお母さんたちの子供なのだけど…僕も時々行っているし。その中でも、柔道とか合気道を習っている友達がいる。僕もその子に柔道を教えてくれる。その友達に柔道を教えて貰えればイジめられた時に何かと役に立つよ」
「柔道って、オリンピックで見たあれかな?白い服と黒い帯を締めて戦うの?」
「そうそう。黒い帯は強い人しか締められないのだけれども…。ただ、今日みたいにお腹を蹴られたらダメだけど、他の殴り方なら柔道や合気道で何とかなる場合もある」
 上島先生は細い目をまん丸にして二人の会話を聞いていた。
「藤原君…二年生なのに、そんなことまで考えているのね。やっぱり二年生で一番賢いと職員室でも有名なのは勉強面だけでなくて、他のことも色々考えているからなのね」
「うん!直哉兄さんの友達になら会いたいけど…でも僕が行っていいのかな?」
 何しろ、直哉兄さんの元の小学校は、純一のお母さんがとっても憧れていた小学校だ。そんな小学校に通っているお兄さん達は僕のことをどう思うだろう?
「もちろん。だって、純一は僕の弟だもの。それに、純一だって、キチンとした挨拶も出来る賢い弟だから大丈夫」


◆◆◆
 直哉の元の小学校に通っている友達とそのお母さんは、皆綺麗でお化粧もばっちりだった。施設の先生や小学校の先生達と大違いだった。もちろん、施設の周りを歩く女の人とも洋服が違っていた。――もちろん、僕のお母さんが一番だったけど――そして純一にも親切だった。学校帰りに電車に乗ってといっても現金なんて持ってなかったけれど、直哉の友達のママが「これ電車賃ね」とこっそり渡してくれた。綺麗なお家に、玄関や廊下にふんだんに活けられた見事なバラや百合の花、そして純一をホロりとさせたのが、お母さんが買ってくれた大好物のバターの味と香りのする貝の形や箱の形をしたお菓子。施設ではもちろん食べられないものだった。直哉兄さんは「マドレーヌって言うんだ」と教えてくれた。このお菓子をふんだんに盛ったおやつが出た時、食べながら幸せだった時のことを思い出してしまった。
 直哉兄さんの友達の家に数軒行ったけれども、純一の過去を知るや、皆親切にしてくれた。声を失っていたと直哉兄さんが言うと涙ぐんでくれるママもいて…その時思った。イジメられるのも貧乏だからだと。力が強い大人になりたかったけれども、貧乏な大人にはなりたくないと思った。そのためにはどうしたら良いのだろう?<


スポンサーサイト

テーマ : 自作BL連載小説
ジャンル : 小説・文学

コメント

非公開コメント

プロフィール

こうやま みか

Author:こうやま みか
素人の完全な趣味で「ボーイズラブ」小説を書き始めました。
全然上手くないのですが、コメント頂ければとっても嬉しいです。
またヤフーブログが本館扱いで、こちらでは当面(ってイツ?)旧作を掘り起こして掲載していきたいと思います。
著作権は放棄しておりませんので、無断転載などは禁止させて頂きます。何卒ご了承くださいませ。

FC2ブログランキング
ランキングに参加させて戴いております。ご訪問の際ポチっと。とっても喜びます!!

FC2Blog Ranking

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
カテゴリ
月別アーカイブ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。