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「純愛と妄執に揺れる心」第一章-13

 純一は思っていた通り、ママの友達にとても気に入られているよね?」
 直哉兄さんのベッドに潜り込んで「夜のお話し」をしていた時に直哉兄さんが嬉しそうに言った。お兄さんはいじめっ子に対しては毅然とした態度を崩さない。が、それ以外の時はとても優しいお兄さんだった。2人が「ひまわり園」で出会ってから4年の月日が経過していた。
 直哉兄さんと純一は、直哉兄さんの友達の家――と言っても、お家の中に螺旋階段があったり「ひまわり園」の食堂と同じ大きさのキッチンがあったりするような家――に月に数回は遊びに行っている。これも直哉兄さんが紹介してくれたせいだった。純一は施設ではもう「お金持ち」と囃されることなく、それなりの生活を手に入れていたが、学校では「施設の子」としてイジめに遭遇することはしょっちゅうだった。直哉兄さんと同じく身体には青あざが無数に出来たが、直哉兄さんの友達が合気道や柔道――何でも「お金持ちの子供は誘拐されたり不良に恐喝の標的にされやすい」ということで直哉兄さんの元の小学校では奨励されている習い事らしい――を教えてくれたことで幾分かはケガも軽減されていると思う。
 それに、神経を研ぎ澄まさなくてもいい環境は純一も多分直哉兄さんも、こういうお家に遊びに来ている時だけだった。ぽっかりとした陽だまりの時間。
 直哉兄さんの言葉を聞いて純一も思い当たることがあった。直哉兄さんと一緒に遊びに行ったお家では、例外なくその家のママが「本当に可愛い子ねぇ…」と目を丸くして言ってくれる。直哉兄さんやその友達、一番柔道や合気道が上手い冷泉お兄さんの家に行くことが多かったが、そのママは直哉兄さんや冷泉君よりも純一の顔を感心したように見詰めてくれて「このお皿のマドレーヌ…食べきれなかったら持って帰って、直哉君と一緒に食べなさい」と綺麗な紙で包んでくれたこともしょっちゅうだったので。
 他の家でも、「天使のような顔ねぇ」と溜息混じりに言われることも有った。直哉兄さんは「賢そうで大人びた顔ね」と言われることが多かったが。
 ある日、冷泉君と直哉兄さんは純一の知らないオトモダチのことで話しこんでいて、純一は話し相手が居なかった。だからリビング――と言ってもお母さんのマンションのリビングよりももっともっと広かった――に備え付けられている本棚から「世界名作文学」を抜き出して読んでいた。自由にご本を読んでも良いと言われていたので。ご本を読むのも純一は大好きだった。直哉兄さんと冷泉君は冷泉君の個室に行って何かお話しの続きをしているようだった。直哉兄さんは済まなそうな顔をしていたけれども「僕は平気だよ」と笑って手を振った。
 冷泉君のママが冷たいオレンジジュース――と言っても施設や学校の給食とは違って、純一がお母さんと幸せに暮らしていた頃にハウスキーパーの青井さんが作ってくれたような生のオレンジジュースにお母さんと住んでいた頃と同じ冷蔵庫で作る氷ではなくて売っている氷を浮かべたものだった――とケーキを持って来てくれた。ケーキも、イチゴが数え切れないくらいに乗っている。こんな豪華なケーキはお母さんと暮らしていた時以来だ。鼻の中がツンとする。
「ご本が好きなの?」
「はい、大好きです。でも施設ではゆっくり読めないので…分からない漢字は頭の中に入れてから『ひまわり園』に帰って辞書で調べて覚えます』
 正直に言うと「まぁ…」と絶句された。冷泉君のママは本当に気の毒に思っているのが分かる顔をしていた。施設や学校では大人の顔色を読むのは基本中の基本だ。4年の歳月が純一に生き残る術を教えてくれた。といっても、純一独自の観察の結果だったが。
(気の毒だと本当に思っている大人は色々なことを教えてくれる)
 それも純一が学んだことの一つだった。直哉兄さんはパパがママを殺すという事件があっても、ママの友達が良くしてくれる。僕のお母さんはパパが居なかったから自殺するしかなかったのだろうか?とも思う。
「あのう、僕のように施設で育っても『強い大人』になることは出来ますか?」
 ずっと聞きたいと思っていた。でも、「ひまわり園」の大谷園長や他の職員さん、そして学校の先生は皆忙しそうで、とても聞く気にはなれなかった。直哉兄さんが冷泉君とお話ししているこの機会に聞いておきたかった。
「強い大人って?具体的にはどういう大人のことかしら?」
 冷泉君のママは純一の眼を真っ直ぐに見詰めて真剣な顔で聞いてくれた。
「大人になってお金を稼ぐことが出来ることと…誰からも暴力を振われない大人のことです」
 大きなご本をパタンと閉じて冷泉君のママの眼を見て言った。冷泉君のママは純一を眩しげに見てから静かで穏やかな口調で言葉を続ける。
「そうねぇ。まずは良い大学に入ることでしょうね…日本はまだまだ学歴社会ですわ。お勉強をキチンとして他人様に聞かれても恥ずかしくない大学に入ると道は拓けると思いますわよ。直哉君もウチの息子と同じ小学校にずっと居られれば大学まで進めましたのよ?それがあんな悲惨なことになってしまって…。でも、純一君もこう申しては失礼ですけど…直哉君とは生い立ちが似ているのではなくて?」
 小学校へ入るための塾での勉強や少ししか通えなかった小学校のことを思うと少し胸が痛んだ。それに直哉兄さんは「ひまわり園」に居ても他のお兄さんやお姉さんと違った雰囲気を持っていた。純一もそれを真似てきたことは言うまでもない。
 それまでは直哉兄さんを除いて具体的に過去を語ったことはなかった。でも冷泉君のママの親身な雰囲気に心の縄が解けたので、少ししか通えなかった小学校の名前を告げることにした。「ひまわり園」と今の小学校では決して言えない学校名を。もしそんなことを言ったら純一の身体に青アザがもっと増える。
「ああ、それでですわね。それで純一君はもっとお勉強がしたいのかしら?」
 その学校名を出した時、冷泉君のママは納得した顔をした。瞳も少し真剣になっている。本当に教えてくれそうな雰囲気を感じて純一は嬉しくなった。
「はい。『施設の子』と小学校でバカにされたように言われて…それから施設のお兄さんやお姉さんみたいなお仕事に就くのが嫌なのです」
 施設を高校卒業と同時に出て行った先輩達の姿を頭に描いて言った。ごく一部には看護師さんになるために就職したお姉さんや大学に奨学金を得て行った人も居るが、殆どが髪の毛を金色に近い色に染めて男なら大工さん、女なら水商売(純一には具体的な仕事は分からなかったが)のお店に行くのが普通だったからだ。何となくそういう職業では「お金持ち」にはなれない気がする。あくまでも何となくだったが。
「大学に入るためには高校は二通りありますわよ。一つは良い都立高校に入ること。そしてもう一つは進学実績の良い私立高校に入ることですわ。それにはお勉強が必要ですけれども…。お勉強が出来れば、純一君はどちらでも選べますわよ?」
「小学校のお勉強はちゃんと直哉お兄さんと頑張ってますが、それよりももっと頑張らなくてはいけませんか?」
 もう一歩踏み込む決心をした純一は重ねて聞く。
「そうね…小学校のお勉強だけじゃ足らないと思いますわよ。皆塾へ行って頑張っているようですわ」
 塾って…お母さんが行かせてくれたけど、「お月謝」というものを払っていたことをおぼろげに思いだす。今の純一にはもちろんそんなお金はない。冷泉君のお家に来る時も電車賃を冷泉君のママに払って貰っている。冷泉君のママを始め、直哉兄さんのお友達のママが電車賃を支払ってお家に招いてくれるのは直哉兄さんがとても気に入っていることもあった。しかし、それ以上に「息子に違った世界を見せるための社会勉強」だと思っていることもいつの間にか気付いてしまっていた。「施設の子供だけれども、自分の子供に悪い影響は絶対与えない」と思っているようだ。大人の世界も色々有るのだと思って割り切ってはいたものの、少し切ない。
 お母さんがもし生きていて、元気にエステを経営していたらこんな「本当の」お金持ちとまではいかないだろうが、純一の人生はもっと明るかったハズなのに…と純一は暗い顔をになる。



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テーマ : 自作BL連載小説
ジャンル : 小説・文学

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こうやま みか

Author:こうやま みか
素人の完全な趣味で「ボーイズラブ」小説を書き始めました。
全然上手くないのですが、コメント頂ければとっても嬉しいです。
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