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「純愛と妄執に揺れる心」第一章-14

 ただ、塾へ行ってもお支払いしたお月謝に見合うだけの成果を出す方ばかりではありませんのよ?生まれつきの賢さ カケル 勉強時間が学力だとお伺いしたことがありますわ」
 純一の表情を見た冷泉君のママは慌てて言った。このママは「コドモ」の純一にもとても丁寧な口調だった。こういうのが本当のお金持ちなのかな?
「純一君も直哉君と同じく賢そうなので。といっても専門家ではありませんことよ。お勉強はどこでだって出来ますわ。何なら宅を使って下さっても構いませんし」
「学力ってどうしたら付きますか?」
「そうね…宅の主人が購入した参考書や問題集の類ならウチには腐るほどありますので、それを使ってお勉強をなさっては如何かしら?直哉君と二人で教えあえば何とかなるかもしれなくてよ?直哉君は宅の息子などとは比べ物にならない程の聡明さでしたし…今でもそうだと思いますわ。というのも純一君も小学校に行くために塾にはお通いになられたでしょ?その時にヘンなテストは受けなかったかしら?『変な出っ張りのある四角形を組み合わせて綺麗な長方形にする時、余るのはどれか?』などという…」
「そう言えば受けたことが有ります。お母さんは――といっても自殺しましたが――『純一は賢いのね』と結果が出た時に頭を撫でて貰いました」
 その結果を見たお母さんは行きつけのケーキ屋さんで、今冷泉君のママが出してくれたようなケーキを3つも注文して、「好きなのを食べて良いのよ?残りはお母さんが食べますから」ととても華やかな笑いを浮かべて言ったものだった。その時のお母さんは珍しくピンクのスーツを着ていて。お店の外で食べている2人をお客さんや通りすがりの人がちらちらとお母さんの顔を見て感心したような溜息を洩らしていた。そして純一に視線を移して微笑んでくれた。そのことを思い出すとまた胸が苦しくなる。そういえば声が出なかった頃は、いつも胸が苦しくなったものだった。慌ててお母さんのことを考えるのは止めにする。
「多分、そのテストが『賢さ』を計るテストなのですわ。お母様が満足なさったのでしたらきっと良い数字が出ていたと思いますのよ。直哉君は、そのテストが塾で一番でしたもの。お二人で勉強すれば何とかなると思いますわ。是非とも宅にある問題集や参考書を持って帰って下さいませ」
 冷泉君のママの提案が少しでも押しつけがましさや安っぽい同情から出たものだったとしたら、純一は断っただろう。しかし、この時の冷泉君のママはごく自然に申し出てくれていて少しの嫌みもなかった。感じられるのは善意だけだった。
「本当に戴いても構いませんか?」
「ええ、もちろん。宅の息子は余程のことがない限り大学までは進めますし、問題集も参考書も主人の道楽で。一回も目を通すことなく終わるよりは、ご本だって使ってくれる方が幸せというものですわ」
 直哉兄さんが、小学校でとても成績が良いのは知っていた。純一もそれに負けてはいなかったが。ただ、小学校のレベルの低さは純一が一番よく知っている。4年生になっても分数が分からない同級生がかなりの数を占めている。九九の暗記が出来ない児童もたくさんいる。それに、直哉兄さんの通っていたハズだった小学校の同級生がどんな勉強をしているのか。そして、その問題集――学校で貰うドリルではなく――を直哉兄さんと解くのはきっと楽しいに違いない。
 ただし、直哉兄さんや純一の成績の良さを知っているのは担任の先生と「ひまわり園」の大谷園長先生と副園長先生だけだった。

◇◇◇
 純一が転校当時、うっかりと黒板に正解を書いてしまってから、同級生の目が一段と険しさを増し、服で隠れるところにたくさん青あざが出来たので。直哉兄さんのお腹を蹴った5年生の平島君は(と言っても後で名前を知ったのだが)藤田先生に思いっきり叱られたのだろう。
 卑怯にも今度は純一に「体育館の裏手に来るように。来ないと藤原直哉の足を骨折させる」と純一のクラスメイトだった弟を通じて呼び出しを掛けてきた。
「直哉兄さんは僕が守る」と純一は一人で体育館の裏手に行った。怖くて折れそうな心を必死に押し隠して。そこには5年生が3人居た。他には誰も居ないし、純一も自分1人のことだから誰にも告げてなかった。純一がびっくりしたのは3人とも煙草を吸っていたことだった。時々、トイレに吸殻が落ちていることには気づいていたが。
「この前はよ、お前のお陰で藤田に正座で2時間も説教された。この落とし前は身体で払ってもらうからな」
 施設の子供も嫌な笑い方をして純一を小突いたり蹴飛ばしたりしたものだったが、今回の笑い方は蛇が笑っているようだった。純一は蛇が笑っているところを見たことはなかったし、そもそも蛇が笑うかどうかも知らなかったが。
「そのめちゃめちゃ可愛い顔が苦痛に歪むのを見れるだけで藤田の説教なんて忘れちまうだろうよ。平気な顔をしているが、絶対に許してなんかやらねぇからな」
 他の5年生(だろう、多分。もしかしたら4年生かもしれなかったが)に目で合図すると、その5年生はくわえ煙草のままで純一に近づき、黙ってシャツをまくりあげた。
(蹴られるよりも酷いかも)内心はビクビクしていたが、こんなヤツらに負けてなるものかと思って普通の顔をしていた。
「その顔がムカつくんだよ。やたら綺麗で上品なツラしやがって」
 煙草を手に持つと、ゆっくりゆっくり近付いて来た。ゆっくりと動くことで純一の恐怖をさらにかきたてようとしている感じだった。
「何をされるか分かっているのか?」
 平島は冷たい目つきの中で瞳だけがめらめらと燃えているとても不気味な表情だった。怖さの余り「また声が出なくなるかも」と心配して、震える唇と凍えそうになる舌を必死に動かした。
でも、こんなヤツに怖いと思っていることを知られたいとは絶対に思わなかったので普通の声を出すように頑張った。
「分からないけど、誰にも言わないから…『何か』をしたら、もう僕にも直哉兄さんにも手出しするのは止めて欲しいです」
 思った以上に舌は回転してくれた。純一の耳で確認した限りでは普通の声だった。震えてもいない。
「この煙草の先っぽを腹に押し付けるのさ。先輩に聞いた話じゃ1000℃だっけ?とにかくとっても熱いんだ、昔は自分で自分の腕に押し付けて『根性焼き』といって、根性を試したってさ。俺たちが2時間も正座させられたんだ。お前の腹に2回根性焼きを入れてやる。声を出さずに根性見せれば、おあいこってことでお前や藤原直哉のことは忘れてやる」
 1000℃…お湯が沸騰するのは100℃だってお母さんだったか学校の先生だかが言っていた。もちろん沸騰したお湯の中に手を入れてみたことなんてない。その10倍の熱さは想像を絶するし、気絶しそうなくらい怖かったが、直哉兄さんの顔が頭をよぎる。
「本当に、これで最後にして貰えますか?」
 直哉兄さんの顔を思い出した途端、恐怖が消えた。自分でも驚くくらい普通の声が出る。
「約束は守るぜ。といっても、お前が一言でも叫んだり声を出したりしたら、約束はナシってことで」
 とても冷たくて嫌な光を放つヤツの目を静かに見た。本当のことを言っているかどうかの確認もしたかった。どうやら本気のようだったので、純一は必死で頭を働かした。
「分かりました。でもその前に『もう僕や直哉君に手を出さない』という約束のメモと名前を書いて下さい。もし、僕が約束通りにしたらそのメモを僕にくれるのなら絶対声は出しません」
 直哉兄さんのお腹のアザ…それをお風呂場で見るたびに純一は居たたまれない思いがしたものだった。直哉兄さんは一言も「痛い」とは言わなかったけど。直哉兄さんがこれ以上僕のためにケガをするくらいなら、沸騰したお湯の10倍の温度にも頑張って耐えようと思う。
「へぇ、なかなか腹の据わったガキじゃねぇか。俺たちの世界ではちゃんと約束は守るぜ。おい、どっかから紙と鉛筆を持って来な」
 さっきから何もせずにニヤニヤと笑っていたもう一人に命令した。
「はい、すぐに」
 そう言って走り出したヤツを見送ってから、純一のむき出しにされたお腹に煙草の火を近付ける。(この人たちは他人の痛みが分からないのだな…)と思うと、却って気の毒になってくる。その気持ちが少しは顔に出たらしい。平島の目が冷たくそして粘っこい光を帯びた。
「ちょっと近づけてみるか…だが、これは練習だ。もし、嫌ならさっきの約束もナシってことで」
 お腹の皮膚1cmくらいまで煙草の火が近づけられた。それだけでもかなり熱い。これ以上の熱さ…そう思うと足がガクガクしそうになる。
 


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テーマ : 自作BL連載小説
ジャンル : 小説・文学

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こうやま みか

Author:こうやま みか
素人の完全な趣味で「ボーイズラブ」小説を書き始めました。
全然上手くないのですが、コメント頂ければとっても嬉しいです。
またヤフーブログが本館扱いで、こちらでは当面(ってイツ?)旧作を掘り起こして掲載していきたいと思います。
著作権は放棄しておりませんので、無断転載などは禁止させて頂きます。何卒ご了承くださいませ。

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