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「気分は、下克上。」 春ー46

 病院長は呆気に取られた様子だったが、直ぐに笑いを浮かべた。
「そんなことを懸念なさっていたのですか?まぁ、田中先生のキャリアでは仕方ありませんね…。准教授や教授方は色々な委員会の会長などをたくさん兼務されているのが実情です。センター長もしかり。香川教授は例外中の例外です。しかし、どの教授方からも苦情が出ないのは手術が完璧過ぎるので、他の仕事をして頂くよりも手術に専念した方が病院の収益のためにも効果的だからです。田中先生は、上司の香川教授しかご覧になっていないのでそういう杞憂もお持ちになられたのではないでしょうか?」
 またまた含みのある口調で言い切られてしまった。そう言えば佐々木前教授も色々な委員会の委員長を務めていたことを今更ながらに思い出す。病院の天皇陛下と対峙するという前代未聞の出来事と、最愛の彼との真実の関係を仄めかされて平常心がどこかに吹っ飛んだらしい。
「では、エーアイセンター副センター長と心臓外科との兼務は可能ですか?」
 安堵のあまり座り心地の良いクッションにさらに沈み込みそうになる。必死に自重したが。
「ええ、もちろんです。また、副センター長は現場で働くわけではなく、組織のナンバー2です。
 何か問題が起こった時に出て行って置田センター長の補佐をすることと、手術――特に香川教授の場合は手術時間が決まっています――時間外、つまりは、病院の診療時間以外に会議に出ることが主な業務です。まあ、他にもろもろの雑事は付きまとうでしょうが…田中先生は、香川外科にはなくてはならない存在であることくらい、病院の皆が知っています。手術を最優先で構わないと置田准教授、もとい、Aiセンター長も仰っています。
 Aiセンターが出来るまでは雑用が多いと思いますが、救急救命室勤務を減らしてもやむを得ないと私も考えましたし、北教授も了解済みです。香川外科からは柏木医局長も救急救命室に出向して、一人前の救急救命医になられたことですし、最近は久米先生も救急救命室に行かれているようで、人手は足りているとのことです」
 祐樹にとって一番困ることは、最愛の彼の手術に参加出来ないことだった。それはなさそうなので、安堵の溜息を押し殺す。あからさまに表情に出してはマズい。病院の天皇だが殿様だかにこれ以上弱みを握られてはたまらない。
「それを伺って安心しました。確認ですが…私の優先順位は、1、心臓外科 2、Ai副センター長 3、救急救命室ということで宜しいのですよね?」
「ええ、それで結構です」
 ボイスレコーダーに録音しておきたい御言葉だった。あいにく持ち合わせてはいないが。畏れ多くも念書を要求出来る立場でもない。まぁ、この病院に君臨する最高権力者が約束してくれたのだからヨシとしよう。
「では、謹んでお受け致します。しかしあくまでも、私は心臓外科医ですので…その点は宜しくお願い致します」
 ソファーから立ち上がって一礼した。斎藤病院長は座ったままで頭を下げた。
「御承諾有難うございます。ええ、田中先生の所属はあくまでも香川外科です。お約束します」
 頭を下げているのに、ふんぞり返っているように見えるのはこの病院長の人徳の賜物だろう。こんなことが出来る人に祐樹が立ち向かえるわけもない。
 後は、1年生医師が医局長どころか講師まで飛び越えて副センター長になった時の怒りと嫉妬をどうやり過ごすかが問題だ。その件で最愛の彼の精神的負担にはなりたくない。祐樹が相談出来るとすれば、センター長に内定している置田准教授に相談すべきだろう。
 斎藤病院長がまだ立ち去れという雰囲気を醸し出していない。空前絶後の絶好の機会に病院の神のお考えを聴取しておくべきだと考える。
「香川教授の院内での評判はどのようなモノでしょうか?」
「香川教授も良い部下に恵まれていますね。田中先生も色々と人脈をお持ちのようですが?」
 祐樹が持っている人脈など、病院の最下層に位置する人間が殆どだ。翻って斎藤病院長は最上層の人脈も漏れなく網羅している。祐樹が聞き及べない範囲の深々度のウワサが聞けるかもしれない。
「いえ、教授連からはどのように思われていらっしゃるのか、いささか気になりまして」
 病院の最高権力者の目が先ほどとは違った友好的な光をはらむ。
「非常に良いと思いますよ。何しろ素晴らしい実績をお持ちなのに、教授連が垂涎の的である各種人気委員会の委員長に推挙されてもお断りになられます」
 断ったことが好意的に受け取られる世界なのか?と疑問に思ったが。すぐに解答らしきモノに思い至る。
「それは、委員長のポストが1つ空くからですか?」
「ええ、その通りです。厚労省主催など重要な講演会もお断りになられて…まぁ、ウチは首都にある官僚育成大学とは違って政治力ではなく実力で勝負するという気風の持ち主が多いですが…しかし、監督省庁に顔を売っておく機会があると、普通は甘い餌に飛びつくものです。事務次官とのお食事会もしかりです。実力に似合わず奥ゆかしい方だというのが専らの評判です。
 それに、彼の現場重視主義は、多くの支持者を集めています。香川外科の中だけではなく、内科の今居教授の地位も地盤沈下しているそうですし…」
 内科の今居教授と斎藤病院長とは長年に亘る確執がある。それは病院内部の人間にとっては常識だったが、そんな犬猿の仲を感じさせないさらりとした口調は流石に病院トップに君臨しているマキャベリストの風格が漂う。
「では、おおむね良好と考えて宜しいのでしょうか?」
 斎藤病院長が初めて満面の笑顔を浮かべた。
「正確に申し上げれば、大変良好です」
 さすが百鬼夜行の大学病院でここまでの地位に昇りつめたことはある。最愛の彼が就任した時に是非とも娘婿にと望み、にべもなく断られたことなどおくびにも出さない。
「そうですか…。置田准教授に御挨拶がしたいのですが…?」
 病院長がちらりと時計を見たのを潮時に、許可を求める。
「良いですよ。彼も午後は仕事――検査――が入っていないのはこちらも確認済みです。放射線科に行けばお会いになれるのでは?」
 祐樹は午後も運命のいたずらか、手術スタッフには入っていない。そのことを充分知っての発言だと分かる。――置田准教授も――というくだりだ。
 辞令を有り難く押し頂くフリをして、礼儀は誰にも文句が付けることが出来ないしぐさで院長室から出た。
 エレベーターに乗り込む前に時計を確認する。午後の手術に最愛の彼が教授室を出たかどうか微妙な時間だった。
 エレベーターに乗り込むと手は勝手に、というか本能的にと言うべきか彼の部屋の階を押していた。エレベーターの速度が妙に遅く感じる。一刻も早く彼の部屋に行き、彼の顔を見たかった。手術室に降りていっていないことを切実に祈りながらエレベーターの微振動している壁に脱力した背中を預けた。


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こうやま みか

Author:こうやま みか
素人の完全な趣味で「ボーイズラブ」小説を書き始めました。
全然上手くないのですが、コメント頂ければとっても嬉しいです。
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