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「気分は、下克上。」医師編 春-12

「今回も、とても良かったです。でも…聡…貴方のそんな艶めいた声が聞けるのは私だけの特権ですよね?聡の存在全てが私を魅了する」
 彼と祐樹の汗でほとんど透明になってしまった薄い白いワイシャツの背中を後ろから抱き締めて耳元で囁く。彼の耳たぶは桜色に染まっている。耳たぶの後ろは皮膚が薄い。吐息だけでは心が乾いている。渇きを癒すために唇を落とし強く吸った。彼の皮膚は祐樹のとっては甘露だった。
 皮膚が薄い場所はもれなく性感帯だ。彼の背中が撓む。
 「彼の魂に一番近い」と合理的根拠のない祐樹の思い込んだ場所。職場で言えば新米ナースにだって笑うに違いないだろう。暖かくて祐樹自身を真珠色に濡れた微細に動く深紅のベルベットの布に似た彼の中の天国に包まれる悦びに浸る。彼に質問ではなく回復までの時間を稼ぐためで…言葉を荒い息で紡ぐ。
 彼は枕を頬と肩に当てて熱い吐息を立て続けに零している。紅色に染まっている絶頂後に必ず訪れる弛緩した肢体を、それでも祐樹との繋がりをよほど解かないでいたいのか腰の位置は高く掲げているのが艶めいた健気さを感じさせる。その背中にぴったりと寄り添ってお互いの呼吸と体温と汗を感じている。
「もちろんだ。私は祐樹以外とこういうことは――祐樹が学生時代に綺麗な男性に口説かれていた現場を目撃して、自棄になってアメリカに永住するつもりで、その勢いで一回したことはあるが、あ、でもこの話は前にも話した…な――しかし、夢にまでみた祐樹とこのような関係になった今は、誰ともこういう行為はしたくない。
 祐樹は奇跡的に私を愛してくれたが…それがいつまで続くかは誰にも分からないが、それでも私は祐樹と、そして私を認めて下さった祐樹のお母様のことは一生忘れない。祐樹が居なくなったら――生別であれ、死別であれ――もう一生誰とも付き合わない」
 情交の際に流した涙の粒が彼のまつ毛を小さなダイヤ――祐樹の母が彼に託した父から貰ったというエンゲージ兼マリッジリングの大きさ――で飾られていたのだが。
 その雫が交流して紅に上気した絹の頬に一筋の涙の細い川を作った。その輝きと、とても真剣で真摯な囁きが、祐樹の呼吸を困難にさせる。
「確かに死別は仕方ないですね。人間は必ず死にますから。それは貴方も良くご存知のハズです。病院のベッド…貴方が一年前に凱旋帰国する前はもっと酷かったですが…ご臨終を医師が確認し、「死亡診断書」を書けば霊安室に送られます。病理解剖でなければ…ですが。そのベッドは、時を置かずにシーツを替えて新しい患者さんが横たわることになりますよね?初めてその現場を見た時はとても違和感を抱きました。
 ただ、聡が私を振らない限り、私の心は変わりません。聡が『幸せ』に不信感を持っているのは知っています。でも、そういう貴方だから…今まで不幸だった分を私がその倍、いや、それ以上の幸せを貴方に味合わせたいです」
 彼の澄んだ瞳が4月の陽射しに調和した麗らかな光を帯びた。涙の膜は相変わらずだったが、瞳の光が和らいだせいでとても綺麗な色に変わった。その瞳から目が離せない。あまりに清らかな綺麗さと、そしてその奥底に濃厚な色情を隠し持っていたので。
「ああ、病室のベッドの件か…シーツは破棄されるがベッドはそのまま使用するからな。
 シーツと言えば…」
 彼が懐かしそうに唇だけで微笑む。その唇も紅い色に染まっていてつい見惚れた。
「私がアメリカの医師免許を持たずに向こうの病院に行った時、待遇は『手術室の補助』だったのだが、アメリカの病院のシステムを学ぼうと色々な部署に顔を出したことがあった。病院内に日系人は数人居たが、外見はともかく、性格は『アメリカ人』だった。つまり、自分の仕事以外のことは指一本動かさないという人ばかりだった。私は生粋の日本人なので、つい気になった雑用を手伝ってしまっていた…な。
 患者さんのシーツ交換なども、患者さんから『君が新しいシーツ係か?素晴らしい腕だ。ホテルに転職すればカジノで有名なラスベガスの全室スイートの超豪華ホテルでも雇ってくれる。ペイは良いし、カジノで儲けた客はチップをはずんでくれるぞ』と言って、私にチップまでくれたものだ」
 正式な医師としての給料をまだ貰っていない祐樹はツイ財布の薄さと根っからの貧乏性を発揮してしまう。
「シーツ交換係のチップって…幾ら貰ったのですか?」
「100ドルだ」
「え?日本円で約1万円ですか?」
 シーツ交換のチップが1万円なら、執刀医へのチップは、知りたいが…恐くて聞けなかった。
「ああ、私の勤務していた病院は、私の金銭感覚では計り知れないことが多かった。私が執刀したバイバス術を受けた患者さんの中でも…アラブの石油王は手術後に自家用ジェット…それもボーイング747型機で帰国しては心臓に負担が掛かるからと、『クイーン・エリザベスⅡ世号』の双子の船で帰った。その人はもうこれ以上バイバス術は無理な身体になっているので、国に自分専用の心臓内科の病院を建てたそうだ。これは冗談ではなく本当の話だが…」
「アメリカ人は冗談が好きですからね。私はあいにく海外といえば、聡と行ったシンガポールしか知りませんが…ハリウッドのアクション映画を暇つぶしに観ていると絶体絶命のピンチに陥ったヒーローとヒロインが冗談を交わしますよね?あれは理解不能だ」
 そろそろ祐樹自身が力を取り戻してきた。彼の細かくうねる上質の濡れたベルベットが力を貸してくれたことは言うまでもない。そろそろそちらの方へ話題を誘導しようとする。
「私だって冗談は分からなかった。もちろん言えないし、病院の気心の知れた人間と飲みに行った時、言葉は理解出来るのだが…皆が笑う理由が全く分からず、一番信頼していた内科の医師、彼はスチィーブンと言うのだが『これのどこがジョークなのか説明して欲しい』とこっそり尋ねたことも度々だ。」
「スチィーブン先生…長岡先生から聞いたことがありますよ。どんな人ですか?」
 彼の口調はスチィーブンという医師の名前を発音する時に微妙な変化が起こった。恋愛感情ではなさそうだがとても懐かしそうで会いたそうな響きだった。大人げないとは分かっていても祐樹としては不快だった。こういう問題は理性では割り切れない。
「内科の優秀な医師だ。それに、アメリカに慣れない時には親身に面倒を見てくれたし、執刀医になれた時には励ましてくれた」
「そうなんですね…頼りにしていたのです…か…?」
 歯切れが悪い祐樹の口調も、いつもなら勘付くハズの彼は追憶に浸っているのか気付かない。
「ああ、とても信頼していた。・・・それに何となく祐樹に似ていた・・・な」
 彼としては思ったままを言っただけだろうが、祐樹は苦い薬を経口、しかも水なしで飲まされた気分になった。恋愛感情は理不尽だ。祐樹の気持ちもストンと切り替わった。
 彼に罪はないことは百も承知だったが。思い切り啼かせてやろうという思いが止められない。


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テーマ : 自作BL連載小説
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こうやま みか

Author:こうやま みか
素人の完全な趣味で「ボーイズラブ」小説を書き始めました。
全然上手くないのですが、コメント頂ければとっても嬉しいです。
またヤフーブログが本館扱いで、こちらでは当面(ってイツ?)旧作を掘り起こして掲載していきたいと思います。
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